プリズマジャーナルTOPサンリオマーケ×濱野幸介【wow!シリーズ】対談前編「これは、ナルホド、凄いことだなと、本当に実感しています」

サンリオマーケ×濱野幸介【wow!シリーズ】対談前編「これは、ナルホド、凄いことだなと、本当に実感しています」

ブランドや商品の「ファンづくり」において先進的な取り組みをされてきたトップランナーをゲストにお迎えし、プリズマティクスCEO濱野がお話を伺う対談シリーズ「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」(wow!シリーズ)。今回は株式会社サンリオの田口氏と鈴木氏をゲストにお迎えしました。

グローバル・デジタルマーケティング本部ファンベースマーケティング部にて活躍されるお二人は、2020年に全社共通ポイントサービス「Sanrio+(サンリオプラス)」を立ち上げ、顧客データの活用とサービス強化を通じたサンリオファンとのエンゲージメント向上に注力されています。前編となる本記事では、そんなファンマーケティングのトップランナーお二人の“推し”について、詳しくお話しを伺いました。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

田口 歩

鈴木 理恵

株式会社サンリオ
グローバル・デジタルマーケティング本部
ファンマーケティング部

顧客体験プラットフォーム戦略・推進担当 田口 歩
CRM推進課 シニアマネージャー 鈴木 理恵

2014年から一貫してサンリオのデジタルマーケティング推進に従事、特にデータ活用に関して早くから積極的な取り組みを行ってきた。2020年にはサンリオファンとのエンゲージメント向上を目指し、全社共通ポイントサービス「Sanrio+(サンリオプラス)」を立ち上げ、現在は顧客データ活用とサービス強化を通じ、「サンリオファンの熱量を上げる」施策立案・実行に注力している。

 

濱野 幸介

アクセンチュア株式会社(当時アンダーセン・コンサルティング)に8年間在籍後、株式会社リヴァンプにてCTOなどを経験。その後、株式会社良品計画ではアドバイザーとして「MUJI passport」を中心にマーケティング全般の企画・運営を技術面より支援。2016年にプリズマティクス株式会社を設立しCEOに就任。顧客と各企業・ブランドとの絆を深める良質な体験の場を「エンゲージメントコマース」と捉え、その構築に向けたプラットフォームとコンサルティングサービスを提供している。

1.ファンマーケティングのトップランナー、推しが優勝した喜びを熱く語る

── 今回ご登場頂く「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」は、ファンづくりのトップランナーご自身の「wow!」について伺いたい!という裏企画のある本対談シリーズとなっております。

田口:僕、今年は、そこ、結構語れますよ! 今、最もホットな話題だと思うんですけど……(編集部註:取材は2023年10月上旬に行いました)

濱野:あっ、そこから話し始めちゃいますか?(笑)

田口:あ、もう話しちゃっていいですか? ワタシ、実は、子供のころから大の阪神ファンだったんですが、去年までは一切、これを公言せずに生きてきたんです……。大っぴらにファンだと言えない、というのは阪神ファンあるあるだと思うのですが……ファンとしての熱い想いを抱えながら、ひっそり応援してきたというか……

鈴木:ええっ? 社内の人は、みんな、知ってましたよ……?

田口:いやいや、誰にも言ってないよ。ところがですね、2022年、開幕からなんと14連敗。これには流石に我慢できず、「今、俺が応援しなかったら、誰が応援するんだ!」という気持ちになりまして……柄にもなく、カミングアウトしてしまったんです。そこからはずっと、今シーズンも火がついたまま過ごしていて。昔買ったユニフォームのレプリカを着て球場に行って、メガホン叩いて応援したり、毎日ナイターを見て盛り上がったりして(笑)。

── 熱量が、溢れ出てらっしゃいますね……!

田口:これがとにかく、毎日、楽しいんですよ! 試合に負けても勝っても、すごく楽しい。同好の士からお誘いも多く頂きまして、20年位振りに球場へ足繁く通っておりましたところ、なんと、破竹の快進撃! そして、リーグ優勝という美酒を味わせて頂くことが出来ました……!(編集部註再掲:取材は2023年10月上旬に行いました)

2.時代の変化がもたらす、“ファン”という気持ちに対する反応の変化

田口:僕はサンリオでファンマーケティングをやってきていて、「サンリオファンの熱量を上げる」ということをテーマにしています。CRM等を通してファンの熱量が上がると、ファンがサンリオに対して色々なアクションを起こしてくれて、LTVが上がっていく……ということを考えているんですが、何をどうやったらファンの熱量が上がるのか、どうコミュニケーションしたらいいのかというのはすごく難しくて、常に悩んでいます。

ところが、“虎ファン”としての気持ちを解放してからの自分は、「ここまでハマるものか」と我ながら驚くくらいで。よく「ファンがファンを呼んでくる」と言いますけど、まさにそれだ、そういうことってあるんだな、と実感しました。全く初対面の方と同じ試合を見ていることが分かって凄く話が弾んだり……。今回の自分の経験を通して、ファンの熱量が上がれば上がるほど、同じような熱量の仲間が繋がるきっかけになるんだなということを、本当に──

濱野:実感、したわけですね(笑)。

田口:しましたね……。熱量の連鎖というか、これは、ナルホド、凄いことだなと、本当に実感しています。

濱野:もっと早くカミングアウトしておけば、と後悔されてるんじゃないですか?(笑)

田口:実は、社会人になった時の最初の上司から「野球の趣味は、お客様の前では言わない方がいい。揉めるから」と釘を刺されたんですよ。野球ファンは熱量が凄いので、お客さんと贔屓のチームが違うのに正面から「私はこのチームが好きです」という話がし辛いというのは、実際にあると思います。その上司は商社マンだったので、特に話題のチョイスには敏感な方だったということもあったかもしれません。ただ、そう言われたことがなんとなく頭に残っていて、ずっと阪神ファンであることを話題にするのは避けてきたんです。

濱野:その頃と今では、時代が変わってきた、というのはあるかもしれませんね。「ファンであること」をライトな感覚でカミングアウトする、ということをし易くなったように思います。一昔であれば「オタク」とネガティブに言われていただろうなということでも、全体的にオープンに話すようになっていますよね。

田口:今や「一億総『推し活』社会」と言ってもいいくらい誰もが個別に推すものがある時代。しかも昔と違って、推す対象が多様化していますよね。一昔前だったらちょっとニッチな“推し対象”だったものが、今はあっという間にネットで共有されて一定の集団になってしまう。共通の推しを持っている人同士が繋がり易くなっているように思います。

3.「推しの聖地」としての、サンリオピューロランド

田口:“推し”を気軽にカミングアウト出来る社会になってきたことで、好きなキャラクターのグッズをパッと机に出すことに対して、誰も抵抗を感じなくなっている。自分の推しのキャラクターやアイドルのアクリルキーホルダーやアクリルスタンドを持ち歩いて、一緒に写真を撮ったりするという光景は、日常生活の中でも普通に目にするようになりました。

サンリオでは2003年頃から「#つれてってシナモン」という人気キャンペーン企画を始めました。これはシナモロールというキャラクターの小さなぬいぐるみを旅先に連れて行って、写真を撮ってSNSに投稿してもらうという、ファン参加型の写真投稿企画です。初めて開催した2003年にはこういうことは珍しいことだったかもしれませんが、今やもう、普通のことになっていますよね。

田口:僕がサンリオに入社した頃、サンリオピューロランドは「世界でいちばん、サンリオな場所」というキャッチコピーだったんです。サンリオの主要なキャラクターがライブキャラクターとしてそこにいて、好きなキャラクターと会ってハグ出来て、華やかなパレードがあって、サンリオの世界観にどっぷり浸かれる──そういう場所だったんですよね。

ところが今、ピューロランドは「推し活の聖地」と呼ばれているそうなんです。アニメ等のキャラクターや俳優、アイドルといった“推し”がいる人が、そのファングッズを持ってきて、ピューロランドで推しと一緒に映える写真を撮るのが流行っていると、ピューロランドの担当者が教えてくれました。

例えば、アイドルグループの“推し”にはそれぞれのメンバーにテーマカラーがあるそうで、例えばそれがイエローだったら、同じ色のキャラクター(例えば、ポムポムプリン)と一緒に写真を撮って、SNSに投稿する。そうすると同じ“推し”のファンの人達がそれを見て「いいね!」「可愛い!」と反応をくれる。そういう場として、ピューロランドがすごく盛り上がっているそうなんです。

濱野:それはこれまで、サンリオが“推し活”向けのアイテムを出して来たから、ということはありますか?

鈴木:それもあると思います。サンリオは「エンジョイアイドルシリーズ」という、推しアイテム、推しグッズを売り出していて、それはとても好評です。加えて、ピューロランドでは今、好きなキャラクターと文字パーツを選んでオリジナルのホルダーやネームプレートをつくることが出来る「メルヘン工房」が人気です。

鈴木:元々はサンリオキャラクターが好きな方が、自分の名前やお子さんの名前を入れていただく想定でスタートしたサービスなんですが、いつの間にか派生したそういう用途での人気が爆発しました。……ただ、こういうグッズを出したから来ていただいているというより、サンリオのファンと“推し活”をする層が、元々かぶっているということがあったと思います。実は社内でもそういう人が多くて、昔から社内では同じような使い方をしているのを見ていたんですよね。

田口:これは僕の“虎ファン”と同じで、これまではファン同士のどちらかと言えばクローズドなコミュニティ内で共有されていた情報が、普段の会話の中でよりオープンに語られる世の中になってきているように感じますね。

4.企業やブランドの“こだわり”の本質は、きっとユーザーに伝わっている

濱野:ちなみに、鈴木さんの“推し”は何ですか?

鈴木:田口さんのように語れる程のものは、全く無いですよ。敢えて言うなら、仕事が“推し”かな……?

田口:いやいや、某アパレルブランドを長いこと偏愛してるじゃないですか。

鈴木:そうですね、確かに、毎週のように店舗を見に行ってますし……高校生の時からずっと好きなブランドなんですよね。

── 女性は「年齢によって着るブランドが変わる」とおっしゃる方も多いと思うんですが、そういうことは無いんですね。

鈴木:そうですね、ずっと変わらず、同じブランドが好きなんですよ。買い始めたのも特に大きなきっかけはなく、店頭で見て、買って、そのまま買い続けているという感じで。言われてみれば、何故なんでしょう……言葉にするのは難しいんですが、感覚が合うというか、心地いいというか……そうですね、価格と品質のバランスがとてもいいんですよ、着心地がいいとか、持ちがいいとか、はっきり意識していたわけではないですけど、でも、ずっとそこは変わらないところだと思います。

濱野:高校生の時から、品質とかを考えて買っていたわけではないですよね。

鈴木:最初に手に取ったきっかけとしては「可愛いな」「素敵だな」と思ったことかもしれませんが、試着してみて改めて「着心地がいい」と思った、ということだと思います。「ちゃんと作ってるんだな」ということが、着ると、伝わってくるんですよ。

田口:鈴木さんはお洋服が大好きで、シーズンごとにこだわりについて語ってくれるくらいなんです。僕の中では、ファッションに感度が高い人って、いろいろなブランドを試している人という印象があったんですが、そんな彼女が結局、その「“1番好きなブランド”に戻ってきてしまう」と言うんです。これだけ好きでずっと高校生から買い続けているって、物凄くLTV高いと思いませんか。

鈴木:結果的に、タンスの半分くらいはそのブランドになっちゃってたりしますからね(笑)。でもこれは本当に、結果的にそうなっただけで。「ちゃんと作る」「下手な素材を使わない」とか、ブランドのこだわりが、ちゃんと伝わっていて、その結果だということだと思います。サンリオとアパレルブランドはアイテムも選ぶ理由も違うので、自分の体験がそのままサンリオのファンマーケティングの参考になるかと言えば、難しいと思うんですが……。

田口:僕は、サンリオのファンマーケティングをやっていく中でも、これは凄く大事な感覚だと思っているんです。お客さんが「気づいたら、サンリオのものを選んでました」という状態になるのが、マーケティングをやっている人間としては理想的だと思うんです。何故最終的に、同じブランドを選んでしまうのか……大雑把に言うと「自分に合う」ということ。もっと突き詰めていくと「質」というような言葉になってしまうとは思うんですが、それだけではないように思っていて。“ソレ”が何なのか、話を聞いていて、いつも考えているところです。

<後編に続きます>

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

プリズマ編集部

「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。

『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。

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