小売業が注目すべき「ユニファイド・コマース」の潮流とは [6/18小売勉強会レポート]
今日、急激に進化する小売業界では、オフラインとオンラインでの購買の境界があいまいになりつつあります。消費者は、Web サイト、モバイル アプリ、ソーシャル メディア、店舗など、ブラン ドとの関わり方に関係なく、シームレスな顧客体験を期待しています。この環境下でそれぞれの顧客に“価値ある顧客体験”を提供するために、複数チャネルを統合しパーソナライズ化したサービスを提供する「ユニファイド・コマース」でのアプローチが注目されています。
戦略的OMO・CRM・ECを実現するプラットフォームを提供することで、小売業における顧客エンゲージメント向上を支援するサービスを提供するプリズマティクス株式会社は、2024年6月、この最新トレンド「ユニファイド・コマース」をテーマに、株式会社顧客時間、クラスメソッド株式会社と共催にて小売勉強会を行いました。本記事では、当日紹介したセッション内容の一部をご紹介させて頂きます。
(取材・構成・文=プリズマ編集部)
目次
1.AIは小売業界をどう変えたか、これからどう変えていくのか。 2.顧客から得られる「ジョブ」データの重要性 3.「“ロイヤルティプログラムちゃんとやる”元年、な気がする」 4.「ユニファイド・コマースは、ビジネスモデルのリデザインとして考える必要がある」1.AIは小売業界をどう変えたか、これからどう変えていくのか。
はじめに顧客時間の共同CEO岩井 琢磨氏がモデレーターとして登壇し、本勉強会の主旨について「ユニファイド・コマースとは何か?という問いに対して“コレだ”という答えはない。ただ、今起こっていることをユニファイド・コマースという言葉で捉えるのは分かりやすい。解釈も含めて、今日は話していきたい」と語りました。
一人目のゲストスピーカーとしてお迎えしたのは、ヤプリ エグゼクティブスペシャリスト、顧客時間 チーフ CXストラテジストの伴大二郎氏です。2024年1月に米・ニューヨークで開催された「NRF」や、同3月にラスベガスで開催された世界各国から小売業のチェンジメーカーが集まり、最新のトレンドを議論するリテール業界随一のイベント「Shoptalk」等、海外カンファレンスに現地参加して感じた重要なキーワードについて、「AI」だったと語ります。そこで、本勉強会のテーマの“前提”とも言えるお話しを頂きました。
近年急激に、ヨーロッパはAIで世界をリードするのだ、テクノロジーだけでなく法律、ルールについてもそうしていく、という意気込みを感じさせるようになってきたと語る伴氏。アメリカのカンファレンスも、これまでは「テクノロジーを導入しても、人の雇用は守ります」という話が主流だったところ、今年は「小売業やサービス業の人は減ります。これを国としてどうしていくか考える」と、語り口の変化を感じたと言います。
「このような世の中の変化を前提にすると、当然DX、CXも変わってきます。今までは店舗やEC、広告やSNS等、各チャネルは別々に捉えられてきて、それらを“オムニチャネル”として繋ぐ努力をしてきたと思いますが、時代は変わりました。今は、全ての真ん中に顧客がいて、そしてAIがいる。『オムニチャネルをやってから、後でAIをくっつけよう』ではなく、AIは最初からあるものとして、顧客とAIを軸にリデザインするというのが重要なポイントだと思いました」(伴氏)
AIという技術は、既にいつの間にか使えるようになっているもの、既に誰もが使っている状態であり、もう勝手にどんどん入っている時代である、と伴氏は強調します。小売業界では、チャットボットやバーチャルフィット等の顧客サービス、CXの部分での活用も目覚ましいことが知られます。また画像生成や新商品開発といった、クリエイティブでの活用も始まっています。
文章を訳したり営業資料をつくったりという、デジタルアシスタントとしての活用方法は、多くの人が認識しているところでしょう。ベテランでも新人でも一定以上の成果を出せるようにするための支援は、小売以外の業界で多くの人が既に利用しており、開発も盛んに行われています。
「“メール文面をこっちにした方がクリック率がいい”とレコメンドしてくれるといった、デジタルマーケターの役割でも使うことが出来ます。グッチは顧客から言われたことをベースにコールセンターの対応をして、売り上げが30%上がったという報告があります。CMをつくるときに広告代理店に頼んだりしますが、現状も担当者によって出来てくる質には振れ幅があります。自社に本当にあったものをAIに作らせる方が、一定の成果が確実に出るという時代になっていくかもしれません」(伴氏)
2.顧客から得られる「ジョブ」データの重要性
AIによるコモディティ化が起こりつつある小売ビジネス。では、どこで差別化をすれば良いのでしょうか。お手本にすべき企業として紹介があったのは米・ウォルマートです。同社は2023年6月に“使い方を宣言”をして、AIの導入を進めています。
「AIを取り巻くルールの変化が著しい時流の中で、ウォルマートは自社のルールをしっかり決め、それに沿って試行錯誤を着実に進めています。実際に何をやってるかというと、まず2023年は社内向けに従業員利用アプリで利用を始めました。外部向けには『AIをこう使う』と宣言し、2024年1月にジェネレーティブAIによる検索を始めました。これによって“検索”が、全く変わってしまいました」(伴氏)
これまで「クリームが欲しい」と考える顧客は、検索窓に「クリーム」と入力しており、それが企業データとして蓄積されてきました。しかし顧客の目的は「クリームを買うこと」ではなく、その先にある「ケーキが作りたい」という目標の為の1ステップに過ぎません。更に深掘りすれば、そのケーキはホームパーティを開催する時につくるものかもしれません。とすると、顧客の本来の要望は「パーティでみんなを喜ばせたい」となるでしょう。「何を買ったか」ではなくて、「何をしたかったのか」が重要です。
「会話型AIを用いて、顧客との会話で“ジョブ”をインプットしてもらうと、その会話が積み重なった時、独自のデータになっていきます。顧客接点としてAIをしっかり使い、自分たちのお客さんの情報を取得するために利用する、また従業員にAIを持たせて顧客を支援していく。これが1stパーティデータの中に入ることによって、同じAIエンジンを使っていても、『ウチのお客さんだったらこれを勧めるのがいいよね』という、独自の回答が出来るようになります」(伴氏)
ゲストスピーカーの株式会社顧客時間共同CEO、プリズマティクスアドバイザーの奥谷 孝司氏からはこれに対し、「これまでは売場担当者個人に知識がなければ、それで終わりだった。でも企業として“ジョブ”を把握できていれば、お客さんの悩みからジョブを推察して、顧客体験を良くする、という循環が出来る」とコメントがありました。
またその前段階として、そもそも顧客対応を良くするためのAI導入についてはもっと検討されるべきとした上で、「正しいことをちゃんと答えられるようにするだけでも、顧客体験は違ってくる」と、AI利用に対する見方をニュートラルなものに変えるような提言がありました。
3.「“ロイヤルティプログラムちゃんとやる”元年、な気がする」
後半のディスカッションでは、プリズマティクス CEO濱野がモデレーターとして登壇。具体的にどんな内容が進んでいきそうか、また日本市場にてどう応用すべきか等、より現場に近い視点での質問を投げかけました。特に、プリズマティクスが小売企業の皆様から求められてきた支援内容、“ロイヤルティプログラム”についての議論が深まりました。
伴氏からは、「“ロイヤルティ”という言葉は、近年のカンファレンスで非常によく聞かれるようになった」とのコメントがありました。これまでのロイヤルティプログラムが単価の高いコア顧客を対象としていましたが、最近では新しくそのジャンルに入ってきた“入門者”をいかに育てるか、というリワード設定をすることが主流に変わり始めているとのことです。このリワードの設定やプログラムに一躍買っているのが、デジタルでのコミュニケーションという新しい“繋がり方”です。
「初心者の売上は伸ばし易いですが、プロ顧客対応よりも対応は大変です。これに対応できるようになったのは、デジタルで繋がっているからこそ、です。もともと会員証カードやポイントというのは、顧客のスイッチングコストを上げるための仕掛けでした。でも今はスマホアプリの時代。顧客といくらでもコミュニケーション取れるようになってきているのに、アプリで会員証時代と同じことを未だにやってるのか、ということだと思う。デジタルネイティブな企業は、ブランディングやコミュニケーションに使っていますよね」(伴氏)
「今、もう一回、“ロイヤルティプログラムちゃんとやる”元年、みたいな感じがする。ホームセンターとかはスイッチングコストが安いから、クーポンとかポイント競争になりがちです。そうじゃなくて、お客さんが説明して欲しいものをちゃんと提示し続けることで、関係性を作るということだよね。優れたCXをつくるために、デジタルをどう使うか。優れた顧客体験をつくるためにはデジタルのタッチポイントが必要だ、ということですね」(奥谷氏)
4.「ユニファイド・コマースは、ビジネスモデルのリデザインとして考える必要がある」
モデレーターの岩井氏から「ここまでの話で出てきた、どこにターゲットを置くか、どうやってデジタルを使っていくか、どうロイヤルティプログラムを設定するかというのは、マーケティングの本流みたいな話になっているように聞こえます。この点についてはどう考えますか?」とコメントがありました。
伴氏は「ユニファイド・コマースになることで、企業が期待していること」というテーマでのアンケート結果を見たことがあると語り、そこで示されていた回答を紹介しました。「平均注文額が上がる」「販売ロスが減る」「運用コスト削減」「EXが向上する」「コストが削減される」「新規顧客が獲得できる」等々、既存のビジネスモデルの課題が列挙されています。
「ユニファイド・コマースって、オムニチャネルの別の言い換えでしょとか、どっかくっつければいいんでしょと思っている方も多いと思う。そうじゃなくて、ビジネスモデルのリデザインとして考える必要があります。これまでつくってきたチャネルをくっつけるという話ではなく、ビジネスモデルを変えて、これまでの課題を改善したいよね、ということだと思うんです」(伴氏)
これに対し奥谷氏は「ユニファイド・コマースがオムニチャネルの言い換えが間違い、とまではいわないけど……」としながらも、「オムニチャネル、CRM、ポイントプログラム、ロイヤルティプログラム、ユニファイド・コマースと、言葉の定義をせずにグジャグジャに使ってしまうと結局、販促的な話に留まってしまう。それぞれの定義をちゃんと分かるということは、とても良いことだと思う」と、議論の土台作り、軸をつくることの重要性を語りました。
「お客さんのタッチポイントのニーズも、ものすごく多様になっている今、広告もアナログ、デジタル、動画とあり、見たらそのままそこから買いたい等、いろいろある。ユニファイド・コマースという言葉の裏には、お客さんのニーズがスゴくあるんだ、そういうふうに思っていただければな、と思いますね」(奥谷氏)
ロイヤルティプログラムなどの、会員制度設計支援を長年続けてきたプリズマティクスですが、2023年より顧客とのエンゲージを高め、ロイヤルティを向上させる会員・クーポン・ポイント管理システム「fannaly(ファンナリー)」を提供開始しております。今後も小売企業の皆様に対して、時流に即したソリューションやサービス提案を行なっていくため、経験豊富なアドバイザーや社内外からのインプットを継続的に行なっていきます。
(取材・構成・文=プリズマ編集部)
「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。
『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。
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