プリズマジャーナルTOPその場で売らない、支払わない、接客しない。“当たり前”を無くすことで生み出される価値とは [今月の注目ニュース]

その場で売らない、支払わない、接客しない。“当たり前”を無くすことで生み出される価値とは [今月の注目ニュース]

今まで当然のようにやっていた、「選ぶ」「レジで支払う」「袋詰めをして持ち帰る」という購買行動の一部を無くし、新たな価値を付加する動きが加速しています。今回は様々なスマートストアの事例を取り上げ、顧客に対して、また事業上どんな価値を生み出しているのか見ていきます。

小売り×DXの気になるニュースを、リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントがチョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。今回は業務・システムコンサルタントの加藤が「スマートストア」にまつわる取り組みをチョイス。顧客のロイヤリティ向上施策に向き合う実務家の視点から、コメントを交えて業界の潮流をご紹介します。

1.「顧客に似合う服を選ぶ」に特化した店舗、niaulab(似合うラボ)

●ZOZOが服を売らないリアル店舗「似合うラボ」を表参道にオープン
●AIによるコーディネート提案に加えて、スタイリストからの提案も行う、超パーソナルスタイリングサービス「niaulab by ZOZO」を開始
●店舗で得られた知見を、ZOZOTOWN、WEAR等、既存サービス利便性向上につなげる

「知る」「興味を持つ」「買う」という購買行動の流れのうち、「知る」「興味を持つ」という2つに特化することで、他社との差別化を実現している事例です。

ここで重要なのは、他購買チャンネルの選択肢がある中、「購入に至る情報提供」に価値を見出している点です。「その場で“物”が手に入る」という喜びを上回る、「より良いものが選べる」という喜びを提供できる。その自信があるからこそ成り立つ施策だと言えます。

このやり方を突き詰めていくと、「商品」ではなく「販売チャネル」を顧客に選んでもらうことになっていきます。「買う」より前のプロセスに、敢えてリソースを重点投下することで、購買行動を「~“を”買う」から「~“で”買う」と変えていく。そんな可能性を秘めている事例だと思います。

2.NTTグループがICT活用で「無人店舗」実現、過疎地域を市場化

●NTTグループのテルウェル東日本がスマートストア事業を開始
●地方都市型スマートシティの社会実装に向けて山形県長井市に無人店舗を設置
●人口減少に伴い低下していく、地域の“買い物機能”維持を目指す

店舗接客やスタッフ無人化については、自動販売機のみのコンビニエンスストアを始め、これまで様々な取り組みがありました。近年では、技術の進化により身近な存在になってきたように感じます。

NTTグループ会社のスマートストア事業は、ICT活用により店舗を無人化し、“接客”という工程を無くすことで、コスト面や従業員確保のハードルを乗り越え、顧客に選択肢を提供することを可能にしました。小売り事業者に対しては、これまで市場として成り立たなかった地域や時間帯を市場化する、という事業価値を生み出しています。

先述の「niaulab」事例とは真逆の方向性とも言える、対照的な事例ですね。過疎地域などでは購買チャネルの選択肢が他になく、また比較的、接客段階での情報提供で差別化のしにくい商品を取り扱うからこそ、フィットする施策と言えるかもしれません。

3.「スマホでオーダー&ロボットがピッキング」で無人店舗を実現

●KDDIとROMSが、クイックコマース向けRCS1号店を渋谷にオープン
●モバイルオーダーを受けて商品のピッキング&袋詰めをロボットが対応
●配達員および購入者は店舗で商品を受け取ることができる

店舗では商品のピッキングから袋詰めまでを機械が行い、顧客は「受け取る」だけに特化した店舗の例です。選ぶのはWEB、受け取りは実店舗、という「BOPIS」の最も極まった事例ではないでしょうか。

店舗の開店準備段階では、機械への投資が必要ですし、継続的なメンテナンスも求められるでしょう。既存店舗とは異なる点が様々に想像されることから、非常に実験的な取り組みであると言えます。

今後の取り扱い商品数の発展次第ではありますが、このやり方が広まっていけば、前述の過疎地域などでも“買う”機能の選択肢提供が可能になります。また「利便性」を最大限追求することで購買行動を「~“を”買う」から「~“で”買う」に変化させることが出来る。今後の展開に可能性を感じる取り組みです。

4.まとめ

今回紹介した3つの事例は、いわゆる辞書に定義されている「スマートストア」とは、少しズレるところもあったかもしれません。IT、ICT、AIなどの技術を取り入れることで、これまで当然のようにやってきた購買行動そのものを変える取り組みを紹介しました。

これまで様々な取り組みがありましたが、とかく事業コストの圧縮など、“削減”の文脈で語られがちです。その取り組みが「顧客にとって価値があるか」突き詰めて考えられたもので無い限り、結果的に顧客にとって必要な存在になり得ず、一過性の取り組みに終わってしまいます。

今回紹介したような、新たな顧客価値を提供している事例が、顧客にどのように受け入れられていくのか、今後も注目していきたいと思います。

(構成・編集=プリズマ編集部)

加藤 彰浩

加藤 彰浩
(業務・システムコンサルタント)

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンを経て、2006年にベネッセコーポレーションに入社。採点サービスの物流基盤デジタル化プロジェクトを皮切りに、新規サービス立ち上げおよび既存サービスの維持・改訂におけるPM/PMOや商品責任者として、戦略立案から企画推進、システム開発、業務運用構築までを一貫して手掛ける。2022年11月クラスメソッドに参画。prismatixのコンサルタントを担当。

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