スマホ向けのアプリの企画・開発は、私が初めて担当した2010年代前半に比べ、開発コストも開発の手法も非常にこなれてきており、隔世の感があります。ある程度の成功してきた型がプラットフォームとして提供されており、非常に早く・簡単に・安価に開発できるようになったことにより、会員証のアプリ化は顧客接点のDX化の第一歩になったといって差し支えないかなというような状況です。
今回、話題に取り上げたいのはその「会員証のアプリ化」について企画している際に感じる「もやもや」と、そのもやもやの乗り越え方です。簡単に言うと、「顧客への提供価値」は何ですか?を明確にしましょうという話になるのですが、、、これを考えるのが本当に難しく、企画が迷走し、最終的に投資判断の場で「これで本当に売り上げは上がるのか?」という一言でとどめを刺されたりします。
迷走しやすい企画書に上がっている顧客提供価値の例として思いつくものを書いていくと
●会員証の持ち歩きの負荷軽減
●PUSH通知による情報発信と顧客コミュニケーションの向上
●ポイント/クーポンによるお得な購買体験
●モバイルオーダーによる顧客利便性の向上
等々が価値の中心になっているように見受けられます。
誤解の無いようにいうと、上のような施策が入ること自体を否定しているのではありません。むしろ、施策としては必要な物と考えています。ただ、これだけをアプリの開発目的としている企画を書いていると、「手ごたえが無いなぁ」や「本当に使ってもらえるの?」という不安=もやもやを感じたりしないでしょうか。
このような状態だと、本来、来るべき未来にワクワクし、楽しいはずの企画フェーズが苦痛になり、通らない投資判断と開発着手のデットに板挟みになり、「ああ・・・もう誰か代わって。。。」と言いたくなるような重苦しい気分になってしまうかと思います。そんな重苦しい気分を払拭し、「作りたい!!」と思い(直す)、2つの問いを投げかけさせてください。
1.ファンになった(なってほしい)お客様に喜んでほしい自社の良さは何ですか?
こういう問いかけをしてしまうと、「良い製品」「品揃えの良さ」「良い接客」とか思いつきやすいのですが、この答えで企画担当者の方が「作りたい!!」と思えます??
ちょっと、なんか違いますよね。
こういったことを考える際には結構現場にヒントがあると考えています。現場から少し遠いところにいるアプリの企画担当者の方もVOC(Voice of customer)レポートとかを読まれているかと思います。「いつも〇〇〇に困ってたけど、貴社の製品でよくなったんよ」とか「ちょっとした商品の受け渡しときに声をかけてくれるのがうれしいねん」とかのあれです。
企画をしていると「個別事象じゃないか」と軽視しがちなのですが、反面、すごくリアリティや説得力がありますよね。なんで説得力があるかというと、上記で上げた思いつきやすいものの「良い」という部分が具体化されているからだと思います。
ここで言いたいのはVOCに上がっているものを取り入れてくださいという事ではなく、具体化しましょうという事です。
先ほどの迷走しやすい企画書を例に具体で顧客価値の仮説立てると
●会員証持ち歩きの負荷軽減
⇒ほめてほしい自社の良さは会員証を持ち歩かなくて良い手軽さ?
●PUSH通知による情報発信と顧客コミュニケーションの向上
⇒最新の情報が届くこと?
●ポイント/クーポンによるお得な購買体験
⇒安く買えること??
●モバイルオーダーによる顧客利便性の向上
⇒並ばなくてよいこと??
なんか、企業としてそこをほめてほしいんでしたっけ??という感じになりませんか??
本来的には、「お客様の課題解決につながる商品を発見してほしいから情報発信をしよう」とか、「お客様とちょっとしたコミュニケーションの時間を作るために店舗・顧客の負荷低減しないといけないからモバイルオーダーを入れよう」とか、そういう風に具体化されていないとワクワクしないですし、「作りたい!!」と思えないのではないでしょうか。
ここで言いたい具体化とはこういったことです。VOCで声を寄せてくださっているお客様はとてもイメージがしやすく、「この機能を入れたときにどういう反応してくれるんだろう」が考えやすいと思います。現場のヒントとは、解が現場にあるのではなく(万が一ある場合はすぐそれを直しましょう)、もう一工夫・二工夫必要な具体化するためのヒントがそこにあるという意味です。
そして行うべき工夫とは、「アプリ機能」の粒度だと見えてこない、「その結果お客様がどう変わってほしいのか(どういった一言を言ってほしいのか)」という点であり、それが顧客提供価値を考えるポイントだと思います。
過去、成功してきた型(機能群)があるのは大いに参考にしつつ、その型をそのまま自社に当てはめるのではなく、その型が入った時にお客様は何を喜んでくれるのか、その喜んでくれることが自社の喜んでほしいことと合致しているのかを一回俯瞰して見てみることが「作りたい!!」と思えるアプリを企画する1つ目のポイントかと思います。
2.ファンになった(なってほしい)お客様に喜んでもらうため、なんでアプリ化するといいんでしたっけ??
次の問いは身も蓋もない質問になってしまうのですが、「ファンになった(なってほしい)お客様に喜んでもらうためなんでアプリ化するといいんでしたっけ??」です。意外とこの質問、企画担当者からすると「アプリ化が必要」というお題が降ってきているからという事業命題(命令?)が先に来ませんか?そのうえで、「データが取れるから」とか「個別にアプローチできるから」とか非常に事業的な視点のメリットがついていないでしょうか。もちろん、投資をする以上、事業的な目線は忘れてはいけないですし、それ「も」大切です。
しかしながら、「事業的なメリットなどお客様は知ったことではない」ですよね。第一、企画担当としてワクワクもしないし「作りたい!!」とも思えない。例えば、上の例で挙げた「お客様の課題解決につながる商品を発見してほしいから情報発信をしようとか」がいい例ですね。
こちら冷静に考えると、お客様から商品を発見してほしいならば、紙のカタログを分厚くするも1つの手段ですし、ホームページをお持ちなのであればそこの商品検索機能を手厚くするのも1つの手段であるはずです。プロモーション観点では別にSNSでの発信でもいいはずですしね。じゃあ、なぜアプリ??ってなりませんか?
例えばアプリとWEBの違いを考えると、アプリの方が、わざわざアプリをダウンロードするという手間をかけてくださっている分、比較的自社に好意的で目的のはっきりした顧客対象であることが多いです。
アプリ | WEB | |
閲覧してくれる顧客 | すでにブランドを知っているユーザー | ブランドを知らない人も含めた幅広いユーザー |
利用シーン | 特定の目的があるとき | 漠然と情報を得たい場合も含めた幅広いユーザー |
上の例でいうと、「じゃあこの人たちにとっての『商品を発見して』ってどういうこと?」という事も絞りやすいですよね。ここで言いたいのは「アプリがあるからロイヤルカスタマーになっていただける」のではなく、「お客様が体験したい価値がアプリでより手軽に体験できるからロイヤルカスタマーになっていただける」という事です。
これを考えるには、このアプリを使っていただけるお客さまってどんな人?、このアプリを開いてもらう際、お客様はどのような目的を持っている?(≒目的を創り出す?)など、より一層、1つ目の問いでもお話しした具体化がより進むはずです。アプリを作ることをゴールにするのではなく、アプリを使って、如何に「〇〇ならでは」の体験を生み出そうかという、攻めの考え方を具体化するのが「作りたい!!」と思えるアプリを企画する2つ目のポイントかと思います。
3.まとめ
アプリの開発は当然事業投資を伴う物であり、その企画をするという経験はそう何度もできるものではないと思います。社会人としてせっかく貴重な機会を得ているにも関わらず、それが苦痛になったり事務作業になったりするのは残念な気がしませんか?
そんなとき、「お客様にどう喜んでもらおうか?」という観点で、企画に想いを込めなおすともう一度やる気が出てくるのではないでしょうか。まぁ、想いを込め過ぎて取っ散らかることも無きにしも非ずですが……。
それでも、積極的にお客様のことを考え、幹をしっかりさせる作業により、「作りたい!!」と思える企画になっていくのではないでしょうか。アプリを企画していくの中で、もやもやしたときは、「あれ、私は作りたい!!と思っている?」という素朴な疑問に立ち返り、上の2つの問いに立ち戻り、より良い企画を立てていただく一助になればと思います。
加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。
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