プリズマジャーナルTOP「売らない店」小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線 〜業務・システムコンサルタント加藤の場合
「売らない店」小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線 〜業務・システムコンサルタント加藤の場合

「売らない店」小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線 〜業務・システムコンサルタント加藤の場合

プリズマティクスで活躍する2人のコンサルに同じテーマをぶつけ、その多様な視点を紹介する新シリーズ「小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線」。今回テーマに選んだのは、EC化率の向上やD2Cブランドの勃興を背景に小売関係者から注目されている「売らない店舗」です。

成功事例がニュースで取り上げられるようになるなどする一方で、最近は失敗事例も耳にするようになりました。「売らない店」の成否を分ける要因とは何でしょうか。また、今後このような店舗が増えていくのか、だとしたらどんな未来像が描けるでしょうか。本記事では業務・システムコンサルタント加藤の“視点”をお送りします。

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加藤 彰浩

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。

1.地方在住者であるコンサルが「売らない店」を顧客視点で考える

現在話題になっている「売らない店」。その殆どは東京・大阪などの都市圏に集中しており、筆者のような地方部在住者には縁遠い存在です。“地方”と言っても一概には言えませんが、筆者が住む場所は県庁所在地や第2の市街地に行くために、車で30分程度の時間がかかります。

このような土地に住んでいると「なにかしらの新しい体験が出来そう」という理由で外出することには、心理的な壁を非常に高く感じてしまいます。「売らない店」で与えらえる「体験」は、移動時間や労力、ガソリン代など、諸々のコストに見合うものなのでしょうか。

反面、そもそも地方は人口が都市部に比べ少ないので、選べる店舗の種類も少なく、またその店舗が持つ在庫数も少ないのは事実です。特に、新奇性のある商品は大都市部の店頭へ流れ、地方では実物に触れる機会そのものが少ない。これは、大都市部に行く度に筆者自身が痛感するところです。

実物を実際に触って決断したい趣味性の高いもの、あるいは価格の高いもの程、大都市部でしか触れられない。このような地方部が抱えている課題に対して、「売らない店」が提供する「体験」のインセンティブは非常に高めやすいといえるでしょう。

2.「売らない店」展開企業目線で考える、地方部出店のメリットと課題

今度は「売らない店」を地方部に出店する企業目線で、メリット、デメリットを考えていきたいと思います。一般的に言われる「店頭在庫を揃えることから解放される」、また「不特定多数の消費者に触れてもらい、その体験データを取得できる」という企業メリットは、地方部も都市部も変わらないように思います。

一方で、地方部はデータを取得できる対象(=人口)が、都市部に比べて少なく、企業にとっては集客がしにくいという実態があります。「体験データを取得できる」という企業メリットが少なくなれば、「売らない店」は開店コストに見合わない存在になってしまいます。

人口数が少ない地方部で、「売らない店」が提供できる顧客価値とは何でしょうか。既存の顧客価値は、地方部顧客にとって「あればいいけど」の存在止まりのままで、ビジネスとして成り立たせるのは難しい。そこで、都市部の顧客価値「新奇な体験ができる」とは違う定義をする必要があるわけです。

筆者はそれを「意思決定に寄与する」という定義ではないか、と考えました。

3.「売らない店」の企業価値と顧客価値を、地方部目線で再定義してみた

ここまで見てきた「売らない店」の顧客価値や企業価値を、「AIDMAの法則※」に当てはめて考えてみましょう。Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲望)→Memory(記憶)→Action(購買)という5つのプロセスのうち、顧客価値と企業価値の折り合う点はどこでしょうか。(※編集部註 消費者が無意識に行っている購買決定プロセスを説明するフレームワークの1つ。1920年代アメリカで提唱された)

都市部では最初のAttention(注意)で十分折り合うことが出来るのに対し、地方部ではAttention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲望)まで進んでも、まだ来店動機としては不十分です。Memory(記憶)、Action(購買)のプロセスの顧客を引き寄せない限り、企業価値とは折り合わないのではないでしょうか。

「購買の意思決定に寄与できる」状態とは、「店舗がある」だけではありません。意思決定をしようとしている顧客を把握する仕組み、そしてその顧客を効率的に集めるための継続的な接点が必要です。これを実現するためには、金銭的、非金銭的な顧客インセンティブを設定するなど、スマホアプリを用るなど複合的な施策の実施が不可欠です。

企業が顧客の「意思決定に寄与できる」状態になって初めて、地方部の「売らない店」は「顧客」と「企業」、両方から必要とされる存在になるのではないかと考えています。

(構成・編集=プリズマ編集部)

加藤 彰浩

加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。

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