三越伊勢丹が進めるデジタル戦略と「店舗現場」から見えた実際 〜7/19開催オンラインセミナーレポート
プリズマティクスは2023年7月19日、小売企業向けウェビナー、三越伊勢丹、ジンズ から学ぶ「現場起点のデジタル戦略と見えてきた課題」を開催し、大変多くの皆さまにご参加、ご好評を頂きました。
本記事では、「三越伊勢丹が進めるデジタル戦略と『店舗現場』から見えた実際」として、株式会社三越伊勢丹 伊勢丹立川店店長 北川竜也氏の登壇内容をご紹介致します。
また本セミナーの内容について更にご興味がある方へ向け、動画アーカイブの配信もご用意しております。是非ご覧ください。
共催:プリズマティクス株式会社、クラスメソッド株式会社
目次
1.厳しいコロナ禍を経て気付いた、お客様が“百貨店”に求める「ショッピング」 2.購買実績以外の物差しで定義し直した「お客様との繋がり」 3.百貨店の持つ“編集能力”を、オンライン、オフラインでシームレスに提供する 4.顧客のニーズに合わせたツールで、1toNで取り組む「新セールスネットワーク」1.厳しいコロナ禍を経て気付いた、お客様が“百貨店”に求める「ショッピング」
北川氏は2023年4月に三越伊勢丹立川店店長に就任しましたが、それ以前には店舗勤務経験も商品担当経験も無いという、異色の経歴の持ち主です。大学卒業後は、国連の活動を支援するNGOでプロジェクトに従事し、その後は新事業創出支援やベンチャー企業支援、越境EC事業の立ち上げや運営を経験してきました。
これらの経歴から、三越伊勢丹の入社から10年間、北川氏はオンラインストアを始めとするデジタル領域や新規事業領域を統括してきました。まずは冒頭にモデレーターの濱野より、リアル店舗の店長に就任して約3ヶ月経った“今”の率直な気持ちについて伺いました。
「地域の皆様とリアルに向き合うというのは、責任も勿論感じますが、楽しいですね。自分はもともと百貨店が大好きなんです。時間や情熱をしっかりかけてつくられた商品やサービスを、ちゃんとした定価でお客様にお届けできる。クリエイティブを守るということでも、百貨店が持つ社会的意義というのは大きいと思っています。今、百貨店が転換点を迎えている時代に、リアル店舗を担当させてもらえているのは有り難い事だなと思います」(北川氏)
三越伊勢丹はコロナ禍で2ヶ月間店舗を開けない決断をし、百貨店という業態の難しさに加えて近年最も厳しい時期に突入したと思われました。ところが2022年度、新宿の伊勢丹本店は三越伊勢丹として合併してから最高額の売上を達成、利益に関してもコロナ禍前をはるかに超える300億円近い利益が出たと言います。これは社内の構造改革、組織改革などで利益を出しやすい体制に変えてきたという以上に、ロイヤリティの高い顧客による売上が大きかったからだと北川氏は言います。
「この結果を見て、百貨店における“ショッピング”というのは欲しいものを届けるということだけではなく、エンタテインメント性や、非日常、ここで得たものによって人生が豊かになるという役割を非常に強く持っているなと実感しました。またコロナ禍を経て、より良いものを長く使いたい、同じ機能のものを買うのであれば市場価値の高いものを買いたいという、お客様の意識に変化も見られます。修理等のサービスも、これから百貨店が担っていかないといけないといけないことだと感じています」(北川氏)
2.購買実績以外の物差しで定義し直した「お客様との繋がり」
北川氏は、全米小売業協会(NRF)が主催する小売業界の大型イベント「NRF 2022」のキーメッセージ「“顧客の自社に対する期待×自社の強み”にフォーカスし、戦略と実装を絞り込んだ企業が勝者」を紹介。自身がデジタル事業を執行するに当たって、三越伊勢丹の存在意義に改めて立ち返るということを行い、やるべきことにフォーカスしたと語ります。そして現在、立川店というリアル店舗の店長に就任し、改めて強みを定義し直しました。
「百貨店というのは、当然ですが、ローカルビジネスなんです。立川店に、わざわざ札幌から来店しませんよね。身近な場所、行ける場所にある、という距離感や、そこに在る、ということが非常に重要なんです。西東京という立地や周辺状況から、“唯一無二のお買い物サロン”になろうと考えました。これにあたり我々は、お客様とのつながりを定義し直そうと考えて『見込み顧客』『顔と名前が一致する顧客』『外商顧客』で新たなピラミッドを描きました」(北川氏)
ここで、図を見たモデレーターの濱野が「これまでの購買実績や支払い能力で三角形をつくった場合と、新しい定義だと、実際お客様というのは一致するのか、切り口変えたら上下が入り乱れちゃうのか、どうなんでしょうか」と問いかけます。
北川氏からは「それはとてもクリティカルな質問ですね。外商顧客になって頂くにはある程度の購買実績が必要となってきますので、ここはかなり一致します。ところが、その下の2つは、激しく違ってくるんですよ。“サロン・ド・ショコラ”のようなイベントで10万、20万という金額を購入される方は、新卒入社したばかりの若い会社員の方や、このイベントの為にアルバイトをした学生の方、ということもあるんです」との答えがありました。
3.百貨店の持つ“編集能力”を、オンライン、オフラインでシームレスに提供する
北川氏は伊勢丹新宿店が秋に開催しているイベント「サロン・ド・パルファン」を例に挙げ、「皆さんの周りには香水好きの方ってあまりいらっしゃらないかもしれませんが、伊勢丹でこのようなイベントを開催すると“香水好きの頂点”というような方々が、何千人も来てくださるんです」と語ります。1本数万円の香水を喜んで購入していく方々ですが、必ずしも富裕層とは限らないようです。
新しく定義した「顔と名前が一致する顧客」というのは、このような方々のこと。これまでの購買実績ベースでは見えてこなかった、“推し”に対して惜しみなく情熱を注ぎ込むタイプです。この顧客層を“顧客”として再定義し、嗜好性を満たすようなコンテンツを提供していくことで、まずはその方々に百貨店を無くてはならない場所として認識して貰う。そして彼らの発信によって、「見込み顧客」にも付いてきて貰うことが出来る、と北川氏は言います。
「百貨店は“編集能力”を持っています。優れたバイヤーやセールススタッフが買い場を設計しているということが、百貨店たる価値を提供しているということだと思うんです。逆に言えば、早い、安い、ということでは、他店には到底敵いません。そこしか勝てるところは無いんです。立川店だけでも数百人のスタッフが働いていますが、それだけコストをかけているということ。これだけの人がいるからこそ出来る価値を提供しないと、残っていけるわけがありません」(北川氏)
これはデジタル領域に関しても同様であり、百貨店に置いてあるものの殆どは他店でも買えるものである上で、ローカルのお客様が三越伊勢丹、百貨店というものに求めるものは何か考えなければいけないと北川氏は言います。オンラインでも店舗でも、この点に関してシームレスな利用が出来ないといけないのではないか、という見立てです。
4.顧客のニーズに合わせたツールで、1toNで取り組む「新セールスネットワーク」
これらの流れを受けて圧倒的な強化を図ったのは、外商機能でした。実際に今、1to1では応えられない程の多くの要望が外商機能として求められているとのこと。限られたスタッフでどのようにニーズに応えていくか考えた時、テクノロジーの力と情報共有、これまでの外商の知見を合わせ、1toNで対応出来る「新セールスネットワーク」を構築。職種、店舗、暖簾を超えて、顧客からのニーズに応えることに取り組んでいます。
取り組みの一つとして結実したのが「三越伊勢丹リモートショッピング」アプリの登場です。百貨店の店頭に足を運んだ時と同じく、オンラインショップに掲載されていない店頭商品も含め、ストアアテンダントに相談しながらリモートで購入することが出来ます。ブランドや商品カテゴリーという垣根を越えた、コンシェルジュとしての接客は百貨店ならではのものです。
また1to1の外商担当がつく富裕層のお客様でも、今現在、その対応ニーズは様々であると言います。昔ながらのしっかりとした対応を求める方だけでなく、チャットメッセージでライトなやり取りを求める方、電話はしてこないで欲しいという顧客もいるとのこと。これまでの対応ややり方を否定するのではなく、顧客のニーズによって対応を変化させる、という改革であることを強調しました。
本セミナーの様子は、プリズマティクスの「動画閲覧」にて全編を無料アーカイブ動画として配信中です。北川氏の取り組みにまつわる具体的なエピソードや、新規事業プロジェクトについても語られています。下記動画閲覧ページよりお申し込み頂き、ご覧ください。
プリズマティクスは今後もデジタルを活用した顧客接点の取り組みやファン育成などをテーマに、課題解決となるようなヒントやアイデアをご紹介していきます。
「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。
『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。
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