私はプリズマティクスのシニアコンサルタントとして4年間、多くの企業の業務システムの開発、導入支援をさせていただいています。それ以前はコンビニ大手のミニストップ株式会社に勤務し、そのうち約10年間、情報システム部門(以下、情シス部門)で様々なシステム構築に携わってきました。
本記事では、「OMOが進む中での、情シス部門の役割」について、これまでの経験を振り返りつつ、コンサルタントとして今考える“役割”についてお話ししたいと思います。
1.「情シス部門は“業務改革推進部門”になるべき」
昨今は内製化を進めるためにエンジニアが所属する情シス部門も増えています。しかしまだまだ多くの情シス部門ではエンジニアは少数で、システム開発は外部のシステムベンダーに依頼していることが多いのではないでしょうか。私がミニストップに入社した2000年当時、同社の開発もシステムベンダーが主体となっていました。
情シスに配属された当初、業務の進め方は、
①各事業部門の改善要望をヒアリング
②システムベンダーに改善要求
③開発見積をもらって、実施判断
といったもので、情シスが主導して要求事項を整理するのではなく、どちらかというと事業部門の御用聞きといったスタイルです。事業部門はシステムの全体像、情シスは事業部門の全体業務を把握せずに改善を進めるため、自然と個別最適でシステム改修が繰り返されてシステムはスパゲッティ化していきます。
また開発費用についても、情シスが業務改善効果まで把握していないため、システム改修による費用対効果も曖昧となり、前年から踏襲された予算枠でのシステム投資にとどまることが多くなります。
こうした中で、当時の情シスメンバーと以下のように働き方を変えていきます。
①業務フローを書き起こして、事業部門と業務課題を認識合わせ
②①を元にRFPを作成し、システムベンダーに提示の上コンペ
③業務改善効果を算出した上で、見積金額に対して実施判断
これをすることによって、事業部門と一緒にITを使った業務改善、業務改革を検討するようになり、その内容を把握しシステム投資の費用対効果を明確にすることも可能となりました。また、RFP作成の中でシステムの構造を整理し、スパゲッティ化を防ぐことができるようになります。
事業部門はITを使ってどう業務が変わるか、情シスはITを業務にどう活かすことができるか、相互にわからなかったことを繋げるそんな役割だと当時は考えており、上司や同僚とは「情シスは業務改革を推進する部門になるべき」と会話していました。この考えはコンサルとなった現在でも変わらず、まずは業務フローの整備から入るようにしています。
2.OMO時代の情シスに求められる役割は“コンサル”
「OMOとは?O2O、オムニチャネルとの違い、事業会社が取り組む意義とは?」の記事で言及した通り、OMOとは「オンライン(デジタル)とオフライン(リアル)を一体のものととらえて、顧客体験を設計する考え方」となります。そのためOMOに対応したシステム構築を目指そうとすると、リアル店舗、EC、アプリ等の複数の顧客接点を横断的に捉える必要があります。
また、MDシステムや物流、会計システム等との連携もより複雑性が増していきます。各事業部門毎の最適化から、全社最適もしくは顧客最適で情報システムを考えていく必要があります。情シス部門には業務理解だけでなく、ビジネス理解も求められるようになっていくでしょう。
ただし現状の情シス部門の組織では、各担当領域ごとにチームが分かれていて縦割りになっており、店舗システム、MDシステム、EC等が別チームに分かれ、チーム間での連携が取れていないケースが多いのではないでしょうか。情シスのリーダーには、情シス内の横串、事業部門との横串を刺す動きが求められます。
そして、そのようなリーダーを育成することが情シス部門のトップに求められてきますし、リーダー自身も意識する必要があります。参考までに私自身は事業会社の時、以下のようなことを行っていました。
●担当案件に関わる書籍をプロジェクトの事前準備として2~3冊程度読み、事業部門やシステムベンダーとの会話の土壌を作る。
●業務のことは事業部門の人に教わる、システムのことはシステムベンダーに教わる(実際にPMの進め方はシステムベンダーのPMの方に教わりました)。
●現場と合意形成を作るために、ファシリテーションの勉強をする。
●事業会社の意図をシステムベンダーに、システムベンダーの説明を事業部門がわかるように、翻訳することを意識してコミュニケーションの仲介を図る。
これらのことは事業会社を離れてコンサルとなった今でも、基本的には一緒だと考えてます。これからの情シスが担うべきなのは、ITを使った新たなビジネスモデルや業務設計をするコンサルのような役割だと、私は考えています。
3.事業会社の情シスに関わる方々へ
OMOやDXを進めるにあたり、情シス部門の重要性を理解しテック人材を集め、育てようとする企業も増えてきました。参考となる企業の取り組みを、プリズマジャーナルでは積極的に掲載しています。
しかし、このような動きをしている企業は、まだまだ少数派です。事業会社で自ら情報シスを希望し、初めからビジネスや業務を改革しようといった志を持つ人材も、稀な存在かと思います。
私は、「事業会社で情報システムに関わる仕事をする」ということは、人の働き方をデザインし、物(商品やサービス)とお金と情報の流れを整備するということだと思っています。
こんなやりがいがあって楽しい仕事に興味を持たないなんて、勿体ないと思いませんか?
小売業であれば、店舗に商品を仕入れるために受発注システムがあります。店舗で販売するためにPOSシステムがあり、販売した商品を補充するために物流システムがある。新たな商品を開発するために分析ツールがあり、会社の会計処理を正しく適切に行うために会計システムがある。そして各部門が適切に働き生産性を高めるために、ITを使った業務設計を行い、お客様とのコミュニケーションで絆を深めるためにアプリやECといった顧客接点を開発する。
情シスが必要とされる、活躍の場は、今や多岐に広がっています。情シス部門を事業部門の御用聞きに終わらせずに、OMOやDXをリードする部門と捉えて活用することが、各事業会社には必要ではないでしょうか。
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等
プリズマティクスのサービス
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