プリズマジャーナルTOPOTB(open to buy)管理のススメ〜小売業にとっての生命線、在庫管理を考える~

OTB(open to buy)管理のススメ〜小売業にとっての生命線、在庫管理を考える~

「OTB(Open to Buy)」は小売業やアパレル業界などで広く使用される調整管理(仕入・在庫)の手法です。在庫管理の手法は様々あり、各企業によって管理手法は異なりますが、筆者がアパレル小売業の実務を経験してきた中で、仕入・在庫管理の精度を高め、かつ不要なものを作らないサステナブルな時流を踏まえると、OTB管理が適正な管理手法であると考えています。そこで今回は、小売り業において生命線である“在庫管理”方法の1つ、OTB管理についてお話していきたいと思います。

1.OTB(Open to Buy)管理とは

アパレル業界ではインパクトのあるブランディングや大々的なプロモーション、話題性のある販促などきらびやかな要素の部分がフォーカスがされがちです。しかし季節要因や社会要因を受けやすい商品を取り扱うため、不測の事態が起きた時に計画を修正しコントロールする等、仕入調整管理や在庫管理などをいかに計画的にハンドリング出来るかは、非常に重要なファクターです。

OTB(Open to Buy)は小売業やアパレル業界などで広く使用される、調整管理(仕入・在庫)の手法です。在庫を適切に管理し、売上を最大化し在庫コストを最小化することを目的としており、本来は仕入調整管理の手法ですが、在庫管理の側面も強いため、ここでは「在庫管理手法」として紹介したいと思います。

OTB管理という言葉をここで初めて目にする方もいらっしゃるかもしれません。簡単に概要をお伝えすると、販売予測と実際の在庫状況を比較し、将来の期間における商品の仕入予算を計画するプロセスです。数式としては「期首在庫+特定期間の仕入=特定期間の売上+期末在庫」で表すことが出来ます。

2.OTB管理のためのステップとプロセス

ここからは、OTB管理のための具体的な内容についてお話しします。

1. 販売予測の確立
●特定の期間(通常は月単位)の販売予測を行います。過去の販売データやマーケットトレンド、季節要因を考慮して試算します。

2. 現在の在庫評価
●在庫背景(展開週数、投入週、消化率など)を確認し、現在庫の状況(稼働商品、デッド商品(非稼働商品)の評価をします。

3. 仕入計画の策定
●販売予測と在庫状況を基に、将来の期間(通常は2~4カ月)にどれだけの商品を仕入、追加生産するかを計画します。これがOTB予算となります。
●年度計画で策定した半期、月度予算(当初計画予算)と進捗を対比し、仕入予算(OTB予算)の調整をおこない、売上予算や在庫予算も修正。半期末、年度末に向けて計画が遂行できるよう、コントロールしていきます。

4. 具体的な商品の選定
●OTB予算に基づいてどの商品を生産するかを決定します。
●当初予定していた計画通りに商品を生産する場合もあれば、先行展開した商品の売れ行き状況が悪くDROP(生産ストップ)することもあります。
●デザイン変更での修正生産など、直近の販売データ分析もしながら、商品発注を進めます。また季節要因など、気温の変化に合わせた商品の納期の組み換え等も行います。

5. 調達と在庫管理
●商品の生産と仕入を実行し在庫計画を管理します。原材料や付属の調達、海外生産など、納期に影響するサプライチェーンの管理も重要です。

6. モニタリングと調整
●基本的に週次で、商品カテゴリー、アイテム単位、品番単位で、販売状況を分析します。計画と実績のギャップがある場合は先々のOTB予算を調整します。
●ただ単純に予算だけを調整すれば良い、というわけではありません。原料や付属が発注済みであったり、工場のラインを確保してしまった、もしくは稼働してしまっている状況等で、生産ストップ出来ない商品もあります。このように、数字だけをこねくり回しても変更など出来ない、という状況は往々にしてあります。
●日次でマーケット状況、自社商品の販売データを分析し、生産管理担当者と常に仕掛かり状況を情報共有し、状況把握することでハンドリングすることが重要です。

7. 商品マスタのメンテナンス
●OTBを計画的に実行する為には、正確な販売データに基づいた予測分析、正確な在庫データの迅速な更新が必要です。データの元となる商品マスタの正確性と適切な運用も、非常に重要な要素になります。
●商品マスタの不備は誤発注や在庫の余剰や過不足の原因になりますので、在庫管理の運用と商品マスタのメンテナンスを合わせて行うことをお勧めします。

3.VUCAな時代だからこそ、在庫管理手法にフォーカスする

事業運営は、大きく分けて「オフェンス」と「ディフェンス」、2つの要素があると考えています。

「オフェンス」はブランディングや販促といった仕掛けを必要とする戦略や事業拡大のための施策。新規事業の開発や新商品の開発、売上や顧客を増やすためのイベントや販促など大きいものから小さな要素のものまで様々な仕掛けがあります。

対して「ディフェンス」は事業リスクになり得る事柄に対しての対策、マネージメント。小売り業であれば在庫管理、宿泊業であれば安全衛生管理などリスクによる価値(利益)の減少を抑える、等。リスクは必ずしも回避できるものではありませんから、管理対策を講じてマネージメントする必要があります。

私は、過去いくつかの事業責任者を務めるにあたり、常にこの2つの要素のバランスを意識し運営にあたっていました。しかしディフェンス要素、事業業績を左右する在庫管理の運用方法は、重要にも関わらずあまりフォーカスされません。

VUCA(不確実で予測が困難な状況)と言われる昨今ですが、在庫のハンドリングは「余剰在庫が膨らんでいる」「前年に対し在庫が大幅増加」等、結果のみフォーカスされがちです。しかしどの企業も頭を悩ませ、常に適正な仕組みを模索していると思います。

もちろん、事業特性に合った在庫管理手法が理想的ですが、在庫管理の運用方法を検討されている方、OTB管理を今回初めて知ったという担当者の方は、是非取り組んでみて頂ければと思います。

西田 信義

執筆者プロフィール

西田 信義
コンサルタント

2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。

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