プリズマジャーナルTOP「物流」「コンタクトセンター」は“本当に”コストセンター?〜顧客に寄り添ったオムニチャネル実現の為に〜

「物流」「コンタクトセンター」は“本当に”コストセンター?〜顧客に寄り添ったオムニチャネル実現の為に〜

# 物流 # オムニチャネル # 制度設計コンサルティング # ECサイト構築

これまで、実際にオムニチャネルを社内で構築・推進する際に意識すべき事、またその実務について触れてきました。前回までは、業務基盤となる業務そのものや評価、組織、システム等、全体的なお話しをしてきました。

今回はより具体的な業務に踏み込み、「物流」と「コンタクトセンター」についてお話しさせて頂きます。この2つは「コストセンター」と見られがちですが、オムニチャネルにおいて非常に重要な要素となりますので、いくつかの観点で見ていきます。

1. 物流を見直す① 在庫管理は「売上」「販促」連動

物流予算は、どう組んでいるでしょうか。費用の積み重なるコストセンターとして見て、「前年に対してどうやって費用を抑えようか?」──そう考えるのが、普通ですよね。ところが、期中に在庫スペースが溢れたり、人が足りなくなったりしてなかなか予算通りにいかないものです。これは「物流」に関する費用の中に、「固定費」と「変動費」が含まれているからです。

例えば月額/年額の家賃や正社員人件費は固定費ですが、庫内でのピッキング作業費や業務委託の人件費は売上(受注)に応じて発生する変動費のため、金額が大きく変わることがあります。配送料は一梱包あたり数百円支払いますが、売上が増えれば出荷する梱包数も増えるので費用として増加します。

売上が伸びれば、変動費も増える──当たり前ですよね。ところが通常のPL(損益計算書)では、物流費は固定費として「荷造運賃」に勘定科目分けされてしまう為、月次決算で「ECの売上が伸びたけれど、固定費も増えたなぁ」となってしまいます。ECは固定費よりも変動費の方が多いので、これでは誤った施策を打ちかねません。

また在庫や出荷を大きく変動させる要素として、販促施策があります。年間の販促施策(52週計画)が物流側に伝わっていないと、販促施策に連動して商品部門が手配した商品が一気に入荷し山積みになり、入荷検品作業や在庫スペースの管理、出荷作業にも大きな影響を与えます。更に、販促効果によって出荷件数が通常よりも増えれば、当然、業務は回らなくなってしまいます。これ以外にも、新製品の発売時は物流側に大きな影響を与えます。

2. 物流を見直す② 重要指標は「売上に対する物流比率」

こうした観点から、私は物流関連の費用を「固定費」と「変動費」に分けて見るだけではなく、「売上に対する物流比率」というわかりやすい目安を社内共有することをお勧めしています。

倉庫家賃、作業委託費等、個別項目の金額と比率だけではなく、出荷数や売上高物流比率、出荷単価等を、「トータル項目」として経営や他部署が見ても一目でわかるように、毎月、過去実績と比較出来るかたちで整理します。その際に、意識して欲しい変動費/固定費などを載せておくと、対策を話しやすくなります。

物流費は玄人目線で整理されており、社内で理解されにくくなっている場合が多いと思います。物流部門内で対策を考える際には細かい指標を追う事が大事ですが、いかに他部署にわかりやすい数値で理解してもらい、協力を得るかが重要です。ここが出来ないままでは、頑張れば頑張る程コストカットを強いられ、厳しい状況に追い込まれてしまいます。

3. 物流を見直す③ 物流効率はビジネス目線の全体最適で考える

物流部門が社内に分かりやすい数値で情報共有を始めたのであれば、今度は経営の出番です。経営戦略において、物流戦略はますます重要になっています。ところが経営陣の中で、自社の物流関連費を正しく把握しているメンバーはそれほど多くありません。また、把握していたとしても“コストセンター”の見方が強く、経営戦略の観点から物流戦略が練られているケースはまだまだ少ないです。

メーカー/卸と自社倉庫、自社の倉庫間や店舗間、倉庫から店舗、顧客向け配送など、社内に存在するあらゆる物流網を可視化して、その費用を変動費と固定費の観点で整理する。更に、販促部門や商品部門との連携をはかり、物流の増減する波動を計画化する必要があります。

昨今「物流」は、時間外の上限や働き方が大きく見直される“2024年問題”等もあり、話題となっていますね。経営戦略の中で物流をコントロールしていくことは、自社だけではなく取引先との全体最適のSCM(サプライチェーン)を構築することにつながり、結果としてSCM関連各社の売上・利益の最大化が出来るようになります。

4. コンタクトセンターを見直す① 重要な“顧客接点” としてのコンタクトセンター

コンタクトセンターも物流同様「コストセンター」と見られがちで、これまた物流同様に売上と連動して問い合わせ件数も増減します。つまり、固定費と変動費がある同様の構造です。コンタクトセンターはクレーム対応が中心──確かにそうかもしれません。しかし実際にはお客様が困って連絡して来た時の対応次第で、顧客のリピートor離反が決まります。つまり店舗での対応以上に“顧客接点”として重視しなければならないのです。

しかしながら多くのコンタクトセンターはクレーム対応を目的として据え、顧客との“つながり”であるリピートやLTVは評価軸ではない為、通話時間やオペレータコストから運用を考えてしまっています。

新しい企画が始まったりセールや新商品の発売があれば、問い合わせ件数が増えるのは当然です。だからこそ、販売部門や商品部門、販促部門は、事前にコンタクトセンター部門に情報を共有し、問合せ対応のFAQを作るようにすべきです。スムーズに顧客対応を進める事でお客様の満足度や安心感が深まり、売上に繋がっていくのです。

お客様が商品を利用した後の対応だけでなく事前の対応をきちんと整備する事で、無駄な問合せ対応を減らす事が出来ます。例えばECであれば、注文前の商品問合せ、注文前/注文後の納期問合せが非常に多いと思います。

前者は商品部門との継続的なミーティングでサイト掲載情報やお買い物ガイドなどを整備し、後者はメーカー出荷日データを何営業日以内に戻してもらえるかの協議を商品部門と共に行い、またそのデータをお客様のマイページに反映出来るようシステム部門と整備を進める等で、問い合わせ数を大きく減らす事が出来ます。

5. コンタクトセンターを見直す② 商品勘定から顧客勘定へ、LTVで評価する

これまでは「商品がどれだけ売れたか?」「どのお店/ECチャネルで売れたか?」という軸で会社の業績(数字)を見てきたと思います。数値はそのままに、その売上を顧客軸で分解する、お客様の問い合わせをきちんと解決する事で次のお買い物につなげていく──このような変化を、私は「商品勘定」から「顧客勘定」への進化と考えています。

もし100%顧客IDが取れていたら、「300億円の売上は84万人の顧客で作られている」という見方になります。この見方を始めると気になるのは、「去年30万円買って下さるお客様は、これまでどのような購買行動で推移してきたのか」ということではないでしょうか。

3年前は25万円、2年前は28万円、そして去年は30万円……と、購買額が徐々に上がってきている場合もありますが、3年前は40万円の購買があったにも関わらず、徐々に下がって去年は30万円、ということもあるでしょう。この推移を見ることによって、今年度のアプローチ方法は変わるはずです。

アプローチ方法は、一人一人に個別対応出来るのがベストですが、“かたまり”で考えていくのが現実的です。お客様とやり取りする際にコンタクトセンターで個別の情報(顧客勘定)が見えていれば、お客様の事情やニーズを個別に把握していくことは容易になります。お客様の満足度が高まるだけでなく、同様の顧客の“かたまり”に対しても理解が進むはずです。

通話時間や対応時間に関係なく、いかにお客様にご満足・ご納得頂いて次のお買い物や来店につなげていくのかが重要になれば、コンタクトセンターの評価軸そのものが変わっていきます。このためには、必要な数値や顧客情報がオペレーターの画面に適切に表示されるようにする、お客様とお話した内容が簡単に登録出来るような仕組みにする等が必要になってきます。

コンタクトセンターをコストセンターではなく「プロフィットセンター」へと進化させなければ、本当の意味での“オムニチャネル”は実現出来ません。

逸見 光次郎

執筆者プロフィール
逸⾒ 光次郎 Adviser(アドバイザー)

三省堂書店店舗勤務、ソフトバンク・イー・コマースのちセブンネットショッピング立ち上げ、アマゾンジャパンBooksMD、イオンにてネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長としてオムニチャネル化推進を経て独立。
株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント。日本オムニチャネル協会理事、防音専門ピアリビング取締役等を兼務。
店舗とネットを融合し、顧客満足を高める買い物の楽しさを追求し続けている。

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