「業務を見直す」「評価を見直す」〜オムニチャネル構築前に見直すべき、4つのポイントとは?前編
古くは「クリック&モルタル」「O2O」、現在は「OMO」「オムニチャネル」と言われている仕組み。これはお客様に対して店舗もネットもシームレスに(継ぎ目なく)使いやすくすることです。『プリズマジャーナル』でのこれまでの連載では、オムニチャネルの概念や国内外の事例についてお話してきました。
今回から数回に分けて、実際にオムニチャネルを社内で構築・推進する際に意識すべき事、またその実務について触れていきたいと思います。
1.業務を見直す
「あれ、オムニチャネル化って、システム導入から始まるのでは?」
……と、思いませんでしたか。実は、どんなに評判の良いシステムを入れても、オムニチャネル化がうまくいくとは限りません。正直に言うと、うまくいかない事の方が多いです。「業務の手順の見える化」をせずに新しいシステムを入れても、うまくマッチングせず、かえって手順が増えてしまう事が多いからです。
会計や総務・人事系の業務であれば、どの企業も共通部分が多く定型業務化しやすく、一度決めたルールはそれほど変わりません。一方でEコマースは、その中に多くの業務を抱えています。商品登録、販促、販売、支払決済、ポイント付与、倉庫での在庫管理や出荷、コールセンター対応等々、オムニチャネル化するために店舗とEコマースを連携させようとすれば、業務範囲は更に広がります。
だからこそ最初に、現状の業務を「見える化」をする必要があるのです。
ところが、です。私が事業会社に居た時も、独立後にコンサルとしてクライアント先でこの話をしても、必ずこう言われます。
「自分たちの業務なんて、わざわざ見える化しなくても分かってるよ!」
……本当にそうでしょうか?
実は、私の回答も、毎回、決まっています。
「そうですよね。では、すぐに見える化出来るはずですね。さっさとやってしまって、早く要件定義に入りましょう!」
「では、この場で書き起こしますので、まずはメインフローとなる商談から販売、代金回収までの流れを、担当部署とその時に使うシステムと併せて、業務手順に従って言っていってください」
最初の30分位は、バラバラと業務項目が出て来ますが……
「あの業務、誰がやってるんだっけ?」
「ここ、どうつながっているんだ?」
「……あれ? 分かっているのでは、なかったのですか?」
少し意地の悪いやり取りですが、ほとんどのケースで、こうなります。業務の内容、流れ、部署のつながり、使用システムについて「わかったつもり」になっているのです。このまま見える化せずに要件定義を行ってシステムを導入したら、失敗する事は目に見えています。
1-(2).逸見流、業務の“見える化”
私が業務の“見える化”をする際には、下記のような表を作って描いていきます。
自分が良く知っている業種・業界であれば、業務フロー図から描き始めることもあります。よく知らない場合、分からない場合は、各部署に丁寧に業務ヒアリングを行いそれから業務フロー図を描いたり、または先に想定業務フローを描いてから共有し、ヒアリングしながら仕上げていくこともあります。また、最初は自分が描き慣れる必要がありますが、その後は部下やクライアント先のメンバーに描いてもらいます。部下やクライアント先メンバーの方が、より現場に近く、業務を分かっているからです。
ただ、業務フロー図が出来上がると「こういう流れになっていたのか! わかっているつもりだったけれど、自部署以外の事は意外と知らないものですね」となることが多いです。これは普段、業務を俯瞰して見るという習慣が無い為です。
まずは現状の業務フロー(AsIsフロー)を描き、ここに改善点を吹き出しの形で書き加えていくと、あるべき姿の業務フロー(ToBeフロー)になっていきます。
こうして業務の流れの中での改善点=課題が“見える化”出来ると、課題の優先順位が付けやすくなるというメリットがあります。課題の優先順位はどうしても曖昧になりがちです。影響範囲やコスト、メリット、デメリットで判断するしかないのですが、実際に進めていくうちに優先順位が変わってしまう事も、よくあります。しかし、業務の流れの中で課題を“見える化”しておくと、その効果や影響範囲が前後の業務を含めて見えていますので、どの課題から手をつければよいかが明確になるのです。
業務フローを描くのは実に面倒な事です。しかしながら、これを描く事で業務手順が見え、組織間でのつながりや利用システムも見え、さらに課題の解決順位まで見えるようになります。そうなれば、この後の要件定義は、実にスムーズに進みます。更に、一度書き起こしてしまえば、例え変更が出ても書き直すだけで済みます。マニュアルよりも直感的、視覚的に理解することが出来、またメンテナンスの手間もそれほどかかりません。業務を「見える化」するために、業務フローを描き起こす事を是非ともお勧めしたいと思います。
2.評価を見直す
Webと店舗、両方の部隊に“一緒に”仕事をして貰うためには、評価軸を整えなければなりません。
販売を生業とする企業の多くは「売上」を重要指標としています。その為、どのような経路でお客様が購入しようと、最終的に「売上が立つ部署」に売上、つまり、評価がつくことになります。評価軸がこのままでは、部隊間で売上=評価の取り合いが発生してしまうのです。お客様が商品をWebで注文し、店舗で受け取るケースをイメージして頂くと分かりやすいでしょう。店舗で商品を受け取る際に代金を支払えば売上は店舗に立つことになり、店舗へ送客したWeb部隊を評価する指標はありません。
企業によっては、店舗からWeb部隊へ売上の何%かの手数料を払うモデルを検討する事もあります。しかし店舗数が多ければそれに比例して毎月末の伝票処理が大量に発生してしまう為、あまりお勧め出来ません。また、手数料のパーセンテージについてお互い納得できず揉めたり、売上に計算式を入れ細分化して評価を分け合う複雑さゆえにスムーズな社内協力体制が作り出せない等、多くの懸念があります。
2-(2).関与売上の評価軸
そこで私が考えたのが、関与売上の評価軸です。宅配直販分と店舗送客分を足した数を、社内売上の中でWeb部隊が関与したものとして評価し、「EC関与売上」という評価軸を作ったのです。
店舗にて売上計上された「Web注文→店舗受取」については、売上・利益の全てを店舗へ計上し、手数料も発生させません。一方で、そのままではWeb部隊の評価がゼロになってしまいます。そこで売上金額を“評価”としてのみWeb部隊にダブルカウントし、宅配売上と合わせて「EC関与売上」と評価するのです。
この事により、社内での売上=評価の取り合いが無くなり、店舗とWebの両部隊が協力して全社の売上・利益を最大化する動きに変わっていきます。Web部隊としてはECで売れても店舗受取で売れても評価されますし、店舗側は手数料を支払う必要なくWebから送客の恩恵を受けることが出来るのです。仲良くなるのが、当たり前ですよね。
この関係が出来上がると、仕入もWebと店舗共同で行うことが出来るようになります。顧客の詳細な動きを知るECのバイヤーと、全店に分配・配架するのがうまい店舗バイヤーが一緒にメーカーと商談する事で、適正な発注と在庫調達が可能になり、売り切る力も強くなります。店舗で売れ残った商品をWebで掲載し、効率良く最小限の値引で売り切る事も出来ます。それは結果的に営業利益を上げる事にもつながります。在庫が高回転し、利益を上げ続けられる構造になればキャッシュフローも改善されていきます。
この関与売上と、財務諸表上の在庫回転、営業利益、キャッシュフローを、全部署の共通指標とすれば、オムニチャネル化における効果を最大限に発揮する事が出来るのです。この社内の各部署、各チャネルをまたがった購買行動を意識した「関与売上」という評価軸は、Web、店舗だけに留まらず、コールセンター等様々な社内部門にも応用する事が可能です。カスタマージャーニーが情報接点、買い物接点含めて複雑になっている今こそ、見直すべき重要なポイントとなっています。
さてここまで、オムニチャネルシステムの導入前に見直すべき4つのポイントのうち2つをご紹介してきました。次回も引き続き、システム導入前に見直すべきポイントをご紹介していきます。
執筆者プロフィール
逸⾒ 光次郎 Adviser(アドバイザー)
三省堂書店店舗勤務、ソフトバンク・イー・コマースのちセブンネットショッピング立ち上げ、アマゾンジャパンBooksMD、イオンにてネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長としてオムニチャネル化推進を経て独立。
株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント。日本オムニチャネル協会理事、防音専門ピアリビング取締役等を兼務。
店舗とネットを融合し、顧客満足を高める買い物の楽しさを追求し続けている。
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