プリズマジャーナルTOPアメリカのオムニチャネル事情とは 〜顧客に寄り添った“オムニチャネル”実現に向けて〜

アメリカのオムニチャネル事情とは 〜顧客に寄り添った“オムニチャネル”実現に向けて〜

2012年に出張視察で初めてアメリカに行った際、私は空き時間で会場やホテル周辺の小売店舗を巡り、スーパーや専門店でも国によっていろいろ特徴がある事を知りました。それから定期的に海外の小売を見なければと考え、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国を訪問し、現地での買い物を体験しています。

これら海外のオムニチャネル事情について、実際の訪問体験やメディア、決算書などの情報を合わせて前後編に分けて紹介します。前編となる本記事では最も訪問回数が多いアメリカの小売について、2022年8月と10月の訪問レポートを中心にお送りします。

0.アメリカのオムニチャネル事情

2012年、私は当時在籍していたカメラのキタムラの出張視察で初めてアメリカに行き、ラスベガスで開催されたCES(コンシューマーエレクトロニクスショー)に参加しました。世界最大規模のテクノロジー見本市であるCESに参加しながら、会場やホテル周辺の小売店舗を巡りました。そこで、スーパーや専門店も国によっていろいろ特徴があると分かり、それ以来アメリカには定期的に視察に行くようになりました。直近10年間でも、西・東海岸あわせて5回訪問しています。

アメリカの小売業としての特徴は、大規模チェーンがプライベートブランド(PB商品、自社企画商品)を中心に展開している事です。日本ではまだまだNB商品(ナショナルブランド、メーカー商品)の品揃えが多く、同じ商品の価格競争になりがちですが、PBが多いと、価格だけではなく独自品質も競争要因になります。「どのチェーン店に買い物に行こうか」と顧客が考えた時、“最寄り性”と“価格”以外の、明確な選択要因が存在することになります。これはアメリカだけでなく、ヨーロッパでも同様の傾向が見られます。

Amazonが成長すると共に店舗小売事業者側が様々な対抗策を打ち出してきている点も、アメリカの特徴だと言えます。オムニチャネル自体は「モバイルを活用して、顧客がシームレスにサービスを利用出来る」という定義から始まりましたが、Amazonとの競争の中で店舗を活用した具体的な取り組みがいくつも展開されています。以下、一つずつ見ていきましょう。

1.BOPIS(Buy Online Pickup In Store)、カーブサイドピックアップ

「BOPIS」とはBuy Online Pickup In Storeの略で、文字通り「ネットで買って店舗で受け取る」サービスです。百貨店のMacy’sは自社ECサイトで注文した商品をNYや各地にある実店舗で受け取れる仕組みを始めました。ヨーロッパでは「Click&Collect(クリック&コレクト)」と呼び、ネットで買って受け取るという類似サービスが広まっています。日本でも最近、同様のサービスが展開され始めています。

またWalmartは自社ECサイトで注文した商品を実店舗駐車場で積み込む「Curbside Pickup(カーブサイドピックアップ)」を始め、私自身、2015年の視察で体験しました。カーブサイドピックアップは、この数年のコロナ禍で大手チェーン小売各社が取り入れ、2022年の視察時にはTarget(バラエティストア)、HomeDepot(ホームセンター)等、多くの企業が展開していました。

現地で聞いた話ですが、カーブサイドピックアップ利用が増えた事で人員が足りなくなり、店舗全体の業務を見直し、有人レジをセルフレジに切り替えることでレジ要員をカーブサイド側に移した店舗が増えたそうです。

またコロナ禍と物価高騰の影響で、富裕層のWalmartを始めとした低価格販売の店舗利用が増え、その際にカーブサイドを活用している、という話も聞きました。コロナ禍では「非接触サービス」として、そして物価高騰では「自らがレジに並ばずに買える仕組み」として活用されているようです。

2.スマホアプリの「インストア(店内)モード」

スマホアプリを「普段のモード」から「自社店舗内に入った時のモード」に切り替えることで、店舗の店内マップやおすすめ商品を表示できるようにした仕様のことです。顧客による操作やGPS、店内Wifi接続による切り替え推奨等、モード変更の方法は様々です。

2022年の視察時には、事前にアプリ上で作った買い物リストに対して、店内のどこにあるか表示される機能まで進化していました。近年は日本でも、ニトリ等、取り組み始めている企業が見られるようになりました。

3.無人店舗、レジ無し決済

買い物体験の中での一番のペインポイントは何でしょうか。

それは、レジ待ちです。レジ待ちが無ければ、顧客は買い物予定時間のほとんどを品物選びに使えます。ところがレジ待ち時間がある場合、その時間を考慮して品物選びを早く切り上げたり、買い忘れが発生します。また急いで選ぶことで、選定ミスをしてしまう事もあります。レジ待ちは総じて、顧客の買い物体験を悪いものにしてしまいます。そこで、このレジ待ち時間を無くす事で、消費者をイライラさせないだけではなく、買い物自体も満足出来るものにする事が出来るのです。

日本でも話題になった“無人店舗”ですが、これは無人であることが重要なのではなく、「レジ待ちをいかに無くすか」という課題感からつくられた仕組みです。

「AmazonGo」(コンビニ)、「AmazonFresh」(スーパーマーケット)等、Amazon傘下のWholeFoodsMarketでは、レジ無し決済技術「JWO(JustWalkOut)」を導入しています。顧客は、ログインしたスマホでQRを表示し駅の改札のようなゲートをカメラに提示して通過したり、事前に同QRやクレジットカードを登録して手のひら認証で通過して入店します。

入店後は棚についている重量センサーと天井についているカメラで顧客を捕捉し、退店時にはショッピングバッグへの商品の出し入れに基づいた買い物リストを作成して顧客にメールを送ります。そして登録されたクレジットカードに、自動的に請求する仕組みとなっています。

サービス開始当初は商品に識別用の大きなバーコードを貼付したり、カメラが読み取りやすい仕組みが取り入れられていましたが、2022年の視察時は通常商品パッケージにて認識出来るようになっていて、カメラやセンサーの台数も減っていました。

2022年、新たに見ることが出来たサービスは、店内調理のオーダーシステムです。店内端末画面からハンバーガーやサンドイッチをオーダーすると、店内厨房で調理して提供してくれます。商品裏にはバーコードが貼付されていて、端末で読み取ると加算されます。

コロナ禍以前、総菜の量り売り等は店頭で口頭で注文し、バーコード貼付の品物を渡される仕組みでした。しかしおそらくコロナ禍での飲食店頭のデジタル化を見て、この仕組みが新たに開発されたのだと思います。そのうち、商品バーコードを読まなくても加算されるようになるでしょう。

この仕組みの課題はたくさんのカメラと重量センサーの設置が必要で、コストがかかる事です。サービス開始当時に比べると、1台のカメラが2方向を映し、センサー数も減っていて、かなりのコスト低減が出来ていると感じました。

4.デジタルカート、スマートカート

Amazonでは、ショッピングカート自体に「Dash Cart(ダッシュカート)」と呼ばれる仕組みを持たせています。これはショッピングカート自体にログインの仕組みとカメラによる商品スキャンの仕組みを、持たせたものです。2022年の視察時には、商品を入れても正しくスキャンが出来ていない場合はエラー表示するなど、進化が見られました。カートにバッテリを積んで、待機所にある時に充電し続けなければならないため、連続利用頻度とバッテリ重量が、今後の課題となりそうです。

前述した「JWO」も「Dash Cart」も、Amazon自体が小売事業者として他事業者と競合する目的での取り組みでは無く、実店舗における消費者行動データの収集と、SaaSとして小売事業者のプラットフォーム利用を展開するための実験だと私は考えています。

後者は特に、人口減少や人件費高騰によって人の採用が難しくなっている各国の小売事業者に対し、仕組みを導入することを狙っているのではないでしょうか。今後、小売り業における人件費や採用費との費用対効果の比較の中で、導入検討、採用できる程度のコストに落としてくるのではないかと思います。

5.クイックコマース

日本では、「Uber Eats」が料理だけではなく成城石井やローソンの食品類の買い物代行を始めています。このように、注文を受けてから15~30分以内に買い物を代行して商品を届ける仕組みを「クイックコマース」と呼びます。中国とアメリカでは、コロナ禍以前から始まっていました。

アメリカではインスタカート社を始め、買い物代行事業者がコロナ禍で需要が増えて急成長しています。日本でも都内にYahoo!マートなど“買えない店舗”(ダークストア)を倉庫として構え、近距離配送を行うサービスが始まっています。

収益面ではまだまだ厳しいと思いますが、料理と食品を複数個所で調達して客単価を上げたり、需要が増えて同一エリア内の配送密度を高める事で配送時間内での効率化を目指す事で収益面での改善を見込む事が出来ます。

2022年に米国視察で体験したDoorDash社のサービスでは、配達員が配達中にチャットで追加オーダーを受けてくれました。収益面での改善要素が必要ではありますが、都市部でのサービス展開に対する需要は確実にあると考えます。

6.Amazon発のアパレル店舗「Amazon Style」の仕組み

分類に困るのですが、「Amazon GO」や「Amazon Fresh」同様、アパレル企業には使って欲しいと考えているのが、Amazon発のリアルアパレル店舗「Amazon Style」の仕組みです。

来店前、もしくは店内で、顧客は試着室の予約をします。予約時間になったら、事前に受け取ったQRコードを使って部屋に入ります。試着室内のディスプレイには名前入りで「Welcome」のメッセージ。試着室には、事前に聞かれた好みや、これまでの購入データからリコメンドされたシャツやパンツ、シューズが置かれており、気になったものは試着します。

サイズや色違いが欲しい時には、声で店員を呼ぶのではなく、モニタをタッチして商品を選びます。すると数分後にバックヤード側のクローゼットが光り、扉を開けるとサイズ違いや色違いが用意されています。精算は試着室を出てレジで行います。

私は衣服の試着が面倒なのですが、それはサイズ違いをいくつか選んで持って行ったり、いちいち店員に声をかけなくてはいけない所です。ファッションが大好きな顧客にとっては、店員との会話をしながら買うのが楽しいのかもしれませんが、私は苦手なので、この仕組みは本当に良いと思いました。

今回はアメリカのオムニチャネル事情について、実際の訪問体験を中心に、私自身の感想も交えながら紹介しました。後編ではイギリス、フランス、ドイツ、中国などの訪問から得た買い物体験と、実際の訪問体験やメディア、決算書などの情報を合わせ、日本への取り入れ方の仮説を含めて紹介します。

逸見 光次郎

執筆者プロフィール
逸⾒ 光次郎 Adviser(アドバイザー)

三省堂書店店舗勤務、ソフトバンク・イー・コマースのちセブンネットショッピング立ち上げ、アマゾンジャパンBooksMD、イオンにてネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長としてオムニチャネル化推進を経て独立。
株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント。日本オムニチャネル協会理事、防音専門ピアリビング取締役等を兼務。
店舗とネットを融合し、顧客満足を高める買い物の楽しさを追求し続けている。

この記事をシェアする

Facebook