「4月から新しくプロジェクトを立ち上げ、新しい顧客価値を提供するための活動を始めた!」そんな担当者の皆様も多いかと思います。私自身、前職では新しいサービスを提供するため、PMやPMOとして様々なプロジェクトを経験してまいりました。
今回は、それらのプロジェクト開始期の失敗について、これまでの経験を元に「3つの点検項目」として、お話ししたいと思います。
目次
1. 「誰に(どんな顧客に)」「何を(どのような価値を)」を、整理する 2. 「言葉」の認識が、関係者間で合っているか、確認する 3. 「運用構築」「顧客告知」まで含めた開発計画となっているか、確認する1. 「誰に(どんな顧客に)」「何を(どのような価値を)」を、整理する
デジタル化や社会環境の変化、それに伴う思わぬ競合の登場などに晒されると、「変えること」「変わること」が目的になってしまい、例え何かを変えても顧客に届かない場合があります。それが私の、一つ目の失敗体験です。
・社会変化に追従できる柔軟な基盤を作る
・アプリなどを作ってデジタル化する
・サブスクリプションなどの新しい売り方に挑戦する
今にして思うと、このような案件は、まさに「変えることそのものが目的になってしまっていた」案件群でした。「柔軟な基盤を作ろう」「デジタル化しよう」「新しい売り方をしよう」という目的が先行してしまっていて、「誰に」「何を」届けたいのかが、曖昧なままプロジェクトが進んでいたと思えます。ところが、担当していた当時は「変えることが正義」になっていたので、全く疑問に思っていませんでした。
このような失敗は、10〜20年という長期間続いているサービスで、よくやってしまっていたように思います。長く続いているサービスでは、「誰に」「何を」を新たに明確にする必要に迫られない為、「どのように」の議論に入りやすくなっています。また、長期間続いているサービスは、利用顧客があまりにも多岐に渡ってしまっているため、「誰に」の部分を取捨選択しにくいという事情も、多少あったように感じます。
未開拓の市場が多く残っているのであれば、マーケティング4Pである、「Product(商品)」「Price(価格)」「Promotion(販促)」「Place(流通)」の議論だけでも上手くいくのかもしれません。ただ、市場の飽和や顧客の飽きが課題となっている場合、改めて顧客に必要としてもらうために必要な変化は何か、明確にする必要があります。「誰に」「何を」の再定義をしないと、変えたはいいが何も変わらなかったという結果を招いてしまうように思います。
・どういう顧客がどういう価値を享受できて、顧客の行動はどう変わるのか?
・行動が変わると、何故いえるのか?
・行動が変わる顧客とは、どのような顧客なのか?
・そういった顧客はどの程度存在し、ビジネス的な価値があるのか?
プロジェクト開始時点で、このような視点で企画を確認しておく事が出来たら、もう少し違った未来があったのかもしれない……と、未だに思い返すことのある“失敗経験”です。
2. 「言葉」の認識が、関係者間で合っているか、確認する
新しいプロジェクトを始めるにあたっては、多くの場合、自部門だけではなく、会計や法務などの他部門や、開発会社、業務委託先、他会社等、多くの方々を巻き込んで進めていくことになろうかと思います。ここで「言葉」の認識が合っていないと、後々問題が大きくなってプロジェクトが止まることがあります。それが、私の2つ目の“失敗経験”です。
問題が大きくなりがちな代表例は、下記のようなものでしょうか。
・「年度」なのか「年」なのかや「上旬」などの時期に関する定義
・「個人情報」や「会計」など取り扱いルールが個社により定義されているもの
・「戦略」などの立場によりスコープ定義の変わるもの
ありがちな対策手段として「用語集を作る」というものがあるのですが、誤認を起こしやすい人ほど用語集を読んでくれない、という状況になりがちです。「無いよりはマシだけど……」という状況によくなっていた、というのが正直なところです。「伝え続けない限りは、忘れるのが当然である」と考えておくことが重要だと、今は思います。
また一方で、コミュニケーション先が「なんでこんなこと今言っているんだろう」と思った時には、「あなたはどういう定義だと思っているのか」と確認をすることが、非常に重要です。相手の考えや視座から見た時に、プロジェクトで定義している語義とどこが違っているのかを伝えない限り、理解は擦り合いません。「どこに引っかかってそういうことを考えたのか」「何を懸念しているのか」といった相手の理解にまで踏み込み、認識を合わせておく必要があります。
こちらの定義を繰り返しているだけでは、齟齬は解決しません。それを実感した、私の“失敗経験”です。
3. 「運用構築」「顧客告知」まで含めた開発計画となっているか、確認する
「告知物の制作スケジュールに間に合わず、顧客告知が不十分なままスタートした」
「運用検討が不十分で、人海戦術でしばらく乗り切らないといけない状態になった」
上記のような状態で、サービスをスタートしてしまったことは無いでしょうか。新サービスを実現する場合、大きな投資を伴うシステム開発を必要とすることが多いかと思います。開発に注力するあまり、「運用構築」「顧客告知」の考慮が足りなかった──それが、私の3つ目の“失敗体験”です。
新サービスを実現するシステムが出来上がっても、サービスを知ってもらっていないと「顧客にサービスが使われない」ですし、同じく運用ができないと「顧客にサービスが提供できない」のは当たり前のことです。
その“当たり前”が十分に理解できておらず、新サービスリリース後、顧客から「なんでサービスが変わったんですか?」と問われたことは、未だに苦い思い出です……。プロジェクトのゴール設定が「新しいサービスを提供すること」から、「新しいサービスを実現できるシステムをつくること」にすり替わってしまったのです。「自分の目の前のタスクが、何のためにあるのかを見失わないようにしなければならない」そう、強く思うようになった失敗経験です。
それ以来、ガソリンエンジンの3要素のスローガン、「良い圧縮、良い点火、良い混合気」の言い方を借り、「『良い開発、良い運用、良い告知』を実現しないと、良い新しいサービスは生まれない」と言うようになりました。
ここまでに3つの“点検項目”を挙げてきました。どれも「何を当たり前のことを」と思われる話だったかもしれません。ただ、筆者のように、失敗して初めて学んだ人間もいます。“当たり前のこと”を当たり前にやれること、それは素晴らしいことだと思います。「当たり前のことは、当たり前として出来ている」──そんな皆様にとっては、この記事が改めて、自信を持っていただく機会になれば幸いです。
加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。
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