OMO時代の顧客体験とは?〜ビジネスコンサルティングサービスのご紹介[リテールテックJAPAN2024]
プリズマティクスは、2024年3月に東京ビッグサイトにて開催された「リテールテックJAPAN」EC・デジタルマーケティングゾーンに、クラスメソッドと共に出展し、展示ブース内では連日、多数のミニセッションを行いました。
本稿では、小売企業様を幅広く支援するビジネスコンサルティング部のミニセッション「クラスメソッドの描くOMO時代の顧客体験とは? ビジネスコンサルティングサービスのご紹介」について、詳しくご紹介させていただきます。
1.OMOとは? オンラインとオフラインの融合による新しい顧客体験の設計
OMO(Online Merges with Offline)という概念は、オンラインとオフラインの境界をなくし、両者が一体となって顧客体験をデザインする考え方です。このアプローチは、現代の消費者の行動が、もはやオンラインとオフラインのどちらか一方に限定されない現実を反映しています。
現状の事業会社と消費者のOMOに対する動向
事業会社においては、OMOへの対応が急務となっています。しかし、興味深いことに消費者自身は既にOMO的な行動をとっているのです。彼らはオンラインの情報をオフラインの購買行動に活かすなど、柔軟かつ効率的な方法で商品やサービスを利用しています。消費者のOMO的な行動には、以下のような具体例が挙げられます。
●価格比較と購入の選択:実店舗で商品を確認した後、オンラインで価格を比較し、より安価な方で購入する。
●購入と受け取りの最適化:急ぎの場合は直接店舗で購入や受け取りを行い、時間がある場合や重い商品は自宅への配送を選択する。
●スムーズなサービス利用:レジで待つことなくモバイルオーダーを利用し、コーヒーなどを手軽に受け取る。
●ポイントのクロス利用:店舗で貯めたポイントを、オンラインショップでの商品購入に利用する。
これらの行動は、消費者がオンラインとオフラインを自在に使い分け、より良い購買体験を追求していることを示しています。
OMO対応の遅れと企業競争力への影響
消費者の行動がこのように進化している中で、企業がOMOへの適応を遅らせることは、市場での競争力を大きく損ねるリスクを伴います。顧客体験の設計においてオンラインとオフラインの統合を進めることは、現代のビジネスにとって不可欠な戦略と言えるのではないでしょうか。
2.OMO時代の顧客体験
OMO時代における顧客体験の設計は、「時間」、「空間」、「連携」の三つの要素に注目して行われます。それぞれの要素がどのように組み合わさるかを理解することで、企業は消費者にとって魅力的な購買体験を提供できるようになります。
時間とは、「選択→購入→使用」プロセスの包括
顧客体験の「時間」の側面では、単にPOS(販売時点情報管理)システムで捉えられる「購入」の瞬間だけでなく、「選択」から「使用」に至るまでの前後のプロセスまでも重視します。
現代の消費者は多様な情報源から製品についての情報を取得し選択しており、これには企業からの公式情報だけでなく、SNS上での消費者間の口コミも含まれます。
購入後も、製品の使用経験がSNSや口コミを通じて共有され、リピート購入の動機付けとなっています。
空間とは、デジタルとリアルの選択
「空間」の側面から見ると、消費者は状況に応じてデジタル(オンライン)とリアル(オフライン)の中から最も便利な購買方法を選択しています。
例えば、急いでいる時はリアルな店舗での購入を選び、時間に余裕がある場合やかさばる商品の場合はオンラインでの購入が選ばれます。
連携とは、チャネル間の一体感の創出
最後に「連携」ですが、時間と空間の組み合わせをスムーズにつなげて、継ぎ目のない顧客体験を設計することを意味します。
例えば、店舗で商品を見てオンラインで購入する、あるいはその逆の行動が自然に行えるようなシステムです。この連携が不足すると、消費者は商品を店舗で見た後に、モールなど他のオンラインプラットフォームで価格比較をし、購買行動を行ってしまう可能性があります。
ここで「THE MELT」の事例をご紹介したいと思います。
OMO(Online Merges with Offline)における顧客体験の設計において、どのようにテクノロジーを活用して顧客の利便性を高め、同時にブランド独自の体験価値を提供するかという点の一例です。このケースでは、時間と空間、そして連携の3つの要素がうまく組み合わされています。
時間:効率的なプロセスの実現
THE MELTでは、顧客が事前にアプリを通じてオーダーし、QRコードを取得することで、実際に店舗に来店した際の待ち時間を削減しています。ランチタイムのようなピーク時でも、顧客はアツアツの商品を楽しめるという体験設計を行っています。
空間:フレキシブルな受け取りオプション
このシステムは、空間の利用においても柔軟性を提供します。顧客は店内で食事を楽しむことも、テイクアウトして別の場所で食べることも選べます。どちらの選択肢も、商品がアツアツの状態であることに変わりはなく、顧客のニーズに応じた体験が提供されます。
連携:スムーズなオンラインとオフラインの統合
事前オーダーとQRコードによる受け取りプロセスは、オンラインとオフラインの体験をスムーズに統合しています。アプリでの操作は簡単で直感的であり、実店舗での体験は待ち時間がなく、効率的です。これにより、顧客体験全体が向上します。
一方で、日本の他の事業者は、モバイルオーダーを利用しながらも、スタッフと顧客の間のコミュニケーションを重視し、パーソナライズされたサービスを提供することで、異なる体験設計を追求しています。顧客がアプリに登録したニックネームを呼ぶことで、より個人的な接触機会を創出し、顧客の満足度を高めるなどの施策があります。
事例からはテクノロジーを活用したサービス提供の方法は一つではなく、ブランドのアイデンティティや事業戦略、顧客の期待に基づいてカスタマイズされるべきであることがわかります。こうした独自の顧客体験設計が企業の競争力を左右する重要な要素となっていきます。
3.顧客体験を実現するビジネス設計と情報システム
OMO(Online Merges with Offline)の時代において、顧客体験を最適化するためのビジネス設計と情報システムの構築は、企業にとって避けて通れない課題です。
スマートフォンを軸としたビジネスと情報システム設計
ここでのポイントは、事業会社と顧客を結びつけるサービスや情報の中心としてスマートフォンを位置づけること、そしてその上での顧客体験設計やUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の最適化が不可欠になるということです。
現代の消費者は日常的にスマートフォンを使用しており、商品やサービスの情報を得る主要な手段となっています。企業は、このスマートフォンを通じて顧客と接触し、関係を築いていくために、以下のポイントに注目する必要があります。
●販売チャネルの多様化:リアル店舗、自社ECサイト、外部のECモールなど、複数のチャネルを通じて商品を提供し、それぞれのチャネルがスマートフォンと密接に結びついている。
●スマートフォン最適化:ECサイトやアプリの設計において、スマートフォンに最適化されたUI/UXを提供する。これには、簡単な操作性、直感的なナビゲーション、速やかなローディング時間などが含まれます。
●リアル店舗との統合:リアル店舗での購入体験もスマートフォンを通じて強化する。例えば、店舗内での位置情報サービスを利用した商品案内、会員アプリを通じたポイントの獲得や使用などが挙げられます。
●顧客情報を活用したコミュニケーション:取得した顧客情報を基にしたパーソナライズされたコミュニケーションも、スマートフォンを介して行われます。これには、会員アプリへの専用コンテンツ提供、SNSやメールを通じた情報発信が含まれ、顧客の興味やニーズに応じた内容を提供することが重要です。
OMO時代における成功の鍵は、スマートフォンを中心とした顧客接点の充実と、それを支えるビジネスと情報システムの設計にあります。企業はスマートフォンを通じて顧客との接触点を増やし、それぞれのタッチポイントでの体験を最適化することにより、顧客満足度を高め、結果としてビジネスの成長を実現できるようになります。
リアルとデジタルの統一された会員基盤
顧客体験を向上させるためのビジネス設計と情報システムの構築は、リアルとデジタルを横断する統一された会員基盤の整備と、ロイヤリティを高める会員プログラムの策定が中心となります。
リアル店舗とデジタルチャネル(ECサイトなど)をまたがる一貫した顧客体験を提供するためには、共通のIDシステムを用いて顧客情報を一元管理することが不可欠です。共通IDによる会員基盤の整備は、顧客がオンラインとオフラインの間を自由に行き来しながらも、一貫したサービスを享受できるようにするための鍵となります。
これを活用することで、顧客の購買行動や好みをチャネルで把握し、よりパーソナライズされたマーケティング活動を展開することが可能になります。
基盤ができた上での会員プログラム策定とロイヤリティ向上
会員プログラムを策定する際には、ロイヤリティの高まるアクションに対してポイントなどのインセンティブを付与し、それらを再びロイヤリティの高まるアクションを促すための手段として提供する、というサイクルを確立することが求められます。
このプロセスを通じて、顧客は自社の製品やサービスを利用することで得られる付加価値を実感し、企業に対する忠誠心を深めていくことができます。例えば、リアル店舗での購入によるポイントの獲得、オンラインでのレビュー投稿、SNSでのシェアなど、顧客の行動を積極的に促すことで、結果として企業へのロイヤリティが高まるような仕組みを構築します。
こういった会員プログラムは、全て共通のIDの元に情報を束ねることが可能になって初めて実現していきます。
業務設計
OMO(Online Merges with Offline)環境下での顧客体験の最適化は、単に前面のサービスやインターフェースの設計に留まらず、決済方法、在庫管理、商品受け渡しの方法など、裏側の業務プロセスの整備にも密接に関連しています。これらの要素は顧客が最終的に感じる体験の質を大きく左右します。
●決済方法の多様化
OMO戦略の実現においては、消費者が任意のチャネル(オンラインまたはオフライン)で、さまざまな決済手段(現金、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など)を自由に選択できるようにすることが求められます。これにより、顧客は自分の好みや状況に応じた最も便利な決済方法を選ぶことができます。
●在庫管理の統合
リアル店舗、他店、ECなど、異なる在庫ロケーション間での在庫情報の共有と統合は、顧客に対して柔軟かつ迅速に商品を提供するために不可欠です。顧客がオンラインで注文した商品を店舗で受け取る、または店舗で見つけた商品をオンラインで注文し自宅に配送するなど、多様な購入と受け渡しオプションをサポートするためには、リアルタイムであったり、正確な在庫情報を管理する必要があります。
●商品受け渡しの柔軟性
商品の受け渡し方法も、顧客の利便性と選択肢の拡大を考慮に入れて設計されます。店舗での受け取り、宅配、コンビニ受け取り、宅配ロッカー受け取りなど、様々なオプションを提供することで、顧客は自分のライフスタイルや都合に最も合った受け渡し方法を選択できるようになります。
当然全てのパターンを網羅しようとすると複雑かつ費用対効果も合わなくなるため、購買方法も自分たちのお客様にとって適切な体験設計を行って整備する必要があります。
上記を実現するためには店舗や本社・倉庫などのバックオフィスの業務プロセスも顧客中心の視点で再設計し、全体としてのサービス品質と効率性を高めることが重要となります。
共通化されたIDによるデータの集約と分析
共通化されたIDシステムによる購買および行動データの取得は、OMO(Online Merges with Offline)戦略を推進する企業にとって、顧客理解を深め、パーソナライズされたマーケティング活動を実施するための重要な基盤となります。
共通IDを介して得られるデータは、顧客の属性、購買履歴、オンラインおよびオフラインでの行動パターンなど、多岐にわたります。これらのデータを集約し、BIツールやデータ分析プラットフォームを用いて分析することで、顧客のニーズや嗜好をより詳細に理解することが可能となります。分析結果は、商品開発、在庫管理、販促活動など、企業活動の幅広い領域において有効に活用することができます。
また集められたデータを基に、MAツールを活用することで、顧客一人ひとりに最適化されたコミュニケーションを実現することができます。例えば、顧客が興味を示した商品に関連する情報提供、リピート購入を促すプロモーション、顧客のライフイベントに合わせた特別オファーなど、パーソナライズされたマーケティングメッセージを自動的に配信することが可能です。
OMO戦略の下で集められる豊富な顧客データは、企業にとって価値ある資産です。このデータを効果的に分析し、顧客に対する深い理解をベースにしたマーケティング活動を展開することで、顧客満足度の向上とビジネスの持続的な成長を実現することができます。
重要なのは、集められたデータを基にしたインサイトを活用し、顧客体験の向上、効果的なマーケティング戦略の実施、新たなビジネスチャンスの発掘などにつなげていき、自社のビジネスモデルに合わせて柔軟に対応する能力を持つことです。
執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー
印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。
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