プリズマジャーナルTOP店舗体験における「ディスカバリー」を探す旅。〜プリズマ社長 “濱野さん” NYへ行く![前編]

店舗体験における「ディスカバリー」を探す旅。〜プリズマ社長 “濱野さん” NYへ行く![前編]

# NY # 百貨店 # 米国小売業 # 顧客体験

プリズマティクス株式会社は、戦略的OMOを実現するプラットフォームを提供することで、小売業における顧客エンゲージメントを向上するお手伝いをさせていただいています。2022年に立ち上げたオウンドメディア『プリズマジャーナル』では、社員から社長・濱野へ直撃インタビューする「社長に訊く!」シリーズを開始。

本記事は、2023年秋にニューヨークにて小売業界の現状視察を行った濱野さんへ、レポートをお願いし、実現したインタビューです。同行されていたエンゲージメント・コマース・アドバイザーを務める奥谷 孝司さんにもご登場いただき、お二人から視察の様子をたっぷりと語っていただきました。(※本インタビューは2023年秋に行われました)

(聞き手・構成・文=プリズマ編集部)

1.店舗減少傾向のアメリカ、2023年のキーワードは「ディスカバリー」

── 2023年9月末、お二人はニューヨークへ業界動向の視察をしてきたと伺いました。まず始めに、ニューヨーク視察における意図や目的をどのように設定されていたか教えてください。

濱野:日本にいるだけでは見えてこない流れがあるということ、コロナ禍が収束しつつある今の状況のニューヨークを見ておきたい。そして今、テクノロジーが小売の現場でどのように使われているのか、それを見ておきたいと思ったんです。

奥谷:僕は2023年の初め、主に海外カンファレンスに足を運んできました。その中で特に印象に残ったのは、3月にラスベガスで行われた『SHOPTALK(ショップトーク)2023』です。アフターコロナというタイミングで盛んに語られていたのは、店舗体験に関するキーワード「ディスカバリー」でした。

── 店舗体験を通して、“発見”したり、“知る”、“気付く”ことに注目しているんですね。

奥谷:アメリカという国は、基本的にリアル店舗数がどんどん減っています。そんな状況下での「店舗体験」とはどういうものなのか。「店舗体験におけるディスカバリー」とは何を意味するのか。小売の“今”を知るために、僕はニューヨーク(以下、NY)という街を定点観測する場所の一つにしています。そこで改めて、この視点をもって、NYを見て回りたいと思ったんです。

濱野:実際に足を運んだのは、奥谷さんが定点観測している、百貨店、D2Cブランド、高級ブランド店舗、GMS等のスーパー、アウトレット等の店舗を中心に、テクノロジーサイドの希望としてAmazon GO等の店舗も見に行きました。

奥谷:今回は我々だけでなく、小生が経営する株式会社顧客時間のクライアント様をアテンドしながらの視察ツアーも兼ねていて、クライアント様からは「接客を見たい」というご要望を頂いていました。そこで、店舗でのパーソナルスタイリングやBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)等、店舗接客や接客に関わるサービス等、“体験”も組み込んだスケジュールを設定しました。

2.高額商品売り場にも関わらず、スタッフの姿が無い百貨店

── 実際に視察された店舗について、いくつか具体的にご紹介いただけますか。

濱野:ではまず視察初日に行った高級百貨店、ノードストローム(Nordstrom)についてお話ししましょうか。現地の様子は、こんな感じでした。お昼間に行ったから、というのはあると思うんですが……店舗スタッフが全然いないのが、写真から分かるでしょうか。

濱野:NYダウンタウン発の若手ブランド「パペッツ・アンド・パペッツ(PUPPETS AND PUPPETS)」のアイテムも、沢山おいてありましたね。店員さんがいない上に、気軽に、手に取れる場所に、10万円以上の商品がいくつも並んでいたのには驚きました。

奥谷「買える人だけが触っていいよ」ではなく、ショーウィンドウ越しに眺めるだけの人でも手に取る事が出来る、という売り場になっていたよね。これはこの百貨店さんなりの「体験重視」「顧客ファースト」の設計と言えるかもしれないね。

奥谷高級百貨店と言われているノードストロームだけど、富裕層、シニア層向けの商品だけではなくて、こういう、若い客層を取り入れるブランドやアイテムをちゃんと置いているのも、凄いこと。旗艦店の1階はいつも、今、流行っているものをしっかり提示していくというポップアップストアになっている。これでお客さんがどれくらい増えているのかは分からないけど、「ディスカバリー」できる空間になっていると思う。

3.顧客がリアル店舗に足を運ぶ、その“理由”を設計する

濱野:次に紹介するのは、ノードストロームの靴売り場なんですが……奥に「shoe bar(シュー・バー)」というバーがあるの、見えますか? ここは、お酒を飲みながら靴を選べる、という場所になっているんです。百貨店の靴売り場にバーがあるって、そんなのやろうと思えばどこでも今すぐ出来ると思ったりもするんですが……やっぱり、初めて見ると、ビックリしますよね。

濱野:奥のバーカウンターで飲むのは勿論アリだし、手前のソファに座って靴を選びながら楽しむのもアリだし、お酒だけ飲むのもアリ。マンハッタンで夕方まで働いている人が、ここに来てお酒を飲みながら靴を選ぶ、買うということが出来る。そういうシーンに、見事に適合しているわけです。

奥谷:ある意味で、これこそ、「リアルでしか出来ない体験」ですよね。極端な話、靴を買うだけなら、自分の足のサイズが分かっていれば、ECで買えばいいわけです。「ディスカバリー」をしてもらうところにはしっかり接客していく、いい体験をして貰えるように設計している。このメリハリが凄いですよね。

── 服や靴といった売り場に飲食があるというのは、お店側からすると「商品が汚れる可能性があるから嫌だ」という意見がありそうに思ってしまいました。

奥谷「体験してもらうこと」を優先させて、デメリットは分かっていてやっているのが明らかだな、と思いましたね。ノードストロームではこのシュー・バーだけでなく、フロアごとのトンマナにあったバーやカフェをつくっていて、リアルならではの上質な体験、店舗に来る意味というものを考えているように思えたな。

濱野:これはノードストロームだけでなく、他の百貨店でも、高価格帯の商品フロアには同じような工夫をしているところがいくつかありました。売り場効率ではなく、滞在時間を延ばし顧客一人当たりの買い上げ額を上げる体験施策やサービス、というのを徹底しているのが分かりますよね。

濱野:ノードストロームでは「パーソナルスタイリング」も経験してきました。店内にはスタッフの姿がほとんど無かったわけですが、アプリからパーソナルスタイリングを予約すると、1対1で1時間位びっちりとついて、スタイリング相談からショッピングのサポートまでしてくれるんですよね。このメリハリは凄いなと思いました。

日本でも百貨店のクレジットカードを持っていたり、外商が付くような顧客であれば同じようなサービスが受けられるのかもしれませんが、ノードストロームの場合はそこで区別はしないんですよね。ノードストロームの“会員”になる必要はありますけど、申し込めば誰でも利用できるサービスとして、こういうサービスがある。「顧客体験」を考えての施策なのかなということは感じましたね。

4.百貨店もブランドショップも、Apple Storeライクな店舗体験

濱野:アプリも見ていきましょうか。会員登録等の機能があるのは当然として、インストアモードがあるんですよね。これは店内に入ると、その店内で今やっている内容をお知らせするような機能に切り替わるということ。どんなイベントをやっているのか、おすすめの商品、こういうサービスがあるよという案内や、予約が出来る、といった機能です。

Nordstrom

濱野:アプリを家で見ているのかお店で見ているのかで、当然文脈は違いますので、それぞれのモードに応じた価値を提供しようとしている、おもてなしをしようとしている、ということが読み取れますよね。これも、やっていることそのものは、普通といえば普通のことなんですが……。

奥谷:百貨店だけではなくて、オムニチャネルリテーラー、ユニファイドコマースリテーラーのほとんどが、インストアモードとECモードがワンアプリで切り替わるようになっていたね。驚いた例としては、Nikeかな。店頭にある靴の在庫を調べたい場合に、靴をスキャンしたら5分で持ってきてくれて、試着ができる。いちいち「すいませーん!」とか言わなくていいって、超合理的だよね。

濱野:僕らIT業界よりの人に分かりやすい言い方でいうと、「全部Apple Storeみたいになってる」っていう感じでしたね。欲しいものの在庫が端末から分かって、スタッフが持ってきてくれて、レジもあるけどそれぞれが持っているタブレット端末からすぐに決済も出来ちゃう。

奥谷:最終日に、NYに短期留学していた娘とNikeに買い物に行きましたけど、店員さんが来るのを待つのが面倒なのでスキャンして在庫を調べたり、逆に「在庫は無いって書いてあるけど、あそこにディスプレイしてあるのは、買えるの?」って聞いたりってことを、サクサク出来る。店舗体験としては、快適でした。

(後編に続きます)

(聞き手・構成・文=プリズマ編集部)

奥谷孝司

【プロフィール】
奥⾕ 孝司
エンゲージメント・コマース・アドバイザー

株式会社良品計画にて店舗、商品開発を経験。「足なり直角靴下」を開発後、2010年WEB事業部長に就任。Online売上の拡大のみならず「MUJI passport」のプロデュースを統括し、業界に先駆けてオムニチャネル戦略の立案と遂行。
2016年よりオイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 COCO(Chief Omni-Channel Officer)。2018年9月には株式会社大広との共同出資会社である株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役を務める。

<主な著書>
「世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略」
「マーケティングの新しい基本顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント」

濱野 幸介

【プロフィール】
濱野 幸介
CEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー)

アクセンチュア株式会社、株式会社リヴァンプ、株式会社良品計画を経て、現職。
クラスメソッド株式会社 マーケティング・テクノロジー担当を兼務。
良品計画では、アドバイザーとして「MUJI passport」の立ち上げなどマーケティング活動全般を技術面より支援。

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