プリズマジャーナルTOPEC・アプリのUI改善と、お客様中心のアプローチ

EC・アプリのUI改善と、お客様中心のアプローチ

EC・アプリのUI(ユーザーインターフェース)の改善は、ビジネスにおいて極めて重要です。UIを変更する際には、慎重な計画とお客様のニーズに基づいたアプローチが必要です。ところが、実際にお客様がどう動いてくださるのか、どうUIを変化させるとアプリが良くなるか、あまり考えずに仕様を変えてしまい、困ってしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。

本記事では、アプリ企画者さまがEC・アプリのUIを改善する際に考えていくべき点、改善を進めやすい点を、システム、UIの専門家視点でご紹介していきます。

1.競合と比較も大切ですが、アプリで押し出したいものは何ですか?

EC・アプリのUIを改善する際、競合他社のUIを参考にするのは一般的なアプローチです。「他社アプリが出来ていることは、自社アプリにも出来ていて欲しい」と思う担当者がほとんどだと思います。しかし、他のアプリばかり見ていると、自分たちのアプリに何が足りないかわからなくなってしまうのではないでしょうか。単なる機能の比較に留まってしまい、結果的に必要な機能を追加するだけになる可能性があります。

これを解決するには、自社の顧客がアプリをどのように利用しているかを理解することが必要です。さらに、ユーザーデータの分析やフィードバックの収集を通じて、顧客の行動パターンやニーズを把握しましょう。

その後、自社の強みやビジネスの観点から最も効果的な要素を選定し、顧客が認識しやすく触れる体験を提供できているかどうかを分析しましょう。時には、顧客に十分に認識されていない優れた要素もあるかもしれません。

2.UI改善にも役立つ「狩野モデル」でアプリの魅力的品質を考える

どこから手をつけて良いかわからない時には、有名な東京理科大学名誉教授の狩野紀昭氏が1980年代に提唱した「狩野モデル」で整理し、魅力的品質はなにかを考えるのもおすすめです。

●当たり前品質

あってされていても当たり前と受け取られるが、ないと不満に感じる品質
・現在考えている、もしくは既にある機能で、ここに当てはまるものは、ユーザーさんがゴールまで達成できるのかということを考える品質です。
・システム業界の言い方で言えば、「想定したように最後まで動く」品質ということになります。
・この「最後まで動く」という言葉ですが、システム業界とそれ以外の業種の方で、認識が違う場合があります。例えばシステム側の認識では「使い勝手」はこの言葉には含まれません。しかしそれ以外の業種の方からすると、使い勝手までが当たり前に含まれてしまうので、要注意です。

●一元的品質

あると嬉しいもの、しかし無いと不満につながる品質
・ソフトウェアの使いやすさなどが該当します。
・ゴールまで正しく動けばよいというだけで無く、仮に不具合は無くても、デザインや操作性がイマイチだとユーザーから不満のフィードバックは出てきます。そこを考える品質です。

●魅力的品質

本来なくても構わないものの、あると嬉しい品質
・TikTokのUIを例に挙げてみます。ストレスなく気に入った動画を見ることが可能、“いいね”することが可能で、シェアボタンもあります。では、無くても大丈夫な機能とは何でしょうか。“いいね”をした後に、シェアボタンが友だちのアイコンに変化するというUIがそれに当たります。
・ユーザーがシェアしたくなる、友だちのアイコンを表示することで、想起しやすい状態にしていると考えられます。アイコンに変化しなくても問題はないのですが、ユーザーからすると高い満足度に変化します。
・この品質が、自社が一番押し出したいこととリンクしているのか、を考えるとわかりやすいかもしれません。

●無関心品質

あってもなくても顧客の満足度に影響を与えない品質
・顧客の関心から遠い領域での改善のことです。
・例えば、あまりユーザーがみないようなアプリバージョンや利用しているライブラリのページをわざわざ時間をかけてデザインしたりするようなものです。

●逆品質

あることで満足度が下がり、無いほうがユーザーにとって嬉しい品質
・わかりやすいものとして、広告が挙げられます。

3.自分の意見か。その画面のゴールまでの正しい導きか。

担当者になると、自身がアプリを利用する際の使い勝手で話をしてしまうことが、よくあります。しかし、お客様全体を対象とするアプリの改善においては、自身の意見だけで判断すべきなのか、判断したものが適切なのかをよく考えることが大切です。

UIの場合には、自然にゴールまでたどりつく設計になっていると、お客様から何もご意見が出てこない場合もあります。ご意見が出ていないために、担当者自身が変更案を提案し画面を変更したくなることもあるでしょう。画面を一新することは提案としてわかりやすいため、予算等を獲得しやすくなることもあります。しかし、UI改善の本質は「お客様の使い勝手が悪そうだったのか。ゴールまでたどり着けたのか」を第三者の視点で考慮することです。

小売業界に特化して考えてみますと、お客様からのフィードバックが非常に重要であるという文化と私は認識しています。お客様からの声が大切であることは間違い無いのですが、全てを実現させるためには時間とお金が必要で、実際に全てを改善することは難しいのが現実です。具体的な提案があればそれを実現することは容易に思えますが、実際には表面的な問題を改善しても根本の問題が解決されていない場合が多くあります。

その場合、要望をゴールとして、何が課題で、どこを解決すべきかを全体像を考えながら検討する必要があります。第三者の視点から最も効果的な箇所を選定するには、サービスのゴールまでの計画を立てながら進める必要があります。また、システムの制約により変更が難しい場合は、専門家の協力を仰ぐことも検討すべきです。

4.セオリーと現実

UI改善に関して、セオリーやベストプラクティスは存在しますが、それらが全ての企業に適用可能とは限りません。各企業は独自の強み、ブランド力、お客様の段階、商品の品揃えなど異なる要素を抱えています。したがって、A社で成功したUIでも、B社で100%成功する保証が無いのです。

例えば、大きなモールとして成功したECのサイトを模倣して、自社でも実現することが可能なのか考えてみましょう。配送料無料やポイント還元といった特典があった場合、それは“モールだからこそ”実現できる、ということが存在しないでしょうか。

同じようなことがUIの表現でもあり、その場合は、特にコストやデリバリーとのトレードオフがあります。セオリーと現実とのバランスを取ることが重要です。

セオリー部分での注意点としては、WEBとアプリの違いを認識せずに指示してしまうことはアンチパターンとなり得ます。WEBとアプリは、UIという点で一括りにされがちなのですが、実際は動きが全く違います。「WEBと同じようにアプリ実装すれば大丈夫」や、逆に「アプリと同じようにWEBをつくろう」という考え方で進むと、実装コストが跳ね上がる場合があります。

“それぞれの保守”という観点で、セオリー通りに実装されていればOSやブラウザがアップデートした場合に追従できますが、無理にオリジナルで作成している場合に、仕様やそもそものシステム上の組み直し等が発生し、コストが大きく跳ね上がってしまうことがあります。

5.ゴールまでの道筋を具体的に考えるためのサポート

UI改善は突然の発明であるべきではなく、企業の強みやビジョンに基づいたコンセプトで形成されていることが重要です。上位概念からコンセプトを導き出し、一貫性を持たせながらコンセプトを整理することで、ECやアプリを企業のプロダクトとして整理することが可能となります。

コンセプトツリー

●企業理念: まず、企業の理念とビジョンを確認します。
●企業コンセプト: 企業のコアコンセプトやブランドの要素を確認します。
●事業部のコンセプト: EC・アプリが属する事業部のコンセプトを理解し、上位概念にそっていることを確認します。
●EC・アプリの立ち位置: アプリが市場でどの位置に立つべきかを明確にし、そのポジショニングに基づいてコンセプトを定義します。

ユーザーストーリーマップ

コンセプトができたら、ユーザーストーリーマップを作成し活用してみましょう。ユーザーがアプリをどのように利用し、どのような体験を求めているかを可視化するための重要なツールです。ユーザーがアプリを利用するときのシーンを切り出し、開始からゴールまでの行動を書いていきます。

サービスブループリント

UI改善にシステム側が絡む場合は、サービスブループリントが有効です。ユーザーの体験だけでなく、裏側のプロセスも可視化するためのツールです。
●ユーザーアクション: ユーザーがアプリを利用するアクションを明確にします。
●バックエンドプロセス: ユーザーが体験しない裏側のプロセスを示し、流れを記載します。

コンセプトツリー、ユーザーストーリーマップ、サービスブループリントを作成したら、それをもとにテストやシミュレーションを行い、その後改善をすることが望ましいです。改善後はフィードバックを積極的に収集し、継続的な改善プロセスを確立します。この一連のプロセスを続けることによって、お客様に価値あるUIを提供し続けることが可能になります。

EC・アプリのUI改善は、お客様のニーズを理解し、お客様中心のアプローチを取ることが不可欠です。お客様にとって価値ある体験を提供するUIを構築することが、企業の競争力を高める秘訣です。お客様の声に耳を傾け、アプリを最適化し続けましょう。そして、セオリーと現実をバランス良く組み合わせて、成功を追求しましょう。

田中 由希子

執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー

印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。

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