皆さんは、周りの人が当然知っているはずだと思われていることを、実は理解していなかった経験はないでしょうか?
そんな「今さら聞けない」疑問を解決するべく、小売業界での業務経験豊富なプリズマティクスのシニアコンサルタント金子にインタビューを行い紐解いていく記事シリーズ第2弾です。
前回は、「データドリブン」がなぜ今注目されているのか、データドリブンの価値は単なるデータ収集や分析技術の向上だけではない、また顧客データが取得可能になった今、重要なのは「データをいかに解釈し、判断に活かすか」という人間の能力の話をインタビューでお聞きしました。
今回は、前回後半で出てきたデータドリブンを利用するには、ビジネス理解が必要になることについて進んでいきます。
第1弾「CRM」についてのインタビュー記事も公開中です。CRMについて深く理解したい方は、ぜひご一読ください。
1.顧客と現場オペレーションの理解
データドリブンを利用するのに必要な「ビジネス理解」とは、具体的にどのような理解が必要なのでしょうか?
レイヤーによって異なる理解とは? などを聞いていきます。
田中:ちなみにデータドリブンに必要なビジネス理解については、どこまでを理解している前提なのでしょう。
金子:それは、その業務の流れや担当してる領域・担当レイヤーによって異なってくる。
田中:担当レイヤーということは、戦略レベルから考えてその辺がどうなんだろうって考えることですか?
金子:例えばだけど、私はマーケターの必須能力が、お客さんの行動だとか考え方、どういう発想をするんだとかを想像できることだと思う。マーケターやリサーチャーは、リサーチもインターネットで統計的にリサーチとか行うことが結構多い。
それは、半分わかるんだけどわからないこともある。それだったらむしろ1人の人に細かく聞いて、「なぜその商品を買ったのか」「なぜあのコンビニに行ったのか」「何でこのアパレルブランドがあなたは好きなのか」とかを深掘りする。
そこで初めて本質が聞けて、聞いた後にその本質的な項目をリサーチすると同期が取れる。
統計もどこも同じような調査結果が出るのは当たり前でよいけども…。
田中:確かに一般的な統計データだけでは、表面的な理解になりがちですね。
金子:そう。だから本当はお客さん1人1人というか、1人でもいいし複数人とかいた方がいいけど、ただ深く洞察するとか、ちゃんと話を聞くとか。そういうのが絶対に重要で、その人は確かに特殊かもしれないんだけど、そんなに特殊な人はそんなに存在しない。
何パターンかわかれると思うんだけど、同じような考え方をする人は必ず一定数存在するから、それが1個聞けると、自分自身も消費者として、私はこっちだなって共感したり理解できて、こっちの考え方にいるんじゃないかって仮説が立てやすくなるよね。
ビジネスを知るということだと、例えばマーケターだったら、そういったとこ知らなきゃいけない。
発注とかで言うと理想的なフェイスとかアイテム数はこうなりました。けれども品出しとか発注のロット数とか、そこを一切加味しなかったら、当然数字的には最適なものをやったのだけど、すごく多品目で、だけど1ロット数がすごく大きいロットしか使えないような条件だったらどうなるだろうって。
田中:大変なことになりそうですね。
金子:そう。パンクするよね。在庫がパンクしちゃったりするし、あとお店の人もオペレーションに当然ついてこれなくなるし、そういうとこはビジネスの全体見なきゃいけない。
あとは、フランチャイズだからそこは実は介入しきれないところがあったりしますとかも全然ある。
田中:よく聞くお話ではありますね。ビジネス上の様々な制限要因についても理解は必要になるってことですよね。
金子:そう。データだけ見ると制約がないように見えて、実はシステムやビジネス上の制約はたくさんいくらでもあるし、あと変動要素もいろいろあって、そこをどう捉えていくかだよね。
お店の運営でまだ従業員さんが集まっていない状態なのに、高負荷のことさせてしまったら。
当然お店の従業員さんが対応できなくなってしまうし、机上の空論にしないためには、ビジネスを理解しなきゃいけない。
それはマーケターがお客さんを見るときもそうだし、運営というか関わる人たちが実際店舗運営だとか、もしくは会計処理の中身とかも理解してあげなきゃいけないとかそういうところだし、もう少しレイヤーが高い人になってくると、そもそも全体の事業構造わかってないと、一方、例えば営業側だけ見てると裏の物流が倒れちゃうところでもある。
2.物流の理解と全体最適
前述の「物流」の話は小売業界でデータドリブン経営を行うためのビジネス理解の一つです。
物流と営業のような表裏一体になっている部門での具体的な話を聞いていきます。
田中:物流と営業など表裏一体になっているところはちゃんと見ていかないといけないですね。
金子:例えばよくあるのは、営業現場とか店舗側や営業サイドが売り込むぞって力入れ発注して品揃えを増やすぞって言って、それで一斉に注文が上がる。一方で物流の方は普段の物流よりも一気に量が増えちゃうから即日出荷とかになる。
そうすると即日出荷のお金が発生しちゃうからトータル見て、どうなのかなをみないといけない。それは本当によく起こる。
他の例だと、「あそこの店舗は出店戦略として良い立地があるんです。ただちょっと遠いんです。しかし、売り上げはめちゃくちゃ取れます」といった話で、確かにオープンしたら売り上げは取れるのかもしれないんだけど、普段出してないところに店に出す=その店のためだけに物流が走るわけです。
田中:なるほど「1店舗のために物流を走らせるのがいいのか」ですね。
金子:そう。物流センターからは7〜8店舗とか回って、またセンターに戻るルートが組まれている。ルートの移動時間に対する人件費が発生するとガソリン代も当然発生する。ルートは1店舗あたりの走行距離が短い方がめちゃくちゃ効率いいんだけど、1店だけポンと遠いところにあると、その1店舗だけのためにそのルートのクオリティが悪くなる。
コンビニは1日3回弁当を3周するように組んでいるから、次の出荷までにセンターに戻らなきゃいけない。効率が求められるのに、そのルートだけ1ルートの間に入れる店舗数が減るから、効率が悪くなる。
それだったら1店舗離れたところにめちゃくちゃ売上取れる店ができたとしても、それは全体で見たときに合ってるんでしょうかという考え方を持たないといけないよね。
田中:はい。それもデータで見れるはずなのにっていう話だと思っているのですが…。
金子:そうだけど。データを見る人たちがそこを意識して提出してちゃんと見れるかどうかだし、AI化するんだったらそこまで意識して対象に網かけてるかどうかだよ。
田中:全部あるはずなんだけど、データが取れてるかは見る人によるっていう感じがすごくあるなと聞いて思います。
金子:データ周りとか、DXも全部そうなんだけど、縦割りで組まれてる組織でやろうとしたときに今みたいなことは絶対起きる。
データを活用して意思決定する人たちが、組織横断の横串でちゃんと網かけて見れてますかとか。
横串でちゃんと見れる人がいないとトータルで本当にうまくなっていくのかと疑問符が付くっていうのはありがちかな。
3.組織の壁
データドリブン経営における課題の一つが「組織の壁」です。市場環境が変化した今、組織横断的なアプローチが必要になっています。特に顧客データの精度が向上した現在、何が求められているのか? を聞いていきます。
田中:日本企業を阻む組織の壁ってやつですか。
金子:組織の壁は本当にある。あるし、その弊害は多いかな。
田中:プラスそこを横串で実行して、力技で回せる人じゃないと苦しいのかなと思ってます。
金子:うん。けど組織を細分化するのは別に悪くない話で、確かにとある業務のあり方が最適だって見えてたら、それを効率的にまわすには組織を機能に集約させてしまって、集約させた方が絶対良い。
なんだろう、日本ってその高度成長とかの名残で、みんな全体が成長してるんだったらそれは正しい。
売上が上がる方法を知っているんだから、それをどんどん回しましょう。なので組織がだんだん細かくわかれていって、組織ごとにオペレーションをしましょうというのは正しい。
けど、それが今は先行き不透明になってきました。市場環境が変わってきました。全体のビジネス構造を組織横断で変えなきゃいけません。しかもお客さんのデータが精度高く取得できるようになりましたので、場合によってはお客さんの消費情報とかお客さんの特性に合わせて販売から製造までを横串で判断できるようになった状態です。
田中:見る範囲が広いですね。
金子:すごく見れるようになってる。けど問題はデータを横断的に分析して、相関関係を意識しながら決定のアクションが取れるかどうかなんだよね。
田中:よくあるのは、「ここから先は別部門だから難しい」ですかね。
金子:ある。あとはそもそも見ていないとかね。
田中:部門によってはその数字に対して、意識が向いてないところもありそうな気がします。
金子:だって例えばよく小売とかメーカーで、製販一体の話をするのだけど、製造はいいものをどんどん作る。そして販売拠点にどんどん送り込んで「いいもの作ったから売ってね」ていう感じだけど、一方で販売崩れがあるとこれは確かにいいものかもしんないけど、その前のものがあまりよくないものだったから在庫が残ってるのですが、その状態で製品を送り込まれても難しいねってなってくるし。その二つの関係がうまく回ればお互い効率的に動けるんだけど、それぞれのお互いの都合だけで判断してやっていくと、変な在庫を抱えちゃいますとか。
そういうのが全然起きちゃって、送られてきても前回のビールの話だったら、10フェイス(陳列数)しかないのに、商品の登録が20アイテムありますっていわれても無理だと思う。
田中:無理ですね。その辺を説明しながら、説得しながら進まないと上手くはいかない。
金子:データドリブンやろうとしたら、それを横串(組織横断)でちゃんと見るだとか、事業全体の利益構造とか、どこが本当に無駄になるかをわかった上で、その数字を見る範囲を決めて、AIとかある程度自動化するのか、じゃあモデル化するんだったらモデルの対象に含めてあげて。ってのが必要になってくる。
田中:聞いている感じ、かなり上のレイヤーの人でないと厳しいんでしょうか?
金子:いやそんなことない。どちらかというと、私のイメージは課長レベルがそれをやる前提です。
よくマネージャーとか役職の仕事って、何となく上下関係ばかり気にしてるけども横の関係が重要なんだよ。多分、それより上のレイヤーの本部長クラスになってしまったら実務面がわからなくなるから、本当にどんなハレーションがおきるかを理解できないんだけど、その辺りを理解しているのはマネージャー・課長・部長クラスだし。その人たちが横の部署と会話すればいいんだよ。
田中:はい。あとは上に上げてくれる場合ですかね。
金子:そう。そこで横連携をしないから、だからそういう横串の組織や新しい人が入るっていうのはありがちかなと思ってる。
4.まとめ
今回は、データドリブンを実践する上で必要となる具体的なビジネス理解について、実務的な視点の多いインタビュー内容だったかと思います。
データドリブンでのビジネス理解では、顧客理解と洞察が必要となる。また、データから導き出させる数値と、在庫管理や人員配置などの現場ギャップへの理解も重要であり、さらに部門間の個別最適が全体にとって非効率になる場合、対応していくには現場を理解している課長・マネージャークラスによる組織横断連携が不可欠というお話をご紹介しました。
次回は、トップの理解の話へと続きます。ご期待下さい。
執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等