プリズマジャーナルTOPイギリス、フランス、ドイツ、中国のオムニチャネル事情 〜顧客に寄り添った“オムニチャネル”実現に向けて〜
イギリス、フランス、ドイツ、中国のオムニチャネル事情 〜顧客に寄り添った“オムニチャネル”実現に向けて〜

イギリス、フランス、ドイツ、中国のオムニチャネル事情 〜顧客に寄り添った“オムニチャネル”実現に向けて〜

2012年に出張視察で初めてアメリカに行った際、私は空き時間で会場やホテル周辺の小売店舗を巡り、スーパーや専門店でも国によっていろいろ特徴がある事を知りました。それから定期的に海外の小売を見なければと考え、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国を訪問し、現地での買い物を体験しています。

本記事の前編では、アメリカのオムニチャネル事情について、2022年8月と10月の訪問体験を中心に紹介しました。後編となる本記事ではイギリス、フランス、ドイツ、中国について、コロナ禍以前の訪問体験とメディアや決算書などの情報を合わせ、小売の状況についてお伝えします。

1.オムニチャネル化が加速する、EC化率トップクラスのイギリス

イギリスのEC化率は世界でもトップクラスで、何年も前から20%を超えています。(※編集部註:市場調査会社eMarketerによると、2021年のEC化率は中国 43.9%、米国 14.2%、英国 36.3%。日本は11.8%に留まっている。出所:JETRO地域・分析レポート2022年3月イギリスには、2016年の初訪問から3回、ロンドンを訪れています。既に多くの店舗で「クリック&コレクト」サービスが展開されていました。

私が定点観測している店舗は、JohnLewis(百貨店)、Argos(通販ショップ)等です。JohnLewisは当初コロナ禍で苦戦しましたが、42店舗の2021年の実績は過去最高の売上高約7,740億円(前年+8%)、グループの高級スーパーWaitrose(331店舗)は約1兆1,837億円(前年+1%)となりました(※いずれも1ポンド157円換算)。1864年創業の老舗百貨店ではあるものの、クリック&コレクトを早くから推進し、自店での受け取りだけではなく、全英にCOOPやキヨスクやガソリンスタンドなど約5,000か所の受け取り拠点を設ける事で、2019年度には売上に占めるネット比率が約4割にまで伸びていました。それが2021年度には約6割まで伸び、全体の数字も過去最高となり、ネットは純増となりました。アプリ経由での売上は、ECの23%になります。

Waitroseはオンライン比率が5%から20%に大きく成長、オムニチャネル化が加速しています。オンラインへの投資は約88億円と増え、出店店舗も「ディスティネーションストア(目的買い店舗)」「小規模店」等に分類して、店舗体験とオンラインの関係を重視した戦略投資を進めています。実際に顧客をECやアプリ、ハウスカード(JohnLewisカード)等で集計分析し、数値での見える化を行っています。

Argosは、全英ほとんどの人が使った事があると言われる、店舗型通販事業です。日本のコンビニの2倍程も面積がある店舗ですが、商品展示は無く、分厚いカタログとタブレットが置かれています。店舗カウンターの裏は在庫場所になっていて、約2万SKUの商品が置かれています。カタログ扱い数は約6万SKUなので、複数の店舗在庫とセンター在庫を組み合わせて効率よく早く届く物流網を作り上げています。

店頭タブレットでオーダーすると、自店舗在庫、近隣店舗在庫、倉庫取り寄せ品が見えていて、自店以外の在庫は「〇時までにオーダーしたら△時までにお届け」「翌日以降出荷」等の納期と在庫の情報が明記されています。自宅からでも同じ情報が見えてオーダー出来るため、半数以上の顧客が店舗受取を選択するそうです。

2015年頃の売上高は約6,700億円、店舗数は845店でしたが、16年に全英2位のスーパーグループ、Sainsbury’sに買収され、現在は737店となり、うち336店はSainsbury’s内の店舗となります。SainsBury’s自体でもネットスーパーや衣料品ECを展開していましたが、Argosが加わり、店舗受取や、店舗間の物流網など、グループに大きく貢献しており、改革プログラムの中で約392億円の改善効果を生んでいます。うちピッキングシステムやレジ精算では、約160億円近いコスト削減の効果を生み出しています。

現在は5か所のLFC(ローカルフルフィルメントセンター)を展開していますが、さらに9つのLFCを開設する予定となっています。Argos自体の売上は見つけられませんでしたが、英国で3番目にアクセス数の多い小売Webサイトであり、売上の80%がオンラインである、とAnnualReportに書かれていました。

今後、コロナ禍での両企業の進化を、この目で是非確認してきたいと思っています。

2.コロナ禍以前は手探りのデジタル化だった、フランス、ドイツ

フランスには、2018年「Paris Retail Week」に参加するため訪問しました。新婚旅行で行って以来、20数年ぶりの訪問でした。

当時のパリでは、それほどデジタル化が進んでいる印象は受けませんでしたが、ホームセンターでのクリック&コレクト、アロマショップでのクリック&コレクトと調合体験予約など、少しずつデジタルが取り込まれている感じでした。既存の店舗が持つブランドや利便性、顧客の利用シーンを重視しながら、手探りで活用出来るデジタルの仕組みを取り入れていく、という思考が感じ取れました。

ドイツは2016年と2017年に、ケルンで開催された「DMEXICO(ドメシコ)」というマーケティングカンファレンスに参加するため訪問し、あわせて現地小売の体験視察を行いました。

ドイツには、Aldi(アルディ)、Lidl(リドル)という、世界展開のディスカウントストアチェーンがあります。Rewe(レーベ)などのスーパーもネットスーパー事業を展開していますが、訪問当時はエリアもそれほど広くなく、一方でこうしたディスカウントストアが占める市場規模が非常に大きいものでした。しかしディスカウントストアでは利益率が低いため、デジタルの導入にあまり積極的ではありませんでした。

コロナ禍でアメリカに展開しているAldiでは、ネットスーパーのサービスをインスタカートなど買い物代行を通じて展開しましたが、消費者が負担するコストもAldiが負担するコストも大きく、結局その利用が広がる事はありませんでした。ただし、ディスカウントストア特有の事情としてまとめ買い客が多く、レジ通過対策となりました。商品の各面に大きくバーコードを掲示することで商品スキャンをスムーズにし、一客あたりのバスケット商品数が多くてもレジ通過を早めるという、PBならではの取組みとなりました。

両国ともコロナが明けてどう変化しているのか、また見に行きたいと思います。

3.新しい取り組みを次々とPoCする、中国小売市場

中国には、2011年と2018年に上海を中心に2回訪問し、小売企業在籍での出張や視察ツアーで、当時のオムニチャネル状況を体験してきました。その後は2021年に、日本オムニチャネル協会のセミナーで中国在住の流通経済研究所李雪先生にご登壇いただき、ディスカッションさせていただく中で、中国小売の近況を伺いました。

私が上海を訪問したのは、キャッシュレスが進化していた時代でした。上海等の都市部では、AlipayやWeChatペイ無しには生活し辛い程の状況でした。電車に乗るにも自販機を使うにも硬貨が使えず、電子マネー決済なのです。このプラットフォームは決済機能だけに留まらず、各小売や飲食などのアプリを取り込む「ミニアプリ」という機能がありました。

消費者が各社のアプリをインストールするのは利用時ですが、登録情報も多くて手間も時間もかかり、断念してしまう事も多いと思います。WeChatのミニアプリであれば、WeChatペイに登録されている情報はそのまま引き継がれ、すぐに各社アプリの事前オーダーやクーポンサービスが使えるようになっています。日本でもその後、LINEなどのプラットフォームアプリに導入されました。

当時話題になっていたのがアリババ傘下のスーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーシェンシェン)」。クイックコマースを組み込んだネットスーパーサービスや、顧客が店頭で読み取った商品バーコードリストから宅配サービスなど、先進的な仕組みが取り入れられていました。“フーマー”のサービスは、その後も進化し続けていると聞いています。

2021年の李雪先生のお話では、中国ではコロナ禍で食品ECへの需要が高まり、既存店舗企業はフーマーのような“即時小売”=クイックコマースに取り組んでいるそうです。また、新興EC企業は、店舗倉庫一体型EC、倉庫型生鮮EC、住宅地共同購入型ECなどに取り組んでいます。

2020年度の中国宅配取扱個数は955億個、即時物流の取扱個数は313億6,000万個と、相当の数になってきています。特に都市部では「毎日優鮮」のように全国20都市に約1,500の“前置倉庫”を持ち、注文から1~2時間以内に配送する、即時物流と店舗、倉庫を組み合わせたモデルが増えています。住宅地型では「興盛優選」のようにSNSを併用し店舗に取りに来てもらうモデルとなっており、流通総額は2020年で300億元、約4,800億円だそうです。

中国はとにかく新しい取り組みを次々に試し、市場でのPoCが頻繁に行われていて、生き残るものと止めるものがある。それが小売のみならず、飲食等、様々な業種で展開されています。また久々に中国に行き、この目でその変化と紆余曲折を確かめてみたいものです。

逸見 光次郎

執筆者プロフィール
逸⾒ 光次郎 Adviser(アドバイザー)

三省堂書店店舗勤務、ソフトバンク・イー・コマースのちセブンネットショッピング立ち上げ、アマゾンジャパンBooksMD、イオンにてネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長としてオムニチャネル化推進を経て独立。
株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント。日本オムニチャネル協会理事、防音専門ピアリビング取締役等を兼務。
店舗とネットを融合し、顧客満足を高める買い物の楽しさを追求し続けている。

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