
スマートネスの先にある「Well-Being」がイノベーション普及の鍵 〜米国展示会から見る、アフターコロナ時代に求められるテクノロジー[後編]
アフターコロナが見えてきた2023年、筆者はデジタル時代のマーケティングと顧客体験に関する議論が多く交わされる展示会やカンファレンスを巡り、日本と海外のアフターコロナ対応の違いをつぶさに観察してきました。New Normalな世界で、お客様と企業のつながりはどう変わっていくのか、これからのお客様の買物体験はどのような変化を遂げるのでしょうか。「人は何故イノベーションを受け入れるのか?」について、考察していきたいと思います。
スマートテクノロジー普及合戦の攻防や、カンファレンス登壇者の口からよく出た「Authentic(オーセンティック)」という単語から、今の潮流を読み解いた前編に引き続き、後編では3つ目のポイントとして「Well-Being」について取り上げたいと思います。
目次
1.スマートネスだけでは物足りない。テクノロジーに求められる「Well-Being」とは? 2.使い続けたいテクノロジーにある「Well-Being」 3.Well-Beingを実現する企業が実践する、マーケティングと企業経営1.スマートネスだけでは物足りない。テクノロジーに求められる「Well-Being」とは?
「人は何故イノベーションを受け入れるのか?」という問いに対して、最後に挙げる重要な要素は、Well-Beingな状態が維持できるかどうかにあると思います。
「well-being」という言葉を、日本では一般的にヘルスケア用語のように捉える人が多いように思います。特に高齢者の身体的活力の維持の先にある、精神的、社会的満足や充足感の実現状態を目指す取り組みとして捉えられがちです。ここで、この言葉をWikipediaで見てみましょう。
誰かにとって本質的に価値のある状態、つまり、ある人にとってのウェルビーイングとは、その人にとって究極的に善い状態、その人の自己利益にかなうものを実現した状態である。
本来「Well-Beingな状態」とは、老若男女、全ての人にとって快適な状態のことを意味しています。つまり、テクノロジーがもたらす生活向上や、満足度向上の先にも「Well-Being」が存在すると言えるわけです。
今年のCESでは、先述の通りAge Techブースの充実が見られましたが、ざっと見た所感ではどちらかというとアマゾンのAlexa(音声)を活用した配膳ロボットをはじめ、健康維持テクノロジーが前面に打ち出されていました。つまり、テクノロジーのメリットはスマートネス全開で、まさに「高齢者の身体的活力の維持の先にある、精神的、社会的満足や充足感の実現状態を指している」Well-Being訴求をする企業は多くありませんでした。
これらの多くはテクノロジーを活用した高齢者の生活からのマイナス要素の排除はでき、後期高齢者の生活に大いに寄与することは間違いありません。ただ、更なるWell-Being状態に昇華させるには、物足りないのです。
2.使い続けたいテクノロジーにある「Well-Being」
前編で紹介したLG Styler™ ShoeCaseおよびShoeCareという商品は、スニーカーの保管、衛生状態の維持と自己顕示欲が同時に満たされ“続ける”ことで、Well-Being状態が実現できています。また2019年のCESに出展し、ロボティックスの新たな価値を提供したLOVOT(らぼっと)は、Age Tech業界におけるAge-well提供の好事例と言えます。GROOVE X社によって開発された家庭用ロボットですが、面白いことに、商品コンセプトには「役に立たない、でも愛着がある、新しい家庭用ロボット」とあります。
一般的にロボティックス業界で求められるのは、生産性の向上や人の仕事の代替と言ったスマートネスですが、ここで提供しているのは半永久的に家族のベストパートナーでいてくれて家族に愛を届けることをミッションとしたロボットです。
GROOVE X社によるとLOVOTの高齢者施設による有無が入居者の認知機能低下に有意に影響を与えるという研究も発表しており、人とロボット(テクノロジー)の融合がHuman Touch technologyな状態を実現し、全ての人のWell-Beingに寄与しているとしています。
とはいえ、LOVOTだけでは介護施設の運営は立ち行きません。しかし、Well-Beingのステージまで顧客体験を引き上げるテクノロジーこそが、究極のイノベーションではないかと筆者は考えています。
スマートネスの先にある、「オーセンティシティ」という体験提供が維持、発展することで、Well-Beingな状態を顧客に提供することができる。現代の顧客がテクノロジー(イノベーション)に期待していることは、この点にあると言えるのではないでしょうか。最終的には人がテクノロジーに愛着を持ち、「無くてはならない」という心情がWell-Being状態にまで昇華されるような商品、サービスの実現を目指す必要があるのでしょう。
この実現にはまだまだ時間がかかるでしょうが、アフターコロナの時代、New Normalな時代に、人がテクノロジーに求めていることは、スマートネスだけではないことは明らかです。テクノロジーがスマートであることは当たり前であり、購買や利用意向の一助にすぎません。その先にある体験(オーセンティック)と、その体験状態の維持(Well-Being)が求められているのです。
企業にとっては大変な時代ではありますが、テクノロジーに愛着を持ち、もしくは人とテクノロジーを通した上質な体験価値が、顧客満足はもちろん、ビジネスの維持発展につながる時代が到来したのです。我々もこの流れに遅れることなく、テクノロジー崇拝だけでは実現できない新しいイノベーションを創発できるように挑戦していく必要があるのです。
3.Well-Beingを実現する企業が実践する、マーケティングと企業経営
ここまで「人がイノベーション(テクノロジー)を受け入れるために必要な3つの要素」について、筆者の考えを述べてきました。ここからは、これらの要素や企業活動を経営においてどのように位置付けるべきなのか、という点について、下記の図を見ながら解説していきたいと思います。

一橋ビジネススクール客員教授 名和高司氏は、「Purposeは『存在意義』と訳されることが多いが、『志』と読み替え、パーパス経営を『志本経営』と命名し、企業の内部から湧き出てくる強い思いを企業活動を通して実現することがパーパス経営である」としています。
この見立てを、テクノロジーの利活用を前提としたイノベーションの創造とビジネスの実践に落とし込んでみましょう。すると、パーパス経営を前提としたスマートネスの提供がもたらす効果が維持、発展するということは、Well-Beingな状態を顧客に提供することにつながっている必要がある、ということが見えてきます。
テクノロジー活用したマーケティング活動や企業経営には、顧客情報の取り扱いや消費者の理解、知覚を超えたサービス提供が行われます。そのような人間の認知を超えたサービス提供の先にある顧客価値は、新しいビジネスの創出と収益源をもたらすものではあるでしょう。しかし、その成功に胡坐をかくことは許されません。企業が自社の利益のみを追求し、全てを自社の都合の良い状態でコントロールすることは、社会的にも、今や許されるものではありません。
2020年のCESでは、「marketing with purpose(目的志向マーケティング)」という言葉がキーワードとなっていました。この言葉は、ブランドと顧客(消費者)が共に信じているテーマ、信念、目的などでつながることで、長期的な顧客関係を維持し、それを共感マーケティングへと展開しいくことを意味しています。
2023年のCESではこれが「REAL PURPOSE」として再登場し、改めて、企業の志が独りよがり、自己中心的なものであってはならず、企業経営が顧客と社会に良い影響をもたらすものでなくてはならない、と警笛を鳴らしていました。つまりこれは、顧客が企業の“経営姿勢”にも、厳しい視線を与えているという意味です。
だからこそ、パーパス経営、目的志向マーケティングの実践を前提としたイノベーションの実践が大切だと言えるでしょう。「賢い(スマートネス)」だけでは、イノベーションは起こせない。全てのテクノロジーは人によって使われ、共感を得ることで育っていきます。このことを忘れることなく、イノーベーションの推進を企業が進めていくことで、New normalな時代に共感を生むサービスを生み出せるでしょう。
テクノロジーの押し売りやテクノロジー競争に、顧客は目も向けません。それがもたらす体験と、Well-Beingな状態にしか、お客様は興味が無い。そのことを忘れることなく実践されたイノベーションこそが、今の社会には求められているのだと思います。
お客さまのエンゲージメントを高め、ファンに育てることを目的とした、会員・ポイント管理(CRM)サービス「fannaly(ファンナリー)」。LINEミニアプリで提供することで、会員アプリを素早く始められます。
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執筆者プロフィール
奥⾕ 孝司 Engagement Commerce Adviser(エンゲージメント・コマース・アドバイザー)
株式会社良品計画にて店舗、商品開発を経験。「足なり直角靴下」を開発後、2010年WEB事業部長に就任。
Online売上の拡大のみならず「MUJI passport」のプロデュースを統括し、業界に先駆けてオムニチャネル戦略の立案と遂行。
2016年よりオイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 COCO(Chief Omni-Channel Officer)。
2018年9月には株式会社大広との共同出資会社である株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役を務める。
<主な著書>
「世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略」
「マーケティングの新しい基本顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント」がある。
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