皆さんは、周りの人が当然知っているはずだと思われていることを、実は理解していなかった経験はないでしょうか? 小売ビジネスの現場で「当然知っているはず」とされながらも、実は十分に理解出来ていない概念を、小売業界での業務経験豊富なプリズマティクスのコンサルタントインタビューを通して、理解していければと思います。
前回のインタビュー記事においては、CRMが単なる顧客管理システムや接客テクニックではなく、企業の本質的な顧客戦略に深く関わる概念であることや、業界や企業の特性によってCRMのアプローチが大きく異なることをお話いただきました。
2回目の今回は、CRM戦略を成功させる秘訣、データ分析のお話です。
【前回の記事はこちら】
1.データ分析とCRMの実践とサービスの先にいるお客さま
田中:よくお問い合わせで「ポイントシステム作りたいんです」みたいな明確に言ってくださるお客さまとそうでないお客さまがいらっしゃるかなと思ってます。その違いって何があると思いますか?
金子:「ポイントシステム作りたいんです」を、その企業さまがCRMの中で一番重要なのがポイントだってわかってるんだったら、それは素晴らしいことだと思います。ただ多くの企業さまは、わからない状態で他がやってるからやりたいんですって言います。
田中:はい、そういうこともよくあることだとと思っていて。
そんな時は、最初のヒアリングから一緒にやっていかないと、やっぱわからないですかね?
金子:うん、それはわかんないと思う。
だから会員制度とかやるときに、一番最初はその企業さまの「強みってなんですか?」だとかその辺りからきちんと聞いていきます。
それがあって、ポイントプログラムを作るとか、ロイヤルティプログラムを作るとか以外でも、お客さまとの関係とか、ブランド力高めるってなってくると、そこの「問い」から入らないと絶対ダメだと思ってます。
あとは、本当はあのターゲットというか支持するお客さまって誰なんですか?かな。
ちょうど今読んでる本で、「一休」っていう高級ホテルの紹介サービスがありますよね。その本を読み始めているところなんだけど、一休が一度事業が落ち込んだ時に、「宿の種類を増やすべきだ」ということで、高級宿以外を増やそうとした話がでていたんだよね。
※ 高級ホテル・高級旅館専門予約サイトを提供するサービス「一休.com」
コンサル会社の人が入り込んで、コンサルがお客さまの分析していったら、高価格帯の宿を予約している人たちが本来は一休を支持してるんだけど、その人たちのニーズって、他の旅行サイトだと自分が行きたいと思う宿以外もたくさん出てきちゃって検索しにくいということがわかった。だから高級宿だけを出して欲しいのに、宿の種類を広げちゃったら。
田中:せっかく一休というサービスなのに、使いにくいという話ですね。
金子:そうそう。使いにくい方針を現場の意見だけでやろうとしてたのがあって、だけどちゃんと情報を絞って業績回復したという本なんだけど、多分そういうことなんだと思う。
誰がお客さまで、自分の強みは何で、どうやってそのお客さまとの関係をつくっていくんですか?を理解してから、事業がこうなるので、当然そのあの形がわかればそこのコミュニケーションを強化するためのCRMのツールが入れられるわけです。
それはデータ分析軸の本なんだけどね。
2.現状データの何を見るのか
続いては、データをどのように見ていくのか?分析の方法に関してのお話です。
田中:今聞いていて、コンサルタントとしての介入の仕方はあるかなと思ったんですよね。
事業会社の担当者だったとして、金子さんはプリズマティスクに入る前は、担当者だったと思いますけど、CRMを会社からやってくださいといわれた担当者だったとしたらの話なのですが、さっきの差別化とか、そういう大事なところとはどうやって調べていくんですかね。
コンサルタントにお願いするにしても、事業会社さまからは何をお願いするかっていうのを、知りたいなとか、わかりたいなと思っていらっしゃるんだと思います。おそらく、わからないからコンサルを頼むのかなと思っていて、この手前の段階でわからないなりにできることってあるのかなっていう疑問です。
金子:まず絶対に自社のデータは宝箱なんですよね。そこをちゃんと見るというのが不足している感じですよね。
どんな店舗でも当然、お客さまとの関係を作れているお店と、作れていないお店があって。じゃあそれって違いって何ですか?
っていう問いは、データをみると多分出てくるはずなんです。
多くの方がデータ見る時は、「平均で見ちゃうのをどうやって分解して見るのか」なんだよね。
田中:「ちゃんと見るっていうのは、何なんだろう」っていうところが大事なんだと思います。
金子:うんそう。ちゃんと見る見方を分解してあげることが必要で、分析って足し算・引き算の分解と、掛け算・割り算の分解をするだけなので、四則演算でできるんですよね。
データ分析っていうとすごい難しい世界だと思っちゃうんだけど、四則演算でできるレベルの展開なので、それでお客さまを分化していけばいいんだよね。データを分化していけばいいよねと思ってる。
田中:その分化って、何をやればいいの?じゃあどんな見方でこう四則演算を考えるのっていうのが、ちょっとわからなくて、ヒントとしてほしいなと思っています。
金子:ええとね。例えばさっきの例だったら、高価格帯を買ってるお客さまたちと低価格帯を買ってるお客さまとか、そんな分解の仕方を展開したんだけど、もっとベタなところで全然あって、性別・年代でもそうだし、本当に誰が支持してるんですか?っていうのは、まずお客さまの分解としては普通にあるよね。
お店のお客さまで完全に見えない場合、まさにコンビニとかだったら、店舗の品揃えの違いみたいなもので、同じような立地の中でA店とB店があります。A店の方は売り上げが高くて、B店は売り上げが低いです。そしたら、まずベタに売上の構成比でどんなカテゴリーに違いがあるんだろうとか、それでその違いがあるカテゴリーが見つかったら、そのカテゴリーってどういう特徴があるんだろうとか、そんなとこ分解していく。
そうすると、いいお店を作る「仮説が生まれる」じゃないですか。
仮説ができたら、実際にID-POSSがあれば、そのID-POSSをみて、実際そのカテゴリーって誰が支持してるんだろうを見つける。そしたらお客さまのイメージが湧くので、売り方もイメージつくじゃないですか。
3.仮説実行の困難さ
「データをちゃんと見るとは?」という問いに対して、データの分化の方法などを具体的なお話がありましたが、実務上ではそう簡単にいかない場合も多いようです。
田中:一旦仮説を考えた上で施策を考えて当ててみるっていうのは、まあまあ、原始的な方法な気がするんですけども?
金子:ああそうそう。けどねそれがね、原始的な方法をやれないのよ。
田中:やれない理由って何かありますかね。
金子:えっとね。色々あってまず社内でその仮説を実行することが困難な場合は多いよね。
いろんな人がいるので仮説の証明性とか言われると困ってしまう担当者も多いと思っている。
仮説なのに証明してほしいと言われるので、まずやらせてみせてくださいって言っているだけなんだけどね。
特にデータを持ち出した時点で、完璧なデータを求める人はすごく多い。
お客さまを知りたいから、お客さまを知れる範囲で仮説を立てているのだけど、そこで「これの前提20%のデータでしょう」とか言われてしまうなどね。統計的にはよくないですか?って思うのだけども。
そうするとね、いつまでやっても仮説を実行させてくれない。
田中:ということは、企業様によってはCRMの導入が、うまくいく企業とそうでない企業があるっていう認識でいいんですか?
金子:ええとね。CRMの導入というか、CRMで効果を出しやすい企業と出しにくい企業があるってこと。
田中:導入はできる「けど」っていうことですね。
金子:導入はどこでもできるし、日本企業は事例が大好きだから、成功事例だったら同じ商品入れようとか判断するんだけど、ご相談がくる中にも他がやっているからやりたいというのはあるじゃない。
田中:同じことをやりたいですね。
金子:基本的には本当に同じことでいいんですか?って。例えば無印良品さんがあのアプリを作った時に、初めから今のゴールを完全に想定したとかそんなわけなくて。ゴールの想定が順次変わるんだよね。
田中:まあ、いろんな環境要因や社会の変化でも変わるのかなと思います。
金子:やってみたら当然その仮説が違うこともある。でも当たることもある。違ったら違ったっていう結果が得られれば直せる。
田中:気になるのは、日本はさっきの話じゃないですけど、大企業ほど失敗を許容しない文化じゃないですか。そこで違ったら違ったっていう知見が得られますよね。ということを、担当者さんが上に伝えるときにどう伝えたら、それはうまく伝わるんですかね?
金子:私とかも、伝えることは諦めていた部分があります。
諦めていたからこそ、いいからやっていこうぐらいな感じで。この人は実行力があるなと思われるからポジションはあるけども、評価はそんなに高くはない感じになることもある。
田中:なるほど。そういう場合、例えば私たちみたいな外部のコンサルが入ってお手伝いってできるんですか?そういう後押しとか。
金子:どうだろう。企業によってはコンサルよりも他にお金を優先すべきこともある。
けど、外部の人が入るのは2面あって、リードしようとする人たちが困ったり悩んだりするところの指針を出してあげるとか。考え方を整理してあげるとか。これは絶対まず入る要因の1個です。
もう1個は、社内で通す上で、外部の有識者がこう言ってますっていうのは、やっぱり日本企業には効果が高いので、そういう理由もありますね。
田中:外の人の声はよく聞こえるんですよね。
金子:外の人が言ったら、そうだよなって勉強になりましたって言うんだけど、いや、先週内部で同じ話をしたんですけど、といったことはよくあると思うよね。
それを政治的にうまく使えればいいんじゃないのかなと思ってます。
田中:まあ便利な道具というか手段の一つですね。
金子:だって外の人が言ってくれたら「うん」って言ってくれるんだからうまく使うのはありだと思う。
このように、今回は「目の前にあるデータをどのように分解して見るのか」といったデータ分析のポイントや、その際の日本企業ならではの難点や突破口となる話でした。
あなたの会社には既に「宝物」があって、その宝物を眠らせていませんか?
難しい統計知識はいりません。基本的な足し算、引き算、掛け算、割り算で十分です。
例えば、顧客の購買パターンを見てみる。そして、店舗ごとの売上の内訳を比較する。
こんな簡単な分析でも、面白い発見があるはずです。
次回は、CRMを効果的に使えてる企業とは?そのデータから何を読み取るのか?など更に深堀りしていきます。
引き続きインタビューを公開していく予定ですので、お楽しみに。
執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等
プリズマティクスのサービス
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