皆さんは、周りの人が当然知っているはずだと思われていることを、実は理解していなかった経験はないでしょうか?
そんな「今さら聞けない」疑問を解決するべく、有識者にインタビューを行い紐解いて行く記事シリーズの第2弾です。
今回は「データドリブン」について、小売業界での業務経験豊富なプリズマティクスのシニアコンサルタント金子にインタビューしました。
第1弾「CRM」についてのインタビュー記事も公開中です。CRMについて深く理解したい方は、ぜひご一読ください。
1.なぜ「今」データドリブンなのか
まずは「データドリブン」について、なぜ「今」なのか? 今と昔の違いなど、我々に身近なコンビニを例にしながら理解を深めていきたいと思います。
田中:なぜデータドリブンって「今」重要視されているんでしょうか? を聞いて良いですか。
金子:なんですかね。昔からやってるよね。
田中:そう。それが謎なんです。
金子:単純にデータが集まるようになったし、特に顧客データが集まるようになったからそれを使って何かしようって言うのが元々の流れなんだろうねって気はしている。
DXDXって言ってたのも、DXって別にIT使ってシステム業務替えていきましょうっていう話からやってるのと同じじゃないかな。
田中:今と昔は「量」が違うんでしょうか?
金子:量もそうだし、よりお客さんのデータが取れるようになったって話だね。
例えば、コンビニってどこも売り場作りっていうのが重要で、売り場作ったあとに発注をひたすら追求しているんだよね。
店舗指導員のスーパーバイザーたちが一番やっているのは、売場指導があって発注指導なんだよね。
具体例でいくとお酒の売り場を考えたときに、ビールの棚があります。
ビールのあの棚は、ビールだと横に10本並ぶんですよ。
商品って顔を見せることを「フェイス」って呼んでいて、10本横に並ぶと「10フェイスある」って呼ぶのね。
この10フェイスの使い分けをどういうふうに配分するかを、一番悩むんだよね。
例えば、スーパードライがダントツで売れる。
その次に一番搾り、その他でプレモルだとかエビスとか入ってくる、とする。
そこに季節物の変わり映えのものがポンと入ってきたり、クラフトビールが流行ると青鬼とかヨナヨナが入ってくるみたいな。
それを10フェイスの中でどうやって配分するかを考えていく。
簡単に言うと単品実績表みたいなの出して、上から販売数がスーパードライが何本、一番搾りが何本、メーカーなんかがあって、10フェイスに収まる中で下を切って、上の売れ筋をフェイスを広げましょうっていうことをやる。
そのフェイスのバランスをひたすら仮説を立てて繰り返す作業をする。
フェイスを広げてみて他を縮めてみてカットしてみてなどずっと繰り返して、精緻にしていくということをやる。
実際に私はデータを見ながら、自分でちょっと直営店とか勝手に売り場とかいじることがあった。
売れ筋をしっかりやって、その他はバラエティー見せるのはそんなにフェイスを取らないでやっていく。そうすると一番売れるものが一番お客さんメインとなるから、お客さんの目には棚が10フェイスあっても品目数を絶対に10商品置けるわけではない。
10フェイスしかない中で、例えばの例でいうとスーパードライと一番搾りだけで5フェイス使っちゃうと、残り5フェイスしか空かない。そうすると残り1フェイスの5品目しか置けない。
それでもそれが一番売り上げが高いし、お客さんは品揃え良く感じるという感じになる。
選びたいものがまずメインにちゃんとあって、それと比較対象があることに対してお客様は満足する。
スーパードライも全部フェイスずつなってなると基本売れるものは当然ほとんど品が出ちゃう。
そうすると、裏の倉庫に商品があろうが売り場からは商品がなくなっちゃったりする。
それは当たり前で一番売れる商品だからなんだよね。
そうするとスーパードライが1フェイスしか取ってないと売り場欠品起こしやすいんだよね。
第1選択肢になっているスーパードライがないお店は、イコール品ぞろえが悪い店になる。
しかもお店のオペレーションは、そのスーパードライに対してめちゃくちゃしんどい作業をしなきゃいけない。
田中:大変ですよね。
金子:業務効率も悪くなるし、売り上げも下がるし、お客様もどんどん下がっていくっていう、最悪のことになっちゃう。
そのためにやるのが、コンビニに行って売れ筋データを見て上からランク付けをしてABCランクとかパイプ分析といっているやつです。下をカットして売れ筋フェイスを広げるっていう指導をずっとやってる。
それがまさにデータを基にした意思決定だし、アクションなので「データドリブン」になるのだけども。
それが今だとどうなるかっていうと、例えばスーパードライを購入されている人の年齢ってどれぐらいだとか、男女比も多分見えてくるんだよね。
田中:はい。あと時間とかもですかね。
金子:そう時間も当然みえるし、時間はまだ別にIDじゃなくても取れるんだけど、誰が購入したのか明確にわかってくる。
そうすると、今度でてくるのはそもそも来店してる人ってどんな人たちか。この店のデータをみると見えてくるんだよね。
これまでは「全体感を見て売れ筋順番にフェイスを拾いなさい」ってなってきたけどここで出てくるのは、「このお店のお客さんにとって、最適なフェイスは何ですか」に踏み込むことが可能になる。
あとコンビニはマス商売なので、この町に住んでる人みんなが対象になる。
すごく特殊な街でなぜか7割女性って町があったら別だけど、そんなわけないのでそのままでもいいんじゃないのって思ったりもするし、多分これまで見えなかったものはお客さんの像がよりしっかり見えるようになってきたのは事実。
2.データと人の作業をバランス良く取り入れる
企業のデータ活用は「AI」をキーワードとして、重要になってきているのでしょうか?
単なるデータ収集を超え、顧客理解と経営判断の深化を目指す「データドリブン」とは何なのでしょうか。
テクノロジー? 人間の洞察力? について、聞いていきたいと思います。
金子:それにプラスで、例えば今まではスーパーバイザーがデータを見て売り場をいじってたんだけど、これがAIとか使ってくるとまた別になってくるんだよね。自動発注とか自動的に最適な棚割りを考えてくれるとか。そういった成果には踏み込みやすくなっている。ただそうは言っても、売り場をいじるのは人なので、そこにも問題はある。
それはあくまで売り場で商品を売るとしたときだけの話であって、例えば店内で何かできるかっていうと、今何か「xx商品をセール中です」と声をかければ当然売れる。店員さんがおすすめすると売れるんだよね、販売とかお客さんに購買してもらう要因としては、かなり大きな割合を売り場が占めてるし、その中の棚割りだとか、フェイスってのは当然販売影響するのでメリット高いんだけど、実は当然他の要因もある。
それを全部データで把握することはできない。
なのでデータと人の作業をうまくバランス取りながらやらなきゃいけないんだなとは個人的に思っている。
ただ元々よりも、特にお客さんが細かく知れるようになったっていうのは事実で、そのデータを使ったら確かに別の世界観に、到達できるかなっていう気も確かにしているんだよね。
田中:高品質データが取れるようになってきたからですかね。
金子:うん。まずデータとしては明確にそうかな。個人情報じゃなくても、お客さんの属性情報だとか、あといわゆるデモグラって言われるような性別・年代とか以外でも。
田中:行動データですかね。
金子:行動だとか検索してる傾向とかも。当然興味が伸びるわけで、その興味関心だとか実数行動データを加味してこの人ってどういう思考なのかなとか、もしくはこういう思考の人たちが多く集まるとか、それは見れるようになってくるよね。問題は処理できるかだけ。
田中:今はデータが集まるようになった。その次に処理をどうするのかというときに、AIというものが飛躍してきて盛り上がってそうなってるのかっていう感じでしょうか。
金子:そうそう。たぶんそれは処理自体はAIがやってくれるのが一番楽っていうか、データが増えれば処理するだけでも人間はもう追いつかなくなると思う。
ただ問題はAIでやりましょうってなったときに、チューニングが必要になってくるはず。
人間がチューニングができるかが求められちゃう。
田中:洞察というか、こう分析してくださいっていうお話かなと思ってます。
金子:そうするとなんだろう、例えばさっきの売り場の話で言うと、フェイスを広げてとかそういうとこやったことがない人がいきなりデータを作って「最適なフェイスはこうです。」とやっても初めは絶対うまくいかないからチューニングが発生するんだけど、果たしてデータだけ見てチューニングができるんだろうか。
田中:いやトライ&エラーしかない気がします。
金子:でしょ。絶対そのやる人たちにはビジネス理解が必要なんだよ。
データドリブンでやる上では、データだけを評価してもダメだし、アナログのやり方だけを強化してもダメだし、そうするとアナログのやり方を経験しようがしまいが一旦ビジネスをちゃんと理解した上で、データの世界に入れるっていうのをちゃんとやっていかないと、データドリブンって実際うまくいかないんじゃないのって思う。
3.まとめ
インタビューはまだまだ続きますが、ここで一区切りとさせていただきます。
まずは、「データドリブン」とその本質について理解を深めることができたのではないでしょうか。
本インタビューを通じて出てきたのは、データドリブンの価値は単なるデータ収集や分析技術の向上だけではないということです。
詳細な顧客データが取得可能になった今、重要なのは「データをいかに解釈し、判断に活かすか」という人間の能力にあるのではないでしょうか。
AIやデータ分析ツールは強力な武器となりうるが、それらを適切に活用するには、業界や事業に対する深い理解が不可欠です。
アナログな経験とデジタルな分析を融合させ、ビジネスの本質を捉える視点が重要ではないでしょうか。
次回は、ビジネス理解や制約について話が広がっていきます。ご期待ください。
執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等