「ヘッドレス」という言葉を、最近ネット上でよく見かけると思いませんか。小売業界では「ヘッドレスコマース」という言葉で聞くことが多いかもしれません。では「ヘッドレス」とは一体どのような仕組みなのでしょうか。
eコマース担当者の方が「ヘッドレス」を理解すると、eコマースサイトのUXや運営改善にとってのメリット/デメリットがどこにあるか理解出来るようになり、具体的なイメージを持ちながら導入検討を行うことができるようになります。
情シス担当者が「ヘッドレス」を理解することは、アーキテクチャを理解することにつながりますので、具体的なイメージを持って導入検討を行うことが出来るようになります。また、eコマースサイトの構築から保守運用までのコストについて、メリット/デメリットも分かるようになります。
この記事では「ヘッドレス」とはなにか、そしてそれがどのように使われているのかについて、上記のような役割にて疑問を抱えている皆様に向け、解説していきたいと思います。
目次
1.ヘッドレスとは、フロントエンドとバックエンドを別々に管理するアーキテクチャの考え方 2.ヘッドレスの種類その1「ヘッドレスCMS」 3.ヘッドレスの種類その2「ヘッドレスコマース」 4.まとめ1.ヘッドレスとは、フロントエンドとバックエンドを別々に管理するアーキテクチャの考え方
ヘッドレスとは、システムの「見た目部分」(これをフロントエンドといいます)と「裏側で動いている部分」(これをバックエンドといいます)を、別々に管理する方法のことを指します。
例えば、ネットショッピングのシステム(eコマース)には、商品の画像や説明、価格等を表示する「見た目」の部分と、注文処理や在庫管理などを行う「裏側」の部分があります。従来の方法では、これらを同一のシステムで管理していましたが、ヘッドレスシステムでは別々に管理することが出来ます。
システムを作ったり運用するにあたって、別々に管理することにより、見た目を自由に変えたり、新しい機能を追加したりすることが、比較的容易に出来るようになります。つまり、これまでよりも自由に設計が出来るようになる、ということです。
「ヘッドレス」が現在利用されている具体的な用途として、大きく2つの種類を挙げることが出来ます。それは「ヘッドレスCMS」と「ヘッドレスコマース」です。どちらも「ヘッドレス」の仕組みに基づいていますが、運用やレンダリング(Webページを生成して表示すること)の方法に違いがあります。
この2つについて、以下で詳しく説明していきます。
2.ヘッドレスの種類その1「ヘッドレスCMS」
ヘッドレスCMS(Content Management System)とは、一言で言うと、コンテンツ(記事、写真、動画など)を管理・作成・更新するためのシステムで、特定の表示形式やプラットフォームに縛られず、そのコンテンツをどこでも使えるようにするものです。
ヘッドレスCMSの具体的な利用例の一つは、フロントエンドの内容(Webページ)を事前に生成し、静的なファイルとしてサーバーにホストするものです。サーバーはユーザーからWebページをリクエストされると、事前にホストされた静的なファイルをWebページとしてユーザーのブラウザへ配信することとなります。
この方法は一般的に静的サイト生成(SSG)として知られていますが、ヘッドレスCMSの仕組みを用いることで、Webサイトの運営者はHTMLファイルなどを直接編集することなく、CMS内でコンテンツを編集して静的サイトへ配信することができます。
静的サイト生成とヘッドレスCMSの組み合わせは、更新頻度が低く、パフォーマンスとセキュリティが重視されるシーンで特によく使われます。静的なページはヘッドレスCMSにより事前に生成されます。サーバーへのリクエスト時にWebページを動的に生成する必要が無いため、ページの読み込み速度が格段に速くなります。また、悪意の有るハッカーがブラウザ経由で悪さをしようとしても、静的なファイルがサーバーから応答されるだけなので、悪さのしようが殆ど無い、というセキュリティ面のメリットがあります。
ヘッドレスCMSが提供するAPI(アプリケーションとデータとをつなぐ仕組み)を通じて、静的サイトでの配信だけでなく、動的に構築されたサイトへもコンテンツを配信することも可能です。
以下は、ヘッドレスCMSが採用されるサイト構築の例です。
●ブログやニュースサイト
ブログやニュースサイトは、記事が公開された後は頻繁に内容が変わることが少ないため、ヘッドレスCMSが利用されることがあります。静的サイトジェネレータと組み合わせて記事のページを事前に生成しておけば、ユーザーがアクセスしたときに迅速にコンテンツを表示できます。また、セキュリティの観点からもヘッドレスCMSは優れています。動的な処理が少ないため、攻撃対象となる部分が少なくなります。
●ランディングページ
プロモーションのためのランディングページも、ヘッドレスCMSが利用されることがあります。ランディングページには、読み込み速度を速くすることが求められます。また、一時的に大量のトラフィックが予想される場合もあるため、サーバーへの負荷を低減できる静的サイトジェネレータと組み合わせての利用は有効です。
●製品紹介や会社情報のウェブサイト
製品紹介や会社情報など、更新が頻繁に行われないウェブサイトもヘッドレスCMSが利用される対象となります。これらのページでは、情報の正確性とアクセス速度が重要となるため、静的サイトジェネレータと組み合わせた利用は有効です。
3.ヘッドレスの種類その2「ヘッドレスコマース」
次に、ヘッドレスの種類の2つ目、「ヘッドレスコマース」についてご紹介します。従来のeコマースプラットフォームが「ヘッド」(すなわち、フロントエンドやユーザーインターフェース)を持つのに対し、「ヘッド」を持たない形式のeコマースのアーキテクチャが「ヘッドレスコマース」です。
従来のeコマースプラットフォームでは、バックエンドとフロントエンドが密接に連携しているため、カスタマイズの自由度が低くなりがちです。一方、ヘッドレスコマースでは、これらが分離されているため、サイト運営者や開発者はフロントエンドの技術やデザインを自由に選び、最適なユーザー体験を提供することができます。
また、ヘッドレスコマースは、ヘッドレスCMSと組み合わせてサイト構築することも出来ます。この2つを組み合わせることにより、ブログ記事や製品情報の更新だけでなく、カート機能や決済プロセス等のeコマース機能も自由にカスタマイズすることが出来るようになります。
この場合、ヘッドレスCMSはヘッドレスコマースのコンテンツを管理するためのバックエンド、という位置付けになります。フロントエンドとしては、Webサイトやスマートフォンのアプリケーションとして別途構築し、ヘッドレスCMSとヘッドレスコマースをAPIで繋いで利用することとなります。
以下は、ヘッドレスコマースが採用されるeコマースの例です。
●マルチチャネル対応のeコマースサイト
マルチチャネルとは、ウェブサイト、モバイルアプリ、ソーシャルメディア、実店舗といった複数のチャネルを通じて商品やサービスを販売することです。ヘッドレスコマースはそのようなマルチチャネル戦略のeコマースサイトでメリットを発揮することが出来ます。
例えば、APIを通じて商品データを取得し、それぞれのチャネルに最適化されたフロントエンドで表示するような運用が考えられます。これにより、データの一元管理や一貫性のあるブランド体験をエンドユーザーへ提供することが可能になります。
●高度にカスタマイズされたeコマースサイト
ヘッドレスコマースは、企業がフロントエンドを自由にカスタマイズできるため、特定のブランドイメージやユーザーエクスペリエンスを追求するサイトにも適しています。バックエンドをAPI経由でフロントエンドと接続することで、複雑なユーザーインターフェースや特殊な購入フローを実現することも可能になります。
4.まとめ
本記事では本記事ではここまで、「ヘッドレスCMS」「ヘッドレスコマース」という2つの種類のヘッドレスについて、仕組みと利用例を紹介してきました。ここまで説明させていただいたヘッドレスを用いたアーキテクチャと従来型との違いを、比較表にしました。参考にして頂ければと思います。
従来のCMS | ヘッドレスCMS | |
---|---|---|
フロントエンドとの分離 | データ(コンテンツ)とその表示方法(フロントエンド)は同一に管理されます。 | データとその表示方法は別々に管理されます。(フロントエンドとCMSが分離されています) |
コンテンツの用途 | 通常はウェブサイトにコンテンツを表示します。 | コンテンツは、APIを通じて異なるプラットフォームで表示することが可能です(複数のウェブサイト、モバイルアプリ、IoTデバイスなど)。 |
パフォーマンス | ユーザーがページをリクエストするたびにサーバーでHTMLを生成します(動的サイト生成と呼ばれます)。この手法では、パフォーマンスに影響を及ぼすことがあります。 | 静的サイトジェネレータと組み合わせることで、あらかじめHTMLを生成しておく(静的生成)ことが可能です。これにより、ページのロード時間が短くなります。 |
セキュリティ | ユーザーからのリクエストを元にHTMLを生成するため、SQLインジェクションなどの脆弱性を生じる可能性があります。 | APIを介してデータを取得するため、攻撃対象となる余地が小さくなります。また、静的サイトジェネレータと組み合わせることで、すべてのHTMLが予め生成されるため、SQLインジェクションなどの脆弱性を避けることができます。 |
従来のeコマースプラットフォーム | ヘッドレスコマース | |
---|---|---|
フロントエンドとの分離 | ショッピングサイトの見た目(フロントエンド)と、裏側のデータ管理(バックエンド)が一体化しています。 | 見た目(フロントエンド)と裏側のデータ管理(バックエンド)が別々になっています。それぞれ、APIで情報をやり取りします。 |
機能とデザインの柔軟性 | プラットフォームが提供する機能やデザインの範囲内でしかカスタマイズできません。 | フロントエンドとバックエンドが分離しているため、見た目や機能を自由にカスタマイズできます。 |
改修やアップデートの汎用性 | プラットフォーム自体のアップデートに依存します。全体を変更することが難しい場合が多いです。 | フロントエンドとバックエンドが独立しているので、一部だけを変更することや、新しい機能を追加することが比較的容易です。 |
では、今、何故このヘッドレスという仕組みが注目されているのでしょうか。
次回の記事では、実務にてヘッドレス導入を検討されておられる方々の目線から、システム構築に採用する場合のメリット、デメリット、そして実際に実装する際どのような構成になるのか等について、深掘りしてご紹介したいと思います。
執筆者プロフィール
今野 壮輝
ソリューションアーキテクト
ECパッケージのシステム開発・導入PMとして、アパレル、消費財、百貨店など、多数の業務形態やプロジェクトに従事。フロントエンドからバックエンドまで幅広く携わり、前職ではヘッドレスコマース導入のPMを担当。
2023年1月にクラスメソッドへ参画。prismatixの導入支援、サポート業務などを行う。
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