「スターバックス・ユナイテッドアローズ・シップスなど有名企業が見直した今 御社のポイントプログラム、見つめなおしてみませんか?」と掲げて、プリズマジャーナルがお送りする連載企画。全六回にわたって「ロイヤルティプログラム」をテーマに、様々な切り口で記事を短期間で投稿していきます。
ポイントプログラムにおける費用対効果を高めていくうえでは顧客の特性に応じたポイント施策を実施していくことが重要です。顧客理解を深めて費用対効果の測定と改善を継続しながらポイントプログラムを運用し事業活動全般に反映していくことが必要になります。
ここ数年は顧客の誰もが画一的に購買額に応じてポイントが付与されポイントを値引きで利用できるというポイントプログラムから、商品やサービスの購買と利用の前後も含めた顧客体験においてロイヤルカスタマーを優遇し継続的に購買や利用してもらうロイヤルティプログラムへの移行の流れが顕著に出てきています。顧客体験の観点では異なりますがそもそもポイントプログラムはロイヤルティプログラムの一形態でありロイヤルティプログラムでもポイントやクーポンを取り入れているケースも多いのでここでは総合的な観点での費用対効果についてお話しをしていきたいと思います。
1.費用対効果の考え方【効果】
ポイントプログラムにおける効果にはポイントが貯まるからその店舗や商品を購入するという「付与効果」と貯まったポイントで商品を購入するという「還元効果」があります。一定の効果がみえるとそれが結果として売上アップや新規会員の獲得、既存会員の離脱低下、さらに細かくみていくと購入回数の向上や客単価のアップ、来店頻度の向上などにつながっていきます。ポイントという顧客へのインセンティブの提供によって企業側が得られる利益貢献の度合いについてはポイントの付与対象になった売上総額やポイントの年間利用実績(還元総額)から目安となる数値は推計することができます。
費用対効果のシミュレーションを進めるうえで注意しなければならないのは「期待される効果が何なのか」を事前に明確にする必要があります。効果といっても様々な指標、数値を当てはめることができるので各社のKPIを踏まえどの指標を計測していくかは考えることが必要です。売上が上がることだけを効果とするのか、売上だけではなく新規会員の獲得件数までを効果として捉えるのか、何を効果として計測していくかは必ずしも明確になっていない場合があるので「考えられる効果は何があるか」も洗い出し指標を明確にすることが重要です。
2.費用対効果の考え方【費用】
ポイントプログラムにおける費用にはポイント原資やシステム運用費などポイント関連の運営にかかる支出の総額を指します。次章で説明しますがポイントプログラムではポイントの付与・発行時点で会計処理が必要になりユーザー数の規模によっては数百万~数億円規模の費用が発生し事業に与えるインパクトが大きいためポイント原資の捻出や予算計画はとても重要です。
費用対効果シミュレーションを進めるうえで注意しなければならないのは効果同様、「どこまで費用とみなすか」を明確にする必要があります。実務ベースでみると厳密には費用に含めるべきものであるものの人件費のように計測が難しい費用もあります。費用もどこまでを費用として含めるかを事前に決めておく必要があります。
3.新収益認識基準におけるポイントプログラムの会計処理の理解
上場企業や大企業には2021年4月以降の会計年度より新収益認識基準の強制適用(中小企業は任意適用)が始まっていますがその内容の理解が浅い実務担当者をよく見受けられます。ポイントプログラムを導入している企業、これから導入を考えている企業の担当者はあらためてその内容をおさえたうえでポイントプログラムの運用内容や費用対効果の試算を進める必要があります。ここでは重要なポイントに絞って説明をしていきたいと思います。
新収益認識基準とは「収益(売上)をどのように認識してどのタイミングで会計処理(計上)するのか」を定めた基準です。ポイントプログラムにおける会計の解釈指針は以下になります。
1.消費者に付与されたポイントは収益の繰延として扱う
2.会計処理としてポイントが付与された時点で「繰延収益」として計上。
3.各売上から繰延収益を引いたものを売上計上
4.実際にポイントが使用された時、ポイントの有効期限が切れた時点で繰延収益は取り崩され正式に売上として計上
つまりポイントを付与した場合、売上からポイント付与相当分を繰延収益として差し引き売上として計上、ポイントが使用された時、有効期限が切れた時に繰延収益を取り崩し正式に売上計上するということになります。勘案しなければならないのは新収益認識基準ではポイントを多く付与するとポイント相当分が繰延収益となり会計処理上は売上を減額する必要が出るというところです。一時的といえども経営に大きな影響を及ぼす可能性もあるためポイントプログラムを廃止し割引クーポンに切り替えた企業もあるほどです。(※クーポンは発行時点での会計処理の必要はなくクーポンが使用された時点で会計処理が発生)今まではポイントプログラムは会員プロモーションの一部でありマーケティング施策の要素が強かったと思いますが売上に影響を与えるという意味では経営戦略の一部であるという認識をもちポイントプログラムやポイントプログラムを含んだロイヤルティプログラムの戦略を策定していくことが重要になります。
4.費用対効果シミュレーションの実施と検証
私達はポイントプログラムやポイントプログラムを含んだロイヤルティプログラムの導入や新たに制度設計を進める中でお客様のLTV(Life time value)が高まりどのような効果が見込めるかを費用対効果シュミレーションの軸として検証をおこないます。
計算式で表すと
LTV(顧客生涯単価)=購買単価×購買頻度×契約継続期間×収益率 になります。
効果の指標はあらかじめクライアントと定義、もしくは優先度の度合いを確認しシュミレーションを実施します。費用の部分に関してはポイントプログラムであればポイント原資(予算感)を確認したうえでポイント付与率、ポイント利用条件(金額・期限)など会員ランク別の他インセンティブと照らし合わせながら細かい試算をおこないます。ロイヤルティプログラムにおいてはポイントやクーポンなどの経済的なインセンティブだけではなく情緒的なインセンティブ(購買以外の顧客体験など)の効果、影響も考慮し制度全体での効果をシミュレーションしていきます。 収益認識基準の適用もあり経営にあたえるインパクトが大きいため3パターン(Upside・Regular・Downside)程度の想定シミュレーションを作成し売上対費用比率などPLへの影響値も試算しシミュレーションします。ロイヤルティプログラムにおいては売上貢献度が高いだけではなく企業やブランドに信頼や愛着をもってくれる顧客、すなわちLTVの向上に貢献するロイヤルカスタマーの育成や維持が必要なためロイヤルティプログラムの検証は中長期にわたりおこなっていく必要があります。
※参考資料
執筆者プロフィール
西田 信義
コンサルタント
2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。
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