
企業がマーケティング活動を進めるうえで、顧客インサイトの概念が欠かせません。顧客インサイトを適切に把握することで、商品やサービスなどを訴求しやすくなります。
本記事では、顧客インサイトの定義やニーズとの違い、見つけ方や分析のポイント、実際の成功事例、活用時の注意点まで解説します。
1.顧客インサイトとは
まずは顧客インサイトの概要や混同しやすい顧客ニーズとの違いなどを解説します。
顧客インサイトと顧客ニーズの違いは?
顧客ニーズとは、顧客が自覚している「欲しいもの」や「必要だと感じていること」を意味します。これには、本人が明確に言語化できる「顕在ニーズ」と、質問や観察を通じて引き出せる「潜在ニーズ」が含まれます。
一方、顧客インサイトとは、顧客本人も気づいていない無意識の動機や深層心理を指します。インサイトは、単なる要望や希望を超えた「なぜその行動を取るのか」という根本的な理由であり、企業が新しい価値を創出したり差別化を図るうえで不可欠な視点です。
インサイトを見抜くことで、競合他社が気づいていない独自の価値提案が可能になり、顧客との強固な関係構築にもつながります。
なぜ顧客インサイトが注目されているのか
現代の市場は商品やサービスの飽和が進み、従来の「顕在ニーズ」だけでは差別化が難しくなっています。そこで、顧客の深層心理に根ざしたインサイトを捉えることが競争優位性の獲得や新たな市場ニーズの発見につながると注目されています。
顧客インサイトを活用することで、顧客の本当に求める価値を提供し、満足度やロイヤルティの向上、さらにはビジネスの成長を実現できます。
加えて、インサイトに基づく商品やサービスは、顧客の期待を超える驚きや感動を生み出しやすく、ブランドへの愛着や信頼も高まる傾向があります。
2.顧客インサイトの見つけ方と手順
顧客インサイトを見つけるには、表層的なデータだけでなく、顧客の行動や心理の奥深くまで掘り下げる多角的なアプローチが必要です。ここでは、実践的な5つのステップを解説します。
ステップ1:データ収集
インサイトを見つける際は、顧客の声や行動を多面的に集めることからスタートします。
手法 | 特徴・活用ポイント |
アンケート調査 | ・多人数から幅広い意見や傾向を集める ・選択式で傾向を把握し、自由記述で本音やヒントを得るのが有効である |
インタビュー調査 | ・1対1のデプスインタビューやグループインタビューで深層心理や本音を引き出す ・個人の動機を深掘りできる |
行動観察調査(エスノグラフィ) | ・顧客の日常環境での行動や購買プロセスを観察する ・無意識の習慣や選択行動からインサイトを発見できる |
SNS・レビュー・問い合わせ | ・SNSやレビューサイト、カスタマーサポートへの問い合わせ内容もリアルな顧客の声として活用できる |
上表の方法を組み合わせて、さまざまな角度から情報を収集しましょう。
ステップ2:データ分析
集めたデータは、定量データと定性データの両面から分析します。主な分析ポイントをまとめました。
分析手法 | 内容・ポイント |
定量データ | アンケートやアクセス解析など数値化された情報で全体傾向や特徴を把握 |
定性データ | インタビューや観察記録、自由記述から顧客の動機や感情を深掘り |
矛盾点への着目 | 発言と行動の食い違いに注目し、背後に隠れたインサイトを発見 |
多角的な分析によって、単なる傾向だけでなく、顧客の本音や無意識の動機を明らかにできます。
ステップ3:フレームワークによる顧客インサイトの発掘
分析をより深めるための代表的なフレームワークをまとめました。
フレームワーク | 活用方法・ポイント |
共感マップ | 顧客の「見ていること」「聞いていること」「考えていること」「感じていること」を整理し、感情や思考を可視化 |
カスタマージャーニーマップ | 商品やサービスの出会いから購入・利用までの体験を時系列で整理し、各タッチポイントでの心理や行動を分析 |
N1分析 | 1人の顧客の行動や心理を徹底的に深掘りし、得られた気づきを他の顧客にも当てはめて検証 |
これらのフレームワークを活用することで、チーム全体で顧客理解を深めやすくなります。
ステップ4:検証
発見したインサイトが本当に多くの顧客に当てはまるか、アンケートや追加調査で検証します。定性調査で得た仮説を定量調査で裏付けることで、戦略の精度を高めます。検証の過程で新たな発見があれば、分析手法や仮説自体を柔軟に見直す姿勢も大切です。
ステップ5:継続的な顧客への理解
市場や顧客の価値観は常に変化します。インサイトも一度発掘して終わりではなく、継続的にデータ収集・分析を行い、顧客理解をアップデートし続けることが重要です。社内で定期的に顧客インサイトを共有する仕組みを作ることで、組織全体のマーケティング力が向上します。
3.顧客インサイトを見つけるポイント
顧客インサイトの発見には、単なるデータ分析だけでなく、顧客の行動や心理の背後にある本質を見抜く視点が求められます。ここでは、実践的な6つの視点を紹介します。
手段から目的を探る
顧客が選ぶ「手段」だけでなく、その背後にある「目的」や「本当に解決したい課題」を理解しましょう。たとえば、ある商品を「時短」のために選ぶ場合、実際には「自分の時間を大切にしたい」「家族との時間を増やしたい」といった根本的な欲求が隠れているケースがあります。
この目的に着目することで、より本質的なインサイトを発見できます。目的を明確にすることで、商品やサービスの訴求ポイントもより明確になります。
現象から原因を探る
顧客の行動や反応という「現象」のみを追うのではなく、その背後にある「原因」を掘り下げます。
たとえば、特定の商品が選ばれない場合、価格やデザイン以外に「使い方が分かりづらい」「ブランドへの信頼が薄い」といった深層の原因が隠れていることもあります。表面的な現象だけで判断せず、なぜその行動が起きるのかを深く追求する姿勢が求められます。
人間の普遍的な欲求から探る
時代や環境が変わっても変わらない「生存」「安全」「承認」「快適さ」など、人間の根源的な欲求に着目するのもポイントです。
これらの欲求は、購買行動の強いドライバーとなるため、商品やサービスがどの欲求を満たしているのかを意識して分析することが重要です。普遍的な欲求に寄り添うことで、長期的な顧客ロイヤルティの向上にもつながります。
ポジティブとネガティブから探る
顧客の「好き」「便利」といったポジティブな反応だけでなく、「不満」「不便」といったネガティブな反応にも注目します。ネガティブな意見やクレームの中にこそ、顧客の本音や新たな価値創造のヒントが隠れている場合があります。
ポジティブ・ネガティブ双方の声をバランスよく分析することで、より多角的なインサイトが得られるでしょう。
矛盾から探る
顧客の言動や意見に矛盾が見られる場合、その裏に本音や隠れた欲求が存在することが多いです。たとえば、「健康に気を使っている」と言いながら高カロリーな商品を選ぶ場合、実は「ストレス発散」や「自分へのご褒美」といった別の動機が働いている可能性があります。
矛盾を見逃さず、背景にある心理を丁寧に分析することで、他社が気づかないインサイトにたどり着けます。
質問を重ねて回答を深掘りする
定性調査では、1回の質問で終わらせず、なぜそう思うのか、どうしてその行動を取ったのかを繰り返し深掘りします。その結果、表面的な回答の背後にある本質的な理由や感情を引き出せます。
たとえば、インタビューやヒアリングの際は、「それはなぜですか?」といった追加質問を意識的に行うことで、より深いインサイトにたどり着きやすくなります。
4.顧客インサイト分析の成功事例
顧客インサイトを活用した戦略は、多くの企業で成果を上げています。ここでは、代表的な国内企業の事例を紹介します。
スターバックスジャパン株式会社:モバイルオーダー&ペイの導入
スターバックスは、店舗の混雑や待ち時間に対する顧客のストレスというインサイトに着目し、モバイルオーダー&ペイを導入しました。その結果、顧客はスマートフォンから事前注文・決済ができ、店舗で待たずに商品を受け取れるようになりました。そして、顧客体験の質を向上させ、リピーターの増加と新規顧客の獲得につなげています。

カルビー株式会社:「かっぱえびせん」の新商品開発
カルビーは、オンラインコミュニティ「絶品部」を活用し、ファンの声を直接商品開発に反映しました。
消費者の「お酒に合う味を楽しみたい」というインサイトを捉え、コミュニティ内でアイデアを募り、試作品を提供して実際に試食会も実施しました。消費者の予想外の行動や本音に着目した商品開発がヒット商品を生み出した事例です。
ライオン株式会社:「トップ スーパーNANOX」の開発
ライオンは、洗濯用洗剤に対する「汚れ落ち」への不満や「匂い」に対する潜在的な不安に着目しました。徹底した行動観察や調査から、消費者が「見えない汚れ」や「再汚染」を気にしているというインサイトを発見しました。
これをもとに、繊維1本1本まで洗浄できる新技術を開発し、商品の差別化とブランド価値向上を実現しています。
日清食品株式会社:「カップヌードルリッチ」の成功
日清食品は、若者向けのイメージが強かったカップヌードルをシニア層の「美味しいものを贅沢に食べたい」という深層心理に着目して「カップヌードルリッチ」を開発しました。健康志向を超えた「美食」ニーズの発見が、7か月で1,400万個のヒットにつながっています。
参考:NISSIN
日本マクドナルド株式会社:「クォーターパウンダー」のマーケティング戦略
日本マクドナルドは「クォーターパウンダー」の販売戦略で、単なる大きさではなく顧客心理に訴えかけました。通常パティの約2.5倍の肉厚さを持つこの商品は、「ハンバーガーをナメているすべての人たちへ」という挑戦的なメッセージを掲げ、「ガッツリ食べたい」という顧客の隠れた欲求に応えています。
参考:BIG SMILE50
株式会社セイバン:ランドセルブランド「+CEL(セル)」の開発
セイバンは、ランドセル購入の決定者が子どもから親に変化している点に注目しました。親の「子どもの成長を見守りたい」「安心できるものを選びたい」という潜在的欲求を満たす商品設計とコミュニケーションを行い、ブランド価値を高めています。
参考:+CEL
5.顧客インサイトを活用するときの注意点
顧客インサイトを活用する際は、注意点もあります。これらを押さえることで、より効果的かつ持続的な顧客価値提供が可能になります。
過度の一般化を避ける
一部の顧客から得たインサイトを、すべての顧客に当てはめてしまうと、期待通りの効果が得られない場合があります。よって、必ずセグメント別の分析を行い、各グループの特性や違いを考慮した戦略を立てるようにしましょう。セグメントごとのインサイトを丁寧に抽出し、それぞれに最適な施策を設計することが成功のカギです。
倫理的な配慮が必要である
顧客のプライバシーや個人情報の適切な管理は不可欠です。また、ストレート過ぎる訴求や不安をあおる表現は、ブランドイメージを損なうリスクがあります。そこで、倫理的なガイドラインを設け、顧客の自律性や尊厳を尊重したマーケティングを心がけましょう。
組織全体での顧客理解の共有を行う
インサイトが特定の担当者や部門だけに留まると、全社的な顧客理解や施策の一貫性が損なわれます。定期的な情報共有や報告会を開催し、実際の顧客の声やデータを全社で共有する仕組みを作ることが大切です。組織全体で顧客理解を深めることで、より一体感のある顧客体験の提供が可能になります。
6.まとめ
本記事では、顧客インサイトの基本から見つけ方、成功事例、活用時の注意点まで解説しました。顧客インサイトを的確に捉えることで、顧客満足度やブランドロイヤルティの向上、競争優位性の確立が可能となります。
なお、顧客インサイトをビジネスに最大限活かすには、ターゲティングや施策の精度を高める仕組みが不可欠です。会員情報や会員のポイント、クーポンなど、複数チャネルのデータを一元化し効率よく顧客インサイトを得ることが必要になります。
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