プリズマジャーナルTOP「売らない店」小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線 〜ビジネス・業務コンサルタント渡邊の場合

「売らない店」小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線 〜ビジネス・業務コンサルタント渡邊の場合

プリズマティクスで活躍する2人のコンサルに同じテーマをぶつけ、その多様な視点を紹介する新シリーズ「小売DX2030を考える プリズマコンサル2人の目線」。今回テーマに選んだのは、EC化率の向上やD2Cブランドの勃興を背景に小売関係者から注目されている「売らない店舗」です。

成功事例がニュースで取り上げられるようになるなどする一方で、最近は失敗事例も耳にするようになりました。「売らない店」の成否を分ける要因とは何でしょうか。また、今後このような店舗が増えていくのか、だとしたらどんな未来像が描けるでしょうか。本記事ではビジネス・業務コンサルタント渡邊の“視点”をお送りします。

渡邊 ⼤吾

2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。

1.「売らない店」をめぐる関係者視点を捉えるところから、分析スタート

「売らない店」の顧客にとっての価値を炙り出す為に、まずはその特徴を、3つの異なる視点から捉えてみようと思います。1)「売らない店」を展開する企業、2)「売らない店」に出品するメーカー、3)「売らない店」を訪れる顧客、この3つの視点を見ていきましょう。

1) 「売らない店」を展開する企業の視点
「売らない店」を展開する企業にとって最も特徴的かつ重要なのは、“在庫を持たない”という点でしょう。一般の小売店は、在庫を抱えます。在庫には当然、仕入れ資金や、欠品させない物流体制が必要で、膨大な経営コストに繋がります。「売らない店」が展開企業にとって優れたビジネスモデルである大きな理由は、こうした「在庫」の課題から解放されている点ではないでしょうか。

2) 「売らない店」に出品するメーカーの視点
新奇性が高い製品を扱う中小規模のメーカーや、販売実績や供給能力がまだ十分でないメーカーは、小売店での品揃えにおいて難しい交渉を強いられがちです。また実際に触れることで価値が伝わる製品の場合、ECにおいては商品の浸透に時間を要します。このような課題を持つメーカーにとって「売らない店」出品は、不特定多数の消費者に触れてもらい、かつデータを取得できる、貴重な機会となります。

3) 「売らない店」を利用する顧客の視点
「売らない店」は在庫を持たず、当日持ち帰ることは出来ません。しかし、「購入したら、速やかに自分の手元に置きたい」というのが、ごく一般的な消費者心理です。「売らない店」が提供する顧客価値とは、何でしょうか。ビジネスモデル上の特徴は、必ずしも顧客への価値とイコールでは無さそうに思えてきます。

2.話題の「売らない店」を調べたり体感して、考えを深める

「売らない店」のビジネスモデル上の特徴が、必ずしも顧客への価値とイコールでは無いとすれば、今成功している「売らない店」が提供する顧客価値とは、一体何でしょうか。国内での「売らない店」代表格とされている企業が、顧客への提供価値をどう定義しているのか見ていきます。

b8ta自身はホームページ上で、「b8taがどのような店であるか」を下記のように説明しています。

・新しい商品、見たことのない商品と出会えます。
・じっくり商品を体験できます。
・b8taテスターが体験をお手伝いします。

私も実際に、b8ta店舗を訪れてみたことがあります。その際には、商品知識が豊富なスタッフさんからの説明付きで、新奇性の高いガジェットを心ゆくまで試用することができました。この“体験”そのものが、顧客価値となっていることが分かります。

FABRIC TOKYOは店舗ではサイズの測定のみ行い、ネットでオーダースーツを注文するスタイルが特徴です。“オーダースーツ”が持つ「敷居が高い」「注文に際して拘束時間が長い」「特別な人のもの」というイメージを払拭するのが狙いです。自分にジャストフィットしたスーツを仕立てるのは、ワクワク感がありますよね。これを簡単、気軽に注文できる点が、顧客にとっての価値です。

この2社の例から、「売らない店」というのはあくまでビジネスモデルを表現するラベリングであって、顧客への提供価値は別に存在していることがわかります。

3.「売らない店」の成否を分けるポイントは、すばり、顧客への提供価値!

「売らない店」は、ビジネスモデルとしてのメリットとは別に、顧客への提供価値が明確である必要があります。このビジネスモデル上のメリットは、顧客にとっては制約になっている可能性もあり得るからです。

事業計画の出発点である「顧客への提供価値」を突き詰め、その実現手段として「売らない店」の形態になる。そのような構築プロセスこそが、あるべき姿なのではないでしょうか。

「顧客にどのような体験や価値を提供できるか?」これは、事業をしていく上で、ごく当たり前の問いではあります。しかしビジネスモデルの斬新さに注目する余り、おろそかになりがちな盲点でもある、かもしれません。

(構成・編集=プリズマ編集部)

渡邊 ⼤吾 執筆者

執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント

2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等

この記事をシェアする

Facebook