緒方恵×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「“ものづくり”が大好き。目指すのは、日本のものづくりのグロースアップと価値向上」
ブランドや商品の「ファンづくり」において先進的な取り組みをされてきたトップランナーをゲストにお迎えし、プリズマティクスCEO濱野がお話を伺う対談シリーズ「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」(wow!シリーズ)。緒方恵(おがた・けい)氏をゲストにお迎えした、後編となります。
緒方氏は東急ハンズ、中川政七商店にてデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を担い、2021年からはMinimal -Bean to Bar Chocolate-を運営するβaceの取締役として活躍されています。前編では緒方氏のモチベーションの源泉である“ものづくり”ファンの熱量に触れてきました。後編では、まさに今取り組んでいる顧客との関係づくり施策の“リアル”について、お伺いしていきます。
(取材・構成・文=プリズマ編集部)
緒方 恵
東急ハンズにてWEB/デジタル領域の開発運用を統括しながら、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。2016年、中川政七商店にWEB/デジタル領域を統括する執行役員CDO(Chief Digital Officer)として入社し、DXを推進。18年、取締役就任し、販売・コミュニケーション・システム部門を統括。21年7月、取締役CDOを退任し、社外補佐役としてパートタイムオフィサー(PTO)に就任。主業として、「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」を運営する株式会社βaceの取締役に就任、現在に至る。第7回Webグランプリ「Web人賞」受賞。
濱野 幸介
アクセンチュア株式会社(当時アンダーセン・コンサルティング)に8年間在籍後、株式会社リヴァンプにてCTOなどを経験。その後、株式会社良品計画ではアドバイザーとして「MUJI passport」を中心にマーケティング全般の企画・運営を技術面より支援。2016年にプリズマティクス株式会社を設立しCEOに就任。顧客と各企業・ブランドとの絆を深める良質な体験の場を「エンゲージメントコマース」と捉え、その構築に向けたプラットフォームとコンサルティングサービスを提供している。
目次
1. 「○○って、ちょっといいな」好感を持ってもらうことから始まる、関係性構築 2. 生活雑貨と嗜好品、商材それぞれに合わせた“顧客との関係性”のつくり方 3. 「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」を伝えるため、“特別なモノ”を特典に用意 4. サブスクサービスで、スイーツを“嗜好品”から“習慣”にするチャレンジ 5. ソーシャルインパクトのある“三方良し”、新しいブランドがチャレンジするべき理由1. 「○○って、ちょっといいな」好感を持ってもらうことから始まる、関係性構築
濱野:ブランドとファンとの繋がりを作るために、これまでどのようなことをして来たのか、改めて聞かせてもらえますか?
緒方:ユーザーとブランドの関係性については、出会ってもらう→好感を持ってもらう→商品や企業が持つコンテクストに共感してもらう→企業としてのビジョンが伝わり、信頼される……どうやってこの一連の流れを体験してもらうか、その仕組みをいかにつくるかが重要です。
お客さま一人一人が何に興味を持つのかは、当然違ってきますが、可能な限りそれぞれに合わせて対応すること。そして、ブランドとしてのビジョンに即した、一本筋が通った活動をしていくこと、その発信を絶やさないこと。それが「繋がりづくり」に当たるのかな、と思ってやっています。
緒方:重要なのはやっぱり、最初に好感を持って頂くこと。東急ハンズ、中川政七商店、ミニマル、共通で僕が思っているのは「〇〇ちょっといいな、って思ってもらいたい」と思ってやっているところ。好感を持ってもらわないと関係性を作りようが無いので……まず好感づくりの仕組みをつくり、その後にやるのが共感と信頼をしてもらう為の仕組みづくりになります。
出会って一発で人間を信頼することって基本的に無いですから、ある程度の関係性作りが必要です。それは、購買だったり、サイトの接触だったり、サイトコンテンツの読了等、いろいろなアクションの積み重ねから得られるイメージだと思います。
お客さん側から能動的にブランド理解のための行動を起してくれたら、そんな嬉しいことって無いですが、簡単にそうはならないのが商売の常。そこで、こちらからコンテンツを差し出すことによって、徐々にブランド理解を高めてもらう……そういう活動が「CRM」と呼ばれるもの、「信頼づくり」だと思っています。
2. 生活雑貨と嗜好品、商材それぞれに合わせた“顧客との関係性”のつくり方
緒方:生活雑貨を販売している中川政七商店では、マーケティング方針として「お客様の特定カテゴリの旅を終わらせる=第一想起の獲得」ということを重要視していました。
ユーザーデータを見ていると「あっ、この人、“キッチン雑貨”は政七に決めてくださったんだな」って分かる瞬間が、あるんですよ。キッチン雑貨でも服でもなんでもいいんですけど、特定ジャンルでの第一想起が取れたという状態ということですね。すると、生活雑貨は消耗品も多いので、LTVがとても安定するんです。
緒方:一方で、ミニマルが売っているのは、チョコレート。これって嗜好品なので、基本的に「いろんなものを食べたい」というカテゴリなんですよ。だから「もう、ミニマルのチョコレートしか食べません!」ていうことは、基本的に起きない。
「チョコレートはミニマルが一番好きです!」って方でもやっぱり、新しくチョコレートが出てきたら「ちょっと食べてみたい」って気になるじゃないですか。ここが、僕が中川政七商店で培ったノウハウが全く役に立ってないところで、別の思考回路・仕組みが必要なところなんですよね。
3. 「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」を伝えるため、“特別なモノ”を特典に用意
濱野:ミニマルでは、「Minimal Collective」というプログラムがあって、オンラインストアや店舗での購入金額に応じて「Impactレベル」が上がって、特典が付与されますよね。このプログラムを出すに至った経緯を、今日は改めて聞いてみたかったんですよ。
緒方:ユーザーから信頼を得るためのコミュニケーションを続けるというのは、関係性構築の上で重要です。ただメルマガやLINEを送りつけているだけだと、いずれドロップしちゃう。ユーザーから「なんかこのブランド、やらしいな」と思われず、快適なんだけど、ある程度ブランドのコンテキストに触れてもらう……そんな仕組みをつくる必要があります。
それには、ブランド側が体を張って、ユーザーが喜ぶものを差し出せばいい。ミニマルは「モノ言わぬモノに言わすモノづくり」をしたい。だから、モノを食べて貰うことで、ブランドの価値がより伝わると考えています。もちろん、好感、共感、信頼ということを徐々に築くコンテンツ提供というのはしていきますが、やはり一番には、モノに接して貰いたい。それがこのプログラムに込められている想いですね。
「あなたのランクが上がりました! 特別な板チョコが届きます!」って言われたら、それは流石に、開けてみて、食べるじゃないですか。そこに、特別なブランドブックが付いてくるんです。特別なチョコを食べながらそれを読んでもらえば、メルマガを10通読んでもらうよりも、ミニマルのことがよく分かってもらえる。それで「単にオシャレなチョコレート屋だと思っていたけど、意外と泥臭い、情熱的なことやってるんだな。ちょっとええやん。」と思ってもらえたら、いいなと。
4. サブスクサービスで、スイーツを“嗜好品”から“習慣”にするチャレンジ
濱野:チョコレートのサブスクサービスは、どんな意図で始めたんですか?
緒方:今ミニマルに付いてくださっているお客様は、アーリーアダプター、コアユーザーが多い。こういうお客様は僕たちの理念や思想を評価して下さっていることが多いんですね。でも今、徐々にキャズムを超えてきて、ライトなユーザー層の方がミニマルを知ってくださっているんです。
その場だけの「美味しそう」「シズル感」を提供するだけでのコミュニケーションは、「瞬間の戦い」が永久に続く構図なので、ビジネスがいつまで経っても楽にならず、やがてお互いが不幸になってしまう。「瞬間」ではなく「習慣」を作っていかなくてはならない、と考えて、サブスクサービスを始めました。
緒方:チョコレートは、日常生活に“必ず要るモノ”ではないんですけど、それを習慣化してもらうにはどうしたらいいのか。ミニマルとフレンドリーシップを結び、習慣化して頂くためのサービス設計をやっていかなければならない。その施策の一つとして立ち上げたのが、サブスクサービス「CHOCOLATE ADDICT CLUB」。「中毒」というのをコア・キーワードとして考えていて、このような名前にしています。
朝一枚、必ずミニマルのチョコレートを一つ食べる。おやつにはミニマルのチョコレートを食べる。晩酌する時に、バーボンとミニマルのチョコを合わせよう。なんでもいいんですが、特定の「習慣」にハマらないと、「なにか甘いもの食べたいな」となった時に、あれにしようか、これにしようかと、色々な選択肢に対して「瞬間のテンション」をもとに行動してしまう。「習慣そのもの」を提供しようというわけで、サブスクリプションサービスを立ち上げました。
「月に一度、幸せになる日」を習慣化してもらおう、という提案です。
5. ソーシャルインパクトのある“三方良し”、新しいブランドがチャレンジするべき理由
── 最後に、これからどのようなお仕事を手掛けていきたいか、緒方さん個人としての抱負や展望をお伺いできますか。
緒方:僕は、これまでもこれからも、「日本のものづくりのグロースアップと価値向上」に取り組んでいきたいと思っています。
ミニマルと中川政七商店、両社で同じスタンスな所のひとつは「つくり手に対価をちゃんと払う」ということをめちゃくちゃ大事にしているところです。これは要するに、作り手と売り手と使い手の関係が長く続くように、という願いの表れです。
これまでのビジネスモデルや貿易のやり方などを、僕たちがSPA業態やフェアトレードといわれる新しい形で塗り替えていくことで、自分たちの周りをハッピーな経済圏にしていきたい。ソーシャルインパクトのある“三方良し”を、つくっていきたい。
緒方:これは、新しいブランドこそ、やらないといけないことだと思っています。既存ブランドは事業サイズが大きければ大きい程、影響も大きい。原材料価格の1%上昇で経営が難しくなってしまうということもありますし、そもそも100円で売っているチョコレートにも計り知れない価値があります。
それを知っているので、彼らにフェアトレードを強要するようなつもりはありませんし、僕たちが正しいと言いたいわけでもありません。あくまで、世の中に対して「新しい選択肢を提示したい」だけ。
それが誰かにとっていいものであれば嬉しい。それだけです。そしてその選択肢は「正しい」から選ぶということではなく、「好き」だから選ぶということだといいな、と思っています。
(取材・構成・文=プリズマ編集部)
「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。
『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。
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