プリズマジャーナルTOPパーソナライズ、コミュニティ、コミュニケーション。マーケティング手法としての定義を鵜呑みにしていませんか?
パーソナライズ、コミュニティ、コミュニケーション。マーケティング手法としての定義を鵜呑みにしていませんか?

パーソナライズ、コミュニティ、コミュニケーション。マーケティング手法としての定義を鵜呑みにしていませんか?

昨今、小売業界でよく見かけるキーワード「パーソナライズ」という言葉ですが、マーケティング手法のひとつとして語られることを鵜呑みにしてしまっていませんか? 今求められている「パーソナライズ」の本質とは何でしょうか。私がアパレル業界で長年業務経験を積む中で考えてきたことや、実際にプロジェクト参加し、大きな影響を受けたブランドのコミュニティ形成等について、お話しさせて頂きます。

1.コアファンとコミュニティの形成

近年、インスタグラマーを初めとした多くのインフルエンサー達がファッションブランドを立ち上げています。市場に既に流通している商品との機能的な違いはあまりありませんが、消費者も“商品”そのものに価値を感じて購入しているというより、インスタグラマーの人(個性)に価値を感じ、彼/彼女らが「パーソナライズしたもの」に対して支持をしているように見えます。

コスプレ等サブカルチャーの広がりなどにも見られるように、コアなファンが発信する想いはコミュニティの共感を呼び、さらに大きな輪となってコミュニティ外の人達や国外コミュニティにも影響を与えています。

ファッションブランドの中でも、低身長や筋肉体質などの方々がペインポイントをカバーしてファッションを楽しめるようにしたというようなニッチなブランドは、SNSやインターネットで同じ嗜好を持つ人達が繋がり、強い支持と共感を得ています。

ブランドコミュニティはファンの間で自然に形成されたケースと、ブランド運営側が主導しているケース、2通りのパターンがあります。

ブランド側が気付かないないところでコアなファン同士が集まりコミュニティが形成されているパターンでは、ブランド主導のコミュニティよりもよりコアなファンが集っている場合が多く、その発信力とつながりの強さについても、ブランド主導のコミュニティよりも影響力が大きいケースが増えてきています。

それに対して後者のケースは、ブランド側が管理、主導して積極的にコミュニティに参加します。ファンと一緒にブランドイメージの体現や顧客エンゲージメントの向上を行い、また商品やサービス改善に役立てる有益な情報を得る場として、コミュニティ形成を進めます。

ブランド運営者がSNSを定期的にエゴサーチして先述したコミュニティやコアなファンとの接点やつながりを新たに構築し上手くビジネスに取り入れている企業としては、「ワークマン女子」で話題になったワークマンのアンバサダーマーケティングが参考になると思います。

2.サスティナビリティ活動がブランドコミュニティ形成に繋がった

私は前職でアパレル業界に勤め、海外ブランドの国内展開立ち上げに携わってきました。そのうちの一つが、漁網やペットボトルなどの海洋ごみやタイヤの廃材などをアップサイクルし、アパレル製品やバッグやシューズ等の製品を製造販売しているブランドです。

今では世界的に着目されている「サステナビリティ(持続可能な社会の実現)」ですが、これに非常に早くから取り組んでいたブランドで、事業活動と並行して、環境問題やサステナブルの文脈での啓蒙活動も、重要なミッションとして力を入れていました。

例えば海洋ごみを回収、分別、素材に再生するためのファウンデーションを立ち上げ、企業や漁師などの団体だけではなく一般の人達まで広がるエコサイクルを形成したり、また社会環境をテーマにした世界中の会議やフォーラムに積極的に参加し、科学的な知識や技術等について多くの人に教育、情報公開をしていました。

このブランドの日本国内展開に際して、ブランド認知を広げることはもちろんですが社会的な啓蒙活動をどのようにおこなっていくか、本国のメンバーを交え真剣に議論しました。本国のメンバーは「極論、商品は売れなくてもいい。サステナビリティな活動がこの日本でも広く普及してくれればそれでいい」と言います。ただ、このブランド展開が営利活動である以上、そういう訳にはいきません。

そこでまず、日本国内で出店した地域のクリーン活動を行うことを始めました。始めたばかりの頃は数名程度の参加者でした。しかし参加された方が友人や家族を連れてきたり、誘われた友人がまた友人を誘ったりとする中で、次第に参加者は増えていきました。

クリーン活動を通してブランドを知った方、ブランド(商品)を通して初めて社会貢献活動に参加した方等、価値や共感を感じてくれた人達が同じ嗜好の人達をつながっていき、本国が目指す「持続可能な社会の実現」に向けた社会貢献活動が、少しずつではありますが広まっていくのを見ることが出来ました。

同じ嗜好や想いをもつ人たちで作りあげられていくコミュニティの形成によって、エンゲージメントの高いブランドファンが自然と増え、また大きな影響力を持つということを、実体験として得られたのは大きな経験であったと感じています。

3.パーソナライズへの共感がコミュニティを形成し、コミュニケーションで繋がる

「パーソナライズ」という言葉の元に求められていることとして、個人の趣向に合わせてカスタマイズできる商品、希少性のある商品、個人のペインをカバーしてファッションを楽しめる商品(プロダクト)をつくることに力が注がれています。

ただ、商品そのものだけでなく、個人の個性や趣向、活動を共感できる場、コミュニティ形成も含めたものが「パーソナライズ」の本質ではないか。また「パーソナライズ」とは「嗜好の形成」ではないかと私は考えています。

人の趣味嗜好は色々な体験や生活環境から学習して作られていきますので、年齢や生活環境で嗜好は変化していくものです。好きだと思うモノコトに深く親しむと、その思いに共感するコミュニティが形成され、そこにはコミュニケーションが生まれます。

同じ趣味や同じような生活背景の人とは、ついつい話が盛り上がってしまいますよね。人と人のシンプルなコミュニケーションの本質を、誰もが求めている時代なのかもしれません。

お金やブランド品だけではない「人生を豊かにするようなこと」に価値観を見出す人達が増えている中、最近は「コト体験」がフォーカスされています。ブランド運営に携わる方々は「モノ」「コト」を切り離して考えるのではなく、この2つを合わせて「ブランド体験」を考えてみてはいかがでしょうか。

西田 信義

執筆者プロフィール

西田 信義
コンサルタント

2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。

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