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データ分析の歴史から振り返る「顧客データを使う」とは

データ分析の歴史から振り返る「顧客データを使う」とは

ビジネスの重心が『モノを売る』から『顧客との関係を築く』へと移行する中で、顧客データの真の価値は大きく変化しています。
『顧客データを使う』とは、単に過去の購買履歴を分析することでしょうか?それとも、未来の顧客体験をより豊かにするものでしょうか?

・「顧客データを活用して、一人ひとりに合った商品の提案をしたい」
・「顧客データを分析し、ロイヤル顧客を育てたい」
・「顧客データもとに、真のニーズに答える商品開発を実現したい」

色んなシーンで出てくる「顧客データ」を使うとはいったいどういうことなのか。

本稿では、データ分析の歴史を振り返りながら顧客データ活用が重要になった背景を探ることで、今、私たちが「顧客データを使う」ことの本質的な意味と向き合い方が見えてくるのではないかというお話です。

1.データ分析の歴史の振り返り

このセクションでは、顧客データを活用する背景を深く理解するために、データ分析の歴史を振り返り、「顧客データを使う」という行為が時代と共にどのように変化してきたのか、その重要なポイントを解説します。

まず、データ活用が本格的に始まった1990年代から現在に至るまでの流れを、「どのようなデータ活用が一般的だったか」という視点で振り返ってみましょう。

1990~2000年代:
商品と売場の時代
POSシステム(販売時点情報管理システム)の普及によりデータ活用が可能になった時代です。
この時期の焦点は、「どの商品が」「どこで」「いつ」売れたかの把握と、それによる売場改善や在庫最適化、オペレーション効率の向上でした。
2010年代前半:
顧客識別の萌芽期
ID-POS導入による「誰が」の特定と、RFM分析(最新購買日、購買頻度、購買金額による顧客分析)やバスケット分析などの高度な分析手法が登場しました。しかし、依然として店舗・商品単位の分析とFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)による優良顧客囲い込みが中心でした。
2010年代後半~20年代:
個客理解の時代
スマートフォンの普及によるデジタルデータの取得が、データ活用の大きな転換点となりました。購買データに加えて行動データや嗜好データの統合分析が可能になり、次のような変化が生まれました。

・アプリを活用したパーソナライズドクーポンによる来店率の向上
・オムニチャネル戦略による購買頻度の増加
・顧客一人ひとりのLTV(顧客生涯価値)最大化を目指す施策の展開

この変遷の最も重要なポイントは、分析目的の変化と顧客軸分析の深化です。次のセクションでは、これらの変化がビジネスにもたらした影響について詳しく説明していきます。

※1)POSシステム:Point of Sales System。商品の販売情報をリアルタイムに記録・管理するシステム
※2)RFM分析:Recency(最新購買日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(購買金額)の3つの指標で顧客を分析する手法
※3)FSP:Frequent Shoppers Program。顧客の来店頻度や購買金額に応じて特典を提供する顧客囲い込み施策
※4)LTV:Life Time Value(顧客生涯価値)。顧客が生涯にわたってもたらす利益の合計

2.結局この20年~30年での変化のポイントとは

これらの変遷を整理すると、データ分析において変化した重要な2つのポイントと、その変化に伴う本質的な転換が見えてきます。

変化した点1・分析目的の変化

変化の1つ目は、LTVという考え方が一般化し、物を売るためにどうするかという考え方から顧客にいかに買い続けてもらうのかという分析目的の変化があったと捉えています。
LTV算出の最も簡単な計算式はLTV=購入単価 × 購入回数 × 継続利用期間ですね。
市場環境として、「人口減、世帯数減の中で、一人のお客様にいかに買い続けていただくか」という考え方に変わった点、大きな変化だと捉えています。

変化した点2・顧客軸分析の深化

「一人のお客様からどれだけ長期的に収益を得られるか」という視点は、テクノロジーの進化により顧客軸の分析をさらに深めることを可能にしました。

2000年代は、POSレジデータの年代キーで売れた商品を分析し、それをどう効率的に売るかを考えるのが中心でした。但し、分析の目的は「商品の特徴を捉える」であったり、「店の性質を明らかにする」目的であったりと、商品軸・店舗軸の延長の分析観点になっていたかと思います。

現在では、顧客軸分析はデジタル接点の増加(リアル店舗、ECサイト、アプリなど)により、「商品の特徴」や「店の性質」の分析から顧客の行動や嗜好を深く理解し、「この行動をした顧客の多くはこういう(購買)行動になる」という「顧客の行動」に着目した分析に変化しています。
このような分析が、本当の意味での「顧客の行動パターンに基づく将来予測」に変わって行ったと捉えています。

結果として生じた本質的な変化

顧客の行動データが蓄積され分析できるようになったことで、「どのような行動をした顧客がどのような購買行動につながりやすいか」という将来予測が可能になり、LTV向上に向けた継続的なアプローチ設計、すなわち「顧客体験設計」が各企業の強み・魅力や競合他社との重要な差別化要素になったという変化が本質的な変化と考えます。

この変化を具体的に示す例として、あるアパレル企業A社の一例をあげると
「アパレル企業のA社では店舗・EC併用客の年間平均購買金額は、店舗だけで購入する顧客の3倍になる」

上記の分析結果から、初回の店舗での購入時にEC専用クーポンをデジタルで配布してEC利用を促す取り組みを行っています。
これは単なる販売促進ではなく、顧客との長期的な関係構築を目指した戦略的アプローチと言えるでしょう。

3.改めて、「顧客データを使う」とは

このセクションでは、前述したデータ分析の歴史と変化のポイントを踏まえ、「顧客データを使う」という行為の本質的な意味合いを改めて考察します。

ビジネスの焦点の転換

過去のビジネスの焦点が「モノを売る」ことにあったのに対し、顧客データ活用の進展とともに、ビジネスの本質的な考え方は「顧客との関係を築く」へと大きく転換してきました。

この転換により、「データを使う」行為は、単なる販売促進の手段ではなく、顧客理解を深めることで、より良い体験を継続的に提供するための土台を築くものとなりました。

顧客データ活用の具体的な意味

より具体的に、「顧客データを使う」とは、以下のような「顧客との関係づくり」に向けた問いに答えていく作業です。

●顧客との接点をどのように設計するか
・店舗での接客
・アプリでの情報提供
・ECサイトでの購買体験

そして、これらの接点をどのようにつなげていくか

●どのようなタイミングで、どんな提案をするか
・初回購入時の次回購入促進
・定期的な購入者への特別サービス提供
・離反しそうな顧客への挽回施策

●顧客にどのような価値を提供するか
・商品やサービスの質の向上
・便利で快適な購買体験の提供
・パーソナライズされた情報提供

これらの問いに答えることは、顧客一人ひとりの行動やニーズを深く理解し、それに応じた最適なコミュニケーションや価値提供を行うための基盤となります。

手段と目的の明確化

ここで重要なのは、顧客データを使うことは「手段」であり、その目的は「顧客との継続的な関係構築」にあるという点です。

企業は、自社の強みや特徴を活かしながら、上記の要素を組み合わせることで、独自のデータ活用戦略、すなわち、顧客との持続可能な関係構築の方法を見出すことができるのです。

データ活用の最終目標は、単に「売上を上げる」ことではなく、顧客にとって真に価値のある体験を提供し続けることで、長期的な信頼関係を構築することにあります。
これこそが、現代のデータドリブン経営などビジネスにおける本質的な「顧客データの使い方」と言えるでしょう。

加藤 彰浩

加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。

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