「スターバックス・ユナイテッドアローズ・シップスなど有名企業が見直した今 御社のポイントプログラム、見つめなおしてみませんか?」と掲げて、プリズマジャーナルがお送りする連載企画。全六回にわたって「ロイヤルティプログラム」をテーマに、様々な切り口で記事を短期間で投稿していきます。
第一回目はポイントプログラムの効果が出やすいケース・出にくいケースや、課題化してきた背景についてお送りしました。
今回第二回目は、ロイヤルティプログラムを数多く手掛けてきたコンサルティング部部長の金子に、他業種よりプリズマティクスへジョインして間もない中西から、業務で感じた質問をぶつけてみました。
1.ロイヤルティプログラムの好事例って?
中西:一昔前までは「ポイントプログラム」と言えば「100円で1ポイント付与、1ポイント1円値引き」でプラスチックカードが財布にたくさん入っていた記憶があります。そこからスマホアプリに移行し、どんどん多用化してきているのを生活の中で感じています。
金子さんがご存知のロイヤルティプログラムで「これは」と思ったものはどんなプログラムがありましたか?
金子:最近見かけた中で面白いなって思ったのはニューエラさんですね。
中西:スポーティーなデザインの多いアパレルブランドですよね。
金子:うん。面白い点としてまずポイントは会員ステージの判定のみに使っていて、基本そのままお金にもならないし、クーポンにもならない。
会員制度としては割引以外のインセンティブを提供していて、会員ステージが上がると当然より良いインセンティブをもらえるんだけど、いわゆる商品の割引が一切ないんだよね。
中西:珍しいですよね、お金の割引がない会員制度ってあんまり他で聞かないですよね。
金子:うん、そこがユニークなのと、あとはランクによってもらえる特典とかも面白くて。人気商品発売時の先行アクセスや、リアル店舗での専用待機列。これはニューエラさんが明確に商品力があるからこれが刺さるんだよね。「ニューエラのこの商品!」に対して反応する人が非常に多いから、このインセンティブでみんな喜ぶ。
中西:確かに。単体のコンビニの新商品とかでそんな優先権があってもなかなか響かないですもんね。
金子:しかも、この人気商品の先行アクセスとかも本当に5分とかだよ。
中西:あ、そんなレベルなんですね!?
金子:コンビニで、新商品5分早く発売しますっていっても何言ってるんだって思うじゃん。(笑)
中西:一切惹かれないですね。(笑)
金子:だから商品の特性やビジネスモデルだとか、どんなお客さんがいるかとか、お客さんがどんなものを求めているかによって、プログラム設計は全然違ってくるんだよね。
中西:確かに、相当熱狂的なファンがいるところじゃないと、今の内容は刺さらないですもんね。
金子:そうそうそうそう。だから、会員制度のステップに一番初めに「体験設計」とか入れてるんだけど、そこから絶対に入らないといけないのはこういうところで。
お客様がどんな体験を求めてるんだろうか、それは、同じアパレルでも求める形は全然違う。
2.お客さんが求めている体験
例えば、ユナイテッドアローズさんだとセレクトショップなので基本はそこでしか買えない商品ではないんだよね。ユナイテッドアローズが好きな人は、ユナイテッドアローズというファッションの感度が高い会社が選んだ商品を買いたい。だから、ユナイテッドアローズさんはコーディネート力とかを重視している。当然、制度もそれに沿った形に着地させるべきで。
ニューエラさんは「ニューエラ」っていうブランドをメインに打ち出していて、商品も他と違うものを出しているから、その商品力で引っ張れる。
中西:なるほどです。同じアパレルでも強みの種類が違うというか・・。
金子:そう、強みの種類が違う。
他にもユナイテッドアローズさんとシップスさんとで接客が両社とも強みとしてあるけど、ユナイテッドアローズさんの言ってる接客はコーディネート力であって、シップスさんの言ってる接客はまた違ったよね。
中西:そうですね、お客様のことをより理解して提案をしていくようなイメージです。
金子:でしょ。お客さんにとって最適なものをどう導くかというところを軸に置いているし
ユナイテッドアローズさんはいかにコーディネートでお客さんをおしゃれにしてあげるかというのがキーになってる。同じ「接客」という言葉でも体験は違うものになってくる。一方で、積極的な接客を求めないしまむらさんもいるよね。
中西:そうですね。私も過去店頭に立っていましたが、むしろ接客で言うと「たくさん来て下さるお客様を平等に扱う」が大事でした。
金子:そうだよね。近い業態に見えても各会社の強みって全然違う。その求めている最適なものが、事業会社側の「こういうものを提供したい」という思いと、お客さん側の「こういうものが欲しい」が合うと当然ファンになっていくし、逆にズレればファンは離れていく。
中西:そうすると良いロイヤルティプログラムの条件として「制度を通じた体験が≪お客さんが求めている≫その企業の強みにマッチしているかどうか」が一つチェックポイントになっているんですかね。
金子:うん。ブランディングって、お客さんの期待価値と提供価値が同じものになって、できたら提供価値が期待価値を上回ると信頼性がぐっと上がってファンになっていくんだよね。だから事業会社側が提供しようとしている価値に対して、お客さん側がそれをちゃんと期待してくれているかの視点が絶対に必要で。それがちゃんと嚙み合っていて、ロイヤルティプログラムを通してその価値を提供できていればベストな状態だね。
3.ロイヤルティプログラムの必要性とは
金子:それで言うと、ロイヤルティプログラムだとかはなくてもいいっちゃいいんだよね、それが成り立ってれば。逆にユニクロさんやGUさんってどんどん制度を薄くしてて、でも成り立ってるんだよね。
中西:確かにそうですね。私もポイント目当てで買いにいこうという意識は全くないですね。
金子:でしょ、だからそれも一つの正解だと思うよ。ロイヤルティプログラムが必要な企業は多いとは思うんだけど。ロイヤルティプログラムだとか、ポイントプログラムが無くても来るのが一番だよ。
中西:うん、コストが掛からないってことですもんね。
金子:うん、コスト掛からないもん。(笑)
どうしてもやらなきゃいけないって理由はないよ。
中西:でも、そんな中でも今必要だって考えている会社が多いわけですもんね・・・。ロイヤルティプログラムの必要性ってどう判断したらいいんでしょう。
ニューエラさんの話は、自分がファンなら、今まで愛用してきた分に対して認めてもらって、優先権みたいな特典を通じて「ちょっとVIP扱いしてもらう」ような状況が、よりまたブランドに対する愛着が強まるなぁと。ブースターのような、元々ある愛着をより深めてくれるような要素なのかなと感じたんですが。
金子:そういった要素もあるんだけど、事業会社がロイヤルティプログラムをやるもう一つの理由は「お客さんの情報を集めたいから」だね。
情報を得ることでお客さんの行動や購買の分析が出来て、より良い商品やサービスなんかを提供できるというのが、もう一個軸にある。でもお客さんは何かしらのインセンティブがない限り、自分の行動情報、要は会員証を提示してくれない。提示してくれないとアクションが取れないから、その為のポイントやインセンティブという要素も正直ある。
中西:確かに何のメリットもないと、会員証の提示はむしろ煩わしい要素になりますね。
金子:それと、もう一つはスマホの重要度が増してきたから。
多くの人にとってスマホが一番接触時間が長い媒体になっていて、スマホでの買い物も広がってきた。特にコロナを通じて、リアル店舗でビジネスが崩壊したから、より多くの企業がECが成り立たないとこの先、生き残れないと認識したんだよね。お客さんも同様に多くの人がECを使う経験をしてるから、デジタルの利便性を認知している。
更にはコロナが明けて、リアル店舗にただ戻るんじゃなくて「使い分ける」という発想になってきている。悲しいかなOMOは事業側の成長よりお客さんの成長の方が早くて、お客さんに対応するために、デジタル接点を上手く使わなきゃいけなくなってきている。
アプリっていうチャネルはリアル店舗とデジタル接点を繋ぐ重要なチャネルになっちゃってるから、お客さんのスマホの中に自社のアプリを入れようとなる。そのアプリを上手く機能させて、リアル店舗とデジタルの接点を繋げる為に会員証を作っていって、プログラムを作りましょうというのは当然の流れかな。
中西:なるほどです。お客さんの情報を得るという要素と、デジタルとリアルを上手く繋ぐ触媒としてロイヤルティプログラムがあるということですね。
金子:そう。だから本質的には別に無くてもいいんだけど、でも時代的にないと上手くデジタル接点を使うことが難しいから必要姓が増してきているんじゃないかなぁって個人的には思ってる。
4.会員制度設計の一番大事な軸
中西:なるほどです。
でも制度を通じて、ロイヤリティ向上を図ったり、顧客の情報を得たり、リアルとデジタルを行き来させたり、会員制度の目的が複数ある中で、企業側の課題感もそれこそ多種多様ですよね・・・。会員制度設計のときに逆に一貫して大事にしている考え方とか金子さんはあったりしますか?
金子:軸になるのは実は一個だけで「顧客体験の整理」でそれができない限りは、プログラムはどこにでもあるような薄っぺらいものになってしまう。その体験設計をする上で、自社の強みってなんなんですかをとことんちゃんと詰めるところだね。「何が強みだから、どんなお客さんが育つのか」。いきなり体験からは多分入れない。
そこをちゃんと詰めることによって、さっきのアパレルの比較みたいに、何が違うかがちゃんと見えるので、そうするとどんな体験を提供すべきかが見えてくるんだよね。
中西:確かに、それは先程の話ですごくイメージがつきました。
金子:だから強みを突き詰めるのが凄く大事なんだけど、それもいくつか持つべき視点があるね。・・・といったところでそろそろ時間だね。
中西:そうですね、まだまだお伺いしたいところでしたが、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
今回は、ロイヤルティプログラムについて様々な切り口のお話をお送りしましたが、今回盛り込みきれなかった「強みをいかに突き詰めていくのか」については、次回の記事でお伝えできればと思っています。後続の連載にもぜひご期待ください。
中西 悠太
コンサルタント
株式会社しまむらにて店舗運営と商品部を担当。2017年に株式会社カーブスジャパンに入社し、オンラインフィットネスの立ち上げに参画。サービス構想、システム開発、デジタルマーケティング、プロジェクトのローンチを経て、別の新規事業開発にジョイン。
ビジネスモデル、店舗運営や各施策開発、CRMの検討に携わり、サービスの主軸となるシステム開発はPMとしてプロジェクトをリード。その他 施策開発、物件開拓、店舗レイアウト、人材育成など複数業務のリードを経験し、2023年11月クラスメソッドに参画。
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