
今回の記事では、事業会社におけるデジタル組織の設計とDX化を進める上でのステップを実例を交えながらまとめます。
一朝一夕に変革することはできませんが、まずは一歩を踏み出すことがなにより大事です。
自社のステージを点検し、まずは自ら行動してみましょう。
1.デジタル組織の設計
結論としては、縦割りの事業部制と横断的な機能組織を組み合わせた「マトリックス組織」が、現状では最も効果を発揮しやすいと考えます。
多くの企業では、デジタル関連の役割を情報システム部門が担い、基幹システムやサーバー管理、各部門で利用されるSaaSの運用、貸与PCの管理、新たな顧客接点となるアプリやECサイトの構築など、業務領域が幅広くなっています。
しかし、実際のメンバー構成は、「内製を重視してシステム部門をある程度大きくし、教育体制も整備する」ケースと、「少数精鋭でベンダー活用を中心に進める」ケースに分かれることも少なくありません。
DXの旗振り役をシステム部門が担っている企業は多いものの、「DX化を進めるぞ」という大枠の方針ばかりが先行し、具体的にどのシステムをいつまでにどうするのかが曖昧なまま日々の業務に追われている会社も多いのではないでしょうか。さらに電子帳簿保存法やインボイス制度などの大規模プロジェクトが重なると、DXの推進が後回しになってしまうのが現状かもしれません。
一方で、顧客接点の領域では、あらゆる技術革新や新サービスが導入されつつあります。ECプラットフォームやアプリ開発、LINEミニアプリ、データ基盤、MAツール、BIなど、オンライン・オフラインを問わずシームレスな体験を提供する重要性が増しているのです。
ところが、事業会社では従来の営業・店舗開発部門、商品・マーケティング・物流部門、人事・経理・経営企画など後方支援部門に加えて、システム部門が縦割りで配置されるケースが一般的でした。DXに取り組むと顧客接点に関係する部署が一気に増え、従来のようにユーザー部門とシステム担当者だけで意思決定を進めるのが難しくなります。
そこで、インフラや全社横断的なマスタ管理については従来どおりシステム部門が担いながら、お客様接点に直結するシステム担当については、できるだけ各事業部門やユーザー部門に近いポジションに置くことが理想です。そうすることで、専門知識を踏まえつつ意思決定スピードを高められ、顧客視点に沿った機能開発や運用を実現しやすくなります。
ただし、セキュリティや開発工数などの専門知識はシステム部門のサポートが必要になるため、これらをどう調整していくかが大きなポイントです。
マトリックス組織は、こうした役割分担やITガバナンスなどを総合的に考慮しながら設計する必要があります。
企業文化や方針によって責任範囲の定義が異なる場合もあるので、「一番よい箱の形を真似すれば済む」というわけではなく、自社に合った設計を目指すことが大切です。
2.手段が目的化する落とし穴
システムやアプリの開発など、いざプロジェクトを動かし始めると「何のために作るのか」を見失いがちになる瞬間が生じます。
最初の目的を忘れてしまい、「いつリリースできるか」にばかり目が行ってしまうのは手段が目的化してしまう典型例です。
ある事例として、ネイティブアプリを新たに開発し、マス広告からアプリへの集客へシフトしながらロイヤルティの高いお客さまへ1to1アプローチを行う計画を立てていた企業がありました。ところが、開発が遅れてしまうとリリース日程ばかりが話題になり、すべての必要機能が十分に備わらないままリリースを強行してしまったのです。
結果的に、広告投資の切り替えを想定していた集客策が十分に機能せず、当初の目的が果たせなくなってしまいました。
こういった事態を避けるためには、「何を最上位の目的とするのか」をプロジェクトの中心に据え、ロードマップと開発スケジュールを冷静に整理し続けることが欠かせません。たとえ何らかの遅れが生じても、最終的に顧客体験を高め、事業の価値を創出することをゴールに据えていれば、手段や工程の微調整はあっても、全体としてブレることなく進められます。
3.浸透のステップ:トップダウン → ボトムアップ → 継続利用
顧客がリアルとデジタルを行き来しながら商品やサービスを利用するのが当たり前になる一方で、現場の仕事は依然として「これまでのやり方を変えたくない」という心理が働きやすいものです。
たとえば、チャットツールを活用した業務が便利なのは多くの人が知っています。SlackやTeamsのようにPCとモバイルを同期し、ファイルをリアルタイムに共同編集できれば生産性が上がるはずです。しかし実際には、組織全体に広げようとすると「メッセージが多すぎて混乱する」「リアルタイム編集は慣れずに困る」などの声が聞こえてきます。日常生活ではスマホアプリを使いこなしていても、いざ仕事となると抵抗を感じる人が少なからずいるのです。
この抵抗を乗り越えて新しい取り組みを浸透させるためには、最初の号令としてトップダウンの方針が欠かせません。経営陣や管理職層が率先して使い始めることで、「会社としてこれを本気で推進している」という意志が全社に伝わります。
しかし、それだけでは根付かず、現場レベルでのボトムアップの取り組みが必要です。使い方のフォローやメリットの共有、アップデートを続けることで、じわじわと新しいツールや手法が浸透し、最終的には業務の標準形となるのです。
この過程は短期間では済まないことも多く、年単位の時間が必要なこともあります。だからこそ、地道な継続利用と改善こそがDX化への鍵となってきます。
4.まとめ
今後は、お客さまとの接点をいかにデジタルでもリアルでもシームレスにつなぐかが勝負どころになっていきます。
新しい仕組みやツールを導入して満足するのではなく、「本当に成果につながっているのか」を的確に検証し、改善し続けることが肝心です。そこで止まってしまうと、市場や競合に取り残される恐れがあるため、まさに今が正念場だと言えるでしょう。小さなレビューやユーザーの反応を拾い上げながら、継続的にブラッシュアップし、本当の意味で顧客体験を理解して対応できるかどうかが分かれ道となります。
繰り返しになりますが、現在のデジタル組織を考えるうえで重要なのは「顧客接点に合わせたシームレスな組織体制」を築くこと、そして「組織横断を推進できる強いリーダーシップを発揮できるか」の2点です。目先の利益や利便性だけを求めるのではなく、将来的な企業価値の向上を目指してDXに取り組む姿勢がいっそう求められています。
自社のステージを見極め、ぜひ実践に移してみてください。

執筆者プロフィール
板東 功太郎
コンサルタント
2001年イオングループのミニストップに入社。
営業現場および人事部門担当者およびMgrを経験した後、2015年から人事部長として人事制度・働き方改革、ダイバーシティ推進、採用、人材育成を実施。2019年から中国子会社社長として現地赴任し、DXが進んだ国で、コロナ禍の中で経営実務を担う。
2022年から執行役員商品統括本部長(マーケティング、サービス、物流、品質管理)として、主にデジタルマーケティングを推進。アプリのグロース、EC事業の立ち上げ、デジタルサイネージ導入、販促のDX化等を実施。2024年8月クラスメソッドに参画。
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