![SNSマーケティングの引出し『顧客の〇〇まで踏み込んだKPIか』[プリズマコンサルの注目ニュース]](https://cdn.getshifter.co/6899877a1f6f80908a4ce55c62e40698322eb7b8/uploads/2025/02/Shutterstock_1759003811-1.jpg)
SNSマーケティングは今や小売や外食、サービス業のようなtoC事業にとってなくてはならないツールとなりました。
TikTok、Instagram、X、LINE、Facebook、Youtube・・・、メジャーなSNSだけでなく、新しいコンセプトのSNSも次々に生まれています。日々情報が変化し多様な特性をもつ媒体達を目の前にして「企業として何に取り組み、どういった指標を持つべきか」を考えようとすると眩暈がした担当者の方も少なくないのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。
タイトルに掲げています今回のテーマですが、結論から申しますと『顧客の心理・行動まで踏み込んだKPIを設定しているか』です。SNSマーケティングのKPI(重要指標)といえばIMP(インプレッション数)やCTR(クリック率)、CPA(顧客獲得単価)などが代表的ですが、必ずしもそうでない指標を設定しながら成果を出している事例について、今回は記事をもとに読み解いていきたいと思います。
※事例は日経クロストレンドの有料記事から引用しています。全文見られない方もいらっしゃいますが、出来るだけ本記事や引用先の無料部分の内容のみで伝わるよう記載しましたのでご了承下さい。
1.原宿ハラカドのTikTok:来館に適したKPIとは
●実績:開設から約1年でフォロワー数1万300人、高エンゲージメント率。
●KGI(最終目標):施設への来館。そのためにはストックや共有したいを想起する情報が必要。
●KPI(重要指標):動画の保存数。いいねやコメントはその瞬間で完結するアクションと判断。

※KGI(Key Goal Indicator):重要目標達成指標。売上高や成約数、利益率などが該当する。
※KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標。KGIを達成するための中間指標である。
原宿ハラカドのTikTokアカウントは、開設からわずか1年で1万300人のフォロワーを獲得し、高いエンゲージメント率を維持しています。同社が掲げる最終目標(KGI)は「施設への来館」。そして、その達成に向けた重要指標(KPI)として「動画の保存数」を選択しました。
注目すべき点は、KGI(最終目標)とKPI(重要指標)を繋ぐ消費者の行動・心理を設定していることです。「いいね」や「コメント」は閲覧時の一時的なアクションで完結してしまいますが、「保存」という行動には「また見たい」「誰かと共有したい」という将来的なアクション意図が含まれます。それが反映されるアクションとして動画の保存を指標にすることが、結果として来館に繋がるだろうと設定されています。
要素を抽出してみると、来館というアクションの特性上、ECのようなその場で即購買に繋げることが出来る商材と違い、即時のアクションではなく後から想起されるアクションである必要があります。そのため、KPI(重要指標)として保存を設定することは適切であると言えるでしょう。
このアプローチは他業態にも応用が可能です。例えば、予約不要のサービス業や気軽な外食店舗などはこの例に当てはまるかもしれません。物販でも高単価の商材は一般的に情報に触れてから購買に至るまで検討時間を要するため、同じように考えられる可能性があります。
同社の事例が示唆するのは、単なる数値目標の設定ではなく、「見る→保存する→想起する→来館する」という消費者の行動プロセスを深く理解した上でのKPI設計の重要性です。SNSマーケティングにおいて、このような消費者心理に基づいた指標設定は、より成果につながる可能性を秘めています。
2.ドンキ✕サントリーの投票企画:UGCで狙う心理とは
●実績:1ヶ月の投票期間で3万5000件の投票、UGCは1万5000件の投稿。
●KGI(最終目標):若者の飲酒文化、そのために自分なりのお酒の楽しみ方が必要。
●KPI(重要指標):UGC(User Generated Content/一般ユーザーによって作られたコンテンツ)。自分はこのお酒とおつまみの組み合わせを推すという意識を生む。

UGC(User Generated Content/一般ユーザーによって作られたコンテンツ)と聞くと一般的に「口コミの信頼性の高さが狙いではないか」と思うかもしれませんが、今回注目したいのは実は別の狙いの部分です。
今回の例ではSNSを絡めた投票企画です。KGI(最終目標)は「長期的な視点で若者の飲酒文化を作っていくこと」。
そのために、「自分なりのお酒の楽しみ方を持ってもらうこと」が短期的な目標としてあり、KPI(重要指標)は投票数及びUGC(一般ユーザーコンテンツ)となっています。つまり、投票を通じて「私のお気に入りの組み合わせ」を表明することで、その選択への愛着が生まれ、継続的な消費行動につながりやすくなることを意識しています。
両社はこの心理効果を活用し、それぞれの事業目標達成をめざしています。
サントリーは「自分なりのお酒の楽しみ方」をサントリーのお酒で持ってもらいたい(自社商品を軸とした消費者独自の飲酒スタイルの確立)。ドン・キホーテはオリジナルのおつまみや、お酒の購入をドン・キホーテでしてもらうことで収益に繋げたい。
UGC(一般ユーザーコンテンツ)による「消費者視点の意見は、企業の直接的なプロモーションより受け入れられ易い」という点は一般的なメリットですが、今回注目したいのは別のメリットです。「私はこの組み合わせが良いと思う」と投票を通じて主張することが、行動経済学でいう所の「一貫性の法則※」により、その先も自分の主張だと浸透し易くなる点です。結果、「自分の楽しみ方を持ってもらう」というKGI(最終目標)に対して直接的な効果を生む構造になっています。
※一貫性の法則:人間が一度自分自身の行動や意見を表明した後に、それと矛盾しないように、自分自身が取る行動や意見を一貫してしまう心理現象
応用する場合は、例えば気軽に意見を表明し易いスイッチングコストの低い低単価な商材や、逆に趣味のような拘りを出すことで共通の興味を持つ人同士で話題になり易い商材やサービスは、近い形の企画が向いているのかもしれません。
このように、単なる口コミ施策を超えて、消費者心理に深く踏み込んだUGCの活用は、長期的な関係構築において大きな可能性を秘めています。
3.まとめ
今回2つの事例を見てきましたが、共通していることは、消費者がその投稿や企画によって、どう感じ、どういうアクションに繋がって欲しいかが明確に設定されていた点です。
SNSマーケティングは教科書的に進めれば、冒頭で触れたようなCTR(クリック率)やCPA(顧客獲得単価)などをKPI(重要指標)として追いかけることになりますが、今一度立ち止まって自分達のサービスや商材は
●「消費者にどんな行動を取ってもらうことが理想か(最終目標の明確化)」
●そのためには、「どう感じてもらう(消費者心理の理解)」必要があるか
●そのための「KPI(重要指標)はどんな指標が適切か」
を考えてみてはいかがでしょうか。
このように、単なる数値追求ではなく、消費者の心理と行動のプロセスに基づいたKPI設定が、より効果的なSNSマーケティングを実現する鍵となります。自社のマーケティング戦略を見直す際は、これらの視点を取り入れることで、より戦略的で効果的な施策を展開できる可能性が広がります。

中西 悠太
コンサルタント
株式会社しまむらにて店舗運営と商品部を担当。2017年に株式会社カーブスジャパンに入社し、オンラインフィットネスの立ち上げに参画。サービス構想、システム開発、デジタルマーケティング、プロジェクトのローンチを経て、別の新規事業開発にジョイン。
ビジネスモデル、店舗運営や各施策開発、CRMの検討に携わり、サービスの主軸となるシステム開発はPMとしてプロジェクトをリード。その他 施策開発、物件開拓、店舗レイアウト、人材育成など複数業務のリードを経験し、2023年11月クラスメソッドに参画。