ロイヤルティプログラムの新たな潮流とは?〜ソフトベネフィット(体験価値)の充実〜
ここ1〜2年でロイヤルティプログラム(会員制度)の見直しを進める企業が増えています。弊社、戦略的OMO・CRM・ECを実現するプラットフォームを提供することで、小売業における顧客エンゲージメント向上を支援するサービスを提供するプリズマティクスでも、ロイヤルティプログラムの見直しや新たに設計の伴走支援の案件が増えております。なぜこのタイミングで見直しや導入を進める企業が増えているのか、そもそもロイヤルティプログラムとはどういったものなのかお話しをしていきたいと思います。
1.国内のロイヤルティプログラム動向
日本国内でロイヤルティプログラムを導入している企業の多くは、顧客が購買体験を通じてポイントを獲得し、次回以降の購入時に値引きや割引クーポンと交換ができるなど、実質的な値引き施策が中心の「ポイントプログラム」型の採用が多くを占めます。
元々の目的は既存顧客の囲い込みで、再購入や再利用を促進するためにポイントや割引といった金銭的なインセンティブ(ハードベネフィット)を付与し、顧客エンゲージメントを高める手法です。しかし基本的に顧客接点となる購買時に何かしらの特典を付与することが多く、企業間の差別化が難しいのが現状です。
顧客から見ても多くのロイヤルティプログラムが存在する中で、各社のプログラムの特徴や利点を理解し体験価値を感じることが困難な状況で、本来の顧客エンゲージメントを高める効果も薄れてしまっている状況です。値引きやクーポンだけで顧客は自社ブランドを選び、使い続けてくれるのか?またブランドに信頼を寄せ愛用してくれるロイヤルカスタマーは本当に「金銭的なお得感」を求めているのか?過度な値引きがブランド棄損につながっていないか?等が、検討の理由となっています。また、近年の経済不況でポイントプログラムの運用コストが企業の収益を圧迫しています。
そこで、ロイヤリティプログラムの本来の目的である顧客との中長期的な関係を構築し、LTV(生涯顧客価値)を高め継続して利用してもらうために、プログラムの見直しを進める企業が増えています。メディアでもここ1~2年でロイヤリティプログラムの見直しや新設した企業についての特集記事が出ており、ビジネス全体における「ロイヤルティプログラム」への注目度が高いことが伺えます。
2.ロイヤルティプログラムの見直しや導入の背景
ロイヤルティプログラムの多くは「ポイントプログラム型」がベースですが、従来のようなハードベネフィット(金銭的価値)だけではなく、各社独自のソフトベネフィット(体験価値)をロイヤリティプログラムに盛り込む企業が増えています。
デジタルが生活に浸透した現代では、顧客体験のアップデートに繋がるさまざまなアイデアをプログラムに取り入れることが可能になっています。ロイヤルティプログラム刷新の背景には、そのブランドや企業をさらに好きになってもらうための様々な体験を提供し、顧客とのエンゲージメントを強化する目的があります。
ロイヤルティプログラムを強化する別の理由として、2022年4月に日本国内では「改正個人情報保護法」が施行され個人関連情報を第三者に提供するサードパーティCookieを規制する法令が施行されました。
さらに2023年6月には「電気通信事業法改正」が施行され、Cookieデータを含む利用者に関する情報を第三者に提供する場合、下記3つのいずれかに対応することが義務付けられました。
1.所定の事項を事前にユーザーに通知・公表する
2.事前にユーザーの同意を取得する
3.外部送信を後から拒否できる仕組みを導入しユーザーに周知・公表する
これはリターゲティング広告などサードパーティCookieを利用した広告配信が制限され、またECサイト内の別ドメインで発行したCookieが無効化されてしまうことでコンバージョンが正しく計測することが難しくなる。つまり広告の費用対効果の把握が困難になることを示しています。有料広告の効果も下がり、広告のターゲティング精度が下がり、新規顧客の獲得も難しくなりCAC(顧客獲得コスト)が上昇している背景も一因としてあります。
3.深い結びつきが醸成できるようなロイヤルティプログラムの設計、活用を
近年のロイヤルティプログラムは、新規顧客を獲得することだけにコストを割くのではなく、既存顧客との繋がりを強化し、離脱を防ぎ、リピートしてもらうことにもコストを割く、つまり顧客エンゲージメントにつながる定期的な接点を作り出し、それぞれのブランド、企業独自の特別な顧客体験を充実させることに注力する流れになってきています。
クーポンやポイントでは差別化しづらい中、ブランド独自のオリジナリティを保ちつつ顧客ロイヤルティを高めるソフトベネフィット(体験価値)を充実させ、差別化を図ること。そうすることで、長期的な顧客との関係を築いていくためにロイヤルティプログラムを刷新していくブランドや企業がさらに増えることが予想されます。
「売上」という観点で見た時に、ロイヤルティプログラムの即効性は低く捉えられがちで、どうしても購買接点での取り組みが中心の、ポイントプログラムに留まっている企業が多い状況です。瞬間的に割引やお得な情報で関心や興味を惹き、購買につなげる短期的なプロモーションのような手法ではなく、中長期的な目線で顧客と向き合い、ブランドに対して特別な価値を感じてもらい、そのブランドの製品やサービスに信頼と愛着をもって、継続的に利用していただけるような、深い結びつきが醸成できるようなロイヤルティプログラムの設計、活用が今後益々重要になっていくでしょう。
執筆者プロフィール
西田 信義
コンサルタント
2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。
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