店舗とECは共に重要な“顧客接点”! 連携・連動で相乗効果を 〜顧客に寄り添ったオムニチャネル実現の為に〜
これまでオムニチャネルの概念や国内外の事例、実際にオムニチャネルを社内で構築・推進する際に意識すべき事、またその実務について触れてきました。前回より、より細かい業務に踏み込み「物流」と「コンタクトセンター」についてお話しさせて頂きました。
今回は「EC」「SNS」等、Webチャネルについて焦点を当てます。オムニチャネルにおいて、“ネット”と“リアル”を連動させるのは当然として、“顧客に寄り添った”オムニチャネル実現の為には、それらをいかに組み合わせていくのかが大切です。
1.「ネットは飛び道具」は過去に、実店舗運営が連動する“オムニチャネル”時代
「“ネット”は飛び道具、“お店”は地上戦」
昔は、よく、そう言われていたものです。ところが“ネット”と“店舗”は別部署で運営しており、評価もKPIも連動せずに進めているのが普通で、相乗効果を出すことは出来ていませんでした。
「ECは実店舗と違い、初期投資額が低めで成長しやすい」──確かに、2000年頃はそうだったかもしれませんが、2023年の今は違います。専門スキルを持った人材確保、API連携した各種システムやソフトウエアの利用費用、激しい購買競争の中での値引きによる低利益等が影響し、それほど簡単に儲かるワケではありません。おまけに、EC化率の平均値は10%に満たない数字で、まだまだ実店舗での売上が90%を越えています。
ECだけを使い続けるケースは、離島など地理的条件を除けば非常に少ないと私は感じています。“オムニチャネル”においては、実店舗をしっかり運営してこそ“EC”でも成果が出ます。お客様は「普段使っている実店舗」が気に入っているからこそECも使うのです。実店舗が伸びている企業ではECも成長しますが、ECだけが伸びて実店舗が伸びない企業というのはほぼありません。それだけ実店舗と顧客のつながりがECにも大きく影響するのです。
2.SNS発信は“顧客のファン化”と“UGC”が目的
様々なSNSで情報発信したりブログを更新する事は、販促面で非常に重要になってきました。ここで意識する指標は、短期的な売上やコンバージョンよりも、長期的な顧客とのつながりです。
まだ購入体験が無いけれども関心を持ってつながって頂いたお客様、普段は店舗やECをご利用頂いている上にSNSでもつながって頂いているお客様……様々なお客様とつながることが出来るのが、SNSの良い点です。
ところが、SNS、メルマガ、ブログ等で発信する情報が商品の羅列だったり「買ってください!」のメッセージばかりであれば、お客様はだんだん離れていってしまいます。発信すべきは自分たちの商品、サービスへのこだわりや自社の歴史、お客様からの評価など、良い事も、ちょっと残念だった事も含めた内容です。
お客様は「商品チラシ」を見たいのではありません。関心を持ったその企業や商品、サービスのこだわりについて知りたいのです。そうやってつながり続ける中で、初めて買ってくださったお客様が自身のSNSでその体験を動画やテキストで発信してくださったり、いつも買って頂くお客様が発信してくださったり……ということが出てきます。
このような、お客様からの発信=UGC(ユーザー・ジェネレイティッド・コンテンツ)をこつこつと増やしていく事が、とても大事なのです。自社でいくら宣伝するよりも、実際に購入して使っているお客様が発信する情報の方が、何倍も信用されます(担当者にとっては、残念なことかもしれませんが)。
ただしUGCは、あくまでお客様ご自身が発信してくださる事が大事で、インフルエンサー等で無理に沢山作っても意味がありません。そのため定期的にSNSをまわって自社についての発信がされていないか探し、レスを入れていく必要があります。
自分が好きな商品を紹介したSNSに、その企業からレスが入ったら嬉しいですよね。これがまさに顧客の“ファン化”なのです。買う、コンバージョン、だけではなく、長期的にお客様とつながる事が重要なのです。
3.“飛び道具”から“重要な顧客接点”へ変化したWeb
ECやSNS、ブログなどのWEB上での顧客接点は、実店舗でのつながりよりも最初は薄いかもしれません。しかし継続的につながり続けるうちに、実店舗には時間が無くてなかなか行けないお客様ともWEBだからこそ繋がり、深くやり取り出来ることがあります。実店舗の弱みを補う形でWEBを活用出来たら、本当の相乗効果を生み出していくことが出来ます。
私がネット書店で商品担当をしていた時、学生さんから「この法律のテーマで論文を書きたいのだけれど、どの本を読んだらいいかアドバイスが欲しい」とメールを頂きました。私は「そのテーマであれば中公新書の〇〇で概要を把握し、有斐閣の該当テーマの専門書で深掘りすれば書けるかもしれません」と、ご案内しました。
店頭では、レジや補充、発注等で走り回っていたのでお客様も聞きにくかったでしょうし、こちらもゆっくり時間が取れなかったかもしれません。距離の離れた場所、「Webメール」という道具を介していたからこそ出来た事だと思います。
今の“WEB”は飛び道具ではなく、実店舗を補い、WEBならではのつながりやお客様からの発信が行われる、重要な“顧客接点”なのです。
執筆者プロフィール
逸⾒ 光次郎 Adviser(アドバイザー)
三省堂書店店舗勤務、ソフトバンク・イー・コマースのちセブンネットショッピング立ち上げ、アマゾンジャパンBooksMD、イオンにてネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長としてオムニチャネル化推進を経て独立。
株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント。日本オムニチャネル協会理事、防音専門ピアリビング取締役等を兼務。
店舗とネットを融合し、顧客満足を高める買い物の楽しさを追求し続けている。
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