「SNSで話題になっても、一度きりで終わってしまう」「アプリをダウンロードしてもらえない」—多くの小売事業者が抱えるこうした悩みに対し、EC化率40%を誇り、3COINSなどを展開する株式会社パルの実践事例が明快な答えを示しています。60ブランドを束ねる自社ECモール「PAL CLOSET(パルクローゼット)」を舞台に、SNS・アプリ・店舗・ECを横断したCRM戦略、スタッフ個人発信の仕組み化、パーソナライゼーションの実装まで、その全貌をお届けします。
本記事では、プリズマティクスセミナー「事例で学ぶ!顧客体験の最前線~デジタル・AI時代の顧客接点とロイヤルティプログラムの再考~」にて、株式会社パル 取締役専務執行役員 堀田 覚氏をお迎えしたセッション内容にフォーカスしてご紹介します。
顧客理解やパーソナライズなコミュニケーション施策の企画について実践的知識・スキルを得たい方、ロイヤルティプログラムなど会員増加のための具体的な施策を検討している方、AI時代ならではの顧客接点について、海外を含めた最新事例を知りたい方のご参考になれば幸いです。
【堀田 覚氏プロフィール】
大学卒業後、三陽商会に入社、婦人服の営業にはじまりVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)やMD、ブランド責任者を経験。2009年、ハースト婦人画報社に入社。メディアコマースサイト「ELLE SHOP」の立ち上げとMDとマーケティング責任者として事業の成長に注力。2014年 パルに入社。現在は、取締役専務執行役員であり、パルプロモーション推進部部長 WEB事業推進室室長 コミュニケーションデザイン室室長EC、WEBシステム、プロモーション、SNS、CRM、DBマネジメントなどを管掌。
目次
1.パルが実践するCRM戦略の全体像とオムニチャネルの設計思想 2.SNSとスタッフ発信が生み出す新たな顧客接点とエンゲージメント戦略 3.アプリとLINEの戦略的使い分けと1200万人会員基盤の作り方 4.店舗体験とLTVの相関関係—オフライン接点がもたらす顧客深化の実態 5.最後に1.パルが実践するCRM戦略の全体像とオムニチャネルの設計思想
60ブランドを束ねる自社ECモール「PAL CLOSET(パルクローゼット)」の誕生背景
株式会社パルは、1973年に大阪で創業した企業で、現在は60ブランド近くを展開しています。その最大の特徴は、ブランドの多くが現場スタッフの自発的な提案から生まれた点にあります。「マーケットイン」という考え方を大切にしながら、お客様との距離を縮めることを経営の根幹に据えています。
60のブランドはそれぞれ独立して生まれてきますが、「PAL CLOSET(パルクローゼット)」というサイトおよびアプリがそれらを束ねる自社ECモールとして機能しています。会員組織やアプリ・Webの環境はすべてこの統一されたプラットフォームの中に収められており、ブランドをまたいだ顧客体験の一元管理が実現されています。
SNS・アプリ・店舗・ECを結ぶCRMの全体像とチャネル設計の考え方
パルのCRM設計図は、SNSを最上位に置き、そこから店舗・EC・アプリへと顧客を誘導する構造になっています。2014年のEC統括着任以来、この「SNSを入口とした多層的な顧客接点」の設計思想は一貫して変わっていません。
SNSは新規顧客との出会いの場、アプリや店舗はエンゲージメントを深める場として明確に役割が分担されています。そして、複数のチャネルを横断して体験したお客様ほどLTV(顧客生涯価値)が高くなるというデータが、この設計の正しさを裏付けています。

2.SNSとスタッフ発信が生み出す新たな顧客接点とエンゲージメント戦略
ブランドアカウントではなくスタッフ個人が発信する理由
パルがSNSで特に重視しているのは、ブランドの公式アカウントよりも「スタッフ個人のアカウント」での発信です。その背景には、SNSは「嘘がつけないメディア」という認識があります。宣伝っぽい投稿や頼まれて発信しているような投稿は、見ている人が無意識に気づいてしまうからです。
パルのスタッフの多くは、もともとそのブランドのファンだった人が店員になったケースが多く、「消費者としてお客様のことを一番分かっている立場」から接客できることが強みです。自分が本当に良いと思っていること、楽しんで発信していることが伝わることで、SNSのエンゲージメントが高まっています。
スタッフSNS発信の仕組み化と現場巻き込みのステップ
スタッフの自発的な発信が組織的に広がっていった背景には、約10年前にさかのぼる地道な取り組みがあります。Instagramが登場した2012〜2013年ごろ、すでに自力でフォロワーを1〜2万人獲得しているスタッフが社内に数名存在していました。その成功事例をノウハウ化し、「AさんができるならBさんもできる」という再現性を示すことが最初のステップでした。
その後、全国の店舗を回って考え方を伝える「寺子屋」的な啓発活動を行い、さらに評価制度・インセンティブ設計・データ分析基盤の整備へと段階的に進化させてきました。現在はすべてのスタッフのSNSデータをAPIで取得し、何が最適な投稿のあり方かをリアルタイムで分析・共有できる仕組みになっています。
スタッフ発信の「共感軸」と接客スキルとの深い関係性
スタッフ発信の成功の鍵は「共感軸」にあります。いわゆるインスタ映えの時代は終わり、今は「分かる」「私も同じ」という共感が動画・投稿を伸ばす時代になっています。SNSプラットフォームはエンゲージメントが高い投稿を優先的に拡散するため、お客様の反応を高めることが不可欠です。
注目すべきは、「SNSが上手いスタッフは接客も上手い」という現場の実感です。お客様のインサイトを理解し、ブランドが伝えたいことをお客様の視点に変換する力—それはSNS発信でも店頭接客でも同じ能力が求められています。SNSと接客は今や一体化してきており、「伝える力」がビジネスの成否を分けるとパルは認識しています。
3.アプリとLINEの戦略的使い分けと1200万人会員基盤の作り方
ECおよびアプリの成長実績と自社EC比率向上のプロセス
パルのEC全体の売上比率は、参入当初の5%から現在は約40%にまで拡大しています。今後4年でEC全体1000億円を目標に掲げており、自社ECのさらなる比率向上も視野に入っています。
自社ECの比率を高めるにあたって最初に取り組んだのは、ZOZO TOWNなどサードパーティーのモールでの成功体験の積み上げでした。「自社ECを伸ばすのは大変」という現実を踏まえ、まずモールで成功事例と経験値を蓄積し、そこで得たノウハウをパルの強みと組み合わせながら自社ECへと展開していくというアプローチを取りました。
アプリ会員1200万人超を「広告なし」で積み上げられた理由
「PAL CLOSET(パルクローゼット)」のアプリダウンロード数は現在約870万〜900万弱、会員数は1200万人超(2025年時点)に達しています。注目すべきは、この数字が広告費をほぼかけずに積み上げられた点です。
「アプリの素晴らしさを知らない人に広告を打っても意味がない」という考え方に基づき、パルではすべて店舗スタッフが一人ひとり手渡しで紹介することでアプリを普及させてきました。ブランドや店舗を体験した後でアプリを勧める、という順番を徹底することで、エンゲージメントの高いユーザー基盤が形成されています。
ネイティブアプリとLINEミニアプリの役割の違いと使い分け戦略
パルではネイティブアプリとLINEミニアプリを並行して運用しています。両者の位置づけは以下の通りです。
| 項目 | ネイティブアプリ | LINEミニアプリ |
| 主な役割 | リピート・エンゲージメント強化の中心ツール | ネイティブアプリのライト版・入口 |
| ターゲット | 体験済み・ブランドファンのお客様 | アプリをダウンロードしたくないライト層 |
| 体験の質 | リッチなUI/UXを提供 | Webに近いシンプルな体験 |
| 獲得方法 | 店舗スタッフが直接紹介 | 店頭でQRコードなどで手軽に案内 |
| 優先順位 | 第一優先 | 取りこぼし防止のための受け皿 |
本音としてはネイティブアプリを使ってほしいが、「アプリを増やしたくない」「インストールが面倒」というお客様にはLINEミニアプリを勧めることで、取りこぼしを防ぐという考え方です。ライトなお客様がLINEから入り、ヘビーユーザーになっていく過程でネイティブアプリへ移行してもらうことを理想としています。
4.店舗体験とLTVの相関関係—オフライン接点がもたらす顧客深化の実態
コロナ禍で浮き彫りになった「EC単体体験」の限界と店舗の価値再発見
コロナ禍でECの売上が急拡大した一方で、「店舗体験をしていないお客様の関係性が1回で終わってしまう」という課題が顕在化しました。SNS・EC・アプリだけの接点では、エンゲージメントが薄く「どこかで一度買った」という記憶だけが残り、やがて忘れられてしまうケースが多発しました。
特に、SNS経由でWebで1回だけ購入し、メールアドレスもアプリも取得できていない状態は「忘れられるパターン」の典型です。この反省から、いかにお客様を店舗へ誘導し、そこで深い体験をしてもらうかが戦略の核心に位置づけられるようになりました。
EC・SNS・店舗の複合接点がLTVを最大化するというデータの実態
「ECだけで購入するお客様よりも、店舗にも来ていただいたお客様のほうが圧倒的にLTVが長くなる」—これはパルの現場で実感されているデータ上の事実です。店舗でブランドの全体像を体験し、商品の質感や世界観に触れることで、ECだけでは得られない「深い記憶」が形成されます。
また、ファッションブランドの場合、試着を伴う購買体験(特にパンツなど)でも同様の傾向があり、オフライン体験がLTVに与える影響は大きいといえます。ECと店舗の両方を活用するお客様が最もLTVが高く、アプリも含めた多チャネル体験の掛け合わせが理想的な状態とされています。
EC化率40%における店舗とECの「最適な共存バランス」
現在、ファッション系ブランドにおけるEC化率はすでに40%に達しています。しかしパルでは、これを50%や60%にまで高めることが必ずしも最善とは考えていません。ECビジネスには「良い時は急激に伸びるが、落ちるスピードも非常に速い」というボラティリティの高さがあり、エンゲージメントの低さがリピート率の低下を招くからです。
店舗ビジネスは「自力が強い」という認識であり、ECと店舗が相互補完しながら共存する形が、パルのスタイルに最も合っていると判断されています。何百億円規模のブランドを目指すためには、ECだけでは難しく、店舗という強固な体験基盤と組み合わせることが不可欠です。
5.最後に
今回は、プリズマティクスセミナー「事例で学ぶ!顧客体験の最前線~デジタル・AI時代の顧客接点とロイヤルティプログラムの再考~」にて、『3COINSのパルが目指す、「モバイルアプリ・LINEによる顧客接点」と「AIとデータ活用」で創る次世代顧客体験』というセッションタイトルで堀田氏にご登壇いただいた内容をご紹介しました。
パルの取組みで特に新たな気づきとなったのは、広告費をかけずに1200万人の会員基盤を築いた「手渡しでのアプリ紹介」という逆転の発想です。数を追うより体験の深さを優先するという考え方は、デジタルマーケティングの常識を問い直させるものでした。
パルの事例から学べることとしては、オムニチャネルをデータで証明できる点(EC+店舗体験でLTVが最も高いというファクト)、EC化率を際限なく高めることへの冷静な視点、LINEミニアプリを「取りこぼし防止の受け皿」として明快に位置づける役割設計の考え方が挙げられます。また、スタッフ個人のSNS発信を通じた共感軸のマーケティングや、「SNSが上手いスタッフは接客も上手い」というデジタルとリアルのスキルの同一性も、実践から得られた重要な示唆でした。
また「チャネルを横断した顧客体験設計とLTVの可視化」、「社員の発信力を組織的に磨く仕組みづくり」、「新しいツール導入時の優先順位の設計思想」については、自社でも取り入れられると感じました。
尚、クラスメソッドおよびプリズマティクスは、小売企業が抱える様々な課題に対し包括的に支援します。今回のセミナーにご登壇いただいた株式会社パル様の支援事例記事も公開しております。是非ご覧ください。


「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。
『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。
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