プリズマジャーナルTOP中国のECサービスについて~中国における小売流通業のDX化事情 NO.3~
中国のECサービスについて~中国における小売流通業のDX化事情 NO.3~

中国のECサービスについて~中国における小売流通業のDX化事情 NO.3~

2019年から2022年にかけて中国の山東省青島市で実際に生活した経験を基に、これまで中国における小売流通業のキャッシュレス化やデリバリーサービスについてご紹介した「中国における小売流通業のDX化事情」シリーズ。

最終回となる今回は、急成長を遂げる中国のECサービスとそれを支える認証の仕組みについてご紹介します。
中国ECサービスの現状と特徴について、その規模や成長要因、主要プレーヤー、物流インフラ、販売促進手法など、EC市場の全体像を整理しながら詳しく解説していきます。

 

1.中国ECの規模と成長要因

中国の電子商取引(EC)市場は、近年急速に成長を遂げています。
2022年の取引総額は約51.5兆元(約9兆ドル)に達し、世界最大の規模を誇ります。

・市場規模:2022年の中国EC取引総額は約51.5兆元(約9兆ドル)に達し、世界最大の規模。
・成長率:2017年から2022年の5年間で年平均約16%の成長を記録。
・小売市場におけるシェア:小売総額に占めるECの割合は25%以上と、世界最高水準。

ではなぜ、中国のEC市場はここまで成長したのでしょうか?
その背景には4つの要因があります。

中間所得層の急拡大

中国では経済発展に伴って中間所得層が急拡大した結果、可処分所得の増加により、消費者の購買力が高まり、EC市場の成長を後押ししています。

都市部を中心としたスマートフォン普及率の高さ

都市部を中心として、スマートフォンの普及率が極めて高く、スマートフォンを中心とした消費行動が定着しています。
いつでもどこでも手軽に買い物ができる環境が、EC利用を促進しています。

物流インフラの急速な整備

物流ネットワークの整備により、商品の迅速な配送が可能になったため、消費者の利便性が大きく向上しています。

大手プラットフォームの台頭

アリババやテンセントといった大手プラットフォーマーが決済システムや物流網を含む包括的なECインフラを構築したことにより、オンラインショッピングの利便性が増しました。

このような複数の要因が重なり合い、中国のEC市場は持続的な成長を実現しています。
今後も新技術の導入やサービスの革新により、更なる発展がみられる可能性があります。

2.主要ECプレーヤー

中国のEC市場は、大手企業が主導する一方で、新興企業の参入や新サービスの創出が活発に行われている、非常に動態的な市場です。

主要プレーヤー

・アリババグループ(タオバオ、Tmallなど)
・JD.com(京東)
・拼多多(Pinduoduo)
・唯品会(Vipshop)

拼多多(Pinduoduo)の特徴

・共同購入方式を採用し、低価格を実現。
・リアルタイムで必要人数を表示するUIが購買意欲を刺激。
・消費者に受け入れられ、急速に成長。

また、新興ECサービスとして「Shein」や「Temu」が注目されています。
これらは主に海外市場をターゲットにしており、低価格戦略で急成長を遂げていますが、各国の規制や税制との摩擦が社会問題化しつつあります。

3.配送インフラの整備

中国EC市場の急成長を支える重要な要素、それは物流インフラの整備です。
大手プラットフォーマーによる独自の物流ネットワーク構築から最新テクノロジーの活用まで、その取り組みを整理していきます。

物流ネットワーク

・アリババの「菜鳥網絡」やJD.comの「京東物流」など、主要プラットフォームは自社物流子会社を保有。
・ドローンや自動運転車両など、先進的な配送手段の実験も進行中。

無人ロッカーの普及

・EC商品の受け渡し場所として、無人ロッカーの設置が急速に拡大。
・オフィスビルや住宅地、駅などに設置され、再配達の手間を削減。

現状の配送インフラの課題

・一部地域では配送の遅延や品質の課題も。
・大型セール時には配送遅延が発生するが、消費者は比較的寛容。

物流インフラのさらなる強化が、中国EC市場の持続的成長に不可欠です。

4.中国のEC販売促進手法

中国のEC市場では独自の販売促進手法が進化を続けており、特に注目される2つの手法について、その特徴を整理していきます。

大規模割引セールの定着と進化

中国では年間を通じて、大規模なセールイベントが開催されています。
特に「独身の日(11月11日)」は、アリババグループが主導する年間最大のセールイベントとして定着しており、各事業者が大規模な販促予算を投入する、一大商戦となっています。
近年は従来の「単日セール」からより戦略的に、事前に長期間にわたってセールを実施することで、全体の売上を向上させる方向へ転換しています。

【主要セール日】
6月18日:JD.comの創立記念セール
11月11日:独身の日(アリババのTmall(天猫))
12月12日:年末商戦セール(Taobao(淘宝網)双12)

ライブコマース

中国のEC市場で注目を集めている販促手法の一つが「ライブコマース」というライブ配信を活用した販売方法です。
特に化粧品やアパレル、食品・飲料分野で急速な成長を遂げており、新たな販売チャネルとして確立しつつあります。

・化粧品やアパレルを中心に急成長
・人気インフルエンサーが億単位の売上を記録する事例も
・ライブ限定商品や割引が購買意欲を刺激
・一方で、納税問題が浮上し、当局による摘発事例も発生

上記の成長は驚異的で、人気インフルエンサーの配信では数時間で数億といった売上を記録することもあります。
一方で、急成長に伴う課題も顕在化しています。
これらの課題に対し、業界全体で適切な対応を進めることが、持続的な成長には不可欠となっています。

5.実際に利用したECの印象

中国ECサービスを利用した実態を、実際の利用で感じた利便性、直面した課題など具体的な体験を元にご紹介します。
驚くべき利便性と、予想外の問題も含め中国ECの現状が見えてきます。

強力なレコメンド機能

中国のECサービスの特徴は、検索履歴に基づく強力な商品推進です。
一度お茶漬けを検索すると、次回以降の画面には関連商品が大量に表示されるなど、推奨が極めて積極的に行われています。

配送について

配送面では、無人ロッカーシステムが非常に便利です。
自宅や職場の近くに設置された無人ロッカーに商品が配送されると、即座にスマートフォンに通知が届きます。
受け取りのタイミングは自由で、QRコードを共有すれば家族や友人に受け取りを依頼することも可能です。
一方で、配送に関しては課題も存在します。セール時には、1週間以上の配送遅延が発生することもあります。
まれに、商品が届かないケースもありますが、返品・返金の対応は整備されています。

日本の食品も購入可能

商品の品揃えは驚くほど豊富で、日本の食品も容易に入手可能です。
お茶漬けやカップ麺などの日本のレトルト食品も、専門の取り扱い業者があり購入できます。

 

このように、中国のECサービスは強力なレコメンド機能と便利な無人ロッカーシステムを軸に、極めて高い利便性を実現しています。
商品検索から受け取りまでの一連のプロセスがシームレスに統合され、スマートフォンを中心としたデジタル体験が提供されています。
配送遅延など課題は存在するものの、豊富な商品群と柔軟な受取オプションにより、それらの不便さを補ってあまりある価値を提供しているといえるでしょう。

6.ECサービスを支える認証の仕組み

続いては、中国のECサービスを支える認証の仕組みについてご紹介します。
同姓同名が多い中国社会においては、個人認証の仕組みが高度にデジタル化されており、ID登録やオンラインサービス利用時に厳格な本人確認が行われます。以下にその特徴を解説します。

認証の基本構造

日本ではメールアドレスを用いることが一般的ですが、中国では携帯電話番号やWeChatを基盤とした認証が主流です。
これにより、個人を厳格に特定する仕組みが構築されています。

●身分証(居民身分証):
中国国民一人一人に発行される18桁の番号付き身分証明書。
氏名、出生地、生年月日、住所などの個人情報を記載。

●銀行口座:
開設時に身分証と携帯電話番号の提示が必須。
口座名義人の身分証番号が銀行口座に紐付けられる。

●携帯電話番号:
取得時に身分証の提示と本人確認が必要。
携帯電話番号と身分証番号が紐付けられる。

●WeChatおよびAlibabaの登録:
決済プラットフォームとして機能する両サービスでは、銀行口座と携帯電話番号の登録が必須。

相互紐付けと課題

これらの要素は相互に紐付けられ、国民一人一人の「デジタルID」として機能しています。

●利便性:
・オンラインサービス利用時の本人確認が迅速かつ確実。
・コロナ禍における健康QRコードやPCR検査の受検履歴などに活用。

●課題:
・プライバシー保護の観点から、データ管理や濫用のリスク指摘も。
・変更手続きが煩雑で、柔軟性に欠ける場合あり。

7.おわりに

中国の小売流通業におけるDX化は、EC市場の急成長と高度な認証システムを基盤に進化を遂げています。これらの取り組みは、利便性と効率性を大幅に向上させる一方で、プライバシーや規制面での課題も浮き彫りにしています。
今後の動向に注目しつつ、日本企業が学べるポイントを探ることが重要です。

全3回にわたってお送りした「中国における小売流通業のDX化事情」シリーズ、いかがでしたでしょうか。
日本におけるDXの推進にあたり、皆さまの参考になればと思います。

板東 功太郎

執筆者プロフィール

 

板東 功太郎

コンサルタント

2001年イオングループのミニストップに入社。
営業現場および人事部門担当者およびMgrを経験した後、2015年から人事部長として人事制度・働き方改革、ダイバーシティ推進、採用、人材育成を実施。2019年から中国子会社社長として現地赴任し、DXが進んだ国で、コロナ禍の中で経営実務を担う。
2022年から執行役員商品統括本部長(マーケティング、サービス、物流、品質管理)として、主にデジタルマーケティングを推進。アプリのグロース、EC事業の立ち上げ、デジタルサイネージ導入、販促のDX化等を実施。2024年8月クラスメソッドに参画。

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