プリズマジャーナルTOP逸見光次郎×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「ファンがデータで見えるようになったら、もう、おしまいだと思う」
逸見光次郎×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「ファンがデータで見えるようになったら、もう、おしまいだと思う」

逸見光次郎×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「ファンがデータで見えるようになったら、もう、おしまいだと思う」

ブランドや商品の「ファンづくり」において先進的な取り組みをされてきたトップランナーをゲストにお迎えし、プリズマティクスCEO濱野がお話を伺う対談シリーズ「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」(wow!シリーズ)。今回は株式会社CaTラボ代表、日本オムニチャネル協会理事の逸見氏をゲストにお迎えしました。

逸見氏はインターネット黎明期から、インターネット書店やネットスーパーを始めとしたネット事業戦略構築を手掛けてこられました。後編となる本記事では、逸見氏の“カメラ愛”をたっぷり語って頂きます。また本やカメラの大ファンである逸見氏が思い描く、店舗とファンの関わり合いの未来像についても、お話を伺いました。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

逸見光次郎

大学で歴史学を専攻し、新卒で三省堂書店に入社。ソフトバンクでイー・ショッピング・ブックス社(現セブンネットショッピング)立ち上げに参画。アマゾンジャパン、イオン、カメラのキタムラにて、インターネットを活用したオムニチャネル事業戦略や立ち上げを手掛け、その後独立。現在は株式会社CaTラボを設立。オムニチャネルコンサルタントとして数多くの企業へ支援を行っている。日本オムニチャネル協会理事、流通問題研究協会特別研究員、株式会社ピアリビング取締役等を兼務。株式会社プリズマティクスではアドバイザーを務める。

 

濱野 幸介

アクセンチュア株式会社(当時アンダーセン・コンサルティング)に8年間在籍後、株式会社リヴァンプにてCTOなどを経験。その後、株式会社良品計画ではアドバイザーとして「MUJI passport」を中心にマーケティング全般の企画・運営を技術面より支援。2016年にプリズマティクス株式会社を設立しCEOに就任。顧客と各企業・ブランドとの絆を深める良質な体験の場を「エンゲージメントコマース」と捉え、その構築に向けたプラットフォームとコンサルティングサービスを提供している。

1.天文部所属の6年間、暗室に籠もって培った現像技術

濱野:カメラが好きになったのは、いつ頃からだったんですか。

逸見:子供の頃に「自由に使っていいよ」と渡されたのは、OLYMPUS「OM-1」っていうフィルムカメラだったんですよ。今もちゃんと家にあって、動きますけれども。今日持ってきたコレは、そのデジタル一眼レフ版です。

逸見:でもその頃は、旅行に行く時は必ずカメラを持って行く、といった程度でした。その後、中学、高校は天文部に入ったんです。そしたら、天文部の部室には、暗室があるんですよね。星の写真って普通の写真と全くコントラストが違うから、自分達で現像するんです。

例えば半月って、半分は白くて明るい、消えてる部分は暗いですよね。だから現像の段階で、明るい部分は抑えめにしてやって、暗い部分は光量を上げて、より見えるようにしてやらなきゃいけない……みたいなことを、してました。

濱野:え、それ、中学生でやってたんですか?

逸見:だいぶ、ヤバい?(笑)

濱野:既にヤバかったですが、ヤバさが増しました!

逸見:印画紙も月の表面の色調がよく出る、三菱の「月光」を使っていました。他にも、富士フイルムは人間の色調がよく出るとか、目的によって使い分けていたね。だから今も、現像工場に行ったら、匂いでどこのメーカーか分かります。6年間ずっと暗室で匂いを嗅いでたからね。

逸見:カメラは中高生の時が一番こだわっていて、バイト代で自分のカメラを買ったりもしてましたね。再燃したのはキタムラに入ってから。でも、キタムラの人達は皆私のことを「デジタルの人」だと思ってたみたいなんです。ネット書店立ち上げて、ネットスーパー立ち上げて入社したからね。

それで、入社の挨拶をする時にフィルムカメラのOM-1を持って行って、ちゃんと挨拶した後に「ほんとは、コレが好きなんです〜!」ってカメラを見せて言ったら、「あ、おんなじヤツ、来た」って雰囲気になりました(笑)。

2.ネットを武器に! 店員がお客さんごとのランディングページ

濱野:タブレットを利用しての接客って、商品情報や顧客情報を覚えなくていい代わりに、もっと高度なことをやらなきゃいけない……ということを、実際には突き付けられてるんだと思うんですが、なんとなく「覚えなくていいし、頼っちゃえばいい」というようになりがちではないですか?

逸見:もともとキタムラには「人間力EC」という言葉があるんです。「EC」という言葉にはWEBにまつわる全てのことが入ってる。つまり「従業員がデジタルの力をどう使うか」が重要で、逆は無い。デジタルで完結する、なんてことは無いんです。だから「ネットで集客して売っている」というような簡単な話では無い。

例えば、お子さんが産まれた方が「カメラが欲しい」と思って、ECサイトだけ見て一眼レフを欲しいと来店してきたとして……店員が、まず、反対するんです(笑)。何故かというと、お客さんが後悔するから。

高いカメラは、キレイでこだわりの写真は撮れるけれど、操作が複雑だし、起動は遅いし、重い。旅行に持っていくにしても、子供を連れてるだけで大変だと持っていかなくなっちゃう。「絶対こんなゴツいカメラ、買わないほうがいい。この6万円位の小さいカメラの方が撮りやすいから、いいんじゃないの?」って。

逸見:キタムラの人達は、カメラが好きで、接客も好きですけど、お客さんのことよく見てるんですよ。つまり、お店に行ったらランディングページが1,000パターンあるみたいな話なんです。専門店ならではの情報が掲載されていて、それぞれのお客さんごとにオススメが違うランディングページです。

だから実はキタムラって、個人客のカメラ市場で圧倒的なシェアを持ってるんです。私も、入社するまで知らなかったんですけど。特に高級機の初回の予約数とか、凄いんですよ。

濱野:“カメラ好き”層だけじゃなく、一般客への認知も出来てるし、第一想起されてる、ということですね。

逸見:タブレットを使った接客にした時の、そもそもの思いは、「接客に時間をかけられるようにしましょう」ということ。店員に商品知識が無いからタブレットを見る、というわけじゃないんです。もしカメラを買ったお客さんが不慣れそうだったら、設定を手伝ってあげたり、フィルターをつけてあげたりしたいんですよ。でもこういうことって、してあげたいと思っていても、時間が無いと出来なくなっちゃうんですね。

濱野:カメラみたいな高い買い物の意思決定に関わるタイミングのコミュニケーションですから、ググる程度の下調べで出てくる情報は前提にした上でないと、駆逐されちゃいますよね。

逸見:それが専門店の強み、ということですよね。今は皆、当たり前のように、ネットやタブレットを“武器”として使ってくれるようになってると思います。

3.システムを繋げ、ムダを無くし、接客時間を増やすと売上は上がる

濱野:ネット販売周りは、逸見さんが入ってから整備を始めたんですか?

逸見:実は、私が入る前からそれぞれの仕組みはあったんですよ。でも個々がバラバラで繋げられていなかった。だから手書きの伝票も問い合わせも、とにかく面倒なことは全て無くしてしまおう、と。EDIの受発注とかも全部繋げてしまってね。実は、書店業界よりもカメラ業界の方がマスター整備はしやすかったんです。大手メーカーは数が限られてるし、全部デジタル化されてるからね。

それまでは、例えば在庫取り寄せが必要になったら、お客さんをお待たせして、メーカーに電話かけて「今在庫ある?」「価格は?」って聞いてたんですよ。それでまたお客さんと話を再開して、今度は「交換レンズが欲しいね」とかなったら、また電話かけて在庫確認していた。お客さんはその間、ポツンと店頭で待っていなきゃいけない。店員も“お待たせしてる”って意識があるから、売りつけたいとかそういうことじゃなくて、「早くクロージングしなきゃ」って焦っちゃう。

逸見:これが、タブレットをお客さんと一緒に見ながらだと、「付属品どれがいいだろうね」という話しをしながら、「今、店頭では切れているけど、3日後だったら入ってきますよ」と流れで伝えられる。あとメーカー出荷日さえ分かれば、キタムラの倉庫にいつ入るのか、そこから店にいつ入るのか、だいたい説明出来るようになった。

これは店員側にメリットがあるだけじゃなくて、お客さんも安心感があるんです。「取り寄せかも」って言われた時に、「それ、いくら?」って聞き辛いじゃないですか。でも、タブレット上には価格が書いてあるからね。

濱野:効率が良くなるのはもちろんだし、お客様の満足度も高い、ということですね。

逸見:接客時間が増えたので、不慣れなお客さんのフォローも出来るようになりました。「初期設定サービス」では、買ったばかりのカメラの箱をその場で開けて、カレンダー等の設定をしてあげて、フィルター付けて、フィルムも貼ってあげて。「これですぐ撮れますから! 撮ったら、プリントに持ってきてくださいね!」って、渡すんです。

カメラって、どんなに高い機種を売っても粗利率は高くないですけど、写真のプリントは粗利率がかなり高いんです。単価はもちろん安いですけど、でも結局、それがお客さんとの接点になる。

濱野:カメラというのは、コンサルテーションが効きやすい商材、「買う」っていうところ以外のところがすごくあるから、組みやすい、成功したってこともありますよね。

逸見:そうだね。継続的に話を聞きたい、ということはあると思う。ハードは入り口で、ソフトは継続的ってことを、キタムラの皆は身に沁みて分かってるんです。そうやってお客さんとの間で長年積み上げた信頼感や安心感があるから、お孫さんが生まれた時の記念撮影に「写真だったらやっぱり、キタムラだろう」っていって、スタジオマリオにいらしてくださったりする。接客すればするほど、売上って、上がるんですよ。

4.顧客の本質的なニーズを探し、掘り下げていく“接客時間”

濱野:でもお客さんの行動ってやっぱり、捉えきれないところが沢山あって、そこをどうしていくかというのは、常にあるよなぁと……。

逸見:うん、捉えきれないのが当たり前だと思っていて。良くて3〜4割、もし5割見えていたらラッキー、そのくらいを前提に大きなセグメントをなるべく見落とさないようにしていくしかないと思うんだよね。

濱野:見えているところから見えないところを想像しながら、仮説を立てて手を打っていくしかないですね。データの向き合い方、ファンとの向き合い方も、そういう前提であるべきだと思ってます。

逸見:というか、「ファン」がデータで見えるようになったら、もう、おしまいだと思うんですよ。

濱野:なるほど!

逸見:データから仮説を立てることは出来るんだけど、ファンは一人一人、人間だからね。人間とコミュニケーションするためのサポートツールとして、デジタルがある。そういう考え方ですよね。

濱野:人間は、複雑ですもんね。僕自身、表明してないニーズというようなものが常にあるような気はしていて。自覚してるニーズもあれば、自覚していないニーズもある。データだけ見ていても表層的なニーズしかわからないし、ニーズを引き出そうといった時も、自覚的なニーズだけでは、本質的なものになっていないような気がするんですよ。

逸見:だからこそ、接客時間をつくらなきゃいけない、って話なんですよね。接客時間が長くなればなるほど、お店はお客さんが本当は何をしたいのか、何が欲しいのか、だんだん感じ取れてくる。お客さんも店員と話しているうちに、だんだん欲しいものが明確になってくるんですよね。

そこに、もし過去データがあれば「あ、お客さん、以前コレとコレとコレ、買ってるんですね。そしたら今度はコレどうですか」って聞ける。そうしたら「買ってみようかな」ってなるじゃないですか。そういう意味で、いい道具になると思うんです。

濱野:「コレを買っていた」というのは単なる事実でしかないですから、そこから何をおすすめするか。それこそが、店員それぞれのスキルが生かされるところですよね。

逸見:データや経験だけじゃないと思うんですよ。今、目の前の相手を見てどう思うか、というところなので。

濱野:それって最近、ジェネレーティブAIを触っていても、同じことを思うんですよね。あれも「道具」だから、単純に問い方をハックするというだけじゃなくて、そもそも、どういうことをして欲しいのか明確にしてから、問いかけをしないといけない。

表層的なことであれば今でもすぐドキュメントにしてくれるので、そのレベルでは仕事が成り立たない、という世界は、もうすぐに来ると思うんですよ。でも、AIで壁打ちして思考を深めていくことで気づきを得ていく、そういう使い方は凄く役に立つし、逆に人間側が強化学習されているな、という感覚がありますね。

逸見:まさにそこなんですよね。ドリルダウンで探すことは出来るんだけど横が見られない、というのは、ネットの弱みとして、ずっと言われていることです。だからこそ、お客さんと店とで、問いを立てあって、掘り下げていくことで、お客さんがやりたいことをはっきりさせることが大事なんです。

5.お客さん全体の「好き」を見て広げていくのが、プロの“仕事”

逸見:皆、勘違いしてるなと思うのは、本屋は本の流通のプロ、カメラ屋はカメラの流通のプロであって、“中身”のプロでは無いんですよね。当たり前だけど専門書なんか、お客さんのほうが専門家だから詳しかったりする。

濱野:一般的なイメージとしては、書店員さんは本が好きで、カメラ屋さんはカメラが凄く好きで、専門知識があって在庫把握してて、という感じですよね。

逸見:多分、そこに問題があると思う。キタムラに入社した時、「皆さん、最初からカメラ好きだったんですか」って聞いたことがあるんですよ。そしたら、半分は好きな人が入ってきてるけど、意外なことに、半分はそこまで好きじゃないけど入社してる、と。でも接客しているうちに「商品知識を付けなきゃ」となって、積極的にメーカーさんの勉強会に参加したりして覚えてきている。そういう会社なんですよ。

濱野:皆さん、真面目なんですね。

逸見:そう。書店員にしても、読まないカテゴリは知らないですよ。例えば、私が一番苦労したのは、ボーイズ・ラブとか女性誌です。関心が無いから、自分では絶対に選ばないけど、でも書店員の知識としては、今誰が売れていて、どの出版社がメジャーなのか、頭に入れとかないといけない。だからどうしても覚えられない時は、買いましたよ。とにかく読むしかない。そうしたら絶対、頭に入るからね。

濱野:いや、これは、耳が痛い話ですね、本当に。エンジニアも同じで、ついつい好きな部分、興味あるところだけにこだわりを持ちがちなんですよね。

逸見:もちろん「好き」を強みとしてそれを持つのはいいんだよ。でもそこは知った上で、横も知っておこうよ、ってこと。好き嫌いでやるから、よくないんですよ。自分の好きなもの、得意なものだけやっていて、そういう人達だけで集まっちゃうと「自分の世界は正しいんだ」ってなってっちゃって、広がりが出ないんですね。

逸見:仕事だったら、いくつもあるそれぞれのコミュニティ、お客さん全体の「好き」を見ないといけないよね。お客さんをデータで見ながらも、自社ビジネスのフレームワークや自分の好きな部分という狭い領域に当てはめるんじゃなくて。お客さんが「ファンです」って言った時に、本当にその人が好きなのは何なのか、理解する必要がある。

濱野:言った本人も“それ”がわかってるかどうか、分からないですよね。そこに可能性が広がっている、とも言えそうです。

逸見:そうそう。ファンの中でも「なんで好きなんだっけ」っていう問いを、改めて立ててみると面白いよね。入り口が皆違ったり、深掘りするポイントが違ったりする。「好きなもの」っていう共通のテーマがあるから、その違いがお互い面白いと思うんだよね。

お客さんが今見ている「好き」とか「ファンだ」と思っていることは、全体のほんの一部で、周辺の領域を知ったらもっと面白いかもしれない。今「ファン」が好きな領域が、より楽しくなるかもしれない。これは本やカメラだけじゃなくて、いつの時代でも、どんなものでも、変わらないことだと思うんですね。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

プリズマ編集部

「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。

『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。

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