近年、多くの企業が積極的に取り組んでいる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」ですが、海外では日本以上にDX化が進んでいるのが現状です。
前回の記事では、2019年から2022年にかけて中国の山東省青島市で実際に生活した経験を基に、中国における小売流通業のキャッシュレス化についてご紹介しました。
今回は、中国のデリバリーサービスとは? その特徴や利用シーンなどについて詳しく書いていきます。
目次
1.日本・中国のフードデリバリー市場規模 2.中国のデリバリーサービスの特徴 3.中国のデリバリー利用シーンとその実態 4.デリバリーの新サービス 5.進化するデリバリーサービスの一方(無人店舗・生体認証技術) 7.まとめ1.日本・中国のフードデリバリー市場規模
中国インターネット協会(CNNIC)の報告書「中国オンラインフードデリバリーサービス市場分析(2021年版)」によると、2021年の中国のオンラインフードデリバリー市場規模は6,676億元(約9.5兆円)に達したとされています。
中国では、Meituan(美団)、Ele.me(饿了么)、DDといった大手プラットフォームが市場を牽引しています。
2021年時点で、中国の主要都市における外食チェーン店のデリバリー実施率は約70%に達してます(出典:Deloitte「中国レストラン業界の展望2022」)。一方で、中小の個人経営の飲食店に至ってはデリバリー実施率は50%前後と推計されています(出典:中国インターネット協会「オンラインフードデリバリー市場分析報告」)。
次に、日本の市場規模については、矢野経済研究所の調査レポート「フードデリバリー産業の現状と将来展望」から、2021年の市場規模が約2.5兆円と推計されています。
日本では出前館、Uber Eats、menuなどが主要プレイヤーです。
2021年時点で、日本の外食チェーン本部の約8割がデリバリーサービスを実施しており(出典:矢野経済研究所「フードデリバリー産業の現状と将来展望」)、中小の個人経営飲食店に至ってはデリバリー実施率は20〜30%程度と推計されています。(出典:同上)
2.中国のデリバリーサービスの特徴
次に、項目毎に中国のデリバリーサービスの特徴を確認していきましょう。
商品価格
・商品価格は店内飲食価格とほぼ変わらず(上乗せがあっても日本円で50円〜100円程度)
・店舗単位やプラットフォーム単位で常時割引キャンペーンが実施されており、お得に購入が可能(紅包といった割引サービスや条件達成での割引など)
配送料
・中国のデリバリーは、日本と同じく、商品価格に加えて配送料が発生
・配送するための最低注文金額の設定あり
・配送料は1件あたり50円〜100円と非常に安価
・一定金額を超えると配送料が無料に
配送先
・配送先住所を入力すれば、大抵の場所に配送可(自宅や勤務先への配送が最も多いが、飲食店、公園、BBQ会場などでも可能)
・大きなオフィスビルの場合、ロビーに専用の商品置き場あり
→ドライバーは商品を置き場に置き、写真を撮って注文者に連絡
→注文者は後ほどロビーで商品をピックアップ
飲食事業者
・昼の空き時間(11:00〜12:00)に受注・調理ができ、効率的に売上向上可能
・人気店では注文が次々と入り、専用のチャイムが鳴り響く
・一定の手数料が発生するが、注文増・食材ロス減で補うことが可能
お客さまの行動
・都市部オフィス勤務者の昼食需要が高い
・デリバリー注文のピーク時間は11時〜11時30分
・Meituan(美団)、Ele.me(饿了么)で気に入ったメニューやお得な商品を探して注文
・12時になるとロビーで注文商品をピックアップし、席に戻って食事
※中国の昼休憩は必ず12時〜13時
3.中国のデリバリー利用シーンとその実態
続いては、私が実生活で体感したデリバリー利用のシーンと実態を紹介します。
●食事中にドリンクのデリバリー
中国の飲食店は飲料メニューがあまり充実していないため、火鍋店などで食事を始めた後に、デリバリーでドリンクを注文して店まで届けてもらえます。飲食店側は、デリバリーサービスの利用について特に指摘はしません。
●高層階から1階テナントへのデリバリー
1階にあるスターバックスなどにデリバリーを注文し、上層階まで持参してもらえます。
ユーザー側からみると自分で降りていく手間が省け、ドライバー側からみると楽に配達できるので良い仕事となります。
●薬のデリバリー
大半の薬局がデリバリーに対応しており、体調が悪く外出できない時でもデリバリー注文すれば30分で薬を手元に届けてもらえます。
●飲食店からのおつまみデリバリー
飲食店でお酒を楽しんでいる時に、おつまみをデリバリーで注文して届けてもらう利用方法もあります。(食事中のドリンクデリバリーと反対の利用シーン)
●早朝の朝食デリバリー
マクドナルドの朝食を配送料無料で頼むことができます。特に寒い季節は便利です。
このように、中国では様々なシーン別にデリバリーサービスの利用が可能であり、人々の生活に欠かせない存在となっています。
4.デリバリーの新サービス
上記のようなデリバリーサービスに加えて、2020年頃からはデリバリーの新しいサービスとして、デリバリーサイトで注文した商品を店舗で受け取る「自取りサービス」が登場しました。プラットフォーム事業者は、配送コストが不要となる分を原資として、大きなCPを展開し、売上向上させました。お客さまとしても、デリバリーサイト経由で購入するだけで、割安になるため一時期は大人気となりました。
最近では、同一店舗の飲食店で一定数量の注文が集まると割引になる「共同購入デリバリー」がブームになっています。ドライバーがまとめて同じ飲食店から同じお届け先へ運ぶことができるので、その分を原資としています。
このように、中国のデリバリーサービスは利便性が高く、生活に密着した存在となっています。
また、次々と新たなサービスが誕生しており、常に進化しているのも特徴です。
人気店では、ひっきりなしに注文が入り、デリバリー専用のチャイムが鳴り響く光景が日常的に見られるほどです。
5.進化するデリバリーサービスの一方(無人店舗・生体認証技術)
このように常に進化しつづけるデリバリーサービスの一方で、かつて中国で一時期に注目を集めた「無人店舗」は現在ほとんど継続されていません。Bing Boxというブランドで400店舗前後まで拡大したものの、結局は失敗に終わっています。
その主な理由は以下の3つです。
●生鮮食品の品揃えが難しかったこと。中国では温かい物を食べる文化があり、コンビニにおいても温かい弁当やフライドチキンなどのニーズがあるが、無人店舗ではそうした商品を取り扱うことが物理的に難しかった。
●商品補充や物流体制の構築コストがかさんだこと。商品にRFIDタグを実装したり、店内に防犯カメラを多数設置したりと多額の投資が必要となった。
●セキュリティ対策や無人での決済運用にコストがかかったこと。入店時の本人確認が面倒であったり、複数人で同時に入店するとセキュリティが守れないなどの課題があった。
結局、既に有人のコンビニが普及している中国市場において、無人店舗はお客さまのニーズに応えきれなかったと考えます。
また認証(顔認証)による決済も、一時的なキャンペーンが終了すると、ほとんど利用が進まなくなりました。
スマートフォンを使ったQRコード決済の方が手軽で便利なためです。
現在の中国では、モバイル決済アプリを使ったQRコード決済が支払いの主流となっています。日常的にスマートフォンを持ち歩く習慣があり、コミュニケーションツールとしても活用されているため、顔認証決済に切り替える必要性を感じなかったということです。
中国におけるキャッシュレス(QRコード決済)については、前回の記事にてご紹介しています。
7.まとめ
中国のデリバリーサービスは、お客さまの利便性を追及したサービスが継続して誕生しており、進化しています。オフィスへの配達や薬のデリバリーなど日本でも開始されているサービスもありますが、今後は、「自取りサービス」「共同購入デリバリー」など進化していくことを見据えた対応が必要になっていきます。
一方で、中国において結果として無人店舗や生体認証決済の本格導入には至っていません。これは、カスタマージャーニーを十分に検討できていなかった結果と考えることができます。新しい技術や仕組みについて、その活用が先行しがちですが、お客さまの行動の中で何をどう解決するかまで落とし込んでいかないと定着しないということです。
結論として前回の記事に引き続き、さまざまな制約や背景はあるものの、消費者は便利な物・サービスを求めることは万国共通です。日本でも、今回ご紹介した中国におけるDX化事情を参考に、これらの変化を見据えた準備が重要になっていくことでしょう。
執筆者プロフィール
板東 功太郎
コンサルタント
2001年イオングループのミニストップに入社。
営業現場および人事部門担当者およびMgrを経験した後、2015年から人事部長として人事制度・働き方改革、ダイバーシティ推進、採用、人材育成を実施。2019年から中国子会社社長として現地赴任し、DXが進んだ国で、コロナ禍の中で経営実務を担う。
2022年から執行役員商品統括本部長(マーケティング、サービス、物流、品質管理)として、主にデジタルマーケティングを推進。アプリのグロース、EC事業の立ち上げ、デジタルサイネージ導入、販促のDX化等を実施。2024年8月クラスメソッドに参画。
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