
皆さんは、周りの人が当然知っているはずだと思われていることを、実は理解していなかった経験はないでしょうか? 本記事は小売ビジネスの現場で「当然知っているはず」とされながらも、実は十分に理解出来ていない概念や、「今さら聞けない」と感じていた疑問を、小売業界での業務経験豊富なプリズマティクスのシニアコンサルタントの金子へのインタビューを通じて解決していきます。
全4回のインタビューシリーズとして、これまでに「業界・企業ごとに異なるCRMの意味」や、「CRM戦略の成功の秘訣であるデータ分析」についてご紹介しました。
最終回となる今回は「CRMにAIは味方か敵か?」といったAIとCRMの関係や、まとめとしてCRMの本質と考え方についてお話します。
CRMについて深く理解したい方は、ぜひご一読ください。

1.AIとCRMの関係
CRMにAIは味方? それとも敵? 賢い使い方で差をつけたい。
AIの良いところは、作業の効率化、人手不足の解消、24時間365日の対応が可能なところや文句を言わないところですよね。
しかし、どうしても一般論になるので企業の「強み」が薄れたり、他社との差別化が難しくなるかもしれません。
ではどうすればいいのか?
ポイントは、「AIにお任せする場所」と「人間が頑張る場所」を使い分けることではないでしょうか?
田中:ちなみに話が少し変わりますが、AIにポイって投げて分析するのってありなんですか?
金子:半分ありで半分なしです。
田中:それはなぜですか?ありな方から説明してほしいです。
金子:ありな理由は、手間を考えたらそれは省力化した方がいいですよね。全然うまく使えばいいんじゃないの?って思ってる。
ない理由は「自分で考える」がないと、どんどん自分の中で考えるものがなくなっちゃうので、それが企業で見た場合、企業の本来の力がどんどんなくなるんじゃないのかなと思います。
コンサルタントも一緒なんだけどね。
田中:そうですね。まあ私はなしだと思っているんですが、その理由は、すべて一般論になるからな気がしてるんですよね。
金子:うんそう。だからそれはなし。
イノベーションを求めるとか言っときながら、そういうの使うのは難しいのかなって少し思ったりはしている。
だから効率化するような事とかにAIとかどんどん使っていくのは全然賛成だし、そういうふうにやっていったほうがいいんだけど、本来頭を使わなきゃいけないところで、AIを使い出すと、本当にそれで企業の本来のノウハウだとか、一番の差別化要因だとか、あと人材も育つものかとかめちゃくちゃ疑問に思います。
田中:はい。おそらく分類とか、簡単なものを抽出してくださいというものをAIに頼ることはいいんだけど、その手前の何を抽出するのかは自分で考えましょうですよね。
金子:そうじゃないとね、なんだろう。基本的に、企業活動って競争にさらされてるんで、他よりも一歩先に出て行かないといけないと思うんだよね。
だからお客さまとの関係も他よりも一歩先でなきゃいけないのに難しい。
田中:まあAIはサルベージですからね。昔のデータからの集積というか。
金子:それはそれで否定しない。
ロジックを組んだものをある程度入れてやる。ロジックを組む側に回れれば、全然AIとか使うべきだと思う。
田中:はい。結構、なんかこういうのをAIでやりましたってマーケの人とかが出てくるのかしらと、ふんわり思ってたりしてたんですけど、そういうのはないですか?
金子:マーケで本当に新しい市場を見つけるっていう意味だと多分使わないんじゃないかなぁ?
逆にお客さまのコミュニケーションの仕方の一部をお任せしましたというのは、全然あります。だってレコメンドのエンジン作りましょうって全部一人でやらなきゃいけないし、それと同じで、例えばUberにしてもNetflixにしても、何かしら自動化してますよね。商品の配置とか、作品の配置を変えたり、当然してるわけです。
じゃあ同じAIを使って、NetflixとAmazonPrimeが同じようなロジックで組まれているかというと、多分絶対違うと思いますし、そこに違いが生まれる。
けど世の中の企業はNetflixで使っているAIです。というと「わかりました。使います」とかいうこともあります。
実際は、それを使うことに企業として重要な意味を持たないんだったら、使っていいと思う。でもそこに差別化を加えようとするんだったら、自分たちで考えましょうか?
田中:これってなんだろう?企業として、その部分がテックタッチのポイントなのか、人力がポイントなのか重点をどこに置くのかの話ですよね。
金子:うん。だからECとか作る時でも、パッケージでいいんだったらパッケージでつくるで問題ないよね。Shopifyとかで全然いい。それは例えば、アパレルとかでうちは商品力です。そして商品の見せ方であり、ブランディングですとかだったら別にシステムの基盤はなんでもいいです。その本質が再現できればという話です。
それは本当にそうで、CRMのツールとかも全部そう。お客さまとの関係を作るのに、他の企業より先に行けるポイントがここだ!ってなったら、そこにヒト・モノ・カネを突っ込むわけですよ。
2.お客さまによって設計手順を変える
田中:ちなみに、プリズマティクスやクラスメソッドのビジネスコンサルティング部はポイントシステムに強みを置いているのですか?っていうのを聞いてもいいですか?
金子:えっとポイントシステムっていうか、ロイヤルティプログラム。
田中:そこを差別化している?
金子:えっと差別化っていうかで聞かれれば、お客さまの事業会社にあったものを組み立てられるっていうのが一番の差別化かな。
だから他の人が言ってるのを当てはめるようなやり方をしません。
田中:最初は全部強みなんですか?のヒアリングをしてから一緒に考えて、じゃあこれを実行しましょうということを毎回やってるんですね。
金子:そうだから、毎回アウトプットが違う。
基本的な設計の手順はあるけども、とはいえ、多少横に反れたり、手順を変えることも当たり前です。だから手順とかフレームを標準化するのは個人的には好きじゃないんだよね。
田中:それはなんとも言えないんですけどもw
金子:ある程度大枠はあるし、ある程度大枠で一回やってもらった後にどんどん変えちゃえばいいんだと思ってる。
大枠っていうか、考え方がまず浸透しないと多分ダメです。考え方を理解した上だったら、本質分かってればやり方は勝手に何でもやればいいじゃんと個人的には思ってます。
田中:手段は何でもいい。本質だけブレなければ。っていうことですね。
金子:そうです。ただ本質だけブレるような変更はだめなのでね。
3.意識的にお客さま視点へ切り替える
日頃から「お客様目線」と言われても、どうしても目先の目標や売り上げに気を取られてしまうものです。
そんな時は、どのように考えれば良いのでしょうか。
田中:本質はまあ難しいかな、何回かやると慣れていくのかな?うっすら思うんですが。
金子:ロイヤルティプログラムとかだったら、基本的にお客さまが自社のサービスをいいと思ってもらえるだとか、もう一回使ってもらいたい、使ってみたいなとかそんなことを思ってもらえる行動って何ですか?っていうのを把握するのが一番軸だと思う。そこで、それが安いってだけだったら、本当に安いだけなのかとなっちゃうので本当にそうなんですかを聞いていく。
田中:私は金子さんがよくお客さまに、「これで本当にいいんですかね」っていうのを結構聞いている気がします。
金子:はい、それはだって聞きます。なんか情報がたりない時は聞いてます。
田中:それってなんだろう?自分で考えるときも、内省でずっとなんか本当にいいんだっけ?っていうのを考えてやったほうが深まります?
金子:深まる。で、考えるのもあんまり難しく考えない。ええとその事業会社のお客さまの立場で考えればいいだけだと思うんだよね。だから相手が例えばターゲットが女性だったらええと身近な女性を思い出しながら、この人だったらこのサービス、本当に支援するのかなとか、ちょうど自分のような男性がターゲットだったら自分の感覚で多分判断すりゃいいしね。
田中:それは私たちコンサルタントもそうだし、まあ、事業会社の中の人たちもっていう話ですよね。
金子:まあそうね。うん。小売とか外食は少なくとも消費者イメージはつきやすいでしょう。そしたら、消費者の感覚であの本当に刺さるんですか?ていうのは多分絶対できて、あの視点に入れなきゃいけないところです。
でもそれがなんか自分には反応しないなって思ってると、だいたい本当にそれでいいんですか?って聞いています。
田中:ああー、コンサルティングさせていただいているお客さまは、売り手側としての気持ちが多そうだなという印象がありますけども、その辺はどうでしょう。
金子:まあ日々事業側に立っているとどうしてもそうなる。売らなきゃいけないとか、売り込まなきゃいけないとかで、言葉が変わってきちゃうからね。
田中:そういう時って、自分を切り替えるんですか?
金子:切り替える。意識的に。ええとね。コンフリクトマネジメントとかって、要はあの対立構造があった時にどう解決しますか?ってのをやった時がある。大体その時は上位目標に戻る。小売であれば、今売り上げを上げるというゴールはどの事業者も多分NOとは言わない。
それに対するアプローチが売り込むってことになってるのか、お客さま視点で買ってもらえるようにするっていうふうになってるのかの違いだけなのね。
ただゴールは一緒なんですよね。だから、論点がずれたらゴールに立ち戻る。そして売上を上げるためにはどうすればいいんですか?
お客さま視点で買ってもらえるようにしなきゃダメですよねっていう意図を挟むと、売り込まなきゃいけないがちょっと切り替わるのよ。
田中:そう考えると、それは誰でもできそうな気はしますね。
金子:誰でもできそうだけどできないんだな。
シンプルだけど頭がどうしても目先の売り上げに走りたくなるからね。
田中:担当者だと余計そうですよね。
金子:うん、そうだね。だって私だってビジネスコンサルティングの事業を見てて、今数字悪いなと思ったら、多少本人たちはやりたくない案件なんだろうなと思っても差し込みたくなるしね。それはそうよ。
もしかしてこの人はお客さまにマッチしないかもなと思うけども、やっぱうん一旦手出してみようかなって一瞬迷うよ。葛藤はしている。やっぱ悩むしね。事業活動でその事業推進の立場になったらそうなっちゃう。
田中:まあ、そうですね。
金子:だって、毎年売上予算が決まってて、前年度はあまり予算が振られてて、だからああ、売り込まなきゃって思うし。セール。とりあえずお客さまに刺さんないってわかってるセールでも突っ込んでみてしまったりを普通にするものだよ。
4.CRMの本質と考え方まとめ
CRMツールを導入しようと考えていませんか? ちょっと待ってください! ツールを入れる前にもっと大切なことがあります。
田中:そういうのを含めて、最後に今からこうCRMを作りたいなと思う人に向けて、先ほどまでの言葉で回答はでた気もするんですけど、どうやって頑張ります? なんか頑張っていこうかなっていう人にむけて、強調したい部分とかありますか? っていう質問を投げたいです。
金子:お客さまをまず見るっていうのが基本中の基本なんじゃないですかね。
CRMを入れることが気になっちゃうケースも結構多いので、お客さまが求めるものなんですかっていうのは把握しないと、何をやろうがダメだと思います。
田中:まずは、何をやりたいかを考えましょう。っていうのがメッセージでいいですかね。
金子:何をやりたいかを考えるべきだし、それをやるには、お客さまに何を、お客さまと関係を作るために何が一番重要なんですか?を問うところから始めなきゃいけない。
田中:そこをみんな一生懸命考えようねっていうところが、CRMってなんだろうねということの本質だよという話で一旦まとめる形で良いですか。
金子:はい。良いかと思います。
田中:はい。ありがとうございました。
「CRM」をテーマに全4回にわたってお送りした本インタビューシリーズ、いかがでしたでしょうか?
CRMとはお客さまとの関係をどのように作り上げていくかマネジメントすることであり、まず何よりもお客さまをしっかり見て、何が必要なのか向き合い寄り添って考えていくことが大切なようです。
本記事が皆さんのCRM理解への一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー/コンサルタント
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。

執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等