
皆さんは、周りの人が当然知っているはずだと思われていることを、実は理解していなかった経験はないでしょうか?そんな「今さら聞けない」疑問を解決するべく、小売業界での業務経験豊富なプリズマティクスのシニアコンサルタント金子にインタビューを行い紐解いていく記事シリーズです。
前回は、「データドリブン」を利用するためのビジネス理解を実務的な視点でお聞きし、顧客理解と洞察を深め、データと現場のギャップに対応し、さらには組織横断的な連携を図ることの重要性が明らかになりました。
今回はその続きとして、経営層の理解と組織変革について話を聞いていきます。
1.データドリブン経営を現場から変革する
データドリブン経営への転換は組織全体の大きな変革を必要とします。
前回お話したとおり、データドリブン経営の実現はトップの理解と現場の実践力の両輪が不可欠です。
しかし、現場レベルではその変革に苦心することも少なくありません。
中間管理職の立場で、どのように変革を推進していけばよいのでしょうか。
田中:ちなみに変わらない・変えられない状態の場合、金子さんがそこのミドル層だったとしたら、どうやって切り抜けますか。
金子:まず勝手にやれる範囲で結果を出して、その結果をもとに進める。当然全体の営業方針はあるし、店舗の運営方針もあるけど、それはそれとして、このエリアはこれを軸にやると宣言をして勝手に回す。結果うまく回り出して、横展開するところまではいく。
田中:その下準備というか、変わりそうな前兆が見えるのにやっぱ3年ぐらい仕込みがかかるのではという認識ですがどうですか。
金子:3年はかかる。で、上の人が視察にきた時とかにやっていることを説明する。まさにトップの理解は必要というのはあるんだよ。ただ実際に変えようと思うと、一部地域とか一部領域でいいからまずスモールでスタートして結果を出して、それを広げていく方が周りの理解を得られる。あるべき論でいきなり全体にやろうとすると、みんなついてきてくれないからね。
多分横連携とか巻き込み力とか、自分のやれる範囲でまず結果を出すとか、周りを変えるときはどう動けばいいのかと考えながら、それをデータ使ってやっていければ、データドリブンな組織に生まれ変わってくるんだと思う。
田中:現場だったらそこを頑張るしかないという感じですかね。
金子:それは現場レベルで頑張りますよね。あとは、そこに対してトップとか経営陣が一定の理解を示してくれて、それを他にも広げようっていう意思決定ができるかどうかだね。
田中:そうすれば会社全体が変わる、変わるからみんながデータの重要性を分かってくるという感じになるってことですかね。
金子:そう。だからこれがデータドリブン経営を行うという大号令だけかかってる状態だと、みんながデータ見てますぐらいで終わっちゃうんだよね。
田中:どこを見ているのかといった話になってしまう、っていうことですよね。
金子:「ちょっとデータを入れてみました。データ的には綺麗ですね」みたいな話になっちゃう可能性もあるって話ですね。
2.データと現場観察
表面的なデータの向こうにある真実とはなんでしょうか。
売り場での観察とデータの組み合わせから、どのように本質的な課題を見出すのかが重要になります。
それはどのように読み解いていくのでしょうか。
田中:データの話で個人的に気になっていることがあり、聞いてみたいです。
例えば、私が毎週土曜6時ぐらいに酒Aを買いに行くとします。しかし、その時間に酒Aはいつも売り切れています。仕方がないので、隣にある酒Bを毎日買っています。データとしては「40代女性が、毎週土曜日に酒Bを購入している」として蓄積されるじゃないですか。その場合、何か違うデータになっているのではというのが気になっていることです。
金子:それは実際そう。品揃えがないから他の商品を購入しているわけで、その商品が売れ筋になっている状態ですね。データって、必ず比較対象が必要になってくるんだよね。先ほどの例だったら、他の店舗と比較して、なぜこの店舗だけがお酒Bの売上が一番になっているのかに気がつかなきゃいけない。
お酒Bの購買が一番の理由が明確にあれば別になります。明らかにその地域だけ高所得層が住んでいるので需要が違うとか、近くにサッポロの工場があってサッポロの社員が多いからサッポロがよく売れる地域である、というような理由があれば問題はないです。ただし、そういった要因がなく普通の住宅街で、その店舗の人たちだけが、うちのお客さんはお酒Bが好きなんですよと言っている状態だとしたら?そこにちゃんとした合理的な理由がなかったら?そこに課題があるのではないかと思わないといけない。
田中:それは全店舗とか複数店舗を見て、認識するのでしょうか?それとも現場を見に行くのでしょうか?
金子:両方だと思う。私が九州に行ったときは、全国と九州の数字を比較して、九州全体と地区との差を見て、地区の差と個店の差を見たりしていたんだよね。そこで差が生まれていたり、プラス他の方面で「なんでこうなっているんだろう」が出てくるはずです。あと、実際にお客さんはどう行動しているかを観察する。
田中:観察するポイントはありますか。
金子:現場を見てたときは、よく店に行ってました。結構怪しい人なんだけども店の端っこでお客さんの行動をずっと見てた。
田中:それ私もよくやります。
金子:10分〜15分ずっと来店される人をウォッチして、どの商品を手に取ってまた置いたとかずっと見てて、そのあと何を手に取ってまた置いたとかもう1回確認したりしてた。
それをやると、例えばさっきの話のお酒の話だと、一瞬躊躇ってからお酒Bを手に取るのを見れると思うんだよね。
田中:はいそうですね。「欲しい商品ないな」と思って取ってますね。
金子:そういう意味では気づいてあげられる。
田中:ちゃんと現場に足を運べということですかね。
金子:「足を運ぶ」はそうだと思います。それにちょっとデータの裏付けがあったりするといい。
田中:足を運んでどういう行動をとっていたという事実もデータもあって、そこから何か自分の中で気付く符号があったら仮説として、これかっていうのができるって話でしょうか。
金子:そう。「これかな」というのを実際に試してみて、これでどうやら売上が上がったとなったら、今度は裏を取るためにその店のスイーツと卵の関連購買が発生するのが他の店より高いかどうかを見たりする。データをみて「発生頻度が高い」ことが判明したら、明らかに売り場を変えたことによって上がっていることが分かるので、他の店へも展開してみようという根拠になるよね。
それをもうちょっと大きな範囲でやるかどうかは上の話になる。それってデータを見て、アクション取って、意思決定ができるかどうかだから。問題はデータを使って意思決定するかどうか。アクションするかどうか。まあでも現場とかその業務とかのお客さんの動きとか、ある程度想像できないとそこが問題だとは気がつかないからね。
田中:そう考えると、いろんなところを経験した人の方がやはり強いのでしょうか。
金子:それは強いと思うよ。いろんなことを経験して、その経験の中で自分で考えた人たちだね。仮説を立てて、失敗もいいから実行してるかどうか。それがなくて言われたことをやってきた人だと難しいのかな。
田中:データって本当にツールなんですね。
金子:システムは全部そうだと思うよ。ツールをどう使ってどう変えるの?だからね。
田中:ビジネスエスノグラフィだなと思いました。UXデザイナーとコンサルというか戦略を考える人がやっていることは変わらない。
それを何に使うかですね。観察した洞察をもとに、それを戦略的に落とすのか。それともUIとか絵を描くのかっていう差が職業の差かなと。
金子:UXを考えるときに、別に見た目の見栄えの良さじゃなくて、何に焦点を当てるかだからね。
田中:そうですね。自分の中で勝手に「うん、そうそう」と思って聞いてました。
金子:デジタル活動とかも全部一緒だよ。
3.データを読む力を育む
数字の奥にあるストーリーを読み解く力は重要になってきます。
それを養うために必要な視点と、実践的なアプローチについて最後に聞いてみました。
田中:そういった意味で、最後にツールとして覚える最低限の知識ってありますか?
金子:データの話というならば、うーん、データって私は、結構揃わない前提でいるんだよね。揃わないデータの中で何が読み取れるかだと思っているんだよね。
マーケやってた時は「データは読み物」だって言っていた。データは読み取ってなんぼなので、読み取るためには比較対象が必要だったり、何故そういう数字になっているのかは現場を見なきゃいけなかったりするからね。
田中:初心者の場合は、その何か特異点の数字に気づくのに時間がかかるのかなっていう認識があります。それはいっぱいいろんなものを見ることで養われるものなのでしょうか。
金子:そういう意味だと想像すること。
田中:想像?
金子:飲食チェーン店の話を例とするけれども、私は別に飲食店に勤めた経験はないし、1ユーザーとして使ってるだけなんだよね。だけど、1ユーザーとした時に、何故この差が生まれるんだろう、私ではないけど、こういう人がこういうふうに感じてそのお店に通っているのかなとかって想像するだけなんだよね。多分小売が面白いのは、1ユーザーの立場で見れるからだと思う。
田中:確かに何かの企業としての売上がある月から下がっているのは何でだろう?と思ってみてて、ああこの月から原価が上がっているとか、輸送コストが上がっているなとか見る感じですよね。
金子:そういうのも数字だけ見てしまうと、数字の差の話になっちゃって、下がることが問題だっていってしまったりするんだけども、何で差が生まれているかをそこから想像することなんだよね。
田中:とりあえずその企業のプレスリリースを全部見て、そしたら輸送コストが上がってますっていうニュースをみて、「これか!」と発見するみたいな感じもですかね。
金子:うん。それが重要。それがいろんな視点で店側の視点やお客さんの視点だったり、さっきの仕入れが影響してるとか見てあげたりとか、その感度がどれだけ養えているかが重要で、感度が養えていないと次に必要なデータ見れないからね。
感度がないと、今はなんでも取得できる時代だからデータはものすごい量が集まるし、しかもストレージのお金が安いからそんなにかからない。だからとりあえず全部取るっていうのが多いかなと思うけど全部取っても全部見ないんだよね。
田中:見ないですね。必要な物以外のデータが多いです。
金子:ということは、何が必要かを定義できなきゃだよね。こういったことがあるからこの数字が影響するんだなという想像力。それが「数字を読む」ことだと思います。
4.まとめ
「データドリブン」をテーマに全4回にわたってお送りした本インタビューシリーズ、いかがでしたでしょうか?
今回の記事で特に印象的な部分として、データは「読み物」であり、その背後にある消費者心理や行動を想像する力の重要性です。単にデータを収集・分析するだけでなく、現場観察と組み合わせることで、より効果的な施策を導き出すことをお聞きしました。
また、組織変革については、経営層の理解は必要だが、現場で実践できる範囲から始め、小さな成功体験を積み重ねて、その成果を組織全体に広げていく。このような地道な取り組みこそが、近道になるのかもしれません。
データは意思決定のためのツールであり、それを活かすのは私たちの想像力と行動力なのだということを頭においておくとよいのではないでしょうか。
本記事が皆さんの「データドリブン」理解への一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー/コンサルタント
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。

執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等
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