ITベンダーに“発注”して、安心していませんか? 事業会社PMの「前提を揃える」努力がプロジェクト成功の鍵
事業会社のプロジェクトマネージャー(PM)をしていると、ITベンダーとシステム構築の打ち合わせをすることがあると思います。そんな時、最初のイメージのすり合わせは上手くいってたのに、詳細を詰める段階になって「ここってどうなってますか」「この部分は、こうだと思ってました」等々が、後からどんどん出てくる……と悩んだ経験をした方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、そんなお悩みをお持ちの担当者の方々に、私が事業会社のPMとして非常に重要だと感じている「前提を揃える」という視点について、共有させていただきます。
0.前提となること
ITベンダーに発注する際、事業会社としては何か実現したいことがあるかと思います。そこで「こんなことを実現したい」「その為にこんなシステムを開発してもらいたい」といったイメージをITベンダーに伝えるかということについては、注力しておられるのではないかと思います。
しかし発注後、詳細を詰める段階になって「ここってどうなってますか」「この部分は、こうだと思ってました」等々が、後からどんどん出て来てしまう、ということはよくあることではないでしょうか。認識合わせに時間がかかるだけならまだしも、途中まで組んだシステムの組み直しが発生する程になってしまうと、開発コストにもダイレクトに影響が出てしまいます。
そんな状況に陥らないようにする為には、どうすればいいのでしょうか。
私は前職の事業会社で初めて、システム開発にプロジェクトマネージャーという立場で携わる機会を頂きました。それまではプロジェクトをリードした経験はあっても、システム開発の経験はありませんでした。その為、試行錯誤を何度も繰り返しながら、数多くの教訓を得ることになりました。
そこで非常に重要だと感じていたのが、「前提を揃える」ということです。
ポイントは、要件定義に入る前のヒアリング段階です。発注段階では“いかに伝えるか”に注力していたのに、この時はITベンダーからの問答形式で「とりあえず、質問に答える」で終わらせてしまいがちですよね。しかし、この「前提を揃える」ステップでも、実は、“いかに伝えるか”が大切になってきます。
「今の業務フローはこんな形で、現行のシステムはこうです」というように、解像度高く内容を伝えることが出来れば、後々のプロジェクト効率、アウトプットの質が自然と上がることになります。では、どのような点を重視して前提を揃えればよいのでしょうか。業務会社のPMとしての視点から、「業務フローの見える化」「現場に来て貰う」そして「熱を揃える」という3点についてお話しさせていただきます。
1.業務フローの見える化
一つ目に挙げるのは「業務フローの見える化」です。
自社の仕事の可視化は簡単だろうと思いきや、そんなことは全くありません。
事業会社では普段の業務の中で“よしなに”処理されていたことを、システムに落とす段階では“0か1か”で語る必要があります。グレーなプロセスやブラックボックスになっている業務を無くすことに慣れていないと、本当に骨が折れる作業です。
例えば「情報を担当者に連携する」ということをシステムに落としこむ際は、担当者が情報をどのように/何のツールでインプットして、その後どのような加工をして、どのようにアウトプットし、その先は何に連携しているのか……といった業務フローを可視化することになります。
「担当者が判断して仕分けする」場合、その担当者の判断基準が何なのか、またイレギュラー発生時の対応はどのようなルールや考え方に則って行われているか、確認する必要があります。
その他、店舗レイアウトにシステム配置する場合には、必要に応じて店舗業務の導線を可視化することも必要になってくるでしょう。小売や外食のようにスタッフやお客様がシステムを利用する場所が複数あったり、流動的だったりする場合は特に、可視化が“不要かどうか”チェックしてみて下さい。
PMがイメージを持って取り組むかどうかで、上手くいくかどうかは違ってくると思います。日本オムニチャネル協会理事でもある逸⾒ 光次郎氏が、この「業務の見える化」について詳しいフォーマットをプリズマジャーナルにて紹介されています。是非、ご参考にされてください。
2.現場確認で体験で情報を得る
「三現主義」と言われるように、現場は重要な確認先です。現場に行ってみたら、事前に設定されていると聞かされていた業務フローは行われておらず、実際には現場が工夫した別の業務フローが行われていた……というようなことは、よくありますよね。
要件定義前に、事業者側の担当者だけでなくITベンダーにも現場に来て貰うことは、「前提を揃える」為には大きな効果があります。またこれがメリットとして非常に大きくなる理由の一つに、情報の取捨選択の主体者が事業会社からITベンダーへと替わるところにあります。
情報量の多さは、一般的に、文章<ビジュアル<体験であると言われると思います。事業側が文章とビジュアルで情報の取捨選択を行うことと、技術者の視点で体験から取捨選択を行うとは、大きな違いとなってきます。特に、事業者側の担当者に開発経験が少ない場合、押さえるべきポイント等の把握が困難な為、技術者視点で情報を得られる体験は効果が大きくなります。
一方で、これにはデメリットもあります。一日の業務に担当者が張り付き続ける訳にはいきません。また、不要な情報も多く含まれます。事業内容が特殊だったり、独自の制度を設けている場合や、情報の取捨選択が難しい場合は、現場確認してもらいたい時間帯や業務を絞って実施するのがおすすめです。
業務内容が業界の型からあまり離れていない場合、取引先の業界理解が十分な場合、契約の工数内で対応が確保が難しいなど、費用対効果の観点から現地確認の実施が難しい、必要ないという判断になることもあるでしょう。もしも工数の問題で実施が難しい場合は、動画を撮って共有するだけでもある程度効果が見込めます。是非、検討してみてください。
3.システムの向こう側にいる“人”と「熱を揃える」
「システム開発」はロジカルなイメージがあるかもしれませんが、システムの向こうにいる開発者は、もちろん、血の通った“人間”です。
事業者側が自分たちのプロジェクトに対する熱意をITベンダーに伝えていく、というアクションを行うことで、プロジェクトに対しての「熱を揃える」ことに繋がります。そして、「これは思いの外、プロジェクトに大きな効果があるな」と感じたことは、その後もよく思い返す、印象深い体験になっています。
例えば、システム開発の目的を共有する時に「このシステムがローンチ出来れば、お客様やスタッフにどんなことを提供できて、どのようなに喜んでもらえるのか」をしっかりお伝えすることをするようにしました。
また実際にシステムローンチした時、スタッフやお客様が喜んでいる様子を動画に撮影し、ITベンダーさんに見て頂いたりもしました。お客様には「社内資料として使わせてください」という形で許可をいただき、撮影させていただきました。ITベンダーは普段、システムを使用する社員やお客様から直接フィードバックをもらう機会はなかなかありません。動画を見ながら嬉しそうな表情をされていたのが、とても印象的でよく覚えています。
このようにプロジェクト参加者と「熱」を共有することで、プロジェクトを進める際にも様々な場面でいい影響があったと感じています。
4.まとめ
開発の前提となる業務の可視化をし、ITベンダーには現場から適切な情報を得てもらい、更にプロジェクトへの熱意が揃うことで、私がPMとして入っていた案件では実際に認識の齟齬や追加確認が減りました。コミュニケーションコストが大幅に改善するだけでなく、現場感や顧客像が鮮明になったことで、ITベンダー側からの提案が増えるなど、非常に良い影響がありました。
過去の私と同じような課題を感じている事業会社のシステム開発担当の方には、これらの方法を一度試してみていただければと思います。
中西 悠太
コンサルタント
株式会社しまむらにて店舗運営と商品部を担当。2017年に株式会社カーブスジャパンに入社し、オンラインフィットネスの立ち上げに参画。サービス構想、システム開発、デジタルマーケティング、プロジェクトのローンチを経て、別の新規事業開発にジョイン。
ビジネスモデル、店舗運営や各施策開発、CRMの検討に携わり、サービスの主軸となるシステム開発はPMとしてプロジェクトをリード。その他 施策開発、物件開拓、店舗レイアウト、人材育成など複数業務のリードを経験し、2023年11月クラスメソッドに参画。
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