プリズマジャーナルTOP小売業界における、アプリの役割とトレンドとは 〜アプリUIのコモディティ化を考える

小売業界における、アプリの役割とトレンドとは 〜アプリUIのコモディティ化を考える

# アプリUI # 差別化 # コモディティ化

小売業界では現在、サービス利用者と企業との接点の一つとして、スマホアプリが活用されています。商品情報等の表示や検索、ポイントカードのデジタル化等に加え、モバイルオーダーや決済といったスマートデバイス特有の便利な機能を取り入れつつ、各種SNSやECと役割の違いを明確にして作成されているアプリが増えています。

そういった状況の中で「アプリ」という切り口からUIをみてみると、一般化(コモディティ化)が進んでいる現象があります。本記事では「アプリUIのコモディティ化」をテーマに、その背景やトレンドの変遷、コモディティ化が進む中で企業間の差別化にどう取り組んだら良いかということについて、UIデザイナーの視点でお話しさせて頂きます。

1.アプリUIのコモディティ化は、避けられない現実

少し前までの「小売業界のスマホアプリ」は、サービス利用者に対しての情報表示や検索速度の高速化、そして従来の紙やプラスチック製のポイントカードをデジタルに変換し、財布をスリムする、等が利点として挙げられるものでした。

しかし近年の小売業界のアプリは、主にサービス利用者との接点を増やすためのツールとして活用されています。また、モバイルオーダーや決済といった、スマートデバイス特有の便利な機能を取り入れつつ、各種SNSやECとの役割の違いを明確にしながら作成されているアプリが増えています。

更には、アプリを介して実店舗やオンラインショップの連携強化により、多くのお客様とコミュニケーションを図り、その行動を可視化し、利用者に寄り添うサービスを検討する際の情報取得を行うことも目的に開発されています。

こういった状況の中、「UI」という切り口からアプリを見てみると、多くのアプリが共通のデザイントレンドを持つ「一般化(コモディティ化)」が進んでいるという現象があります。

多くの企業やスマホアプリの担当者においては、同業界で先進的な動きをしている企業やアプリの考え方やデザインをベンチマークとして参考にし、また取り入れる動きをしています。細部のデザインや装飾は各企業のブランドに合わせて調整されるものの、大部分のUIが似通った印象となっており、小売業界におけるアプリUIのコモディティ化は、現代のトレンドとして避けられない現実となっています。

2.スマホアプリに課せられた様々な制約が、コモディティ化の背景

アプリUIにおける「コモディティ化」の背景の一つには、「使いやすさ」を最優先したデザインを行うことが多いことが挙げられます。

ユーザビリティの向上や直感的な操作性の要求(例えば「使いにくい」というフィードバックへの対応や、ユーザビリティテストなどの結果)を考慮し、一般的なデザインパターンや標準が確立されてきたためです。その結果、シンプルでわかりやすいデザインが広く採用されているのが現状です。

アプリUIのコモディティ化が起こる背景として、スマホアプリやシステム等が持っている様々な制約も、大きな要因として挙げられます。

例えば、OSのアップデート時に標準UIが変更された場合、独自UIを制作しているとメンテナンス工数が増加する場合があります。また、POSシステムやCRMなどのシステムとの連携時には、表現の制約だけでなく法的な制約も考慮しなければなりません。

企業のクリエイティブやブランディングは基本的な要件として存在することが前提であり、最低限の品質は確保すべきです。ただ、紙やWEBサイトと同様にデザイン細部に過度にこだわると、開発工数やメンテナンス工数が大きくなり、アプリの運用や継続的な管理が難しくなることもあります。

ここまでに挙げた複合的な理由から、アプリUIは徐々にコモディティ化の方向に進んでいます。この流れを開発の初めから理解し、意識し、シンプルにデザインを行うことで、後からの手直しや追加コストを抑えることが出来る、またその可能性が高まります。

3.かといって、UIを雑に決めてもいいわけでは、ありません

例として、小売業界という観点でUIデザインを見てみましょう。

小売業界では中心的な要素として「商品」が位置付けられることが一般的です。そこでアプリUIの色彩や特徴は控え目にして、「商品」へ自然に注目が導かれるデザインとなるよう意識されています。

このような考え方は、グラフィックデザインやECサイトのデザインにも見ることが出来る一般的なものです。この結果、UIは多くの人々が既に慣れている「一般的なデザイン」に近付いていくのです。

かといって、UIを雑に決めてもいい、ということではありません。サービスや企業のイメージを形成する上で、ビジュアルや微細な動きは非常に重要です。細かなあしらいや、ブランドの意味を持つ“ちょっとした動き”、フォローのUX等も、サービス全体の感情移入に大きな役割を担っている、ということをデザイナーとしてお伝えしたいと思います。

しかし、これらの要素を最大限に活かすためには、サービスの基本設計や全体の流れがしっかりと考えられていることが前提となります。

4.サービス設計の独自性こそが、差別化の基盤!

UIが一般化している現状において、スマホアプリの独自性を大枠のレイアウトやデザインで出すのは難しく、他社との差別化をどのように図るかは大きな課題となっています。

ARを活用したショッピング体験、AIの推薦機能、ゲーミフィケーション等、新しい技術や注目度が高い技術を取り入れることで、サービスやUIの独自性を確立しようと考える場合があります。しかし、これらはマーケティングやブランディングの手法としての側面が強く、サービス全体の核としての役割よりも、特定の目的を達成するための手段としての位置付けが強いように思います。

重要なのは、UIの独自性よりもサービス全体の流れや特徴を強化し、差別化を図ることです。サービスの根本的な価値や独自性に焦点を当て、そこに力を注ぐことで真の差別化を実現することが求められています。

「基本サービス設計 × ブランディング」という観点で考えると、UIや見た目は基本設計を基盤として形成されます。そのため、基本設計の質が高ければ、それに伴いサービスの価値も高まると言えます。これにより、自社サービスが他とは異なる価値を持つようになり、ユーザーからも価値があると感じて頂くことが出来ます。

単に見た目のデザインにこだわらず、ユーザーが既に慣れ親しんでいるUIやシステムを採用し、強固な基盤をもって迅速にリリースを重ね、サービスを継続的に改善するアプローチこそが、より効果的な結果をもたらすのではないでしょうか。

田中 由希子

執筆者プロフィール
田中 由希子
デザイナー

印刷、WEB、MDMベンダーを経て2016年5月にClassmethod入社。2020年心理学専攻で大学卒業。銀座コーチングスクール卒。UX Japan Forum 2015運営委員、UXシンポジウム2016福岡運営メンバー。クラスメソッドでは、エンタメ企業アプリ、薬局アプリ、小売アプリ、ハイブランドアプリほかCX OREDER、LINE miniアプリまたは、管理画面のデザイン・体験設計に従事。

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