テクノロジーで効率化促進、店舗体験に“メリハリ”を 〜プリズマ社長 “濱野さん” NYへ行く![後編]
プリズマティクス株式会社は、戦略的OMOを実現するプラットフォームを提供することで、小売業における顧客エンゲージメントを向上するお手伝いをさせていただいています。2022年に立ち上げたオウンドメディア『プリズマジャーナル』では、社員から社長・濱野へ直撃インタビューする「社長に訊く!」シリーズを開始。
本記事は、2023年秋にニューヨークにて小売業界の現状視察を行った濱野さんと、エンゲージメント・コマース・アドバイザーを務める奥谷 孝司さんに、視察の様子を語っていただいたインタビューです。後編である本記事では、店舗体験におけるテクノロジー利用について、また今や避けて通れないサスティナブルへの取り組みについて所感を語って頂きました。(※本インタビューは2023年秋に行われました)
(聞き手・構成・文=プリズマ編集部)
目次
1.テクノロジー利用とオペレーションに見る、効率化と“メリハリ”の数々 2.サスティナブルブランドが消費者に投げかける、環境配慮の問題意識 3.アメリカ小売業界とデジタル活用における「ディスカバリー」とは何だったのか1.テクノロジー利用とオペレーションに見る、効率化と“メリハリ”の数々
── ここまで百貨店での取り組みをメインに、店舗視察体験を具体的にご紹介いただきました。全体的な印象や感想があれば、お伺いできますか。
濱野:テクノロジー利用については、“メリハリ”ということをもの凄く感じましたね。ニューヨーク視察に入る前、飛行機やホテルから、本当にスタッフがいないなと思いました。
奥谷:そうだね。飛行機もホテルも、ほとんどがアプリ一つでチェックイン/チェックアウトが出来て、レセプションなんか行かなくてもよくなっている。ホテルによってはアプリがルームキーになるし、カードキーが欲しければレセプションの機械を使って自分で発行するから、レセプションに行く必要が無いんだよね。
濱野:飲食店もそうで、ほとんどがモバイルオーダーに対応している印象で……待ってる人が、ものすご〜く沢山、いましたよね。
奥谷:驚くほど誰も、カウンターのレジ越しに注文なんかしてないよね。お客さんはただ単に、オンラインで決済した自分のモノを取りに店舗に行っているだけ。これが今の現実で、そこに「接客」なんて無いんですよね。日本ではスタッフが笑顔で挨拶してくれて、「いつもありがとうございます」とカップに書いてくれたりして、サードプレイスを標榜している……アメリカと同じブランドを掲げていても、真逆と言ってもいい程の「店舗体験」になってる。
百貨店でも、高級品を沢山扱っているような店内でもスタッフが全然いない。一方で、パーソナルスタイリングを予約すると人がピッチリくっついて案内するという、店舗体験での“メリハリ”を感じたね。百貨店も、郊外店舗はモバイルオーダーの受取客の方が多いんじゃ無いかという利用のされ方をしていた印象もあったな。
濱野:ノードストロームにはオフプライス、アウトレット業態の店舗もあって、そこにも行ってきました。結構、いいブランドが沢山置いてあるんですが、そこもやっぱりスタッフがいなくて、セルフでやってねというのが徹底されていましたよね。「すごい、割り切ってるなぁ」と思いました。
奥谷:全ての店舗で同じサービスを行おうとせず、それぞれの店舗毎でオペレーションも切り分けている、というような“メリハリ”もあったように思ったね。
濱野:もともと店舗の無かったD2Cリセールショップ「FASHIONPHILE」の販売店舗にも行ってきたんですが、スタッフはほぼいなかったですね。
一般店舗では出来ないような横断型の品揃えを実現していて、オンラインの商品と店頭の商品がシームレスに繋がっている。アプリでは「店舗ツアー」というメニューが用意してあって、ブランド背景を知ることができるようなコンテンツを提供しているんですよ。導線もちゃんと分かりやすいので、「案内はある」。でも、「人はいない」。そういうところは、様々な店舗やブランドで徹底していましたね。
2.サスティナブルブランドが消費者に投げかける、環境配慮の問題意識
── 今ファッション業界では、サスティナブルへの取り組みが話題です。そういう視点で、何か視察でお気づきのことはありましたか。
奥谷:今、コカコーラもボトルに「これはリサイクルボトルです」ということを書いているような時代で、最早“やらなければならない”、“やっていて当たり前”というものであるという感じはあったよね。COACH(コーチ)が、サーキュラークラフト(循環型ものづくり)に焦点を当てた新しいサブブランド「Coachtopia(コーチトピア)」を立ち上げていたり。今の若者にとって関心の高い「環境問題」という領域について、アメリカのファッション業界がこういう形で発信しているのは格好いいなと思います。
濱野:オフ店舗やリセール店舗も沢山あって、いくつか足を運んできました。「高額商品がこんな値段で並んでいるのか」と、正直、驚いてしまうようなこともあったんですが……一方で“オフ”や“リセール”が出発点にありながら、商品そのものや陳列まで含めて、格好いい、いいな!、と思えるようなブランドや店舗もありましたよ。例えば「The RealReal」はリセールショップなんですけど、まるでブランドショップのようなラグジュアリーな店舗体験になっていました。
濱野:テイラー・スウィフトの発信で有名になったリセールブランド「Reformation」も、リセールやリメイクではあるものの、「そもそもデザイン性が高くないと買って貰えない」という前提でつくられているから、商品がカッコイイんですよね。
環境への配慮について力を入れてることをブランドの使命と掲げていて、ファイバートレース等、製品の素材の素性をしっかりと明示することを始め、それらデジタルツールをしっかり利活用しているんだなという印象を持ちました。
奥谷:「Reformation」はヴィンテージリセールから始まったスタートアップブランドだけど、今はビンテージを上手く活用したオリジナリティ溢れるデザインを売りにしている“サスティナブルブランド”だと思った方がいいかな。ファッションは「かっこいい」「カワイイ」「キレイ」ということが無かったら誰も欲しがらないわけだけど、そういう消費行為が環境に対してどんな負荷をかけているのか思いを馳せてみようよ、というブランドからのメッセージを感じますよね。
奥谷:リセールがあるっていうのはサスティナブルな意味もあるけど、ユーザーの来店頻度が高まるという意味では販売の場を増やすことに繋がるんだけどね。日本のアパレル業界ではリセールが根付いてなくて、新品を売らなきゃいけないっていう感覚がまだまだあるような気がするな。
濱野:日本でも、小売業界が気付いていないわけじゃないと思うんです。例えば、家電では下取りが昔からあって、これをしたらお客さん来てくれるっていうことは分かっているわけですから。でもそれと、今回紹介したような“リセール”は、結びついている感じはあんまり無いですね。
奥谷:日本の場合「リセール」というと、時計やジュエリー等の高価格帯商品がメイン。靴や洋服にトライする企業はとても少ないんだけど、アメリカはもともと古着文化というか、古着をカッコイイと捉える素地があるからなのか、そこに視線を向けている企業が多いのは、凄く違う点だと思った。日本のファッション分野も「レンタル」だけでなく「リセール」に目を向けるという流れが来たらいいのにな、と思いましたね。
3.アメリカ小売業界とデジタル活用における「ディスカバリー」とは何だったのか
── 小売業界とデジタル利用、またユーザー体験の「ディスカバリー」について、この視察で感じられたことを、最後にお伺いさせてください。
奥谷:一番違うと思ったのは、データベースに対しての向き合い方かな。ネットから出てくるD2C店舗の一番の強みは、ネットで売ることを前提にしているから商品マスタが出来ている、ということ。店舗にディスプレイだけ置いておいても、販売は出来るわけで。「システム的に、こういうことができているんだ」「商品マスタって大事なんだな」って、改めて思ったし、ディスカバリーがあったなぁ。
濱野:決済についても、そもそもアメリカはクレジット社会なのでキャッシュレスが当たり前。この前提があるから、デジタル化にあたってハードルが低かったということはあるかもしれませんね。「Amazon One」も、カードを差し込んで認証して入店するという手段の代わりに、今は手のひらで認証しても入れるようになっています。
奥谷:アメリカはクレジットカード利用が普及しているからこそ、本当にカードの不正利用が多くて、カードを取り出して機器に差し込むことでいつスキミングされるか分からないところがある。だから個人的には、こういうのがどんどん拡大していって欲しいけど……利用するには登録する手間がかかるからか、なかなか社会浸透していかないね。
濱野:テクノロジーという観点では、「テクノロジーそれだけでビックリするような体験」というのは、あまりなかったというのが正直なところですね。でもテクノロジーを活用して、セルフで出来るところはセルフにしてコストを削減し、体験設計にコストをかけているということ、それをとにかく徹底しているなという印象を持ちましたね。
予約やマッチングということはテクノロジーサポートを利用しつつ、パーソナルスタイリングのようなサービスについては、事前ヒアリングをデジタルで完結していたわけではなくて。ショートメッセージや電話で「好みを教えて」というメッセージが来て、アナログにやりとりしていたりしましたね。電話やSMSとかも、見方によってはもちろん、テクノロジー利用ではあるんですけど(笑)。
奥谷:デジタルを利用する目的ははっきりしていて、まず効率化の手段として徹底して使う。そしてお客さんのことをパーソナライズするための、タッチポイントとして使っている。人件費がものすごくかかる、そもそも日本人が考えるような“接客”というものをほとんどしないアメリカにおいては、「ラグジュアリー体験」というのは、いい意味で“アナログである”ことかもしれないね。
でも、パーソナライズ化されたアナログな体験を最終的に提供するにあたって、そもそもお客さんのことをパーソナライズするとか、データを取得しておくとか、そういうものを元にお客さんを把握することは必要。見えないモノを見る努力が、いかに大事なのかというのを痛感させられた。ネットでなんでも探せる、商品も見られる時代に、「敢えて行くお店」をどう体験して貰うか。それが今の時代、めちゃめちゃ大事な気がするなぁ。
(聞き手・構成・文=プリズマ編集部)
【プロフィール】
奥⾕ 孝司
エンゲージメント・コマース・アドバイザー
株式会社良品計画にて店舗、商品開発を経験。「足なり直角靴下」を開発後、2010年WEB事業部長に就任。Online売上の拡大のみならず「MUJI passport」のプロデュースを統括し、業界に先駆けてオムニチャネル戦略の立案と遂行。
2016年よりオイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 COCO(Chief Omni-Channel Officer)。2018年9月には株式会社大広との共同出資会社である株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役を務める。
<主な著書>
「世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略」
「マーケティングの新しい基本顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント」
【プロフィール】
濱野 幸介
CEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー)
アクセンチュア株式会社、株式会社リヴァンプ、株式会社良品計画を経て、現職。
クラスメソッド株式会社 マーケティング・テクノロジー担当を兼務。
良品計画では、アドバイザーとして「MUJI passport」の立ち上げなどマーケティング活動全般を技術面より支援。
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