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外食業界のロイヤルティプログラムの課題とは?

外食業界のロイヤルティプログラムの課題とは?

ブランドの自社顧客を囲い込むためには、顧客が利用したくなるロイヤルティプログラムが必要になるケースが多いと思います。しかし多くの企業が顧客のニーズに沿ったロイヤルティプログラムを提供できているのでしょうか。言い換えると、顧客が外食ブランドに求めていることは何でしょうか。

今回は企業視点のロイヤルティプログラムの課題、顧客視点のロイヤルティプログラムの課題、その二つのコンフリクトをどうやって解消していくべきなのかを解説したいと思います。

1.顧客にとってのメリット

多くの顧客が望むメリットはお会計金額を少しでも安くしたいので、クーポンを望みます。外食店によっては常にクーポンを配布し続けている企業もよく見かけます。逆にクーポン以外の特典を提供している企業はかなり少ないと思います。具体的にはスターバックスやスシローのようなブランドが事例になります。

スターバックスのようにEC商品やオリジナル商品を豊富に提供できる環境は、コアファンにはとても嬉しい特典だと思います。外食ブランドでECをここまで両立できているブランド自体がほとんどないと言えます。

スシローはオリジナルキャラクターの世界観とグッズを揃えており、子供やファミリーに嬉しい特典を提供しています。外食ブランドでオリジナルキャラクターを作る試みはよくありましたが、そのキャラクターが非常に人気となることはとても難しい課題です。なぜならば、キャラクター開発するには専門性の高いチームに依頼しないと精度が低いにも関わらず、経験の足りない社内チームに作ってもらうケースが多いからです。そしておよそターゲットを見極めず、決済者の感覚で決まることも多いでしょう。つまりオリジナルキャラクターの設計は最初から失敗することが想像しやすい環境から生まれることが多いのです。

多くの企業が直面する「クーポン以外にどんな魅力ある特典を用意できるのか?」「顧客が本当に求めている特典は何なのか?」については後述したいと思います。

2.企業にとってのメリット

多くの顧客の来店頻度を高めてもらい、顧客毎の年間累計会計金額を積み上げていけることが企業の顕著なメリットです。

ただし、目の前(今期)の売上、長期的な売上には差異があります。急激に来店頻度が高まっても、来年も来てくれるのか? コツコツ飽きない程度に定量的に来店してくれた方が良いのか? この顧客の行動を見守りながら成長させていくことが企業が望むことでしょう。その運用をしていく上で、ロイヤルティプログラムを見直した後のブラッシュアップも欠かせません。

なお、ロイヤルティプログラムとはクーポンや特典だけの機能を指すわけではありません。顧客との接点や顧客体験を整理しながら、顧客のどんな行動を重視してその行動に対する還元やコミュニケーションしていくかを設計する必要があります。ロイヤルティプログラムを通じて顧客と企業の関係が深まっていくことが求められています。関係が深まっていくことは優良顧客化の成長に繋がります。

外食に限らず、自社ブランドの顧客のLTVが高まり優良顧客化することは、多くの企業が望んでいることです。なぜならば、新規顧客の確保にはいずれ限界が見えることは想像しやすく、既存顧客がどれくらいの来店頻度を増やしてもらえるのかが総売上を支える軸となるからです。

3.顧客との接点

顧客との接点、特にロイヤルティプログラムとしては、アプリ会員、LINE会員、LINEミニアプリ会員、メルマガ会員などがあるでしょう。顧客はその中に会員証があり、現在の会員ランク、累計スタンプ、累計ポイントなどが確認できるはずです。顧客がこの会員ツールを開くのはいつでしょうか。

多くの顧客はお店に来店する前後だけでしょう。外食のファーストフードや低単価のお店は日常的な来店頻度になりうるため、会員ツールに触れる機会も非常に多いと思います。一時期は会員ツールの一環としてサブスクリプションのサービスも流行った時期がありましたが、かなり多い来店頻度にならないと必要性はないでしょう。事実、現在でもサブスクリプションの利用者が多い外食チェーンストアは少ないと思います。

マクドナルドはファーストフード店ですので来店頻度は高いはずですが、表立ったロイヤルティプログラムはありません。年中、シーンに合わせて選べるクーポンがずらっと並んでいるだけにも見えます。クーポンをばら撒いていたとしても十分に収益化できる来店頻度が見込めること。そしてそれ以上の特典を提供するよりも、シーズン毎に新商品を出し続けることでリピーターを囲い込める体制があるからではないでしょうか。

4.顧客視点のロイヤルティプログラムの課題

では改めて、顧客視点では飲食店に何を求めているのでしょうか。
食べ物の美味しさ、お店の雰囲気、居心地、SNSでシェアしたくなる商品イメージ、自身のSNS投稿のエンゲージメントのため、誰と来たいか(または一人で)、などあると思います。ただ何度も食べたくなる飲みたくなるようなやみつき感がないと来店頻度は高くないでしょう。もしくは毎回の期間限定がSNS投稿映えするので来る目的来店もあると思います。

例えば、月1回以上の常連客は来店が習慣化しており、商品力や価格以上の居心地も求めているケースも多いと思います。その状態になってくると、値引きしなくても来店するでしょう。その代わり、来店回数が増えることでVIP会員のステータスや待遇を求めることも大いにあります。

ここで企業側は1回分無料券やお店で使っているアイテムを提供したり、常連限定イベントに招待したりするケースもよく見かけます。しかし顧客はそのブランドに対する愛着は何なのかを可視化する必要があります。

アパレルブランドであれば、「ブランドに対する憧れ・愛着」がありますが、飲食店で憧れ・愛着を持たれるブランドはほとんど稀有です。アパレル高級ブランドは憧れを持たれやすくステータス感も整います。カジュアルブランドは日常利用の愛着があるでしょう。

「そのブランドのロゴが入った物を身につける」というのは衣料・雑貨・小物は理解しやすいですが、外食はどうでしょうか。かなりおしゃれな飲食店だとしても「身につけたい」と思わせるのはスターバックスくらいではないでしょうか。無料でもらったから使うという場合はあると思いますが、あなたが日頃利用する飲食店のグッズをもらって使いたくなりますか? スシローのオリジナルグッズのように、子供も喜びそうな可愛い・癒しグッズを開発するのも難易度が高いでしょう。

常連客になるほど飲食店への愛着は膨らむとは思いますが、「顧客がそのお店を利用する」以外の日常シーンを踏まえて、本当に喜ばれる還元物を見出す必要があると思います。

5.企業視点のロイヤルティプログラムの課題

企業側の課題はまず「どれくらい値引きするか」「誰に値引きするか」「値引率の上限」があります。

ロイヤルティプログラムを通じて顧客データを分析すると、どんな顧客に値引きが必要かどうかが見えてきますので、プロモーションやCRMでの予算配分を調整していくのがセオリーです。

続いて、「値引き」以外に何を提供することで顧客満足度が向上するのでしょうか。年間100回以上の常連客がままあるのが飲食店ではありますが、1店舗あたり何人いるのでしょうか。そんな常連客は放置して、全体的な来店頻度を底上げすることが課題になる場合の方が多いでしょう。

顧客がお店に来る時、過ごす時間は日常のごくわずかな部分です。顧客のライフタイムを見据えると、来店時以外にどんな行動をしていて、どんな接点でその飲食店の情報を得て、反応し、また来店したくなるのでしょうか。

飲食店のアプリは来店前後しか利用してもらえないというのがセオリーです。しかし近年では鳥貴族やコメダ珈琲店のように来店前後以外の日常的に顧客が接してもらえるようなアプリが誕生してます。アパレルでは購買以外の顧客行動に対してポイントやマイルを付与して、顧客のモチベーションを高めるアプリも増えてきました。

今後の顧客が喜ぶロイヤルティプログラムとは、ユニファイド・コマースのようにその業種だけの観点ではなく、顧客のライフタイム全体を捉えて、どこに顧客との接点や体験があり、そのブランドは何を提供することで顧客とのコミュニケーションが高まるのか見直しが必要な時代になってきたのではないでしょうか。

清水 圭介

執筆者プロフィール

清水 圭介
コンサルタント

株式会社EPARKを経て、2018年に物語コーポレーションに入社。外食チェーンストア(焼肉きんぐ・丸源ラーメン・ゆず庵)におけるデジタルマーケティング・DXの部門を立ち上げ、OMO構想からCDP構築を軸にアプリ・web開発からマーケティングまで網羅した戦略立案・企画推進、開発からマーケティング運用を担う。2021年にレインズインターナショナルに入社。デジタルマーケティング部の部長として、牛角・温野菜を中心にCDP構築・web広告・順番受付開発運用などを担う。2023年9月クラスメソッドに参画。

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