キーワードは「マイクロインフルエンサー」? デジタルでの顧客訴求の在り方とは [今月の注目ニュース]
LTVの向上に向けて、小売企業各社では様々なデジタルマーケティング施策の試行錯誤を行っています。そういった中で、「なかなかうまくいかない」というお声を聞くことも増えてきました。
小売×DXの気になるニュースを、リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントがチョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。今回は業務・システムコンサルタントの加藤が、顧客に受け入れてもらえる訴求について、コメントを交えながら取り組み事例をご紹介します。
目次
1.研究所の空気感を届ける音声コンテンツを配信「資生堂」 2.店舗からのライブコマースを積極支援「ピースユーライブ」 3.メガインフルエンサーは最下位「買い物に迷ったときに参考にする人調査結果」 4.まとめ1.研究所の空気感を届ける音声コンテンツを配信「資生堂」
●資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)は、2021年から音声コンテンツを配信。
●番組のホストはS/PARKで働くビューティーコンサルタントと研究員が担当。
●社員たちがリラックスしたムードの中で「好きなもの」や「美」について語り合っている。
「作り手の人となりを大切な資産」と考えた“顧客と向き合う”発信は、「有名人起用」や「計算されつくした」広告と大きく異なります。発信内容も「人」に重きを置いており、商品やサービスを直接的に訴求しない点も過去の広告とは大きく違うところです。
「企業発なのに、作られていない感じがしてすごく好きだ」というリスナーの反応は、今までの「企業発広告=マス広告」というやり方ではなかなかもらえないお声ではないでしょうか。「作りこまれていない=身近な感じ」が顧客に受け入れられ、「ファンになってもらえる」という良い事例かと思います。
2.店舗からのライブコマースを積極支援「ピースユーライブ」
●ピースユーライブは、2020年に開始したライブコマースサービス。
●アメリカ雑貨を取り扱うコレクションマーケット鎌倉店では、人気ライバーがライブ配信を行い1回の配信で1ヶ月分の売上を達成した。
●コロナ禍で休業した草津温泉の饅頭屋がライブ配信を行い、配信1時間で1日分の売上を達成。
諸外国では定着した感のある「ライブコマース」。成果を出し始めている理由は、これまでリアル店舗で大切にされてきた「対話を通じて買い物を楽しんでもらう」という体験が、ネット上でも増えてきているからではないでしょうか。
商品の訴求者は「有名人」や「店舗スタッフ」、または「企業の中の人」という肩書や権威がなくても、顧客とのデジタル上での対話を通じて「訴求」が受け入れてもらえるという点は、訴求の在り方としてさらに一歩進んだ事例と言えるでしょう。
2016年ごろから中国では「網紅(ワンホン)」という動画や生放送を用いて情報発信するインフルエンサーが取り上げられていましたが、日本でもそういった存在が出てくる可能性を感じます。
小売というと「売り方」の変化に着目しがちですが、これらの取り組みは「訴求」の在り方や、その変化を感じ取ることの出来るものとなっています。
3.メガインフルエンサーは最下位「買い物に迷ったときに参考にする人調査結果」
●バニッシュ・スタンダードは、買い物に迷った時の行動に関するアンケートを実施。
●商品の購入を迷った際に参考にする人として、「家族や友人」「お店の販売員」が1位と2位に。
●「専門テーマをもつマイクロインフルエンサー」が3位で、「芸能人/モデル」「メガインフルエンサー」を上回っている。
バニッシュ・スタンダードが実施したアンケート結果からは、「参考にする人」のイメージについて上位に「家族や友人」「お店の販売員」が挙げられており、「専門テーマを持つマイクロインフルエンサー」「芸能人/モデル」「メガインフルエンサー」よりも順位が高い結果となりました。
これまでの「作りこまれている訴求」や「一般的な権威」による訴求は、「憧れる」「真似したい」という気持ちが購買に結びついていました。しかし少なくとも、同社が調査対象とした20代から40代の男女にとって、これらは購買行動にとって必ずしも必要な訴求では無くなっているようです。
今後の訴求の在り方を考えるにあたっては、「信頼できる」「身近に感じる」「自分に合った提案をしてくれる」等の点を重視する必要がある。アンケート結果が教えてくれた客観的なデータに対して向き合っていくことが、今後、重要になりそうです。
4.まとめ
今回取り上げた事例では、顧客が小売やブランドに対して「身近に感じる」「自分に合った提案をしてくれる」と感じた結果が「信頼感の醸成」に繋がっています。
「信頼感ある訴求が重要」という点は、これまでの訴求の要点と何も変わりません。この「信頼感」を作り出すための訴求方法が多様化した、と捉えることが出来そうです。
デジタルの活用により「企業の中の人」や「マイクロインフルエンサー」の活躍が可能になりました。顧客の信頼を得るために誠実に顧客と向き合う為には、今までの手法も含め最も適切な手段を選択する必要があります。これは「訴求」を考えるにあたって、昔も今も変わらない「不易のテーマ」と言えるのではないでしょうか。
(構成・編集=プリズマ編集部)
加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。
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