
毎年1月に世界最大規模と言われるリテール業界の展示会、年次総会である「NRF – Retail’s Big Show」が開催されており、2025年は1月12日~14日まで、アメリカ・ニューヨークにて開催されました。
また、このアジア太平洋地域版として昨年6月にはシンガポールにて『NRF 2024 ASIA PACIFIC』が初開催されました。2025年6月には第2回目の開催も予定されており、渡航を検討されている小売企業様も多いかと思います。本記事では、昨年アジア圏で初めて開催された『NRF 2024 ASIA PACIFIC』で印象に残ったキーノート、エキスポ会場の様子のほか、シンガポール市内でのリテール関連視察についてもご紹介します。小売支援企業のセールス目線での本レポートが、参考になれば幸いです。
※「NRF」:National Retail Federationの略(アメリカ小売業界団体)
目次
1.アジア圏初の開催『NRF 2024 ASIA PACIFIC』 2.データ活用・分析やAI導入による、パーソナライゼーションが活況 3. 地道な取り組みの話 4.シンガポールの街で出会った、小売店舗テクノロジー1.アジア圏初の開催『NRF 2024 ASIA PACIFIC』
2024年6月11日~13日、シンガポールのマリーナベイ・サンズ コンベンションセンターにて小売業向けの大規模イベント『NRF 2024 ASIA PACIFIC』が開催されました。これは毎年、アメリカ・ニューヨークで開催されている『NRF Retail’s Big Show』のアジア太平洋地域版で、初のアジア圏開催ということもあり、大きな注目を集めました。
渡航時のシンガポールについての概要を、簡単にご紹介させていただきます。東京23区程度の面積の小さな国で、人口は約564万人。公用語は英語・中国語・マレー語・タミル語の4つという、多民族国家、多様性に溢れた国と言うことができると思います。
デジタルの文脈では政府主導で「イノベーション・ハブ」構想を掲げて大規模な支援を行った結果、現在では世界競争ランキング、デジタル競争力、IMDスマートシティ指数が軒並みアジア1位となっています。
ちなみに2024年春時点で、東南アジア6カ国(シンガポール・マレーシア・タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピン)の小売市場規模は111兆円とのこと。日本の市場規模は150兆円程度です。小売の皆さまにはこの数字を参考にしていただければ、いかに重要な市場であるかをご理解いただけるのではないでしょうか。
『NRF 2024 ASIA PACIFIC』開催規模は、ニューヨーク開催時の参加者に聞くとニューヨーク開催時の3分の1程度の印象ということですが、それでも参加国は52カ国、出展社数は200社を超え、来場者数は7000人を超える大規模なものとなりました。参加者出身国としては開催現地であるシンガポールが最も多く、次いで中国、日本は3番目で約400人が参加していたそうです。
2.データ活用・分析やAI導入による、パーソナライゼーションが活況
『NRF 2024 ASIA PACIFIC』プログラムとしては、公式カンファレンスセミナー、展示会はもちろんのこと、Expo内のプログラムも用意されていました。スタートアップ企業によるショーケース「Startup Zone」や最新テクノロジーショーケース「The NRF Innovation Lab」、また出展企業によるセミナー等も開催されており、盛り沢山な内容となっていました。
私が実際に現地で聞いてきた内容を、かいつまんでご紹介します。
・Domino’s Pizza
初日のキーノートとして、チーフデジタルオフィサーのThomas-Moore氏が登壇。ピンポイントデリバリーをはじめとした、多くのイノベーションを紹介しました。締めくくりとして、まずやってみるということ、そしてデータを元にしっかりとROI分析をするということを強調されていました。将来的にはAIを活用したパーソナライゼーションが、進んでいくという質疑もありました。
・First Retailing(UNIQLO)
グローバルCIOの丹原氏が登壇。システム開発を行うというよりは、トランスフォーメーションしていくことを推進しているということをお話しされていました。また、IT人材は日本で400名、グローバルで700名の在籍があるとのことで内製化を強く推進していることが伺えました。今後はお客様の声をAI分析していきたいという話題も出ていました。
・AEON
自分たちのソリューションを「ライフテック」というキーワードで表しているのが印象的でした。Google Japanとはハイパーパーソナライゼーション、日本Microsoftとは生成AI活用での協業を進めているとのこと。特に生成AIでの業務効率化はアジアでは既に大きな成果が出ており、今後ASEAN各地に展開するとのことでした。AEONは展示会場でも大規模なブースを構えており、IT技術を活用した様々なサービスを展示していました。例えば、”レジゴー”。レジ待ちの解消を意図したセルフレジサービスなどが展示されていました。
副社長自ら説明に立っていたことで、いかに力を入れているかが感じられました。
3. 地道な取り組みの話
テック面へのフォーカスだけでなく、ローカルビジネスとしての固有の取り組みや、グローバルビジネスにおけるサプライチェーンリスクへの取り組みもカンファレンスで登壇がありましたので、ご紹介します。
・Fair Price Group
シンガポールの労働組合NTUCによる組合生協事業として始まったFair Price。現在は200店舗以上のスーパーを運営しています。自給率の低いシンガポールは常にサプライチェーンリスクに晒されている一面がありますが、Fair Priceは政府と二人三脚で、社会ミッションとしての価格コントロールを行っているといいます。
単純にスーパー運営だけではなく、プライベートブランドを増やしたり、スーパーの脇にイートインをつくるなど、多面的な展開を進めています。今後は総合的なフードサービス業になることを目指しているとのこと。
・DON DON DONKI Singapore(ドン・キホーテ)
今シンガポールで大人気の「ドン・キホーテ」。カンファレンスでは、「小さな企業であり、販促費を抑え、他社とは違ったプライスを提供することを地道にやってきた」ということを強調されていました。小規模な企業だからこそ、従業員が自立してけるようなマネジメントを促進しているとのこと。
実際にシンガポール市内で店舗を見ましたが、食べるところが併設されており、食品・生鮮にも力を入れているようでした。「テクノロジーを使いながらも人がビジネスを回していく」ということを仰られていたのが印象的でした。
4.シンガポールの街で出会った、小売店舗テクノロジー
シンガポール滞在最終日は、シンガポール市内のリテール向け視察ツアーに参加しました。冒頭でご紹介したように、今のシンガポールはアジアのテクノロジーハブ、そして金融ハブとしても勢いのある場所となっており、町を歩くだけでもそれが肌身に感じられました。とても大きなショッピングモールが車で10分程度の距離にいくつもあり、平日の昼間だというのに大勢の訪問客で賑わっていました。
店舗を巡るなかで印象深かったのは、「スタッフの無人化が浸透し始めている」ということです。Burger King、モスバーガー等のチェーン店は有人レジと無人レジがありましたが、無人レジで買っている人が多い印象で、モバイルオーダーもしっかり対応していました。
ここまでなるべく多くの視点と側面から、2024年の『NRF 2024 ASIA PACIFIC』やシンガポールリテールについてご紹介をしてきました。2025年には2回目開催となる『NRF ASIA PACIFIC』、期間は6月3日(火)~6月5日(木)までの開催予定です。2024年の主催者が「来年の規模は2倍を予定している」というやる気満々な発言をしていましたので、更なる盛り上がりが期待できそうです。
個人的な感想となりますが、私自身が最も面白いと感じたのは、アジアの先端スタートアップによる最新テクノロジーを間近に見ることが出来た「Startup Zone」や「The NRF Innovation Lab」でした。2回目となる今年は、どんなサービスを見ることが出来るのか楽しみであり、リテールの潮流がどう変化していくのか、また欧米アジアという商圏の違いなども、引き続き注視していきたいと思います。

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