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顧客の「熱量」を育成する

多くの企業が「どうやって顧客の利用頻度を高めるのか」を課題とされています。
そのためには「顧客の熱量」を高めていく必要がありますが、今回は業種毎の違いを踏まえて解説していきたいと思います。

1. 業種毎に異なる「熱量」育成のアプローチ

顧客の熱量を育成するには、業種ごとに異なるアプローチが必要です。特に「憧れ」を喚起しやすいブランドやサービスでは、顧客の関心を徐々に高めながら、深い愛着や共感を育てていくことが可能です。

たとえば、有名なキャラクターや独自の世界観を持つブランドでは、ヘビーユーザーを中心にUGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用することで、自然と周囲の潜在層に気づきを与え、やがて大きなファンコミュニティへと成長していきます。顧客の日常にブランドが溶け込み、身につけるもの、愛用するものとして選ばれるようになるのです。

さらに、幼少期・学生時代・社会人・家庭を持った後といったライフステージの変化に応じて、再び熱量が高まるような体験設計が求められます。これは、長期的な視点で顧客との関係性を築くために非常に重要です。

スポーツチームやアーティストのファン育成も、こうした熱量形成の好例です。全国規模での展開が難しい場合でも、地域密着型で既存顧客との接点を増やし、質の高いヘビーユーザーを育てることで、高いエンゲージメントを実現しています。

アパレル・耐久消費財の課題と可能性

アパレル業界、とりわけ世界観を強みにするブランドは、顧客からの愛着を得やすい一方で、「飽きられやすい」という課題も抱えています。トレンドの移り変わりが早く、ブランドロイヤルティの維持が難しい業種です。

また、靴・メガネ・鞄といった耐久消費財は、購入頻度が低く、使用期間が長いため、販売後の顧客接点が希薄になりがちです。こうした商品では、「使用中」にどのような接点を設けるかが、熱量育成の鍵となります。
具体的な施策としては以下のようなものが考えられます。

・定期メンテナンスの案内(靴磨き、フレーム調整、バッグのリペアなど)
・コーディネートや使い方の提案コンテンツの提供
・購入履歴に基づいたパーソナライズされた情報の配信
・使用シーンのUGC促進(SNS投稿のリポストなど)

使用中に「このブランドを選んでよかった」と感じてもらえる体験を提供することで、次回の購買や他者への紹介につながる熱量を育てることができます。

憧れがない業種での熱量育成

では、「憧れ」ではなく、生活上で必要とされるブランド・サービスの場合はどうでしょうか。この領域においては、企業担当者が顧客の熱量育成に悩むケースが多く見受けられます。

特に、非日常的なサービス(例:冠婚葬祭など)は、必要なときにしか接点が生まれないため、トップ・オブ・マインドとして認知されること自体が難しいという課題があります。

こうした業種では、会員制度やポイントサービスなど、横断的に使える仕組みを通じて、「この企業のサービスなら安心できる」「便利だから使い続けたい」といった錯覚的な信頼や親近感を育てることが重要です。

ただし、新規事業を拡張することは簡単ではありません。既存サービスの範囲内で、いかに顧客との接点を設計し、熱量を育てていくかが問われます。

2. 顧客の熱量は「接点の質」で育つ

生活必需型や非日常型のサービスでは、顧客との接点が限られている、あるいは頻度が低いという課題があります。だからこそ、限られた接点において「質」を高めることが非常に重要です。

たとえば、カスタマーサポートの品質を徹底的に高めることで、「この企業は信頼できる」という印象を与えることができます。顧客が困ったときに迅速かつ親身に対応するだけで、次回の利用や紹介につながる深い印象を残すことが可能です。

また、LINE公式アカウントやメールマガジンなどを活用し、定期的にライフスタイルに寄り添った情報を提供することで、「この企業は自分のことを理解してくれている」と感じてもらえるようになります。

3. 小さな成功体験の積み重ねが熱量を生む

顧客の熱量は、必ずしも一度の大きな感動体験から生まれるわけではありません。むしろ、日常の中での「小さな成功体験」の積み重ねこそが、信頼と好感を育て、やがて熱量へと変わっていきます。

たとえば、アプリでの予約や注文がスムーズにできた、ポイントが思ったより貯まっていた、ちょっとした特典が嬉しかった――こうした体験が「便利だった」「使っていて気持ちが良い」という感覚を生み出します。

この積み重ねが、やがて「このサービスは自分にとって必要なもの」「信頼できるブランド」として、ロイヤルカスタマーへと育っていくのです。

4. サービスに「意味」を与える

感情的なつながりを築きにくい業種では、サービスに「意味づけ」を与えることが有効です。たとえば、環境に配慮した取り組みや、地域社会への貢献など、企業としての姿勢を明確に打ち出すことで、顧客との共感が生まれます。

「このブランドを選ぶことが、社会のためになる」「自分の価値観と合っている」と感じてもらうことで、単なる機能や価格以上の価値を提供することができ、熱量の高い支持を得ることが可能になります。

5. 顧客の声を聞き、共に創る

顧客の意見を積極的に取り入れ、それをサービスや商品に反映させる姿勢も、熱量育成において非常に重要です。

アンケート、SNS、レビューサイトなどを通じて顧客の声を拾い、「対応した」「改善した」というフィードバックを返すことで、顧客は「自分が企業と関わっている」と実感できます。

この「自分ごと化」こそが、顧客の熱量を高める最大のポイントです。自分の意見がサービスに活かされていると感じた瞬間、顧客は単なる利用者から「応援者」へと変わります。

6. まとめ:顧客の熱量を育てる4つの共通原則

業種ごとにアプローチは異なるものの、顧客の熱量を育てるために共通して意識すべきポイントは以下の4つです。

・顧客との接点を「継続的」に設計すること
・商品やサービスに「意味」や「ストーリー」を持たせること
・顧客の声を拾い、反映し、可視化すること
・顧客自身が「ブランドの一部」として参加できる仕組みをつくること

顧客の熱量は、企業が一方的に提供する価値だけでは生まれません。顧客がブランドやサービスを「自分ごと」として捉え、自ら関わり、発信し、共に育てていくことで、初めて本質的な熱量が生まれます。業種や業態に関係なく、「顧客とどのように共に歩むか」を本気で考えること。それこそが、これからの時代におけるブランド価値の源泉となるのです。

以上が、「顧客の熱量を育成する」ための考察と実践的アプローチです。

清水 圭介

執筆者プロフィール

清水 圭介
コンサルタント

株式会社EPARKを経て、2018年に物語コーポレーションに入社。外食チェーンストア(焼肉きんぐ・丸源ラーメン・ゆず庵)におけるデジタルマーケティング・DXの部門を立ち上げ、OMO構想からCDP構築を軸にアプリ・web開発からマーケティングまで網羅した戦略立案・企画推進、開発からマーケティング運用を担う。2021年にレインズインターナショナルに入社。デジタルマーケティング部の部長として、牛角・温野菜を中心にCDP構築・web広告・順番受付開発運用などを担う。2023年9月クラスメソッドに参画。

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