新規と既存、顧客の利用ツールの違いを理解した運用と計測を【外食企業で“デジマ”を始める!】ツール組み合わせ運用編
外食産業のマーケティングや業務効率化には「外食」という業種特有の課題がネックとなり、デジタル領域を活用しきれていない企業が多く見られます。外食企業が「デジタルマーケティング」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を始めるには、どうしたらいいのでしょうか。
ここまで「自社顧客化」をテーマにして、環境の開発と運用を解説してきました。今回は各ツールや手法の組み合わせの仕方を解説していきます。これまでの記事と合わせて参考にしてください。
0.新規顧客と既存顧客、利用ツール連携の違いとは
各手法を連携していく前提として、新規顧客と既存顧客の使うツールの連携をみてください。
このフロー図にあるように、新規顧客が接触するツールは種類が多く、来店後は来店するたびに接触するツールに限定されていきます。顧客によっては、ほとんどが「アプリ」と「予約」、または「LINE」と「予約」だけかもしれません。
SNSからは常にフレッシュな情報が大量に配信拡散していきますが、毎回の配信内容が動機となって来店頻度に影響することは希少だと思います。ただし、常に刺激や機会を提供し続けないと飽きられるのは明白です。休眠客を復帰させることも含めて、SNSは日常的に顧客の接点になるツールとして重要です。
1.web広告とアプリ
これまでの連載記事でも解説してきましたが、web広告とアプリは、とても密接に連携します。予算を投資して、しっかり新規顧客を獲得しにいくのがweb広告の役割です。影響力の強いSNSアカウントがあったとしても、SNS広告での拡散集客も必要になると思います。チラシが主力の場合については、後半で解説します。
LP、クーポンからの遷移計測
web広告においては、複数のバナーや動画からランディングページ(以下、LP)に遷移させ、クーポン利用してもらい、来店または来店予約していただく、というフローが多いと思います。クーポン無しで来店件数を積み上げことは、至難の技だと認識してください。
バナーやLPの表示回数の計測は当然として、LP別にクーポンのQRを分けて計測する必要があります。クーポン利用の際に、アプリ等の会員登録が必要な場合もあると思います。どのLPからアプリに遷移したユーザーがクーポン利用したのか、来店したのか、それぞれ計測出来るようにしてください。
LPからアプリに遷移させるには、ディープリンクが必要です。ディープリンクはアプリ側で発行してください。アプリベンダーに依頼すれば用意してくれます。
Web広告からの遷移全体の計測
web広告からアプリ遷移させる場合の計測ツールは色々ありますが、導入実績の豊富さから、私はAppsFlyerの利用をお勧めします。AppsFlyerを導入した場合、アプリとの連携する設定費用、運用費用も必要です。見積りを依頼して、調整してください。年間のweb広告費用が3,000万〜5,000万円以上、アプリ会員数が累計300万人以上であれば、AppsFlyerを使うコストメリットが見えてくるでしょう。
計測ツールによって施策の遷移から来店結果までが可視化出来れば、どの施策が実際に貢献しているのか見えてきますので、とても重要なツールになります。現状から今後の規模感を踏まえて、計測ツールの導入を検討してください。AppsFlyerであれば、web広告実施中はLINEや公式サイト、GBP等、他のツールからのアプリ遷移や動向も可視化することが出来ますので、俯瞰的に施策の効果や現状の課題が見えてきます。
既存アプリ会員の除外配信
web広告別の施策効果が可視化され出したら、次回以降のweb広告実施時に、既存アプリ会員を除外して配信できる機能を使いましょう。そうすることでweb広告は「新規顧客を得ること」に特化したツールとして、精度が上がっていきます。もしAppsFlyerを導入する場合は、アプリの利用規約を更新してパーミッションを得る必要があります。パーミッションを得た既存アプリ会員はweb広告上で除外配信に活用出来るようになります。
予算を投じて新規顧客をweb広告で獲得する一方で、既存顧客はアプリ内で囲い込むというループを確立していきましょう。いずれ新規顧客の獲得数には限界がきます。その時、既存顧客の来店頻度を高い状態にしてあることが必要です。施策や状況によっては、既存顧客にweb広告をあてて来店継続を促すことも出来ますが、それはそのフェーズまで来てからにしましょう。
なお、web広告によっては、単体でも過去のweb広告で来店したユーザーを除外配信する機能もあります。web広告代理店に相談しながら活用してください。
LTV(Life Time Value)計測
web広告がきっかけで来店した顧客が、その後の1年間でどれくらい来店したのかも計測する必要があります。年間計測であれば、再来店している顧客は当然います。その累計売上の可視化が重要です。
多くの企業では目の前のweb広告実施期間でしか評価出来ないという“悪いバイアス”がありますが、「web広告で来店した顧客の年間LTV」こそが、web広告の費用対効果を計る上で最も重要な指標となります。この計測をすることで、本当の1人あたりの獲得コスト(来店CPAと呼びます)が可視化されるのです。
せっかく予算を投じて獲得(初回来店)した顧客が、アプリ内で離脱しそうな時は、セグメント配信で再来店に誘導しましょう。
2.SNSとアプリ
今は多くの企業が、SNSで定期的に投稿しながらファンを確立していく施策を取っていると思います。SNSがきっかけで来店やアプリ会員登録したのか、計測していく必要があります。
SNS運用の効果測定
SNSもWeb広告と同様、基本的には新規顧客の獲得を目的に利用することになります。施策やキャンペーン時には、クーポンならQR、アプリ遷移ならディープリンクの設定が必要です毎日、同じ業態から、食べ物に関する投稿だけしてもすぐに飽きられるのは明白です。どんなコンテンツを投稿していくと自ブランドアカウントのファンになってくれるのか、応援してくれるのか、SNS遷移を可視化することで見えてくるものがあります。
SNSからの遷移を計測してみると、SNSが来店やアプリ会員化に直結している件数はかなり少ないと感じている企業が多いかと思います。どんな投稿や話題作りを積み上げていけば顧客に寄り添えるのか、ファンとなって貰えるのか、そして来店につながっていくのか、成長させるためには可視化が重要であることに気づいてください。毎月の抽選キャンペーン等は、大きな件数を巻き込めるのは事実です。そこから本当にファン化していく顧客をしっかり積み上げていただきたいです。
SNSは顧客にとって、日常的に欠かせないものです。その日常に自社ブランドの存在が寄り添えることは、愛されるブランドになるための大切な活動であることを認識していただきたいと思います。
SNS運用の企業選定
SNS運用に関しては、専門企業を選定するのも大変です。蓋を開けたら大したコンテンツやアイデアを全然出せない企業もよくいます。その上運用費用も安価ではないケースがありますので、慎重に検討してください。X(旧Twitter)、instagram、TikTok等、様々なSNSを網羅的に運用し成長実績がある代行企業は、なかなか見つからないかもしれません。それぞれのSNSに強い、特化した代行企業を探すことをお勧めします。
3.チラシとアプリ
チラシの位置付けは、基本的には新規顧客の開拓です。せっかく新規顧客として来店して下さったら、その後は既存顧客としてアプリ会員化して囲い込みたいですよね。
チラシきっかけの来店顧客をアプリ会員化する
チラシの販促をする上では、配布枚数、クーポン利用枚数、クーポン利用率(来店率)、1組の獲得コスト、1人の獲得コスト等を設定すると思います。クーポンは複数の種類と枚数を提供すると思いますが、チラシのクーポンにQRコードをつけるだけではなく、アプリでしか利用できないクーポンにシフトすることを実施しましょう。
段取りはこうです。チラシを見てクーポンQRコードをスマホで読み込むと、アプリに遷移します(ディープリンク)。来店時にはアプリのクーポンを提示してもらい、店頭ではPOSで読み取るというフローになります。チラシのクーポンが複数枚を設置できるなら、一番“強い”クーポンだけをアプリ会員限定にするのも、トライアルとして良いと思います。
チラシの利用者減少に備え、デジタルシフトしていく
アプリ会員化する効果としては、新規顧客を既存顧客として囲い込めるだけではなく、チラシ配布エリアにおいて新規顧客よりも既存顧客の利用が増えすぎた時、そのエリアにはもうチラシを配布する必要がなくなることです。既存顧客(アプリ会員)が多くなれば、チラシ販促予算を削減して新たな施策に予算シフトすることが出来ますので、年間予算の適正化にも繋がります。
チラシの配布エリアとクーポン回収エリアをGoogleマップなどで可視化できるなら、クーポンを利用したアプリ会員数も反映させましょう。配布エリアの精度をさらに高めることができます。
新聞折込もポスティングも利用者が減少していくのを止めることはできません。全国チェーンストア展開していて、地方でチラシが強いエリアはまだありますが、利用者が減少していく中、デジタル施策を中心に販促の見直しは迫っています。いつチラシをやめてもいいように、じわじわとデジタル試作にシフトしていきましょう。
4.GBPとアプリ
Googleビジネスプロフィール(以下、GBP)は多くの外食店の検索や予約に使われており、更新運用ルールもどんどん変化します。今では基本の店舗情報や画像投稿だけではなく、毎月定量のお知らせを配信する運用が盛んになっていると思います。
GBPは新規来店者も多く利用しますので、アプリ会員化して既存顧客にするフローは是非実施してください。ユーザーの利用率が高いチャネルであるGBPの店舗情報にて、アプリ会員化へ遷移させないのは勿体無いと思います。お知らせ配信する際、施策内容に合わせてアプリに遷移させる(ディープリンク)クーポンやキャンペーンを記載しましょう。
アプリだけではなく、SNSや公式サイトとの連携もしっかり記載しましょう。チェーンストアは、GBPを最大限活用しない手はありません。アクセス数や利用数が増えるほど、当然、MEO(マップ検索エンジン最適化)も向上します。各チャネルをクロスさせることは必然の施策です。
各手法の組み合わせの仕方の解説は、以上となります。次回は「各手法の準備〜実施」について解説します。
執筆者プロフィール
清水 圭介
コンサルタント
株式会社EPARKを経て、2018年に物語コーポレーションに入社。外食チェーンストア(焼肉きんぐ・丸源ラーメン・ゆず庵)におけるデジタルマーケティング・DXの部門を立ち上げ、OMO構想からCDP構築を軸にアプリ・web開発からマーケティングまで網羅した戦略立案・企画推進、開発からマーケティング運用を担う。2021年にレインズインターナショナルに入社。デジタルマーケティング部の部長として、牛角・温野菜を中心にCDP構築・web広告・順番受付開発運用などを担う。2023年9月クラスメソッドに参画。
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