プリズマジャーナルTOP【イベントレポート】無印良品ネットストア・アプリの歩み 〜顧客ファーストのシステム決断と「感じ良い」体験の追求〜
【イベントレポート】無印良品ネットストア・アプリの歩み 〜顧客ファーストのシステム決断と「感じ良い」体験の追求〜

【イベントレポート】無印良品ネットストア・アプリの歩み 〜顧客ファーストのシステム決断と「感じ良い」体験の追求〜

EC事業において、大規模セールイベント直前のシステムトラブルは、まさに悪夢と言えます。しかし、その最大のピンチに直面したとき、企業はどのような決断を下し、顧客体験(CX)をどう守るのか。そこに、ブランドの真の姿勢とDX(デジタルトランスフォーメーション)の成熟度が表れます。

本レポートでは、2026年3月4日(水)に「リテールテックJAPAN 2026」にて開催されたセッション『無印良品ネットストア・アプリのこれまでの歩み』の模様をお届けします。株式会社良品計画でIT・システムを牽引する高林氏と、伴走するクラスメソッドの濱野氏の対談から、BtoC事業者が学ぶべき「ビジネスとシステムの全体最適」のヒントを探ります。

【登壇者】
高林 崇仁 氏(株式会社良品計画 ITサービス部 )
前職での検索エンジン・Webシステム開発の経験を活かし、良品計画にてネットストア、アプリ、インフラなどIT全般の内製化と組織強化を推進。

濱野 幸介 氏(クラスメソッド株式会社 取締役 / プリズマティクス株式会社 代表取締役CEO)※モデレーター
無印良品ネットストア・アプリの立ち上げ担当から関わり、長年良品計画のIT戦略を技術面から強力にサポート。

1.究極の決断「無印良品週間」前夜のシステム全停止

セッションの前半では、昨年の無印良品にとって最大の試練とも言える「ネットストアのシステム停止と再開」についての生々しい裏話が語られました。
事の発端は、無印良品最大の集客イベントである「無印良品週間」の直前、まさに前日のことでした。連携している外部サービスの問題が発見されたのです。イベントが始まれば、通常の何倍ものトラフィックが押し寄せることは火を見るより明らかでした。

ここで良品計画のIT部門の役員が下した決断は、「お客様に迷惑がかかる可能性があるなら、全部閉じてしまおう」という非常にドラスティックなものでした。

「迷うことなく即断即決でした。可能性がゼロでないなら、まずはお客様に迷惑をかけないことを最優先に行動する。夜の9時頃でしたが、わずか1〜2時間でネットストアを全停止するという判断を下し、即座に実行に移しました」(高林氏)

目先の売上機会の損失を恐れて騙し騙しシステムを稼働させるのではなく、万が一の混乱でお客様の信頼を損なうことを最も危惧したのです。

トラブル発生時の対応スピードは、事業側に「何がお客様ファーストか」という揺るぎない判断軸が根付いているかに依存します。売上とお客様保護が天秤にかけられた時、迷わず後者を選べるトップの決断力そしてお客様に対するスタンスが、ブランドの危機を救う鍵となることに気づかされました。

2.OMOの真骨頂。EC閉鎖中でも「店舗への送客」で売上を創出

約1ヶ月半に及ぶネットストアの停止期間中、良品計画はただ指をくわえて待っていたわけではありませんでした。ここから、オンラインとオフライン(店舗)を融合させるOMO(Online Merges with Offline)戦略の真骨頂が発揮されます。

全停止から約1週間弱という短期間で、良品計画はネットストアのUI/UXを即座に変更し、「Webカタログ」として一部再開させました。カート(購入)機能は閉じたまま、お客様が商品情報を閲覧し、実店舗へスムーズに足を運べるような導線へと作り変えたのです。ここで驚くべきデータが共有されました。

「購入できない状態にもかかわらず、ネットストアへのトラフィック(アクセス数)は、通常時と全く変わらなかったのです」(高林氏)

これは、お客様が「オンラインで買うため」だけでなく、「店舗に行く前の事前の情報収集」としてネットストアやアプリを強力に活用していることを証明しています。商品詳細ページの閲覧は購買意欲に直結しており、このWebカタログ化への素早い切り替えが、結果的に実店舗への強力な送客装置となり、全社的な売上を下支えすることに大きく貢献しました。

ECサイトを単なる「オンライン上の売り場」と捉えるのはではなく、お客様にとってECは、購買チャネルであると同時に「最大のメディア」でもあるという点です。チャネル間の役割を柔軟に切り替えられる構成と企業側のマインドセットが、不測の事態においてとても重要となることに気づかされました。

3.全体最適視点の再開プロジェクトと組織力

1ヶ月半のシステム点検と改修を経て、いよいよネットストアを再開する際、システム部門にはさらなる難題が待ち受けていました。

再開を待ち望んでいたお客様が殺到し、通常の10倍、20倍というトラフィックが予想されました。しかし、フロントエンド(Web側)のサーバーをただ増強すれば解決する問題ではありませんでした。

「入り口を大きく開けてお客様をたくさん入れてしまうと、今度は後ろの『物流』や『基幹システム』が詰まってしまい、ボトルネックは後ろへ下がります。結果的にお客様へ商品が届くのが遅れてしまいます。全領域を同じチームが見ているわけではないので、チーム間の足並みを揃えなければならず、色々なシステムをどのように連動させるのか、裏でアイデアを出しながら頑張っています」(高林氏)

また、この良品週間というイベントも何度も乗り越えてこられた中で、印象に残ったことは何か問われた高林氏は、「仮想待合室(ウェイティングルーム)」の仕組みを挙げました。アクセスが集中した際、ユーザーに「現在〇〇分待ちです」と案内し、システムへの流入を平準化するアプローチです。

この新しい仕組みを導入し、ユーザーが迅速にサイトへアクセスできる環境を整備したものの、運用が始まると予期しない課題が浮上しました。システム自体に問題はありませんでしたが、バックエンド処理が追いつかず、最大10時間の待機時間が発生してしまったのです。複数の仕組みを連動させた結果、購買意欲の高いユーザーが購入手続きで過度な負担を強いられることになり、これは大きな失敗だったと高林氏は語ります。

しかしそのボトルネック解消に向け様々な改善施策を実行した結果、処理能力を当初の5倍以上に拡大することに成功しています。ここで特筆すべき点は、システムの大規模な変更は一切行わなかったということです。むしろ、システムの中身のコード数行を修正しただけで、この劇的な改善を実現できたのです。

「良かったところと悪かったところが繋がりますが、メンバーたちがどこにボトルネックがあり、それに対してどのような改善ができるのかを見出し、そして一緒に改善できたことは、とても良いアプローチだったと思っています」(高林氏)

「今後も良品週間ではもっと柔軟に対応していかなければならないと思いますが、ボトルネックが移っていくというのは常にある中で、そのような壁を設けずに行き来できる、横断的に解決できる人材が重要なのかもしれませんね」(濱野氏)

ECシステムはECサイトの問題だけではなく物流や基幹システムが連動していて稼働するものです。各システムを見ているチーム同士が足並みをそろえる必要があり、様々な対策案を出しあう必要があります。対応には横との連携を柔軟にできる人材および組織が重要であることに改めて気づかされました。

4.無印良品が描く次世代の顧客体験。「感じ良いAI」とは何か?

ネットストアの再開を無事に果たし、システム基盤の安定化を進める良品計画ですが、高林氏は現状に全く満足していません。セッションの最後に今後の展望として語られたのは、「AI(生成AI)」の活用についてでした。

「システムは正常に動くようになりましたが、それが無印良品が掲げる『感じ良い暮らしと社会』というビジョンに見合った、お客様にとって本当に快適で『感じ良い』体験になっているかというと、まだまだ途上です」(高林氏)

ECサイトにおけるAI活用というと、コンバージョン率を高めるための「執拗なパーソナライズ」や「レコメンドの最適化」、あるいは「業務効率化によるコスト削減」にばかり目が向きがちです。しかし、良品計画が模索しているのは「感じ良いAI」という独自のアプローチです。

「何でもかんでも最適化・合理化すれば良いというわけではありません。「感じ良い」も人によって捉え方は違いますが、その部分を上手く表現できると面白いし、差別化になるのではと思っています。無印良品らしい、自然で心地よく、お客様が無理なくお買い物を楽しめるような空間づくりに、いかにAIという最新技術を溶け込ませるか。それが今後のチャレンジです」(高林氏)

お客様毎に違うが、「無印良品ってこういう感じ」が自然と表現できるようなネットとなるように目指していかれるということでした。

最新のテクノロジー(AIなど)を導入すること自体が目的化していませんか? システムや技術は、あくまで「ブランドの思想を体現し、顧客体験を向上させるための裏方」にすぎません。合理化は当然として取り組むとして、生成AIなどの最新テクノロジーを自社ブランドの思想に沿った実装をしていくスタンスこそが、差別化となり次世代のビジネス競争を勝ち抜く本質に繋がると感じました。

5.最後に

無印良品の事業成長と共に、お客様との接点である無印良品ネットストア、MUJIアプリはそれに寄り添って成長してきました。無印良品週間における対応の舞台裏や、システムアーキテクチャーの改善、IT組織の変革などこれまでの取り組みを振り返りながら、これからどのような展望を持たれているか、今回は株式会社良品計画でIT・システムを牽引する高林氏にお話いただきました。

尚、株式会社良品計画様には過去にもご登壇いただいています。こちらの登壇レポートも是非ご覧ください。

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プリズマ編集部

「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。

『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。

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