「データを活用して、お客様により良いサービスをお届けしたい」──DXに取り組む多くの企業様は、そういった思いで計画立案・商品企画・システム開発に取り組んでいらっしゃるかと思います。
ところが、この「データ活用」というのが、本当に難しい。これまでの業務経験において、そう思わされる機会は非常に多くあります。本記事ではデータ活用の「難しさ」について、改めて取り上げます。また難しさの理由を振り返り、改めて取り組み直す際の参考にして頂ければと思います。
目次
0.データの分類は、目的、ゴール設定次第で変わってくる 1.「結果のデータ」分析フェーズは、“当たり前”の連続! 2.「プロセスのデータ」の分析は、“できない”の連続 3.「データの活用」は“試行錯誤”の連続 4.まとめ0.データの分類は、目的、ゴール設定次第で変わってくる
私は前職で長らく、学校向けアセスメント(いわゆる業者テスト)の商品企画を担当しており、そこでは「成績が伸びた/落ちた生徒の特徴は?」といったデータ分析を求められてきました。これを行うにあたって、データを「結果のデータ」「プロセスのデータ」に分類するということを意識して利用していました。まずはここで、その2つが何を指しているのかを、明確に定義しておきたいと思います。
結果のデータ :目的の行動がなされたときのデータ(テスト結果や購入履歴など)
プロセスのデータ:目的の行動につながる過程のデータ(テスト前の勉強過程や関連サイト閲覧など)
小売業界において「購買」をゴールに設定した場合、「ECサイト閲覧」は「プロセスのデータ」になります。一方で、「PV(ユーザーがWebサイトのページにアクセスすること)」をゴールとした場合、「ECサイト閲覧」より前の行動が「プロセスのデータ」になります。
このように、設定ゴールによってあるデータが「結果のデータ」になったり「プロセスのデータ」になります。この点を、まずは理解していただければと思います。
1.「結果のデータ」分析フェーズは、“当たり前”の連続!
多くの場合、データの活用をする以前にまず分析フェーズがあると思います。中でも「結果のデータ」の分析は、最も着手しやすいデータ分析ではないでしょうか。商品カテゴリー別の売り上げ構成比や、時間帯別売り上げなどの分析は、「結果のデータ」分析の代表例と言っても差支えないでしょう。
ここには2つの難しさがある、と思っています。
●「それは知っている。で!?」問題
「時間帯別売り上げ」などの現場データ分析を行い出てくる結果は、現場のスタッフが持っている肌感覚と同じ結果になるのが普通です。時間や場所など分析する対象データを絞り込んでいけば行くほど、同じ結果になっていきます。データ分析担当の方は、「それは知っている。で!?」と言われた経験があるのではないでしょうか。
この「当たり前のこと」「既に知っていること」に対して、人は価値を見出すのが難しい。これが、「結果のデータ」分析の難しい理由の一つです。
「データを活用し、新しいサービスをつくりたい」と考えている際に、この「当たり前」を疎かにしてはいけないのはいうまでもないことです。「当たり前」を時系列などで追って変化を確認できれば、市場に大きな変化が出てきている証拠となります。日々の「当たり前」を継続的に分析することは非常に重要です。
商品企画担当者目線では、「この当たり前」が可視化されオーソライズされているだけで、とても価値があると思っていました。商品企画を行っていると「そもそもこれは何でやらないといけないんだろう」という“企画の袋小路”に入ってしまうことがよくあります。その際に、「ここにアプローチするのが適切だから」ということが定量的に言えたことで、何度も助かった経験があります。地道な継続的なデータ分析は、日の目を見ないかもしれない。でも、いつか助けになるかもしれません。これが私のデータ分析を続けるモチベーションになっています。
●「データが多すぎて、変化に気付けない」問題
前項では「分析結果と現場の肌感覚は同様の結果を示すことが多い」と言いましたが、分析範囲(時系列や地域)を拡大してみると、肌感覚と合わない結果が出てくることも多くあります。この時、データ量が多くなりすぎて、変化に気付けないという問題が往々にして出てきます。
この問題は、偏差値化や相関係数、カイ二乗検定や最尤法など統計学的な処理を使うことにより幾分か緩和されますが、専門知識が必要です。今はSPSS・Tableau・Power BI等の分析ツールも発達し、大量のデータも扱いやすくなっていますが、なかなか手を付けられない部分であるのも事実です。
結局のところ、「地道に継続的に分析を継続しておくこと」これが結果のデータ分析の一番の難しさです。
2.「プロセスのデータ」の分析は、“できない”の連続
「プロセスのデータ」活用は、スマホ普及あたりから特に重要になってきたように思います。
ページの閲覧履歴等、顧客の反応がデータとして取得できるようになったことで、「新しいサービス」を生み出せそうな期待感がとてもある領域ではないでしょうか。ここにも、2つの難しさがあると思っています。
●「そもそもどこから手を付けていいかわからない」問題
「プロセスのデータ」は「結果のデータ」に比べて、非常に膨大になります。例えば、ゴールを「ECサイトでの購買」にした場合、購買に至る「ページ閲覧データ」がたくさんあるというのは、感覚的にわかっていただけるのではないでしょうか。おまけに、「ページ閲覧数」といったデータが購買に直結しているかどうかは、分からない状態でもあります。「プロセスのデータ」があればあるほど、どこから手を付けていいのかわからなくなってしまいます。
「プロセスのデータ」の分析では「仮説を立てる」ということが「結果のデータ分析」を行う際よりも重要です。これができない限り、分析にすら着手できなかったり、分析していても何を意味しているのか分からなくなってしまいます。
データを見て仮説を立てるのではなく、仮説を立ててデータに向き合う。分析する場合の取り組み順序が変わっている点が意識できているか、ということが重要です。
また、この仮説を立てるためにも、前項で述べた「結果のデータ」分析ができていることが重要です。「結果のデータ」分析と「プロセスのデータ」分析に依存関係がある点も、難しさが増す原因となっています。
●「分析しても、その指標を生かせない」問題
冒頭に書いた通り、ゴールをどこに置くのかで「結果のデータ」と「プロセスのデータ」は変わってきます。それゆえ、プロセスのデータの分析結果より前のプロセスのデータがないと施策につながらないということが往々にしてあります。
「プロセスのデータ」がとれるようになったとは言っても、その人の行動がすべてデータ化されているわけではありません。ここまでで紹介した分析が出来ている場合、データそのものが無い、ということも多いのではないでしょうか。もはや「やってみないとわからない」世界に入ってきます。
つまり、「仮説を実行し、検証データを取得する行動にうつせるかどうか」という点が重要です。特に「行動に移す」というのが難しい点です。「新しいサービスをつくりたい」と分析したものの、実際に新しいサービスを生む前に、検証のための施策投下が必要なフェーズの場合、「取り組み順序が変わっているな」と意識できるかどうかが重要です。
「アジャイル的に取り組む」と昨今いわれるようになったのは、この取り組み順序が変わっている点を指しているのだと理解しています。「サービスを考える際、進め方を変えられるか」。これが「プロセスのデータ」分析の、一番の難しさです。
3.「データの活用」は“試行錯誤”の連続
ここまでデータを分析してきて、「やっと活用できるようになった!」と思っても、問題はさらに発生します。「それって心地よい距離感ですか?」問題です。
例えばインターネットのディスプレイ広告(Webサイトやアプリ上の広告枠に表示される画像広告や動画広告、テキスト広告などの広告手法)が良い例です。現在は規制が強まってきていますが、10年ほど前は「個にFITした情報提供をしてくれる素晴らしい手法」ともてはやされていた記憶があります。10年後の今、同じことをいう人は何人いるでしょうか。
逆に、受容され始めたデータ活用例もあります。2013年にJR東日本が、日立製作所へデータを外部提供する旨を発表し最終的に中止になりました。しかし2022年5月から、統計データのみと一歩後退した形ながら、Suica利用データの社外販売を始めると報じられました。
「データの活用」はまだまだこなれていない状態で、「新しいから」「便利になるから」だけでユーザーに必ず受け入れられる訳ではありません。「データを活用してより良いサービス」を考える際に、便利だから、顧客の負荷軽減になるからというのと同じ重さで、「顧客にとって心地よい距離感なのか」ということを考え続けることが重要です。そのうえで、実行してみて誤りが発覚した際に、迷いなく軌道修正できるよう事前に備えておくこと。これが、一番難しい点だと思われます。
4.まとめ
ここまで見てきたように、データの分析・活用は泥臭く、試行錯誤の連続です。しかし、多くの企業で取り組まれていることからもわかるように、最重要テーマでもあります。
すぐに結果が出ないと判断するのではなく、少しずつでも前進していかなければならない取り組みである。そう考え、継続してデータ分析をしていくことが、各事業会社には必要なのではないでしょうか。
加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。
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