
私たちは日常で様々なブランドに囲まれて生活しています。朝目覚めてからスマートフォンを手に取り、服を着て、食事をし、通勤や通学をする。その一つ一つの行動にブランドが関わっているのです。
このブランドを戦略的に育てていく活動が「ブランディング」です。本記事では、特にプロダクトブランディングに焦点を当て、その基礎から実践まで、アパレル業界での実例を交えて解説していきます。
1.ブランディングとは
ブランド(BRAND)という言葉は8世紀頃の北欧で使われていた古ノルド語で「焼き印をつける」という意味のブランドル(BRANDR)が語源と言われています。つまり自社の商品やサービスを他社と区別してもらう、それがブランドの本来の目的になっています。
ブランドとブランディングの違い
ブランドとブランディングはよく使われる言葉ですが意味が異なります。
ブランド:企業や商品、サービスなどに対するイメージや印象、独自の価値
ブランディング:ブランドを構築するための施策全般、つまりブランドを作っていくための活動
ブランディングの目的は、消費者がブランドを認知してブランドのファンになってもらうことでお互いにとってのベネフィットを満たすことが最終的なゴールになります。企業目線でいうと、消費者が商品を購入したりサービスを利用する時に、特定のブランドが思い浮かぶ、自然と選択肢にあがるようにするための仕組み作りとも言い換えられることができます。
皆さんは「アパレルブランド」「飲料水ブランド」などブランド名をいくつあげることができるでしょうか?
多くの人が思い浮かべることができる企業や商品、サービスはブランド力があると言えます。これらのブランドは一定期間以上積み上げ、試行錯誤して重ねられてきたブランディングによって確立されています。
なぜブランディングが重要か
ブランドと聞くと高級ファッションブランドや高級車などをイメージする方も多いかもしれませんが、ブランドは企業や商品、サービスに対する信頼や独自の価値を抱くものであり、大手企業に限らずブランディングは多くの企業にとって必要な活動になります。
昨今モノ消費からコト消費が重視されている風潮や、世の中にモノやサービスが溢れているなかで、顧客から見て共感できる価値があるかどうかが購買の大きな動機づけともなってきています。
顧客体験を高めていく必要性があるなかでもブランディングの重要性は増してきています。
2.ブランディングの種類
ブランディングには様々な種類があり、それぞれ目的や対象によって手法や施策も異なってきます。
ここではいくつかの代表的なブランディングを解説したいと思います。
コーポレート・ブランディング
コーポレートブランディングとは企業ブランディングのことを意味しており、企業全体の価値観や理念、信頼感を得ることが目的です。企業自身のイメージや価値を顧客に認知してもらうために、ミッション・ビジョン・バリューなどの企業理念を定義し、企業活動で具体化していきます。
【施策事例】
・企業名、ロゴ、キャッチフレーズの構築
・イベント、企業CM
・CSR活動(環境保全や社会貢献活動など)
※近年はSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への意識が高まっており、CSR活動は企業ブランディングにとって欠かせない要素となっています。
【代表例】
・レッドブルのキャッチコピー「翼をさずける」
:エナジードリンクの効用を上手く表現したフレーズ
・サントリー「水と生きる」
:環境保護に力を入れている企業として確固たる地位を築き上げている
プロダクトブランディング
プロダクトブランディングは個々の商品(製品)やサービスに焦点を当て、市場(マーケット)で差別することが目的です。商品やサービスが消費者に選ばれ続けるための活動になります。商品やサービスそのものに価値があることが前提で、魅力や独自の価値を消費者に伝え続け、長期的な関係性を築くことを目指していきます。
【施策事例】
・製品パッケージ・デザインの差別化
・ストーリーテリング(製品開発の背景の共有)
・特定のターゲット層に特化したメッセージPR
・コラボレーション施策
・ブランドアンバサダーの活用
・専用Webサイトの構築
・SNSアカウントでの発信
【代表例】
Apple製品
・シンプルなデザインの追求と独自性のあるデザイン
・メッセージ性のあるストーリー「Think Different」
・直感的な操作性を持つ製品
・ライフスタイルをより良くするためのツールとして表現
パーソナルブランディング
パーソナルブランディングとは、個人が自分自身をブランドとして位置付け、他者に対して独自の価値や印象を効果的に伝えるための取り組みです。個人のスキルや経験、価値観や個性を認知してもらい「この人だからお願いしたい」「この人を応援してあげたい」などと感じてもらうことが目的です。芸能人やアスリート、ここ数年ではインフルエンサーや起業家などの発信が増えています。
【施策事例】
・SNSを活用した情報発信
・専門性を示すコンテンツ制作
・コミュニティの構築
・メディアやイベントへの出演
【代表例】
前澤友作(ZOZOTOWN創業者)
: SNSで斬新な企画を打ち出して話題になり、ZOZOTOWNの知名度は飛躍的に上がり国内有数ファッション通販サイトに成長
3.アパレル業界でのプロダクトブランディング実例
この章では実際に私が実務でおこなってきたアパレル業界でのプロダクトブランディングの実例をご紹介したいと思います。
アパレル業界特有の特徴とブランドガイドの存在
アパレルブランドにおけるプロダクトブランディングは他業種とは少し異なり、前段で紹介したような施策も含め洋服(商品)の特徴やデザインだけに焦点を当てるのではなく、ブランドの世界観やストーリー、価値観を商品で表現(落とし込み)し、お客様に共感を抱いてもらうことが重要な要素になります。
アパレルのブランドにはブランドガイドというブランドイメージを一貫して保つために、ブランドヒストリーやデザイン、原材料のルールを定めたプロダクトルール、SNSなどのコミュニケーションルールなど定めたものがあります。簡単な言い方をすると「ブランドらしさを可視化・言語化したもの・ルール」になります。ブランドに関係する何かを企画する時は必ずこのガイドに沿った中でおこないます。
私はライセンス契約で海外ブランドの日本国内展開の立ち上げに関わった経験がありますが、海外ブランドは日本のブランドと比べてより詳細にルールが定められており、ガイドブックだけでも40ページに及ぶブランドもあります。さらに商品企画はもちろんブランドロゴをガイドで定められた場所以外で使用する場合などアプルーバルという許可を都度本国に確認を取らなければならないほど、ブランドイメージを保つために徹底したルールを設けています。それぐらいブランドのイメージや世界観を保つことがブランディイングにおいて重要だと考えているからです。
アパレル業界の特徴として、商品そのものや例えばルイ・ヴィトンのモノグラムラインのような特定のアイテムがブランドの象徴となるケースが多いです。つまりプロダクトブランディングをおこなう上でブランディングも意識しておこなう必要があるほど密接に結びついているのが特徴です。
実務上での重要ポイント
アパレルブランドのプロダクトブランディングは、商品に焦点を当てて市場で差別化を図っていくことと、商品を通してブランドの世界観や価値観を伝えていくブランディング要素、2つの目的のバランスを取りながらあらゆる側面においてブランドの一貫性を保つことがとても重要です。
洋服にはトレンド(流行)があるので、売上を作るためにトレンド要素を取り入れた商品ばかり量産し、他のブランドと同じような商品ばかりになり、ブランドらしさが薄まってお客様が離れていくケースも多く見てきました。私自身も実体験として売上を作ることに頭がいってしまい、ブランドらしさが欠けてしまうようなシーズンMDを計画してしまった経験があります。
アパレル業界では古くは「右手に感性、左手にそろばん」とアパレル業界で働くにはバランス感覚が大切とよく言われてきましたが、プロダクトブランディングにおいても多角的な視点で商品の差別化とブランドらしさのバランスを考え、進めていくことが、お客様にブランドの価値を感じてもらい、愛着をもって長く利用していただけることに繋がります。
4.まとめ
ここまで代表的なブランディングの種類と実例も交えてプロダクトブランディングのお話しをしてきました。
ブランディングの最終的な目標は、ブランディングを通してお客様のブランドのイメージを高め、独自の価値を感じてもらい長期的な関係を築くことです。お客様のニーズや価値観が多様化してきている環境の中でブランディングの重要性は益々増していくでしょう。私たち企業側もブランディングを通して一貫性のあるメッセージを様々なチャネルを通じて、効果的に伝えるコミュニケーションの必要性を改めて考える機会になれば幸いです。

執筆者プロフィール
西田 信義
コンサルタント
2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。