自社顧客化に向け、本当に必要な機能と連携を見極める【外食企業で“デジマ”を始める!】アプリ開発編
外食産業のマーケティングや業務効率化には「外食」という業種特有の課題がネックとなり、デジタル領域を活用しきれていない企業が多く見られます。外食企業が「デジタルマーケティング」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を始めるには、どうしたらいいのでしょうか。「外食企業にてデジタルマーケティング(略称:デジマ)を始めるには何をどうすれば!?」とお悩みの担当者の方々へ向け、これまでに環境の整理、自社顧客化について解説しました。
これらを踏まえた上で、実際に環境を具現化(開発)する時の注意点についてお話しさせていただきます。複数のツールがありますので、それぞれに対して、開発の有無が必要になってきます。今回は、自社顧客化の施策で有効な方法として紹介した自社アプリ開発について確認していきます。自社顧客化する際、アプリ連携は追加実装が最も多く必要になる場合が多いです。実装については慎重にご確認ください。
1.来店計測
まず最も重要なのは、ユーザー(アプリ会員)の来店頻度の計測です。来店計測のデータは多くの集計分析に活用する主軸データとなります。分析ツール(例:タブロー)でも集計できるようにするには、アプリベンダーと連携して進めてください。
ユーザーが本当に来店したということを計測する為には、会計時に会員証を提示してポイントやスタンプ等を貯めてもらう必要があります。会員証自体は、バーコードやQRコードで提示することが多いでしょう。番号はアプリ側での発番、管理になります。
POSとの連携が必須であり、POS側で会員証用の番号を会計伝票に反映できるようにする必要があります。システム部のPOS担当者と連携して実装を進めてください。
2.クーポン計測
来店計測に続いて重要なのが、クーポンの計測です。アプリ上でクーポンを「表示する」「使用する」だけではなく、会計伝票に反映できるようにPOSと連携が必要です。POSと連携して“本当の”クーポン使用有無を計測しないと、正確なデータ計測が出来ません。アプリ上の計測だけでは、クーポンを使ったはずなのに“使っていない”という場合や、またはアプリ上で間違えて「使用する」を押下した場合に対応出来ません。
またアプリ用、web広告用等、ツール別のクーポン計測が混在しないよう、POSにクーポンを登録する必要があります。アプリ上での「使用する」をタップした件数、POS上でのクーポン利用数、両方をいつでも集計できる環境を整えてください。POS側ではクーポンのQRを読み込むスキャナーや実際に計測できる設定も開発が必要な場合が多いので、POSデータをアプリデータ(またはCDP内の基盤)につないで、いつでも一括で集計できるようにすることを勧めます。
3.ポイント・スタンプ
会計時に会員証を提示して、ポイントやスタンプを貯めることで“本当の”来店有無を計測することが出来ます。環境によってはレシートにQRを発行して、ユーザーがそのQRを読み取ることでポイント(またはスタンプ)を貯める場合もあります。ユーザーがアプリを使いたくなるメリットの一つであり、業態としては「誰がいつ来店したのか」を計測できるので、両者にとって重要なデータとなります。
これもクーポン同様、POSとの連携および集計出来るようにする必要があります。クーポンと異なり、ポイントをアプリ上に反映する連携も必須です。APIやバッチ処理での連携となります。POSがリアルタイムで反映できるならAPI、毎日何時に一括反映ならバッチ処理を採用する、というのが目安になります。
ポイントやスタンプをアプリ上でどのような表示にするか、という点については、私はできる限り可視化した表示を心がけた方が良いと思っています。ユーザー自身が「いつ、何ポイントを、どの店で獲得したのか」をいつでも確認出来れば、結局はクレーム数の減少に影響してきます。
ポイント・スタンプ・クーポンといった内容についてお話ししてきましたが、これらはいずれもお客様からの問い合わせ内容によって、即時、個別にユーザーのアプリに反映しなければならないという場面が出てきます。自社内やお客様対応センター等から管理画面を使って、簡単に状況を反映できる体制も同時に作ることを勧めます。
4.ランクアップ
ポイントやスタンプを一定量以上貯めると会員ランクがアップして、インセンティブ等が発生する仕組みを整える必要があります。過去データがある場合、そのデータを元に、どれくらいの来店頻度のユーザーがどれくらいいるのか回数別で分類したり、1年間に何回以上来店すると離脱しにくくなるのか、可視化する必要があります。
業種業態で全く異なる来店頻度になりますので、慎重に検討してください。均一に回数が増えるほど、もらえる特典が豪華になるのは当然としても、来店回数のタイミングで「もうちょっと行こう!」と後押ししたくなる会員ランク制度にすることを勧めます。極端な均一化された会員ランクはモチベーションが上がりにくいこともあります。
来店頻度の傾向を分析するのに、私は「残存率」というロジックを使います。例えば「5回以上来店したけど、6回以上来店したのは何%なのか?」という定義です。「残存しない=離脱した」ということになります。これを来店回数別で一覧にすると、残存率の格差が明確になるので試してみてください。多くの業態で見受けられる傾向として、1年間に6回以上来店すると離脱が低い傾向があります。もし過去データが無い場合は、一つの目安にしてください。
「ロイヤルユーザーは値引きしなくても来る」と思っていないでしょうか。外食チェーンストア企業ではこのように錯覚している人をよく見かけますが、データで現状を可視化すると、ガラリと概念が変わることになると思います。「値引きは悪」とみなす上層部がいる場合、「必要なタイミングで必要な人だけにインセンティブを提供する」という最適化することが、会員ランク制度にも大きく影響します。
来店頻度が高いユーザーは離脱しそうになったらインセンティブを提供すれば良いですし、来店頻度が低いユーザーは最初から強いインセンティブで後押しすることで来店回数をコツコツ積み上げて、安定化すればインセンティブを抑えれれば良いのです。会員ランク制度は、一度決定すると後から修正するのが大変です。ただしランクアップに伴うインセンティブに関しては、変更しやすい設定に開発することを勧めます。
5.インセンティブ・景品
インセンティブの開発は、「クーポンのQR提示でPOSに読み込み出来る」ということを実装することを前提に進めてください。これが実装されていないと、ユーザーが本当にクーポンを使用したのか不透明になってしまいます。
クーポンの種類はPOSで実現できるパターンの精査から調査が必要です。現場が実装したいクーポンがあっても、肝心のPOSで実装出来ないというケースもあります。クーポン(値引き)以外のインセンティブとして「デザート1皿プレゼント」や「◯◯◯グッズのプレゼント」などもありますが、これらもPOSに実装できるか調査が必要です。
アプリ上でポイント交換や一部のロイヤルユーザーだけに提供する景品なども実装を勧めます。デジタル上で完結する商品券や招待券以外では、景品の発送が必要になる場合、発送先を入力してもらうフォームも必要です。独自のフォームにするのか他社ツールを取り入れるかはケースバイケースですので、柔軟に使い分けてください。景品は定量的か限定的かもありますが、倉庫の確保、発送業者の確保も必要です。食材発送になるとさらに慎重に準備する必要があります。
景品について考える際に重要な視点は「ユーザーは自社ブランドに対して何を期待しているのか」です。「持ち歩いても恥ずかしくない」位置付けであれば自社オリジナルグッズが好評になるかもしれませんが、他メーカー等と限定コラボした景品を提供することも有り得ますので、検討してみてください。
マジョリティなユーザーにメリットを提供するには景品原価との調整になりますが、「ロイヤルユーザーにはちゃんと還元する」という感謝と熱意が必要です。この意識がない時点で「わざわざ来店回数を貯めてクーポンや景品が欲しいとは思えない」となってしまいます。インセンティブや景品は多くの関係者の了承を得ないと進まないケースが多いと思いますが、その効果をロジカルに整理して、ロイヤルユーザーを作る付加価値を提案しましょう。
6.抽選機能
キャンペーンに合わせた抽選機能等も検討する必要があります。「全員には提供できないけど、欲しくなるインセンティブ・景品」は、抽選のニーズがとても高いです。
ユーザーがどんな状況で抽選機能を発動するのかも、検討の際には重要になってきます。「使いにくい」「どこから抽選したらいいかわからない」「当選発送までのルールがわからない」などはトラブルの元です。わかりやすく、挑戦したくなる抽選にする必要があります。
外食企業がアプリに抽選機能、ゲーム機能を実装する必要性の議論をする場合、「ユーザーに飽きさせない」ということを目的にすることが多いでしょう。ロイヤルユーザーの来店頻度をコンスタントに増やして、その行動に相応しいインセンティブ設計をしたり、景品を用意することで「飽きさせない」対策としては十分成り立ちます。
抽選機能は、後から実装でも十分可能な機能になりますので、私としては無理をしてまでゲーム性のある抽選機能を追及しないことを勧めます。ゲーム機能を実装した場合、メンテナンスコストが思ったより重くなってしまったり、アプリへの負荷が強くなりすぎて、ゲーム機能だけ別アプリになる場合もあります。ゲームそのものもアプリ上かweb上かでも負荷が違います。「実装はしたけど、中身がいまいち」とならないように、ご注意ください。
7.アンケート
商品に関する質問、試作に対する質問、店舗の健康状態等々、ユーザーに質問したいことは沢山あると思いますが、多すぎると回答率が下がります。社内の思いつきで「アンケートしたい」と思っても、本当にそのアンケートが必要なのか、その後の施策に反映できるのか慎重に検討してください。
店舗側でも別途アンケートをしているのであれば、役割が重複しないようにしてください。アンケートの大きな課題は、何を聞きたいのか、具体的にどう活用したいのか、要件が整ってないと、意味を成さない場合がとても多いです。
アプリ会員にアンケートを取りたい場合、自社オリジナルのフォーマットにするのか、他社サービス(Saas)を取り入れるかは、見積の上ご検討ください。
8.お気に入り店舗
アプリ会員に「よく行く店舗」の登録をして貰う機能です。来店履歴が付いた場合、自動的に「お気に入り店舗」に登録される挙動が望ましいと思います。この機能は、店舗別配信する場合にも必須になります。店舗別でどれくらい会員数を増やせたのか競い合う、というような取り組みもしてみてください。「引っ越しをしたから、この店舗にはもう行かない」「店舗からの通知を受けとりたくない」といったユーザーもいますので、お気に入りを解除する機能も実装してください。
次回は公式サイトの開発やモバイルオーダーの開発等、アプリ以外の開発について詳しくお伝えしたいと思います。
執筆者プロフィール
清水 圭介
コンサルタント
株式会社EPARKを経て、2018年に物語コーポレーションに入社。外食チェーンストア(焼肉きんぐ・丸源ラーメン・ゆず庵)におけるデジタルマーケティング・DXの部門を立ち上げ、OMO構想からCDP構築を軸にアプリ・web開発からマーケティングまで網羅した戦略立案・企画推進、開発からマーケティング運用を担う。2021年にレインズインターナショナルに入社。デジタルマーケティング部の部長として、牛角・温野菜を中心にCDP構築・web広告・順番受付開発運用などを担う。2023年9月クラスメソッドに参画。
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